贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第7.5話「M,Iの記録」

壱:文化祭裏の五代

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 五代は長いミント色の前髪の間から真っ赤な瞳を覗かせ、ニヤリと笑った。
「……さて、俺ピッピはを聞いてしまったわ・け・で・す・が? どーしたらいいもんかねー? ま、俺ピッピピの存在を忘れてた蒼劔すうぃが悪いんだけどぉ?」
 巨大なミント色の綿菓子にかぶりつき、サンタのヒゲのように口の周りに綿菓子をつける。そのせいか、いくらシリアスな表情をしても滑稽にしか見えなかった。
 五代はしばらく綿菓子をモゴモゴさせると、いかにも体に悪そうな、ミント色の炭酸飲料を飲み干し、「ぷふぁー!」と息を吐いた。その顔は、いつもの五代に戻っていた。
「ぬぁーんつって! 俺ッピが陽斗氏を裏切るなんてナァンセェ~ンス! 蒼劔氏のことはどぅでもうぃけどぉ、陽斗氏の意思は尊重リスペクトしたいっていうかぁ? 陽斗氏が不知火氏を危ない目に遭わせたくないっていう、その気持ちは分からなくもなくなくないっていうかぁ? 俺ピピも一肌脱いで、協力しちゃいましょぃっ! Fooooo!!!!」
 五代は1人でキャラクターのタオルを振り回し、ハイになっていた。ちなみに、先程飲んでいた炭酸飲料にアルコールは入っていない。素面である。
 どうやら五代は陽斗の心を読み、彼の望み通り、黒縄と朱羅に不知火が目白だと教えないと決めたらしい。
 かなりふざけてはいるが、その覚悟は本物だった。魔具である札を使って部屋に結界を張り、外から誰も入って来ないよう準備する。
「あっ、そういや朱羅氏がぶどう飴作ったって言ってたっけ。籠城する前に、取り行こっと!」
 ふと、五代はぶどう飴の存在を思い出した。一旦結界を張る作業を中断し、床をすり抜けて黒縄の部屋へと侵入する。
 冷蔵庫を開けると、大量のバットか冷蔵庫の一段を占拠し、その上に棒つきのぶどう飴が整然と並べられていた。冷蔵庫の灯りに照らされ、ツヤツヤと輝いている。
 他にも、チョコバナナやクレープのセット一式などの屋台スイーツが一通り揃っていた。
 全て、五代があらかじめ朱羅に頼んでおいた品で、五代の部屋の冷蔵庫にも、お茶用のボトルいっぱいに作られたタピオカミルクティや先程食べていた綿菓子が収納されている。また、冷凍庫にはかき氷やアイスまでも用意させていた。陽斗には「文化祭なんて行かなくたって、オイラの部屋は毎日が文化祭さ!」と豪語していたが、実際には文化祭へ行けない鬱憤を晴らそうと、必死だった。
「うひょひょっ! 朱羅氏に"部屋にいても、文化祭気分が楽しみたーい!"って、おねだりしといて正解だったぜ! たーのしー!」
 その時、黒縄の部屋のドアが「ガチャッ」と開いた。
「やべっ」
 ぶどう飴に夢中になっていた五代は察するのが遅れ、青ざめる。
 慌てて部屋へと引き返そうとしたが、遅かった。
「よォ、五代。目白の居場所は分かったか?」
 黒縄は屋台で掻っ攫ってきた景品を大量に身につけ、コーラを飲みながら帰ってきた。行く前は文化祭を「ガキの遊び場だ」と揶揄していた割に、ずいぶん楽しんできたらしい。
 背後では朱羅が、お菓子の詰め合わせやゲーム機などの大きな景品、黒縄が購入した食べ物、飲み物がぎっしり詰まったダンボール箱を車の荷台から下ろし、玄関へ運んでいる。1日黒縄のわがままを聞いていたようで、その顔には疲れが見えていた。
「んん! んむっむむ!」
 五代は咄嗟に数本のぶどう飴を口へ突っ込み、誤魔化そうとする。
(絶対に言うもんか! 陽斗氏と約束したんだ……絶対に誰にも言わないって!)
 しかし体は正直で、自然と首を大きく縦に振ってしまっていた。
「なにっ?! 分かったのか?!」
 当然、黒縄と朱羅は目の色を変え、五代へ詰め寄る。
「言え、五代! 目白は何処にいる?!」
「五代殿! ぶどう飴を口から離して下さい! このまま引き抜けば、貴方の前歯が上下全て折れますよ?!」
「怖っ! やめてやめて! 言うから! ちゃんと言うからっ!」
 五代は朱羅に脅され、あっけなくぶどう飴を口から出した。

      ・

 「節木高校七不思議体験」は午後の部も大盛況で、徐々にクリア達成者も増えてきた。
 出口を任された不知火も、終始眠そうではあったが、写真をプリントする作業だけはしっかりこなしていた。
「それにしても、まさか飯沼さんが鬼だったなんて……未だに信じられないよ」
 待機中、陽斗は正体を現した飯沼の額にツノが生えていたのを思い出し、表情を曇らせた。親しかった友人が鬼だったという事実は、陽斗にとってかなりショックだった。
 飯沼の境遇を知っている蒼劔は真実を話すかどうか迷っていたが、落ち込む陽斗を見て、正直に伝えることにした。
「陽斗、飯沼は最初から鬼だったわけではない」
「……どういうこと?」
 陽斗は蒼劔を見上げ、首を傾げる。
 聞こえてくる客の悲鳴はまだ遠い……話す時間は十分あった。
「飯沼は、元は人間だった。当時は"霊護院の巫女"と呼ばれ、占いや除霊などを行なっていたらしい」
 蒼劔は霊護院の巫女について、包み隠さず話した。
 霊護院の巫女は高い霊力を持っていたが、その師は無能力者で、彼女に間違った術の知識を教えていたこと、そのせいで飯沼は自身に憑依した鬼を正しく祓えず、次第に鬼へと変わっていってしまったこと……。
 話が終わる頃には、陽斗は再び泣き出していた。
「ひどい! 飯沼さんは真面目に、鬼を退治しようとしてただけなのに!」
「同感だ。飯沼がちゃんとした術者から教養を受けてさえいれば、こんなことにはならなかっただろうに」
 蒼劔も飯沼の境遇に同情し、顔を歪める。
 同時に、彼女を救えなかった己の不甲斐なさを悔やんだ。いくら強くなったところで、救えなければ意味がない……その事実が、より彼を苦しめた。
「……飯沼さんに会いたいな。昔の飯沼さんはどんな感じだったとか、何でお師匠さんの言うことを聞いてたのかとか、鬼に取り憑かれた時、怖くなかったのかとか……聞きたいこと、いっぱいあるのに」
「それなら、あまりすすめはしないが、五代に夢の羽根を作らせて見ればいい。奴なら死者の記憶でも、なんとか出来るだろう」
「うん……帰ったら、頼んでみるよ」
 その時、理科室から悲鳴が聞こえてきた。いつの間にか客が進んでいたらしい。
 陽斗は袖で涙を拭い、ドアの前でスタンバイした。
「ちょっと、このドア壊れてんじゃないの?!」
「ギャーッ! ガイコツ、こっち来た!」
 ドアの向こうで、女性客達の悲鳴と靴音が響く。
 複数人いる様子だったが、成田は1人で上手く彼女達を追いかけ回しているようだった。
「……僕も頑張らなくちゃね」
 友人の奮闘に、陽斗も気持ちを切り替える。
 女性客達がドアから離れたのを確認すると、ドアの鍵を開け、マネキン達の中へ紛れた。
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