贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
147 / 330
第7.5話「M,Iの記録」

伍:M,Iの記録(放浪時代)

しおりを挟む
 飯沼は父親の教えを忠実に守るため、霊力を得ようと隣の村へと旅立った。
 鬼に憑依されたとバレないよう、儀式用に保管してあった面でツノと目を隠した。屋敷には多種多様のデザインの面があったが、飯沼は不思議と黒い山猫の面を選んだ。
「飯沼さん、猫っぽい鬼に取り憑かれたから、猫のお面にしたのかな?」
「おっ、鋭いですねー。 まさにその通りです!」
 ゴディは親指をぐっと立て、解説した。
「霊護院の巫女は体の主導権を取り返したものの、妖力が高まっていくにつれて自我を蝕まれていきました。無意識のうちに猫のものを選んでしまうのも、その予兆だったのでしょう」
 飯沼の噂は隣の村にも届いていた。
 村人達は飯沼を温かく迎え入れ、歓迎した。
「巫女様が直々に来られるなんて、光栄です!」
「ぜひ、ゆっくりしていって下さいね!」
「……そうさせてもらうわ。どうもありがとう」
 飯沼は彼らに礼を言った直後、どこからか飯沼の声が聞こえた。
『……ごめんなさい。でも、私が元の姿に戻るためには必要なことなの』
「これって……飯沼さんの声?」
 陽斗は周囲を見回し、声の出どころを探す。
 記憶の中の飯沼は口を動かしてはおらず、村人達も後から聞こえてきた声には反応していなかった。
「正確にはの声でございます。霊護院の巫女は常に本音を隠し、活動しておりました。彼女の人となりを知るには、心の声が必要不可欠……そのため、このようなシステムを実装させて頂いたのでございます」
「へぇ……じゃあ、飯沼さんが本当はどう思ってたのか全部分かっちゃうわけだ! 本当はラーメンが食べたかったけど、お小遣いが足りないから泣く泣く牛丼にしたとか!」
「……ちょっと例えが霊護院の巫女とそぐわない気も致しますが、だいたいそんな感じです」
 その後、飯沼は村人達が寝静まったのを確認すると、泊めてもらっていた家から抜け出し、深い眠りについている村人達の霊力を片っ端から奪っていった。
 これも玉母に憑依された影響なのか、相手に手をかざし、「奪いたい」と念じるだけで、簡単に霊力を奪えるようになっていた。
 やがて全ての村人達から霊力を奪い切ると、村を出て行った。霊力を失ったまま放置された村人達が目覚めることは、二度となかった。

       ・

 その後も飯沼は行く先々で霊力を奪い続けた。
 次第に「霊護院の巫女は鬼ではないか?」と噂が立つようになると、皆彼女を警戒し、家に閉じこもるようになった。
 やがてその噂は術者達の耳にも届き、とうとう1人の若い術者が飯沼の前に現れた。人気のないあぜ道を歩いている飯沼の行手に立ち塞がり、声をかける。
「お嬢さん、私が貴方に取り憑いている鬼を祓って差し上げましょうか?」
 術者は穏やかに話しかけながらも、飯沼の一挙手一投足に注視し、タイミングを伺っていた。
 飯沼が少しでも隙を見せれば、彼女の意思とは関係なく、祓うつもりのようだった。
「……本当に、鬼が祓えるのですか?」
 飯沼はその場で立ち止まり、面越しに術者をジッと見つめる。
 顔が面で隠れているせいで、表情までは分からなかったが、その心の声は聞こえてきた。
『嘘。第三者が鬼を祓えるなんて、あり得ない。こいつは私を騙そうとしているんだわ。かなり高い霊力を持っているみたいだし、全部奪ってやりましょう』
「飯沼さん……」
 善意を善意として素直に受け取れない飯沼を、陽斗は哀れに思った。
 ゴディは彼の心を読んだかのように「ホント、哀れな人ですよね」と頷いた。
「彼女の元を訪ねてきた術者達は、その大半が純粋な善意から鬼を祓おうとしていたのに、インチキ師匠の方を信じてしまったんですからね。他人の話はきちんと聞いておくべきですよ」
 心の声が聞こえる陽斗とゴディとは違い、彼女の真意を図りきれなかった術者は「もちろんです」と断言した。
「我々、術者に祓えないものなどありません。たちどころに祓って見せます」
「結構です。その代わり、私の糧になって下さる?」
 そう言うと、飯沼は術者に向かって手を伸ばし、念じた。
『奪え! こいつの全ての霊力を、吸い取れ!』
 しかし、術者から霊力を吸い取ることは出来なかった。
 彼の体には強固な結界が張られ、霊力の吸収を防いでいた。
「無駄ですよ。私の体は結界によって守られているのです。貴方には破ることは出来ない」
 術者は手で印を結び、何やら唱え出す。このまま飯沼を祓うつもりらしい。
 だが、飯沼は霊力を吸収出来ずに焦るどころか、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「……結界、ね」
 次の瞬間、術者に向かって伸ばしていた飯沼の手から紫色の煙が勢いよく噴射した。煙は術者の視界を奪い、彼を守っていた結界を溶かす。
 術者は術で風を起こし、視界を晴らそうとするが、煙は留まったままだった。
「これは……致死の煙?! まさか、貴方に憑依しているのは猫鬼、玉母か?!」
「その名を口にするなッ!」
 飯沼は煙の向こうから怒鳴り、術者の霊力を奪い取る。
 煙が晴れた頃には術者は全ての霊力を奪われ、地面に倒れていた。今にも息絶えそうな、青白く生気のない顔をしながらも、飯沼に問いかけた。
「貴方はまだ、完全には乗っ取られていないはず。それなのに、どうしてこんなことを……?」
 飯沼は術者を冷たく見下ろし、吐き捨てるように答えた。
「何が悪いと言うの? 私はただ、元の姿に戻りたいだけよ。そうすれば、全てを戻せるの。お師匠や村の人達、今まで霊力を奪ってくた人達を生き返らせて、全部元通りにするのよ」
「……死者を生き返らせるなど、不可能だ。そもそも、いくら霊力を吸収したところで、鬼は祓われない。むしろ、憑依している鬼の力を高めてしまう……早く祓わないと、手遅れになるぞ」
 術者は最後の力を振り絞り、飯沼に忠告したが、彼の言葉が飯沼の心に届くことはなかった。
 飯沼は黙って踵を返すと、その場に術者を放置して立ち去っていった。
「この術者の死により、霊護院の巫女が危険な"鬼憑き"だということは術者達の間にも知れ渡り、多額の報奨金がかけられました。追われる側となった霊護院の巫女は独学で覚えた術で正体を隠し、人間社会に溶け込むことで、密かに霊力を集めるようになったのです」
 何度目かも分からなくなった場面転換後、陽斗は見知った空間に立っていた。
「ここ……学校?」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【シスコン】シスターコントロール ~兄のダンジョン探索を動画サイトで配信して妹はバズりたい!~【探索配信】

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 西暦202x年、日本を襲った未曾有の大災害『日本列島地殻変動』により日本での生活環境は一変してしまった。日本中にダンジョンと呼ばれる地下洞窟が口を開き、周辺からは毒ガスが噴出すると言った有様だ。  異変から約一年、毒ガスの影響なのか定かではないが、新生児の中に毒ガスに適応できる肺機能を持った者たちが現れ始めていた。さらにその中の数%には優れた身体能力や頭脳を持つ者や、それだけでなく従来とは異なった超能力と言える特殊な異能力を持つ者もいた。  さらに八十年ほどが過ぎて二十二世紀に入ったころには人々の生活は落ち着き、ダンジョンを初めとする悪辣な環境が当たり前となっていた。そんなすさんだ世の中、人々の娯楽で一番人気なのはダンジョンを探索する限られた者たちの様子をリアルタイムで鑑賞することだった。  この物語は、ダンジョン探索に情熱を燃やす綾瀬六雨(あやせ りくう)と、その様子を配信してバズりたい綾瀬紗由(あやせ さゆ)という、どこにでもいるごく普通の兄妹が身近な人たちと協力し楽しく冒険するお話です。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...