贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第15.5話(第2部 第4.5話)「幽空の過去〈鳥に憧れた少年〉」

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 痛みと共に、翼からミシミシと嫌な音が聞こえてくる。
 幽四郎はたまらず、上昇した。母と兄姉を強引に振りほどこうとしたが、三人は諦めてはくれなかった。
「嫌ぁ! 私だって、幸せになりたかったのに!」
 姉は涙を散らしながら、落ちていった。
「この呪われた子め! お前さえいなければ!」
 母は最期まで、幽四郎を罵倒し続けた。
「……ごめんな。俺が目を離したせいで、お前をそんな体にしちまった。呪いなんて、本当はないんだ。俺がでっちあげた嘘だったんだよ。本当にごめんな」
 兄は幽四郎に謝ったのち、翼から手を離した。翼のことを言っているのか、足のことを言っているのか……幽四郎には分からなかった。
 三人は地上に残っていた弟妹を巻き込み、息絶えた。五人の首や手足はあべこべの方向に折れ曲がっていた。
「母さん、兄さん、姉さん、夕五郎、タエ……」
 幽四郎は呆然と、五人を見下ろした。
 家族を失った悲しみ、手を下した自分への恐怖、他の村人に知られたらどうなるのかという不安……様々な感情が、頭の中で駆け回る。
「……父さんと夕太郎兄さんに知らせなきゃ。僕じゃ、みんなに話を聞いてもらえない」
 幽四郎は遺体を置いたまま、出稼ぎに行っている父ともう一人の兄がいる町へ向かった。
 幽四郎がいなくなると、野菜を目当てに集まっていた鳥達が一斉に五人の遺体へ飛びかかった。鳥達の異様な鳴き声と、肉をむさぼる音が、辺りに響き渡る。
 その様子を、羅門が畑の野菜の影から覗き見ていた。
「へぇ……やるなぁ、あいつ。ボンボンの紫野ノ瑪なんかより、ずっと使えそうだ」

    ◯

 一夜明け、羅門と朱禅(と偽紫野ノ瑪)は無事に村を後にすることになった。
「ご縁があれば、またいらしてください」
「えぇ、ぜひ」
 村の出口で村長と村人達に見送られ、山向こうの戦場を目指す。
 「こいつはもういらねぇな」と羅門が偽紫野ノ瑪を消すと、入れ替わりに本物の紫野ノ瑪が二人の前に現れた。
「し、紫野ノ瑪?!」
「?」
 羅門は現れた紫野ノ瑪を見て、いぶかしげに眉をひそめる。
 一方、朱禅は何のためらいもなく紫野ノ瑪へ駆け寄り、彼を問い詰めた。
「紫野ノ瑪、どこ行ってたのさ?! 俺達、あれから大変だったんだよ?! 夜通し火の前に座らされるわ、急に水ぶっかけられるわ、岩塩かじらされるわ、変な舞を踊らされるわで、散々だったんだから! 祈祷師がインチキだったから良かったけど、あれで消滅してたら化けて出るところだったよ!」
「そうだったんですね。すみませんでした」
 紫野ノ瑪は薄ら笑いを浮かべ、謝罪を口にした。
「実は、山の中で迷ってしまいましてね。たった今、山を下りてきたところだったのですよ」
「ったく、次からは気をつけなよ?」
 羅門は心の中で舌打ちした。
(……馬鹿か。気をつけるのはお前だ、朱禅。そいつは紫野ノ瑪じゃない)
 羅門はささいな表情や挙動の違いから、目の前にいる紫野ノ瑪が偽物であると気づいていた。
 朱禅が鬼のわりに鈍いというわけではない。なぜなら、目の前にいる何者かは、紫野ノ瑪とをしていたからだ。おそらく何らかの方法で、紫野ノ瑪から妖力を奪ったのだろう。
(この辺の異形ってーと……昨日、村の前で会った行商のババァか? 大した妖怪じゃねぇと見逃したが、意外と大胆なことをしてくれたもんだな)
 妖力を奪い、成り代わる方法はいくつかある。奪い返す手段も、羅門はいくつか知っている。
 だが、
(あの程度のザコ妖怪にやられるようじゃ、今後もやっていけるとは思えねぇ。自力で元に戻れなけりゃ、それまでだ)

     ◯

 ふと、朱禅が村の上空を指差した。
「あれ? あそこに飛んでるの、幽四郎君じゃない?」
「幽四郎?」
 羅門も半信半疑で見上げる。
 たしかに朱禅の言う通り、幽四郎らしき人影が空を飛んでいた。ただ、羅門が知っている彼とは、明らかにかけ離れた姿をしていた。
 飛んでいる彼には足がなく、代わりに背中に生えた翼で飛んでいた。その上、髪の毛先と瞳は空色に染まり、頭には三本の水色のツノまで生えていた。
「ほら、村長の家に行く前に会ったじゃん。兄ちゃんは寝てたから、覚えてないかもしれないけど」
「覚えてる。お前と紫野ノ瑪が呑気に喋ってたガキだろ? 人間だと思ってたが……いつの間にあんなナリになったんだ?」
 朱禅も「さぁ?」と戸惑う。
「あの子の背中に生えてるのって、天狗の翼でしょ? 人間でも、修行し過ぎた山伏やお坊さんが天狗になる話は聞いたことあるけど……昨日はそんなすごい子には見えなかったような?」
「このあたりに天狗はいねぇ。誰かがあいつに移植しやがったんだ。鬼になったのも、翼の妖力が侵食したからだろうな」
 羅門は紫野ノ瑪になり変わっている、行商の老婆を一瞥する。本物かどうかはともかく、行商の老婆は天狗の翼を持っていた。幽四郎に翼を与えたのも、彼女だろう。
 行商の老婆は満足そうに、幽四郎を見上げている。よほど正体を気づかれない自信があるのか、逃げも隠れもしない。
 やがて、幽四郎がこちらに気づいた。
 泣きながら、一直線に向かってくる。入れ替わっているとも知らず、紫野ノ瑪の偽物に泣きついた。
「うわぁーん! 紫野ノ瑪さん、お願い! 僕も一緒に連れて行って! 一刻も早く、村から出たいんだ! 飛べるようになったから運んでもらわなくていいし、むしろ運べるから!」
「お、おい。そいつは……」
 羅門が紫野ノ瑪の正体を口にする前に、幽四郎は首を傾げた。上から、紫野ノ瑪の顔をジッと見つめる。
 ややあって、「あっ!」と嬉しそうに目を輝かせた。
「あの時はありがとうございました! 翼を譲ってもらったおかげで、このとおり! 自由に空を飛べるようになったんですよ!」
「翼……?」
 朱禅は訝しげに眉をひそめる。
 行商の老婆はなおも、紫野ノ瑪のフリを続けようとした。
「何のことです? 別のどなたかとお間違えではありませんか?」
「間違えてなんかないよ! 貴方こそ、どうして姿をしているの?」
「なっ!」
 行商の老婆は青ざめる。
 次の瞬間、幽四郎は決定的なひと言を口にした。
「だって、その体は紫一郎さんのものでしょう? あれ? 紫野ノ瑪さんだったっけ?」

 
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