贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
316 / 330
第16.5話(第2部 第5.5話)「羅門の過去〈闇を手に入れた忍び〉」

しおりを挟む
 八人は荷車のボロ布を取り、宝物の品定めをし始めた。この場で山分けするつもりらしい。
(手取り早く、子供ガキを人質に取るか)
 羅門は音もなく地面へ下りるち、子供の一人を捕らえ、喉元に小刀を当てた。
「全員、荷車から離れろ!」
 七人が羅門を振り返る。
 もう一人の子供以外の六人は唖然としていた。虚を突かれたというより、羅門の行動が理解できない様子だった。
「……え? もしかして人質のつもり?」
「バカだなァ。よりにもよって、焦熱ショーネツを選んじまうなんてサ」
「いや、彼は炎熱エンネツだよ。ツノの位置が逆だろう?」
矢雨ヤザメ、よく見分けがつくねェ」
 人質にされていないほうの子供は、怒りの形相で羅門をにらみつける。人質になっているほうも、獣のように殺気立っていた。
 次の瞬間、子供達の両手から炎が噴き出した。人質になっていないほうは羅門の顔を、人質になっているほうは羅門の手首をつかみ、焼き焦がす。
「ぐッ?!」
 羅門はたまらず、子供達を振り払う。袖で炎を叩き消す間もなく、残りの賊達による攻撃を受けた。
 地面から無数の刃が伸び、羅門の体を貫く。
 手足を炎の矢で撃ち抜かれ、背後の壁に留められる。
 首に鎖が巻きつく。
 かぎ爪で、心臓を一突き。
 最後に、目玉だらけの化け物が大鋸を振り上げたところで、「ちょいとお待ちを!」と糸目の男が声を上げた。
「なンだよ、ヤマネ。切り分けたほうが都合がいいって言ったの、お前だろ?」
「その前に、そちらの方に二、三お聞きしたいことが。先ほどの身のこなし……もしや、貴方は忍びでは?」
「だったら……なんだ……?」
 羅門は息も絶え絶えに答える。
 糸目の男は
「やはりそうでしたか!」
 と歓喜した。
「忍びは非常に珍しい! 切り刻まず、丁重に持ち帰らねば! ちなみに、他に忍びは来ているのですか?」
「さぁ、な。いたとしても、この火事じゃ消し炭になってるだろ」
「では、"里"の場所は?」
「……教えると思うか?」
 羅門は糸目の男をにらむ。里には朱禅や戦えない女子供がいる。それだけは口が裂けても言えない。
 糸目の男は残念そうに肩をすくめた。
「話は終わりです。讐兜、そういうわけですので、今回は我慢してくれますね?」
「……!」
 化け物は怒りをあらわに、大鋸を振り回し、燃え残った建物を破壊する。
 人質に取られた子供ともう一人も、町に炎を投げつけ、火事を悪化させた。完全に八つ当たりだった。
「じゃあ、動けねェよう縛っとくか」
 黒衣の美男が袖から鎖の束を放ち、羅門の体に巻きつける。鎖は頑丈で、全く身動きが取れない。
 圧倒的な力を見せつけられ、羅門は沈黙した。
(これが鬼、か)
 打つ手はない。逃げることすらできない。
 このままなんの抵抗もできず死ぬのかと思うと、かえって笑いが込み上げてきた。
(ったく、なんつー力だよ。あんなの倒せるわけがねぇ。子供でも、鬼は鬼だな)
 同時に、思った。
(俺も……こんな連中、八人でも八十人でも倒せただろうに)

     ◯

 その強い想いと賊達の妖気が、羅門の体に変化を与えた。
 気がつくと、賊達は闇に閉じ込められていた。
「なンだ?」
「何が起こった?」
「爪痕どこぉー?」
「?」
「焦熱か炎熱、明かりを! 矢雨でも構いませんよ!」
「見えない」「聞こえない」
「うーん。火を点けても見えないなー」
「???」
 町も、互いの姿も見えない。声も聞こえない。
 鬼である賊達にとっては、それだけで異常事態だった。
 個体差はあるものの、鬼は人間より遥かに優れた五感を持っている。昼間のように物を見、わずかな音すらも聞き取った。ゆえに、何も見えない・聞こえないというだけで、ここが普通の空間ではないと気づいた。
 目玉だらけの鬼・讐兜は地面に穴を開け、脱出を試みる。だが、。穴の先にも闇が広がっている。讐兜は構造を理解できず、不思議そうに穴から穴へ落ち続けた。
 仲間にその事実を伝えようにも、誰の気配もしない。向こうも、讐兜を気配で察知できていなかった。
 しばらくして、闇が晴れた。
 賊達が襲った町とは別の景色が、目に飛び込んでくる。各々、別の景色を見ていた。
 ……たとえば、黒衣の美男・黒縄コクジョー
 彼の前には廃屋のようにボロボロでありながらも懐かしい我が家と、元気だった頃の母親が現れた。
「母上?」
 母親は黒縄に気づき、穏やかに微笑みかける。黒縄に似た、つややかな黒髪と、色白の美しい顔。
 黒縄は引き寄せられるように近づく。しかしあと一歩のところで、母親は「ウッ」とうめき、倒れた。
「母上!」
 黒縄はたまらず、駆け寄る。母親は美しい顔をゆがめ、毒液混じりの粥を吐いて死んでいた。
「母上! 母上!」
 黒縄は我を忘れ、母親にすがりつく。今の彼は「母親はとっくの昔に死んだ」という事実を忘れている。
 その背後に、立派な身なりをした男が現れた。
 黒縄は気配を察し、ハッと振り返る。黒縄の父親にあたる貴族で、彼とその母親を不幸に落とした元凶である。
 男は悲しみに暮れる我が子を冷ややかに見下ろすと、突き放すように言った。
「そのような女、捨て置け。お前には必要のない人間だ」
 黒縄は男をにらみつけた。
「うるせェ! テメェが勝手なこと言わなきゃ、母上は死なずに済んだンだよ!」
 怒りをあらわに、鎖を放つ。鎖は生き物のように貴族に巻きつき、禍々しい妖気を浴びせた。
「俺が知り得る限りの術で、ありったけ呪ってやる!」
 印を結び、呪文を唱える。鎖を起点に、男に呪いがかかる。
 ところが、男は平然としたままだった。死よりもつらい痛みと苦しみを受けているはずだが、そのような素ぶりは全く見せない。
 それどころか、自力で鎖を振り解いた。
「なッ?!」
「どうした? 母親の仇を取るんじゃなかったか?」
 貴族はニヤニヤと笑い、挑発する。
 黒縄はまんまとそれに乗せられ、顔を真っ赤にした。
「ッ! 黙れッ! テメェだけは、絶対ぶっ殺す!」

     ◯

「テメェだけは、絶対ぶっ殺す!」
「いやぁぁッ! アタシは女よぉぉぉ!!!」
「ッ!(殴) ッ!(裂)」
「燃やさなくちゃ」「燃やさなくちゃ」
「あの時、あの食材を手に入れていればぁぁぁ!!!」
「ごめん……ごめんね……僕が間に合っていれば……」
「ひひッ! ……お前ら、何やってンだ?」
 取り乱す仲間達を前にし、兜を被った鬼・爪痕は不気味に笑った。その笑みは若干、引きつっている。
 ある者は苦しみ、ある者は怒り、ある者は涙ながらに懺悔ざんげしている。八人の中で正気なのは、爪痕だけだった。
 賊達は闇の中で、過去の記憶を見せられた。どれも彼らが鬼になるキッカケとなった記憶で、爪痕以外の七人は完全に正気を失ってしまった。
 爪痕はというと、「過去なんてどうでも良くねェ?」と何を見ても動じず、出口を探しているうちに、気づけば闇から抜け出していた。闇は賊達を中心に塊として存在しており、正気を失った仲間達も爪痕が外から引っ張り、救出した。
「さっき見せられた幻覚のせいかァ? どいつもこいつも軟弱だなオイ」
 闇に囚われていた間に、羅門も宝物を載せた荷車も消えてしまった。近くに気配はなく、捜索に長けた仲間は未だに正気を失っている。
 爪痕は仲間達が正気を取り戻すまで待つと決め、羅門が潜んでいた屋根の上で横になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

【シスコン】シスターコントロール ~兄のダンジョン探索を動画サイトで配信して妹はバズりたい!~【探索配信】

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 西暦202x年、日本を襲った未曾有の大災害『日本列島地殻変動』により日本での生活環境は一変してしまった。日本中にダンジョンと呼ばれる地下洞窟が口を開き、周辺からは毒ガスが噴出すると言った有様だ。  異変から約一年、毒ガスの影響なのか定かではないが、新生児の中に毒ガスに適応できる肺機能を持った者たちが現れ始めていた。さらにその中の数%には優れた身体能力や頭脳を持つ者や、それだけでなく従来とは異なった超能力と言える特殊な異能力を持つ者もいた。  さらに八十年ほどが過ぎて二十二世紀に入ったころには人々の生活は落ち着き、ダンジョンを初めとする悪辣な環境が当たり前となっていた。そんなすさんだ世の中、人々の娯楽で一番人気なのはダンジョンを探索する限られた者たちの様子をリアルタイムで鑑賞することだった。  この物語は、ダンジョン探索に情熱を燃やす綾瀬六雨(あやせ りくう)と、その様子を配信してバズりたい綾瀬紗由(あやせ さゆ)という、どこにでもいるごく普通の兄妹が身近な人たちと協力し楽しく冒険するお話です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...