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第16.5話(第2部 第5.5話)「羅門の過去〈闇を手に入れた忍び〉」
肆
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八人は荷車のボロ布を取り、宝物の品定めをし始めた。この場で山分けするつもりらしい。
(手取り早く、子供を人質に取るか)
羅門は音もなく地面へ下りるち、子供の一人を捕らえ、喉元に小刀を当てた。
「全員、荷車から離れろ!」
七人が羅門を振り返る。
もう一人の子供以外の六人は唖然としていた。虚を突かれたというより、羅門の行動が理解できない様子だった。
「……え? もしかして人質のつもり?」
「バカだなァ。よりにもよって、焦熱を選んじまうなんてサ」
「いや、彼は炎熱だよ。ツノの位置が逆だろう?」
「矢雨、よく見分けがつくねェ」
人質にされていないほうの子供は、怒りの形相で羅門をにらみつける。人質になっているほうも、獣のように殺気立っていた。
次の瞬間、子供達の両手から炎が噴き出した。人質になっていないほうは羅門の顔を、人質になっているほうは羅門の手首をつかみ、焼き焦がす。
「ぐッ?!」
羅門はたまらず、子供達を振り払う。袖で炎を叩き消す間もなく、残りの賊達による攻撃を受けた。
地面から無数の刃が伸び、羅門の体を貫く。
手足を炎の矢で撃ち抜かれ、背後の壁に留められる。
首に鎖が巻きつく。
かぎ爪で、心臓を一突き。
最後に、目玉だらけの化け物が大鋸を振り上げたところで、「ちょいとお待ちを!」と糸目の男が声を上げた。
「なンだよ、ヤマネ。切り分けたほうが都合がいいって言ったの、お前だろ?」
「その前に、そちらの方に二、三お聞きしたいことが。先ほどの身のこなし……もしや、貴方は忍びでは?」
「だったら……なんだ……?」
羅門は息も絶え絶えに答える。
糸目の男は
「やはりそうでしたか!」
と歓喜した。
「忍びは非常に珍しい食材! 切り刻まず、丁重に持ち帰らねば! ちなみに、他に忍びは来ているのですか?」
「さぁ、な。いたとしても、この火事じゃ消し炭になってるだろ」
「では、"里"の場所は?」
「……教えると思うか?」
羅門は糸目の男をにらむ。里には朱禅や戦えない女子供がいる。それだけは口が裂けても言えない。
糸目の男は残念そうに肩をすくめた。
「話は終わりです。讐兜、そういうわけですので、今回は我慢してくれますね?」
「……!」
化け物は怒りをあらわに、大鋸を振り回し、燃え残った建物を破壊する。
人質に取られた子供ともう一人も、町に炎を投げつけ、火事を悪化させた。完全に八つ当たりだった。
「じゃあ、動けねェよう縛っとくか」
黒衣の美男が袖から鎖の束を放ち、羅門の体に巻きつける。鎖は頑丈で、全く身動きが取れない。
圧倒的な力を見せつけられ、羅門は沈黙した。
(これが鬼、か)
打つ手はない。逃げることすらできない。
このままなんの抵抗もできず死ぬのかと思うと、かえって笑いが込み上げてきた。
(ったく、なんつー力だよ。あんなの倒せるわけがねぇ。子供でも、鬼は鬼だな)
同時に、思った。
(俺も鬼だったら……こんな連中、八人でも八十人でも倒せただろうに)
◯
その強い想いと賊達の妖気が、羅門の体に変化を与えた。
気がつくと、賊達は闇に閉じ込められていた。
「なンだ?」
「何が起こった?」
「爪痕どこぉー?」
「?」
「焦熱か炎熱、明かりを! 矢雨でも構いませんよ!」
「見えない」「聞こえない」
「うーん。火を点けても見えないなー」
「???」
町も、互いの姿も見えない。声も聞こえない。
鬼である賊達にとっては、それだけで異常事態だった。
個体差はあるものの、鬼は人間より遥かに優れた五感を持っている。昼間のように物を見、わずかな音すらも聞き取った。ゆえに、何も見えない・聞こえないというだけで、ここが普通の空間ではないと気づいた。
目玉だらけの鬼・讐兜は地面に穴を開け、脱出を試みる。だが、出られない。穴の先にも闇が広がっている。讐兜は構造を理解できず、不思議そうに穴から穴へ落ち続けた。
仲間にその事実を伝えようにも、誰の気配もしない。向こうも、讐兜を気配で察知できていなかった。
しばらくして、闇が晴れた。
賊達が襲った町とは別の景色が、目に飛び込んでくる。各々、別の景色を見ていた。
……たとえば、黒衣の美男・黒縄。
彼の前には廃屋のようにボロボロでありながらも懐かしい我が家と、元気だった頃の母親が現れた。
「母上?」
母親は黒縄に気づき、穏やかに微笑みかける。黒縄に似た、つややかな黒髪と、色白の美しい顔。
黒縄は引き寄せられるように近づく。しかしあと一歩のところで、母親は「ウッ」とうめき、倒れた。
「母上!」
黒縄はたまらず、駆け寄る。母親は美しい顔をゆがめ、毒液混じりの粥を吐いて死んでいた。
「母上! 母上!」
黒縄は我を忘れ、母親にすがりつく。今の彼は「母親はとっくの昔に死んだ」という事実を忘れている。
その背後に、立派な身なりをした男が現れた。
黒縄は気配を察し、ハッと振り返る。黒縄の父親にあたる貴族で、彼とその母親を不幸に落とした元凶である。
男は悲しみに暮れる我が子を冷ややかに見下ろすと、突き放すように言った。
「そのような女、捨て置け。お前には必要のない人間だ」
黒縄は男をにらみつけた。
「うるせェ! テメェが勝手なこと言わなきゃ、母上は死なずに済んだンだよ!」
怒りをあらわに、鎖を放つ。鎖は生き物のように貴族に巻きつき、禍々しい妖気を浴びせた。
「俺が知り得る限りの術で、ありったけ呪ってやる!」
印を結び、呪文を唱える。鎖を起点に、男に呪いがかかる。
ところが、男は平然としたままだった。死よりもつらい痛みと苦しみを受けているはずだが、そのような素ぶりは全く見せない。
それどころか、自力で鎖を振り解いた。
「なッ?!」
「どうした? 母親の仇を取るんじゃなかったか?」
貴族はニヤニヤと笑い、挑発する。
黒縄はまんまとそれに乗せられ、顔を真っ赤にした。
「ッ! 黙れッ! テメェだけは、絶対ぶっ殺す!」
◯
「テメェだけは、絶対ぶっ殺す!」
「いやぁぁッ! アタシは女よぉぉぉ!!!」
「ッ!(殴) ッ!(裂)」
「燃やさなくちゃ」「燃やさなくちゃ」
「あの時、あの食材を手に入れていればぁぁぁ!!!」
「ごめん……ごめんね……僕が間に合っていれば……」
「ひひッ! ……お前ら、何やってンだ?」
取り乱す仲間達を前にし、兜を被った鬼・爪痕は不気味に笑った。その笑みは若干、引きつっている。
ある者は苦しみ、ある者は怒り、ある者は涙ながらに懺悔している。八人の中で正気なのは、爪痕だけだった。
賊達は闇の中で、過去の記憶を見せられた。どれも彼らが鬼になるキッカケとなった因縁の記憶で、爪痕以外の七人は完全に正気を失ってしまった。
爪痕はというと、「過去なんてどうでも良くねェ?」と何を見ても動じず、出口を探しているうちに、気づけば闇から抜け出していた。闇は賊達を中心に塊として存在しており、正気を失った仲間達も爪痕が外から引っ張り、救出した。
「さっき見せられた幻覚のせいかァ? どいつもこいつも軟弱だなオイ」
闇に囚われていた間に、羅門も宝物を載せた荷車も消えてしまった。近くに気配はなく、捜索に長けた仲間は未だに正気を失っている。
爪痕は仲間達が正気を取り戻すまで待つと決め、羅門が潜んでいた屋根の上で横になった。
(手取り早く、子供を人質に取るか)
羅門は音もなく地面へ下りるち、子供の一人を捕らえ、喉元に小刀を当てた。
「全員、荷車から離れろ!」
七人が羅門を振り返る。
もう一人の子供以外の六人は唖然としていた。虚を突かれたというより、羅門の行動が理解できない様子だった。
「……え? もしかして人質のつもり?」
「バカだなァ。よりにもよって、焦熱を選んじまうなんてサ」
「いや、彼は炎熱だよ。ツノの位置が逆だろう?」
「矢雨、よく見分けがつくねェ」
人質にされていないほうの子供は、怒りの形相で羅門をにらみつける。人質になっているほうも、獣のように殺気立っていた。
次の瞬間、子供達の両手から炎が噴き出した。人質になっていないほうは羅門の顔を、人質になっているほうは羅門の手首をつかみ、焼き焦がす。
「ぐッ?!」
羅門はたまらず、子供達を振り払う。袖で炎を叩き消す間もなく、残りの賊達による攻撃を受けた。
地面から無数の刃が伸び、羅門の体を貫く。
手足を炎の矢で撃ち抜かれ、背後の壁に留められる。
首に鎖が巻きつく。
かぎ爪で、心臓を一突き。
最後に、目玉だらけの化け物が大鋸を振り上げたところで、「ちょいとお待ちを!」と糸目の男が声を上げた。
「なンだよ、ヤマネ。切り分けたほうが都合がいいって言ったの、お前だろ?」
「その前に、そちらの方に二、三お聞きしたいことが。先ほどの身のこなし……もしや、貴方は忍びでは?」
「だったら……なんだ……?」
羅門は息も絶え絶えに答える。
糸目の男は
「やはりそうでしたか!」
と歓喜した。
「忍びは非常に珍しい食材! 切り刻まず、丁重に持ち帰らねば! ちなみに、他に忍びは来ているのですか?」
「さぁ、な。いたとしても、この火事じゃ消し炭になってるだろ」
「では、"里"の場所は?」
「……教えると思うか?」
羅門は糸目の男をにらむ。里には朱禅や戦えない女子供がいる。それだけは口が裂けても言えない。
糸目の男は残念そうに肩をすくめた。
「話は終わりです。讐兜、そういうわけですので、今回は我慢してくれますね?」
「……!」
化け物は怒りをあらわに、大鋸を振り回し、燃え残った建物を破壊する。
人質に取られた子供ともう一人も、町に炎を投げつけ、火事を悪化させた。完全に八つ当たりだった。
「じゃあ、動けねェよう縛っとくか」
黒衣の美男が袖から鎖の束を放ち、羅門の体に巻きつける。鎖は頑丈で、全く身動きが取れない。
圧倒的な力を見せつけられ、羅門は沈黙した。
(これが鬼、か)
打つ手はない。逃げることすらできない。
このままなんの抵抗もできず死ぬのかと思うと、かえって笑いが込み上げてきた。
(ったく、なんつー力だよ。あんなの倒せるわけがねぇ。子供でも、鬼は鬼だな)
同時に、思った。
(俺も鬼だったら……こんな連中、八人でも八十人でも倒せただろうに)
◯
その強い想いと賊達の妖気が、羅門の体に変化を与えた。
気がつくと、賊達は闇に閉じ込められていた。
「なンだ?」
「何が起こった?」
「爪痕どこぉー?」
「?」
「焦熱か炎熱、明かりを! 矢雨でも構いませんよ!」
「見えない」「聞こえない」
「うーん。火を点けても見えないなー」
「???」
町も、互いの姿も見えない。声も聞こえない。
鬼である賊達にとっては、それだけで異常事態だった。
個体差はあるものの、鬼は人間より遥かに優れた五感を持っている。昼間のように物を見、わずかな音すらも聞き取った。ゆえに、何も見えない・聞こえないというだけで、ここが普通の空間ではないと気づいた。
目玉だらけの鬼・讐兜は地面に穴を開け、脱出を試みる。だが、出られない。穴の先にも闇が広がっている。讐兜は構造を理解できず、不思議そうに穴から穴へ落ち続けた。
仲間にその事実を伝えようにも、誰の気配もしない。向こうも、讐兜を気配で察知できていなかった。
しばらくして、闇が晴れた。
賊達が襲った町とは別の景色が、目に飛び込んでくる。各々、別の景色を見ていた。
……たとえば、黒衣の美男・黒縄。
彼の前には廃屋のようにボロボロでありながらも懐かしい我が家と、元気だった頃の母親が現れた。
「母上?」
母親は黒縄に気づき、穏やかに微笑みかける。黒縄に似た、つややかな黒髪と、色白の美しい顔。
黒縄は引き寄せられるように近づく。しかしあと一歩のところで、母親は「ウッ」とうめき、倒れた。
「母上!」
黒縄はたまらず、駆け寄る。母親は美しい顔をゆがめ、毒液混じりの粥を吐いて死んでいた。
「母上! 母上!」
黒縄は我を忘れ、母親にすがりつく。今の彼は「母親はとっくの昔に死んだ」という事実を忘れている。
その背後に、立派な身なりをした男が現れた。
黒縄は気配を察し、ハッと振り返る。黒縄の父親にあたる貴族で、彼とその母親を不幸に落とした元凶である。
男は悲しみに暮れる我が子を冷ややかに見下ろすと、突き放すように言った。
「そのような女、捨て置け。お前には必要のない人間だ」
黒縄は男をにらみつけた。
「うるせェ! テメェが勝手なこと言わなきゃ、母上は死なずに済んだンだよ!」
怒りをあらわに、鎖を放つ。鎖は生き物のように貴族に巻きつき、禍々しい妖気を浴びせた。
「俺が知り得る限りの術で、ありったけ呪ってやる!」
印を結び、呪文を唱える。鎖を起点に、男に呪いがかかる。
ところが、男は平然としたままだった。死よりもつらい痛みと苦しみを受けているはずだが、そのような素ぶりは全く見せない。
それどころか、自力で鎖を振り解いた。
「なッ?!」
「どうした? 母親の仇を取るんじゃなかったか?」
貴族はニヤニヤと笑い、挑発する。
黒縄はまんまとそれに乗せられ、顔を真っ赤にした。
「ッ! 黙れッ! テメェだけは、絶対ぶっ殺す!」
◯
「テメェだけは、絶対ぶっ殺す!」
「いやぁぁッ! アタシは女よぉぉぉ!!!」
「ッ!(殴) ッ!(裂)」
「燃やさなくちゃ」「燃やさなくちゃ」
「あの時、あの食材を手に入れていればぁぁぁ!!!」
「ごめん……ごめんね……僕が間に合っていれば……」
「ひひッ! ……お前ら、何やってンだ?」
取り乱す仲間達を前にし、兜を被った鬼・爪痕は不気味に笑った。その笑みは若干、引きつっている。
ある者は苦しみ、ある者は怒り、ある者は涙ながらに懺悔している。八人の中で正気なのは、爪痕だけだった。
賊達は闇の中で、過去の記憶を見せられた。どれも彼らが鬼になるキッカケとなった因縁の記憶で、爪痕以外の七人は完全に正気を失ってしまった。
爪痕はというと、「過去なんてどうでも良くねェ?」と何を見ても動じず、出口を探しているうちに、気づけば闇から抜け出していた。闇は賊達を中心に塊として存在しており、正気を失った仲間達も爪痕が外から引っ張り、救出した。
「さっき見せられた幻覚のせいかァ? どいつもこいつも軟弱だなオイ」
闇に囚われていた間に、羅門も宝物を載せた荷車も消えてしまった。近くに気配はなく、捜索に長けた仲間は未だに正気を失っている。
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