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第4部 第1章「天使ちゃんと悪夢ちゃん」
第4話『待合室、再び』⑸
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「天使様と悪魔様」の二人が自身の体に異変を感じたのは、病院を後にし、夜の街を歩いていた時だった。
突然、手足が強張り、歩きづらくなったのだ。その症状は徐々に体を侵食し、顔や臓器にまで広がった。カクカクと手足を動かし歩く様は、まるで人形のようであった。
「あラ……なんだカ、動きヅらいわね」
「ツネトキのおじさんガ、私達に悪夢ヲかけたのかモしれないワ」
「まァ、なんテ薄情な人なんデショウ。親の顔ガ見てミたいワ」
双子の読みは当たっていた。
二人の体に異変が起こり始めたのは、ちょうど常時が悪夢の中で「人形になってしまえ」と双子に向けて叫んだところだった。
常時が双子の両親に閉じ込められた時は、自分がいる世界が悪夢の中だとは気づいていなかった。そのため、当時の常時は悪夢の中の双子の両親にひたすら殺意を向けていた。当然、本人ではないため、力は効かなかった。
ところが、今回は最初から自分が悪夢の中にいると分かっていた。だからこそ、常時は悪夢に出てきた双子の偽物ではなく、現実の双子に対し、無意識に殺意を飛ばしてしまったのである。さすがの双子も、そこまでは考えが及ばなかった。
双子の体はどんどん硬くなる。
やがて二人は完全に足の感覚を失い、転倒した。「ここまでは歩こう」と決めていた、お気に入りのゴスロリ専門店の前だった。
「ココナライイワ。マイニチ好キナ衣装ニ着セ替エテモラエルモノ」
「ソウネ。バイトノ子モ、可愛クテ賢クテ良イ子ダシネ」
双子は微笑み、手を握り合う。
程なくして脳まで人形に変わり、完全に動きを止めた。
翌朝、出勤したゴスロリ専門店のバイトは店の前に転がっている二体の人形に気づき、首を傾げた。
「うちの人形かしら? 生きてるみたい」
バイトは人形を店へ持ち帰ると、表のショーウィンドウに飾った。こうしておけば、持ち主が気づきやすいだろうと思った。
実際、人形は多くの通行人の目に留まったが、なかなか持ち主は現れなかった。
「間宮! 記事が好評だからって、調子乗るなよ?!」
「乗ってませんよ、いつも通りですって。じゃ、俺は仕事の続きあるんでこれで」
「あっ! ちょっと待て! まだ話は終わってないぞ!」
同時刻。間宮は上司の説教から逃れるため、仕事場にしている喫茶店へ向かっていた。
その道中、ゴスロリ専門店のショーウィンドウに飾られている二体の人形と目があった。人形にもゴスロリにも興味がなかったが、つい足を止めた。
「へぇ……コレ、人形なのか。よくできてんなぁ。後輩に教えたら、"絶対、夜中に動き出すやつじゃないですか!"って喜びそうだ」
間宮は「さーて、仕事仕事」と再び歩き出す。
……彼は気づかなかった。飾られていた二体の人形がおもむろに立ち上がり、中からショーウィンドウを開けたことに。人形はご丁寧に「散歩中」のメッセージカードをショーウィンドウに残すと、間宮の後をついていった。
二人の姿が見えなくなった頃、ゴスロリ専門店の店長が空っぽになったショーウィンドウとメッセージカードに気づき、悲鳴をあげた。
「リリアンちゃん、リリアンちゃん! 人形いなくなってるけど?!」
慌てて、人形を拾ったバイトの女性に教える。
女性はチラッとメッセージカードに目をやると、冷静に返した。
「散歩中でしょう? そのうち帰ってきますよ」
「帰ってくるって何?! あの人形動くの?!」
「さぁ? 私も今朝、店の前で拾ったので」
「勝手におかしなもの拾って来ないでー!」
店長は混乱したままだったが、女性のおかげで大ごとにならずに済んだ。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「コーヒー。ブラックで」
「かしこまりました。お好きなお席へどうぞ」
間宮はカウンターで注文を済ませ、定位置の壁際奥の席へ移動した。仕事用のノートパソコンを開き、前回雑誌で好評だった「天使様と悪魔様」の調査を始める。
彼と一緒に喫茶店に入ってきた二体の人形……もとい「天使様と悪魔様」、もしくは夜宵家の双子は、間宮から少し離れたソファ席に並んで座った。フランス人形のような微笑を浮かべ、遠巻きに間宮を眺める。
そこへ喫茶店の店員が注文を取りに来た。
「お嬢ちゃん達、ご注文は?」
双子はそろって店員を振り返り、答えた。
「お子様ランチを二つ下さる? ドリンクはオレンジジュース。お子様ですもの」
「私たち、昨日の夜から何も食べていないの。一晩中、お仕事させられていたのよ。とびっきり美味しいランチをお願いするわ」
「か、かしこまりました……」
店員は何か言いたげな顔で、厨房へ引っ込む。客の事情に突っ込まないところがプロだった。
昨夜、二人は常時に悪夢を見せられ、現実でも人形に変わってしまった。
しかし脳まで人形に変わる前に、二人は自分達自身に悪夢を見せた。
「動かないはずの人形が、生きた人間のように意思を持って動く。周りは人形だと気づかず、人間として接する」
という悪夢で、おかげで人形になる前となんら変わらない動作が実現した。
この場にいる誰も、二人が人形だとは気づかない。彼女達を調べている、間宮ですらも。
「常時のおじさん、どうする?」
「放っておきましょう。生きているか死んだかは分からないけれど、私達の復讐は終わったんだもの」
「だったら、これからは私達のような可哀想な子供を救ってあげましょうよ。ほら、この前もいじめられていた子を助けたでしょう?」
「いいわね! 哀れな大人には大金を吹っかけなくっちゃ!」
双子は楽しそうにクスクス笑う。
全ては、とっくに終わった出来事……。
(第1章「天使ちゃんと悪魔ちゃん」終わり)
(第2章「天使くんと悪魔くん」へ続く)
突然、手足が強張り、歩きづらくなったのだ。その症状は徐々に体を侵食し、顔や臓器にまで広がった。カクカクと手足を動かし歩く様は、まるで人形のようであった。
「あラ……なんだカ、動きヅらいわね」
「ツネトキのおじさんガ、私達に悪夢ヲかけたのかモしれないワ」
「まァ、なんテ薄情な人なんデショウ。親の顔ガ見てミたいワ」
双子の読みは当たっていた。
二人の体に異変が起こり始めたのは、ちょうど常時が悪夢の中で「人形になってしまえ」と双子に向けて叫んだところだった。
常時が双子の両親に閉じ込められた時は、自分がいる世界が悪夢の中だとは気づいていなかった。そのため、当時の常時は悪夢の中の双子の両親にひたすら殺意を向けていた。当然、本人ではないため、力は効かなかった。
ところが、今回は最初から自分が悪夢の中にいると分かっていた。だからこそ、常時は悪夢に出てきた双子の偽物ではなく、現実の双子に対し、無意識に殺意を飛ばしてしまったのである。さすがの双子も、そこまでは考えが及ばなかった。
双子の体はどんどん硬くなる。
やがて二人は完全に足の感覚を失い、転倒した。「ここまでは歩こう」と決めていた、お気に入りのゴスロリ専門店の前だった。
「ココナライイワ。マイニチ好キナ衣装ニ着セ替エテモラエルモノ」
「ソウネ。バイトノ子モ、可愛クテ賢クテ良イ子ダシネ」
双子は微笑み、手を握り合う。
程なくして脳まで人形に変わり、完全に動きを止めた。
翌朝、出勤したゴスロリ専門店のバイトは店の前に転がっている二体の人形に気づき、首を傾げた。
「うちの人形かしら? 生きてるみたい」
バイトは人形を店へ持ち帰ると、表のショーウィンドウに飾った。こうしておけば、持ち主が気づきやすいだろうと思った。
実際、人形は多くの通行人の目に留まったが、なかなか持ち主は現れなかった。
「間宮! 記事が好評だからって、調子乗るなよ?!」
「乗ってませんよ、いつも通りですって。じゃ、俺は仕事の続きあるんでこれで」
「あっ! ちょっと待て! まだ話は終わってないぞ!」
同時刻。間宮は上司の説教から逃れるため、仕事場にしている喫茶店へ向かっていた。
その道中、ゴスロリ専門店のショーウィンドウに飾られている二体の人形と目があった。人形にもゴスロリにも興味がなかったが、つい足を止めた。
「へぇ……コレ、人形なのか。よくできてんなぁ。後輩に教えたら、"絶対、夜中に動き出すやつじゃないですか!"って喜びそうだ」
間宮は「さーて、仕事仕事」と再び歩き出す。
……彼は気づかなかった。飾られていた二体の人形がおもむろに立ち上がり、中からショーウィンドウを開けたことに。人形はご丁寧に「散歩中」のメッセージカードをショーウィンドウに残すと、間宮の後をついていった。
二人の姿が見えなくなった頃、ゴスロリ専門店の店長が空っぽになったショーウィンドウとメッセージカードに気づき、悲鳴をあげた。
「リリアンちゃん、リリアンちゃん! 人形いなくなってるけど?!」
慌てて、人形を拾ったバイトの女性に教える。
女性はチラッとメッセージカードに目をやると、冷静に返した。
「散歩中でしょう? そのうち帰ってきますよ」
「帰ってくるって何?! あの人形動くの?!」
「さぁ? 私も今朝、店の前で拾ったので」
「勝手におかしなもの拾って来ないでー!」
店長は混乱したままだったが、女性のおかげで大ごとにならずに済んだ。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「コーヒー。ブラックで」
「かしこまりました。お好きなお席へどうぞ」
間宮はカウンターで注文を済ませ、定位置の壁際奥の席へ移動した。仕事用のノートパソコンを開き、前回雑誌で好評だった「天使様と悪魔様」の調査を始める。
彼と一緒に喫茶店に入ってきた二体の人形……もとい「天使様と悪魔様」、もしくは夜宵家の双子は、間宮から少し離れたソファ席に並んで座った。フランス人形のような微笑を浮かべ、遠巻きに間宮を眺める。
そこへ喫茶店の店員が注文を取りに来た。
「お嬢ちゃん達、ご注文は?」
双子はそろって店員を振り返り、答えた。
「お子様ランチを二つ下さる? ドリンクはオレンジジュース。お子様ですもの」
「私たち、昨日の夜から何も食べていないの。一晩中、お仕事させられていたのよ。とびっきり美味しいランチをお願いするわ」
「か、かしこまりました……」
店員は何か言いたげな顔で、厨房へ引っ込む。客の事情に突っ込まないところがプロだった。
昨夜、二人は常時に悪夢を見せられ、現実でも人形に変わってしまった。
しかし脳まで人形に変わる前に、二人は自分達自身に悪夢を見せた。
「動かないはずの人形が、生きた人間のように意思を持って動く。周りは人形だと気づかず、人間として接する」
という悪夢で、おかげで人形になる前となんら変わらない動作が実現した。
この場にいる誰も、二人が人形だとは気づかない。彼女達を調べている、間宮ですらも。
「常時のおじさん、どうする?」
「放っておきましょう。生きているか死んだかは分からないけれど、私達の復讐は終わったんだもの」
「だったら、これからは私達のような可哀想な子供を救ってあげましょうよ。ほら、この前もいじめられていた子を助けたでしょう?」
「いいわね! 哀れな大人には大金を吹っかけなくっちゃ!」
双子は楽しそうにクスクス笑う。
全ては、とっくに終わった出来事……。
(第1章「天使ちゃんと悪魔ちゃん」終わり)
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