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第一話「みんなには話さないで〈消えた資料集のなぞ〉」
第一話「みんなには話さないで」⑶
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結局、ボクは何も言わずに、大友くんの家を出た。
帰りは、白日野下さんと二人きりだった。
正確にはポチャムズもいる。威嚇してきた野良ネコに「ワンッ!」と威嚇し返していた。やっぱり、変なネコだ。
ボクはさっき思いついた仮説を、白日野下さんにぶつけてみた。
「篠崎さんだったんだね。井上くんの資料集を、大友くんの引き出しに入れたのは」
「へぇ。君には、彼女がそんなイジワルな子に見えるのかい?」
「そうじゃないけど……少なくとも、大友くんは井上くんの資料集を持っていってなんかいないと思う。というか、持っていけないんだ。井上くんは、大友くんから一番離れた席に座っていたんだから」
大友くんの家を出る前、井上くんにあらためて誰がどの席に座っていたのか確かめた。
机はたてに長い長方形。前から右側に、井上くん、Aさん、Bくん。左側に、Cさん、篠崎さん、大友くんが座っていた。
つまり、井上くんと大友くんは対角に座っていたことになる。席がとなりあっているわけでもないから、わざとじゃないかぎり、大友くんは井上くんの資料集を持っていけない。
大友くんの怒り方からして、わざと持ち去った線はない。井上くんが自作自演していた説も考えにくい(だって、井上くんは資料集を探している間中、図書室に行きたがっていたんだからね)。
だとすると、考えられる可能性はひとつ。
井上くんでも大友くんでもない誰かが、井上くんの資料集を盗み、大友くんの引き出しに入れたんだ。理由は分からないけど、さっきの反応を見るに、やったのは篠崎さんだろう。
そして、白日野下さんもボクと同じように、篠崎さんがやったと気づいているはずなんだ。じゃなきゃ、ボクを止めるはずがない。
白日野下さんは「足りないね」と答えた。
「足りない?」
「うん、半分足りない。君の推理は不完全だ。それでは篠崎さんを守れない」
篠崎さんを……守る?
井上くんと大友くんを苦しめた、真犯人を?
白日野下さんはスッと目を開き、ボクの推理に足りない「半分」を説明した。
「君の言ったとおり、井上くんの資料集を大友くんの引き出しに入れたのは、篠崎さんだ。校内に生徒がいない二十分休みにでも実行したんだろう。誰もいなくなるまで、トイレにでもこもっていたんじゃないかな?」
よその学校がどうかは知らないけど、うちの学校には「二十分休みは外で遊ばなければならない」という謎ルールがある。いつまでも校内に残っている生徒は追い出されるし、図書室も体育館も開いてない。
結果、教室は完全な無人になる。校内には先生が巡回しているし、その間に持ち物が盗まれるなんて考えもしない。
「問題は、どうして篠崎さんがそんなことをしたのかだが……そもそも、大友くんに資料集を奪われたのは篠崎さんだったんだ。君の言ったとおり、井上くんじゃありえない。だって、井上くんは大友くんから一番遠い席に座っていたんだからね。篠崎さんなら大友くんのとなりだし、資料集を持ち去られたとしても不思議じゃない」
「白日野下さんも、井上くんたちの席順を知っていたんだね」
「あぁ。ポチャムズが教えてくれた。校内を散歩中に、たまたま理科室のベランダを通ったらしい。さすが、私の相棒だよ」
ポチャムズはドヤ顔でグッと親指を立てる。
席順なんて、どうやって伝えたんだろう……? いや、今は気にしちゃダメだ。白日野下さんの推理に集中しないと。
「それなら、大友くんに正直に言えば良かったじゃないか。その資料集は私のだ、って」
「言えなかったんだよ。篠崎さんは見てのとおり、臆病な性格だ。乱暴者の大友くんに、面と向かって言えるはずもない。だから、誰もいない二十分休みを利用し、資料集を取り戻したんだ」
篠崎さんは真犯人であり、被害者でもあったのか。
だけど、まだ肝心なことが分からない。
「篠崎さんが本当の被害者だったっていうのは分かった。だけど、井上くんの資料集を大友くんの引き出しに入れた理由はなんなんだ?」
「もし、大友くんが資料集がなくなっていることに気づいたら、どうなると思う?」
ボクは想像してみた。
怒りっぽい大友くんのことだ、きっと大騒ぎしていただろう。班以外の生徒や先生をも巻き込み、資料集を探させていたに違いない。
もし、ボクと同じことを、篠崎さんも想像をしていたら……?
ボクの頭の中を覗き見したかのように、白日野下さんはうなずいた。
「井上くんは優しい。大友くんみたいにやたらと騒がないし、相手が間違っていても許せる、心の広い人間だ。篠崎さんもそれを知っていたからこそ、自分の資料集の代わりに、井上くんの資料集を大友くんの引き出しに入れたんだよ。実際、井上くんは大ごとにならないよう、先生ではなく君に相談した」
いずれ、井上くんも真相に気づくだろう。
だけど、彼は黙っていると思う。全てが丸く収まり、大友くんがおとなしくなった今が、平和だから。
白日野下さんは全部知っていたんだ。
井上くんたちがどんな人か、誰が何をしたのか、ボクが分からなかった何もかもを。
「どうしてそこまで? 今日ウチの学校に来たばかりなのに。もしかして、大友くんが嫌いとか?」
すると、白日野下さんが立ち止まった。
彼女の目が夕日を映し、真っ赤に輝いて見える。ポチャムズも同じ目で、ボクを見ていた。
……ゾッとした。とてつもない怪物と出会ってしまったような感覚。ボクは恐怖のあまり、その場から動けなくなった。
「嫌いだね。自分勝手で、他人に厳しく、自分には甘い。冷静に物事を見極められないくせに、自分を賢いと思い込んでいる。ああいうタイプは、犯人にも被害者にも捜査官にもいたけど、全員苦手だったなぁ」
「……」
「しかも、声がやたらデカい。誰彼かまわず大声でベラベラとしゃべり歩くから、苦労して手に入れた機密情報がもれてしまう。彼の声、一階の下駄箱まで響いていたんだよ? 私が来なかったら、先生にバレて騒ぎになっていた。今回のことは、彼にとってもいい勉強になったんじゃないかな?」
犯人? 被害者? 捜査官? 機密情報?
どんな生活をしていたら、そんな単語が出てくるんだ?
ボクは、ずっと抱えていた疑問を、白日野下さんに投げかけた。
「……白日野下さん。君は、いったい何者なんだ? ポチャムズは本当にネコなのか?」
白日野下さんはネコのように目を細め、ほほえんだ。
「謎解きが趣味の、ただの小学生だよ。そしてポチャムズはまぎれもなく、ネコだ」
「にゃー。にゃー。に゛ゃッ……ゲホゲホッ!」
なぜだろう? 鳴き声がわざとらしく聞こえる。
◯
こうして、ボクは白日野下真実子こと、「転校生探偵」と出会った。
だけどまだボクは、彼女があの転校生探偵だとは知らない。
(第二話へつづく)
帰りは、白日野下さんと二人きりだった。
正確にはポチャムズもいる。威嚇してきた野良ネコに「ワンッ!」と威嚇し返していた。やっぱり、変なネコだ。
ボクはさっき思いついた仮説を、白日野下さんにぶつけてみた。
「篠崎さんだったんだね。井上くんの資料集を、大友くんの引き出しに入れたのは」
「へぇ。君には、彼女がそんなイジワルな子に見えるのかい?」
「そうじゃないけど……少なくとも、大友くんは井上くんの資料集を持っていってなんかいないと思う。というか、持っていけないんだ。井上くんは、大友くんから一番離れた席に座っていたんだから」
大友くんの家を出る前、井上くんにあらためて誰がどの席に座っていたのか確かめた。
机はたてに長い長方形。前から右側に、井上くん、Aさん、Bくん。左側に、Cさん、篠崎さん、大友くんが座っていた。
つまり、井上くんと大友くんは対角に座っていたことになる。席がとなりあっているわけでもないから、わざとじゃないかぎり、大友くんは井上くんの資料集を持っていけない。
大友くんの怒り方からして、わざと持ち去った線はない。井上くんが自作自演していた説も考えにくい(だって、井上くんは資料集を探している間中、図書室に行きたがっていたんだからね)。
だとすると、考えられる可能性はひとつ。
井上くんでも大友くんでもない誰かが、井上くんの資料集を盗み、大友くんの引き出しに入れたんだ。理由は分からないけど、さっきの反応を見るに、やったのは篠崎さんだろう。
そして、白日野下さんもボクと同じように、篠崎さんがやったと気づいているはずなんだ。じゃなきゃ、ボクを止めるはずがない。
白日野下さんは「足りないね」と答えた。
「足りない?」
「うん、半分足りない。君の推理は不完全だ。それでは篠崎さんを守れない」
篠崎さんを……守る?
井上くんと大友くんを苦しめた、真犯人を?
白日野下さんはスッと目を開き、ボクの推理に足りない「半分」を説明した。
「君の言ったとおり、井上くんの資料集を大友くんの引き出しに入れたのは、篠崎さんだ。校内に生徒がいない二十分休みにでも実行したんだろう。誰もいなくなるまで、トイレにでもこもっていたんじゃないかな?」
よその学校がどうかは知らないけど、うちの学校には「二十分休みは外で遊ばなければならない」という謎ルールがある。いつまでも校内に残っている生徒は追い出されるし、図書室も体育館も開いてない。
結果、教室は完全な無人になる。校内には先生が巡回しているし、その間に持ち物が盗まれるなんて考えもしない。
「問題は、どうして篠崎さんがそんなことをしたのかだが……そもそも、大友くんに資料集を奪われたのは篠崎さんだったんだ。君の言ったとおり、井上くんじゃありえない。だって、井上くんは大友くんから一番遠い席に座っていたんだからね。篠崎さんなら大友くんのとなりだし、資料集を持ち去られたとしても不思議じゃない」
「白日野下さんも、井上くんたちの席順を知っていたんだね」
「あぁ。ポチャムズが教えてくれた。校内を散歩中に、たまたま理科室のベランダを通ったらしい。さすが、私の相棒だよ」
ポチャムズはドヤ顔でグッと親指を立てる。
席順なんて、どうやって伝えたんだろう……? いや、今は気にしちゃダメだ。白日野下さんの推理に集中しないと。
「それなら、大友くんに正直に言えば良かったじゃないか。その資料集は私のだ、って」
「言えなかったんだよ。篠崎さんは見てのとおり、臆病な性格だ。乱暴者の大友くんに、面と向かって言えるはずもない。だから、誰もいない二十分休みを利用し、資料集を取り戻したんだ」
篠崎さんは真犯人であり、被害者でもあったのか。
だけど、まだ肝心なことが分からない。
「篠崎さんが本当の被害者だったっていうのは分かった。だけど、井上くんの資料集を大友くんの引き出しに入れた理由はなんなんだ?」
「もし、大友くんが資料集がなくなっていることに気づいたら、どうなると思う?」
ボクは想像してみた。
怒りっぽい大友くんのことだ、きっと大騒ぎしていただろう。班以外の生徒や先生をも巻き込み、資料集を探させていたに違いない。
もし、ボクと同じことを、篠崎さんも想像をしていたら……?
ボクの頭の中を覗き見したかのように、白日野下さんはうなずいた。
「井上くんは優しい。大友くんみたいにやたらと騒がないし、相手が間違っていても許せる、心の広い人間だ。篠崎さんもそれを知っていたからこそ、自分の資料集の代わりに、井上くんの資料集を大友くんの引き出しに入れたんだよ。実際、井上くんは大ごとにならないよう、先生ではなく君に相談した」
いずれ、井上くんも真相に気づくだろう。
だけど、彼は黙っていると思う。全てが丸く収まり、大友くんがおとなしくなった今が、平和だから。
白日野下さんは全部知っていたんだ。
井上くんたちがどんな人か、誰が何をしたのか、ボクが分からなかった何もかもを。
「どうしてそこまで? 今日ウチの学校に来たばかりなのに。もしかして、大友くんが嫌いとか?」
すると、白日野下さんが立ち止まった。
彼女の目が夕日を映し、真っ赤に輝いて見える。ポチャムズも同じ目で、ボクを見ていた。
……ゾッとした。とてつもない怪物と出会ってしまったような感覚。ボクは恐怖のあまり、その場から動けなくなった。
「嫌いだね。自分勝手で、他人に厳しく、自分には甘い。冷静に物事を見極められないくせに、自分を賢いと思い込んでいる。ああいうタイプは、犯人にも被害者にも捜査官にもいたけど、全員苦手だったなぁ」
「……」
「しかも、声がやたらデカい。誰彼かまわず大声でベラベラとしゃべり歩くから、苦労して手に入れた機密情報がもれてしまう。彼の声、一階の下駄箱まで響いていたんだよ? 私が来なかったら、先生にバレて騒ぎになっていた。今回のことは、彼にとってもいい勉強になったんじゃないかな?」
犯人? 被害者? 捜査官? 機密情報?
どんな生活をしていたら、そんな単語が出てくるんだ?
ボクは、ずっと抱えていた疑問を、白日野下さんに投げかけた。
「……白日野下さん。君は、いったい何者なんだ? ポチャムズは本当にネコなのか?」
白日野下さんはネコのように目を細め、ほほえんだ。
「謎解きが趣味の、ただの小学生だよ。そしてポチャムズはまぎれもなく、ネコだ」
「にゃー。にゃー。に゛ゃッ……ゲホゲホッ!」
なぜだろう? 鳴き声がわざとらしく聞こえる。
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