8 / 9
第二話「ネコを放さないで!〈ねらわれた天才子役〉」
第二話「ネコを放さないで!」⑸
しおりを挟む
頭の中が真っ白になる。怖かったけど、推理の続きに耳を傾けた。
「そのスタッフの手と爪を見てください。土と砂で汚れています。他のスタッフの方々が琴美ちゃんを探していた間、あなたは砂遊びでもしていたんですか?」
「こ、転んだ拍子に手をついたんだ! だいたい、私がそんな穴を掘って埋めているところを、誰か見たのか?!」
田中さんは周りのスタッフを見回す。
スタッフは首を振った。
「見てないです」
「うん。琴美ちゃんを探すのに夢中で、それどころじゃなかった」
「さすがに穴を掘ってたら気づくと思うよ」
田中さんの顔に笑みが浮かぶ。
だけど、白日野下さんは「チッチッ」と指を振った。
「掘る必要はありません。前日に掘って、穴にフタをしておけばいいのですから」
「フタ?」
「同じく、埋める必要もありません。琴美ちゃんを穴へ隠した後、フタをすればいいのです」
「ボク達は前日にロケハンしているんだよ? そんなフタがあったら気づくと思うけど。穴を埋め直したら、そこだけ土の色が違うだろうし」
「気づいても、違和感は持たないと思いますよ。だって皆さん、とっくに穴のことをご存知なんですから」
白日野下さんは指差す……ドッキリに使われる予定の、落とし穴を。
◯
ズボォッ!
「琴美ちゃん、だいじょぶー?」
「ウニャーン!」
「ぎゃぁぁぁ! ネコと鰤っ子が土まみれで降ってきたー! だから、ネコを放さないでって言ったのに!」
良かった! 琴美ちゃん、生きてる!
ものすごく怒ってるけど!
「どうです? これを見ても、まだ認めませんか?」
「……」
田中さんはガクッとうなだれる。やっと観念したらしい。
白日野下さんの推理どおり、穴の上には土や砂利を付着したシートが被っていた。四つのコーンは、シートが風で飛ぶのを防ぐための重しだったんだ。
ボクたちは白日野下さんの推理のあと、急いで落とし穴へ向かった。
誤算だったのは、田中さんがより地面っぽく見えるよう、シートの上からさらに土や砂を被せていたこと。そして、プロが作った落とし穴を前に、野呂とポチャムズがハイになってしまったこと。
「いっちばんのりぃー!」
「ぶにゃにゃにゃーん!」
「待てぇーッ!」
二人(一人と一匹?)はボクらが止める間もなく、穴へダイブしてしまった。
二人の姿は土の下へと消え、琴美ちゃんの怒鳴り声が響いた。
「あんたらのせいで衣装が土だらけになっちゃったじゃない! どうしてくれんのよ?!」
琴美ちゃんは土だらけで戻ってきた。スタッフさんたちも頭を抱えている。せっかく琴美ちゃんを見つけたのに……。
野呂とポチャムズは照れくさそうに上がってくる。ほめてないぞ!
「すみません! クリーニングして返しますから!」
平謝りするボクに、監督は「いいよ、いいよ!」と笑った。
「むしろ、臨場感が出てる! 琴美ちゃんはキレイ好きだから、ああいう汚れさせてもらえないんだよー。脚本を変える! 怪人百面相の一人、土川《つちかわ》土右衛門《つちえもん》のワナにはまったことにしよう!」
それと、と監督は田中さんをチラッと見た。
「二ノ宮ニコを呼んでくれ。ミコミコを助ける友人役として出演させる」
「い、いいんですか?!」
「良いも悪いも、もともと登場させる予定だったんだよ。ミコミコを救う、美少女探偵二号としてね。予定より早いが、まぁいいだろう」
田中さんは驚き、涙ぐむ。
「ありがとう、ございます……!」
田中さんは二ノ宮ニコちゃんのお父さんだった。二ノ宮ニコは芸名で、本名は田中クニ子っていうらしい。田中さんとニコちゃんのお母さんが離婚したから、今は田中でもないそうだけど。
田中さんは離れ離れになったニコちゃんに、どうにか親らしいことがしてあげたかった。それで、ミコミコ役をプレゼントしようとしたんだって。
だけど、ミコミコ役は琴美ちゃんに奪われてしまった。田中さんはニコちゃんにミコミコの代役をさせるために、琴美ちゃんを落とし穴に閉じ込めたんだ。紅茶に入っていた薬も、琴美ちゃんをさらうために仕込んだものだった。
「ニコが喜ぶと思って、やってしまった」
と言う田中さんに、白日野下さんは冷たく言い放った。
「それはエゴだよ。親がそんな手段を取って、本当に子供が喜ぶと思うかい? ニコちゃんはそんな悪どい子じゃないだろう? 喜ぶどころか、嫌われるよ」
「……」
「ニコちゃんが本当に喜ぶことは何か、きちんと考えたまえ。分からないなら、奥さんでも、ニコちゃん本人でもいいから、直接ききに行けばいい」
田中さんはうなずき、ニコちゃんが撮影所に着く前に、警察へ連れて行かれた。
「そのスタッフの手と爪を見てください。土と砂で汚れています。他のスタッフの方々が琴美ちゃんを探していた間、あなたは砂遊びでもしていたんですか?」
「こ、転んだ拍子に手をついたんだ! だいたい、私がそんな穴を掘って埋めているところを、誰か見たのか?!」
田中さんは周りのスタッフを見回す。
スタッフは首を振った。
「見てないです」
「うん。琴美ちゃんを探すのに夢中で、それどころじゃなかった」
「さすがに穴を掘ってたら気づくと思うよ」
田中さんの顔に笑みが浮かぶ。
だけど、白日野下さんは「チッチッ」と指を振った。
「掘る必要はありません。前日に掘って、穴にフタをしておけばいいのですから」
「フタ?」
「同じく、埋める必要もありません。琴美ちゃんを穴へ隠した後、フタをすればいいのです」
「ボク達は前日にロケハンしているんだよ? そんなフタがあったら気づくと思うけど。穴を埋め直したら、そこだけ土の色が違うだろうし」
「気づいても、違和感は持たないと思いますよ。だって皆さん、とっくに穴のことをご存知なんですから」
白日野下さんは指差す……ドッキリに使われる予定の、落とし穴を。
◯
ズボォッ!
「琴美ちゃん、だいじょぶー?」
「ウニャーン!」
「ぎゃぁぁぁ! ネコと鰤っ子が土まみれで降ってきたー! だから、ネコを放さないでって言ったのに!」
良かった! 琴美ちゃん、生きてる!
ものすごく怒ってるけど!
「どうです? これを見ても、まだ認めませんか?」
「……」
田中さんはガクッとうなだれる。やっと観念したらしい。
白日野下さんの推理どおり、穴の上には土や砂利を付着したシートが被っていた。四つのコーンは、シートが風で飛ぶのを防ぐための重しだったんだ。
ボクたちは白日野下さんの推理のあと、急いで落とし穴へ向かった。
誤算だったのは、田中さんがより地面っぽく見えるよう、シートの上からさらに土や砂を被せていたこと。そして、プロが作った落とし穴を前に、野呂とポチャムズがハイになってしまったこと。
「いっちばんのりぃー!」
「ぶにゃにゃにゃーん!」
「待てぇーッ!」
二人(一人と一匹?)はボクらが止める間もなく、穴へダイブしてしまった。
二人の姿は土の下へと消え、琴美ちゃんの怒鳴り声が響いた。
「あんたらのせいで衣装が土だらけになっちゃったじゃない! どうしてくれんのよ?!」
琴美ちゃんは土だらけで戻ってきた。スタッフさんたちも頭を抱えている。せっかく琴美ちゃんを見つけたのに……。
野呂とポチャムズは照れくさそうに上がってくる。ほめてないぞ!
「すみません! クリーニングして返しますから!」
平謝りするボクに、監督は「いいよ、いいよ!」と笑った。
「むしろ、臨場感が出てる! 琴美ちゃんはキレイ好きだから、ああいう汚れさせてもらえないんだよー。脚本を変える! 怪人百面相の一人、土川《つちかわ》土右衛門《つちえもん》のワナにはまったことにしよう!」
それと、と監督は田中さんをチラッと見た。
「二ノ宮ニコを呼んでくれ。ミコミコを助ける友人役として出演させる」
「い、いいんですか?!」
「良いも悪いも、もともと登場させる予定だったんだよ。ミコミコを救う、美少女探偵二号としてね。予定より早いが、まぁいいだろう」
田中さんは驚き、涙ぐむ。
「ありがとう、ございます……!」
田中さんは二ノ宮ニコちゃんのお父さんだった。二ノ宮ニコは芸名で、本名は田中クニ子っていうらしい。田中さんとニコちゃんのお母さんが離婚したから、今は田中でもないそうだけど。
田中さんは離れ離れになったニコちゃんに、どうにか親らしいことがしてあげたかった。それで、ミコミコ役をプレゼントしようとしたんだって。
だけど、ミコミコ役は琴美ちゃんに奪われてしまった。田中さんはニコちゃんにミコミコの代役をさせるために、琴美ちゃんを落とし穴に閉じ込めたんだ。紅茶に入っていた薬も、琴美ちゃんをさらうために仕込んだものだった。
「ニコが喜ぶと思って、やってしまった」
と言う田中さんに、白日野下さんは冷たく言い放った。
「それはエゴだよ。親がそんな手段を取って、本当に子供が喜ぶと思うかい? ニコちゃんはそんな悪どい子じゃないだろう? 喜ぶどころか、嫌われるよ」
「……」
「ニコちゃんが本当に喜ぶことは何か、きちんと考えたまえ。分からないなら、奥さんでも、ニコちゃん本人でもいいから、直接ききに行けばいい」
田中さんはうなずき、ニコちゃんが撮影所に着く前に、警察へ連れて行かれた。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ママのごはんはたべたくない
もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん
たべたくないきもちを
ほんに してみました。
ちょっと、おもしろエピソード
よんでみてください。
これをよんだら おやこで
ハッピーに なれるかも?
約3600文字あります。
ゆっくり読んで大体20分以内で
読み終えると思います。
寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。
表紙作画:ぽん太郎 様
2023.3.7更新
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる