82 / 97
番外編「First Grade」
第二話「いわくのタロットカード」⑹
しおりを挟む
改めてタロットカードを並べ、部長が山落イミナという前提で解読し直した。
最初の質問「漫研のBLの同人誌を持ち込んでいるのは誰か?」。辺境のカードが「遠くに行く人」ではなく、山と谷の絵から「山落イミナ」そのものを指しているのだとしたら、
「犯人は部長。山落イミナというペンネームで、一人で同人誌を出している」
という意味に変わる。
そうなると、次の「その理由は?」という質問の答えもおのずと変わる。
めくって出てきたのは、民衆、画家、お金のカード。大城は「お金=価値」と考え、
「部員と、部員の画力向上のため」
と読み解いたが、蝶園が同人誌を出しているのだとしたら、本当は
「同人誌即売会が近いから」
だったのかもしれない。
つまり、蝶園がBLの同人誌を持ち込んでいたのは部のためだけでなく、自分のためでもあったのだ。
「こうなってくると、最後の質問の意味も間違っているような気がしてくるな」
「な。姉小路は都合良く解釈してたけど、あれで合ってたのか? 太志」
最後に、姉小路は「漫研の発展のためには、今後どうすればいいのか?」といわくのタロットカードに質問した。
すると、同人誌、美術部、ファミレスの絵のカードが出た。解読した大城は答えるのを拒否した。
「無理無理無理! こんなの絶対無理だよ!」
「いいから答えなさい! 答えないなら、私が解読する!」
姉小路は大城から解読書を奪い、カードを読み解いた。
「"同人誌は許可。代わりに美術部をファミレスへ追いやり、美術室を奪え"……なるほど、これは名案だわ。部室が増えれば、喋る部員と喋らない部員で分けられるものね」
姉小路はニヤリと笑い、挑戦的な眼差しで成宮達を見回した。
大城は思い出すだけで蛇に睨まれたような気分になり、青ざめた。
「ソテカン先輩の言うとおりだよ。あれ、本当は違う意味だったんだ」
「どういう意味だったんだ?」
「絶対無理って言ってたけど」
「……"美術部と同人誌を出す。ファミレスで会議"だって。ね? 無理でしょ?」
確かに、と一同は納得した。
◯●◯●◯
「おや、懐かしいものを広げているね」
顧問の柄本が準備室から様子を見に来た。
皆は慌てていわくのタロットカードを隠そうとした。
「ち、違うんです! これはいわくのタロットカードじゃなくてですね……」
「うん。"いわくらさん"のタロットカードでしょ? 作ってるとこ見てたからね、知っているよ」
皆は顔を見合わせた。
「いわくら……?」
「って、誰?」
「君達の先輩だよ。岩倉朋美さん。美術部で、よくオリジナルのカードゲームを作ってたんだ。部室に残っている創作カードゲームのほとんどは彼女が作ったものだよ」
つまり、いわくのタロットカードは呪いのアイテムでもなんでもないことになる。
しかしそれにしては不可解なことが多過ぎた。
「でも、箱には"いわく"って書いてありましたよ?」
「それは"いわくら"の"ら"が消えただけさ。ほら、よく見るとうっすら残ってるだろう?」
箱を凝視すると、確かに「く」の横にうっすらと「ら」が書いてあった。
「いわくのタロットカードじゃないってことは、占いで出た結果は間違ってるんすか?」
「うん、おおむねこじつけだね。その人がそう思いたい結果に解読するから、当たってるように思うだけさ。現に、結果は同じでも、大城君の解読と姉小路さんの解読じゃ、まるっきり意味が違っていたし」
「タライ! タライはなんなんすか! あれも勘違いってことすか?!」
「そうだね」
柄本は紙に書かれたゲームの手順を指差した。
「最初にドアや窓を閉め切って、部屋を密室にしただろう? これは部屋に酸素が行き届かないようにするためなんだ。その上、美術室に置いてある絵や画材の臭いが充満し、軽い中毒状態になる。さらに"何かが起きるかもしれない"という極度の緊張状態も加わる。この最悪の状態で、ゲームのルールを破ったり感情が高まったりすると……どうなると思う?」
「ぶっ倒れますね」
「そう。心理的ショックが痛みになり、脳を襲う。それを『タライが落ちて来たから痛いんだ』と勘違いするんだ。周りが見ていたタライは幻覚ってこと。実際、タライは部屋に残っていないよね?」
全員、言われてから気づいた。
計四個はあるはずのタライが、そこにも見当たらなかった。
「じゃあ、換気しながらゲームをやれば、安全にできるってことっすか?!」
「そうだね。僕も部活中に中毒で病院送りなんて困るし」
「よっしゃ! 俺、まだ聞けなかった質問いっぱいあるんだよねー!」
「俺もやろうかな」
太樹も加わり、席につく。
机にタロットカードを置き、お辞儀をした直後、全員の頭にタライが降ってきた。「ぐわっしゃーん!」と豪快に音が鳴った。
「あれれ?」
(第三話へ続く)
最初の質問「漫研のBLの同人誌を持ち込んでいるのは誰か?」。辺境のカードが「遠くに行く人」ではなく、山と谷の絵から「山落イミナ」そのものを指しているのだとしたら、
「犯人は部長。山落イミナというペンネームで、一人で同人誌を出している」
という意味に変わる。
そうなると、次の「その理由は?」という質問の答えもおのずと変わる。
めくって出てきたのは、民衆、画家、お金のカード。大城は「お金=価値」と考え、
「部員と、部員の画力向上のため」
と読み解いたが、蝶園が同人誌を出しているのだとしたら、本当は
「同人誌即売会が近いから」
だったのかもしれない。
つまり、蝶園がBLの同人誌を持ち込んでいたのは部のためだけでなく、自分のためでもあったのだ。
「こうなってくると、最後の質問の意味も間違っているような気がしてくるな」
「な。姉小路は都合良く解釈してたけど、あれで合ってたのか? 太志」
最後に、姉小路は「漫研の発展のためには、今後どうすればいいのか?」といわくのタロットカードに質問した。
すると、同人誌、美術部、ファミレスの絵のカードが出た。解読した大城は答えるのを拒否した。
「無理無理無理! こんなの絶対無理だよ!」
「いいから答えなさい! 答えないなら、私が解読する!」
姉小路は大城から解読書を奪い、カードを読み解いた。
「"同人誌は許可。代わりに美術部をファミレスへ追いやり、美術室を奪え"……なるほど、これは名案だわ。部室が増えれば、喋る部員と喋らない部員で分けられるものね」
姉小路はニヤリと笑い、挑戦的な眼差しで成宮達を見回した。
大城は思い出すだけで蛇に睨まれたような気分になり、青ざめた。
「ソテカン先輩の言うとおりだよ。あれ、本当は違う意味だったんだ」
「どういう意味だったんだ?」
「絶対無理って言ってたけど」
「……"美術部と同人誌を出す。ファミレスで会議"だって。ね? 無理でしょ?」
確かに、と一同は納得した。
◯●◯●◯
「おや、懐かしいものを広げているね」
顧問の柄本が準備室から様子を見に来た。
皆は慌てていわくのタロットカードを隠そうとした。
「ち、違うんです! これはいわくのタロットカードじゃなくてですね……」
「うん。"いわくらさん"のタロットカードでしょ? 作ってるとこ見てたからね、知っているよ」
皆は顔を見合わせた。
「いわくら……?」
「って、誰?」
「君達の先輩だよ。岩倉朋美さん。美術部で、よくオリジナルのカードゲームを作ってたんだ。部室に残っている創作カードゲームのほとんどは彼女が作ったものだよ」
つまり、いわくのタロットカードは呪いのアイテムでもなんでもないことになる。
しかしそれにしては不可解なことが多過ぎた。
「でも、箱には"いわく"って書いてありましたよ?」
「それは"いわくら"の"ら"が消えただけさ。ほら、よく見るとうっすら残ってるだろう?」
箱を凝視すると、確かに「く」の横にうっすらと「ら」が書いてあった。
「いわくのタロットカードじゃないってことは、占いで出た結果は間違ってるんすか?」
「うん、おおむねこじつけだね。その人がそう思いたい結果に解読するから、当たってるように思うだけさ。現に、結果は同じでも、大城君の解読と姉小路さんの解読じゃ、まるっきり意味が違っていたし」
「タライ! タライはなんなんすか! あれも勘違いってことすか?!」
「そうだね」
柄本は紙に書かれたゲームの手順を指差した。
「最初にドアや窓を閉め切って、部屋を密室にしただろう? これは部屋に酸素が行き届かないようにするためなんだ。その上、美術室に置いてある絵や画材の臭いが充満し、軽い中毒状態になる。さらに"何かが起きるかもしれない"という極度の緊張状態も加わる。この最悪の状態で、ゲームのルールを破ったり感情が高まったりすると……どうなると思う?」
「ぶっ倒れますね」
「そう。心理的ショックが痛みになり、脳を襲う。それを『タライが落ちて来たから痛いんだ』と勘違いするんだ。周りが見ていたタライは幻覚ってこと。実際、タライは部屋に残っていないよね?」
全員、言われてから気づいた。
計四個はあるはずのタライが、そこにも見当たらなかった。
「じゃあ、換気しながらゲームをやれば、安全にできるってことっすか?!」
「そうだね。僕も部活中に中毒で病院送りなんて困るし」
「よっしゃ! 俺、まだ聞けなかった質問いっぱいあるんだよねー!」
「俺もやろうかな」
太樹も加わり、席につく。
机にタロットカードを置き、お辞儀をした直後、全員の頭にタライが降ってきた。「ぐわっしゃーん!」と豪快に音が鳴った。
「あれれ?」
(第三話へ続く)
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる