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第171話 稼働実験

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「何やらすごく死んだような顔をしておるのぅ」

 ボクの顔を見るなりお婆様が言った言葉がこれだ。
 それだけ今のボクの顔はひどいということなのだろう。

「偶然にも友人と出会う機会がありまして……」

 心配そうな顔のお婆様にこうなった経緯を軽く説明する。
 するとお婆様は何やら興味をひかれたようなわくわくした顔をし始めた。
 おそらく撮ったという動画に興味を持ったのだろう。

「その動画、わしも観てみたいのぅ」
「えぇ……」

 若干困惑しつつもそれを了承。
 早速ノートパソコンで動画を再生して見てもらうことに。

「ほうほう。最初から死んだ顔をしておるのぅ。視線もカメラ目線ではないしな」

 お婆様の言いたいことはよくわかります。
 幸いあっちこっち向いたりはしていないものの、常に死んだような表情で左斜め下方向に視線を向け続けている。
 動画の撮影に協力的ではないのが一目でわかる状態だった。
 対する友人は嬉々として楽しそうに笑顔を振りまきながら話をしている。

「こうして見直してみると、ボクの表情ひどいですね……」
「うむ。いっぱいいっぱいなのが伝わってくるのぅ。じゃが嫌々という風には見えんし、微笑ましいと取られる可能性はあると思うのぅ」
「そ、そうですか?」
「うむ。意外な才能があるのやもしれぬ。のぉ? ミレや」

 お婆様が隣にいたミレに声をかける。
 するとミレは大きくうなずきながら「これから何か放送してみますか?」などと提案してくる。
 か、考えておきます……。
 でもサイトに投稿しなくても放送させられる羽目になるんだろうなとミレを見ながら思ってしまった。

「でも実際、ボクの行動を動画で見て面白いと思います?」

 多少は見たい人もいるかもしれないけど、面白い動画が撮れるとは思わないしなぁ……。
 でもこういうのって理由付けてやらないから成長しないってのもあるのかも。

「わしは見てみたいのぅ。当然いつも傍におるから見ておるのじゃが、遥を通してじゃと色々見方がかわるやもしれぬ」
「遥お姉様の見てみたいですわね。どんな景色を見ているのか気になりますわね」
「主様視点ですか。とても面白そうですね」
「主が何かを始めるのですか? 私も見てみたいですね」

 やってきたミリアムさんも含め、近くにいた人たちは全員賛成してしまった。
 これは困ったことになってしまった。

「と、とりあえず余裕が出来たらで……」

 ここはいったん逃げておきましょう。
 いつまでも後回しにはできないと思うけど……。

「とりあえず今日は新世界側の建築の続きをしていきましょう。旧世界の方は整備隊のフェアリーノームたちにお願いします」
 
 本日やることを再確認。
 そろそろ作業を進めていかないと色々なものの完成がどんどん遅れてしまうのだ。

「お任せください!!」

 旧世界担当のフェアリーノームたちは決められた予定をこなすために旅立っていく。
 あっち側は周辺の整備やら地下の補強やらといった作業が非常に多いのだ。
 特に青肌一族の村周辺にはまだ遺跡が眠っている可能性すらある。

「さてと、次はっと……」

 新世界側は引き続き建物の建築と周辺整備、それとミリアムさんたちは要員管理というお仕事もある。
 まぁボクは管理できないのでお任せしているというのが現状なんだけどね。
 
 現在控えている作業としては、試験的に制作されたエネルギー供給用クリスタルの設置だ。
 各建物に灯りを灯す予定なので早めに終えてしまいたい作業でもある。
 でもこの作業、教授たちのグループが行う予定なので、ボクはそれをただ見ているだけなのだが……。



「では早速作業を始めますぞ」

 建物から少し離れた開けた場所で教授と新しく人間のような姿に生まれ変わった研究所の所員たちは、マザークリスタルとなる大きなクリスタルの設置作業を始めた。
 今回のクリスタルは【陽光結晶】【星光結晶】【月光結晶】の3つの結晶から作られている。
 全部混ぜると危ないけど、単体ではそうでもないので3つのクリスタルを設置してエネルギーを生み出すことになったのだ。
 
「送信機の設置完了です。これより受信機の設置に移ります」
「うむ。エネルギー貯蔵用のクリスタルに受信機を設置し終えたらもう一度報告してください」

 所員の報告を受けて教授が次の指示を出す。
 今回は貯蔵用クリスタルに3つのエネルギーを送り込んだ場合どうなるのかを確認するのだ。
 問題がなければ試験用の街灯に受信機を設置して稼働させることになっている。

「完了しました」
「確認した。では、送信開始」

 しばらく後、完了報告が来たので教授が状況を確認。
 問題がないことがわかるとそのまま稼働試験を開始した。

 稼働を始めたクリスタルから微かな音が鳴る。
 これはエネルギーを生み出しているときの音のようで、3つそれぞれに違った音が存在している。
 少しばかり甲高いその音だが、聞いていて心地いい音なので騒音にはならないだろう。

 そうこうしていると、教授たちから歓声が上がった。
 数値の確認をしているはずなのだが、なにかいいことがあったのだろうか。

「どうかしましたか?」
「おぉ、主殿。試験結果は良好ですぞ。3つのエネルギーを受け取っても暴走するようなことはありませんでしたぞ。このまま満タンまで稼働を続けて、次の貯蔵用クリスタルに貯蔵できるかを試しますぞ」
「おー……。お願いしますね。楽しみです」
「お任せください」

 教授は終始にこにこ笑顔だった。
 骨だけど。
 それだけ新しい技術の実験は楽しいのだろう。

「これがうまくいけば、きれいでクリーンなエネルギーを活用することができそうですね」

 安定したエネルギー供給を目指して頑張ろう。
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