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第66話:暴走

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 さぁ、ご奉仕のコツは掴みました! なんだか楽しくなってきましたね!
 いい感じにハイになってきた所で、じゃんじゃん皆さんのお役に立つとしましょうっ。
 ここから先はダイジェストで、スーパーメイド心和が数多の難問を解決する瞬間をご覧くださいませ~!



《1》:歪な台所



「失礼しま~す! ほうほう、素敵なキッチンですね~」

「なんだ? 料理はまだできていない。つまみ食いなら追い出すぞ?」

「いえいえお構いなく~。……あの、この部分の出っ張り、危なくないです?」

「あぁ、昔からあるからあまり気にはならんが、新人がこけたりするな。だが世界樹様の一部故に傷一つつかんし……」

「よ~し! お任せください!」

「何を……う、うわぁぁぁ!?」


 厨房の戦士たちを長年邪魔していた、不便なでっぱり。
 コックたちは、このでっぱりでこけなくなってからが半人前だと、常々語っておりました。

 それが……なんということでしょう……!
 スーパーメイド心和の力により、きれいさっぱりなくなったではありませんか……!
 更に水回りも空間を広げ、何人料理人がいようと対応できるようにするという、匠ならではの心遣い……!

 食材を運び込むのに、わざわざ何部屋も経由しなければいけなかった難点も、直通のリフト用に洞を通してみました。
 これなら、洞から空いた穴を使い、食材を運び込めることでしょう……! なんたって、牛が5頭はらくらく通せるサイズです。

「な、な、な……」

「「なんじゃこりゃぁぁぁ!」」

「お礼は結構! では次のメイド活動に向かいますね!」

 スーパーメイド心和の戦いは、まだまだ続く!!


《2》:虫食いが不安な図書室


「ここが文献が眠っているという図書室ですか~」

「あぁ、あんたが森の管理者だね? 女王様から聞いてるよ。文献を調べにきたんだろ?」

「いいえ?」

「は?」

「なにかこう、ここについて不満はありますか~?」

「ふ、ふまん? まぁ……わざわざ本を干す作業を往復しないといけないってのは、しんどいかな……」

「わっかりました~!」

「え、な、うわぁぁぁぁ!?」

 大量の文献が眠っているのに、管理が大変な図書室。
 司書のエルフさんは、本を運ぶ作業をした日の夜に、毎回の如く腰痛に襲われるそうです。

 そんな不便だった図書室が……なんということでしょう……!

 部屋の位置が外側だったという点を利用し、優雅なベランダを設置。
 本を借りた人が、お茶の一杯でも飲みながら読書を嗜める空間に早変わりいたしました……!
 このベランダを使えば、晴れた日に外に本を干すなど楽々のちんちんです。

 さらに、本に使われている植物繊維に働きかけ、魔力を浸透。
 向こう何年も劣化しないよう、強化に成功いたしました……!
 全ての本は、これで守られることでしょう!

「せ、世界樹様に、こんなデカい穴が……!」

「お礼は結構! では次のメイド活動に向かいますね!」

 スーパーメイド心和の戦いは、まだまだ続く!!


《3》:玉座の間を大胆リフォーム


「うわぁ~、やっぱり女王様がいる所ってすごいですね~。荘厳な雰囲気……」

「おぉ、森の管理者か。ここは許可なしに入る事は許されておらんぞ」

「女王様からお城の奉仕活動を言い渡されました!」

「む、そうなのか……その話は聞いている、掃除くらいは許してやろう」

「では、何かご不便はありますか?」

「いや、この空間は世界樹様の魔力が最も満ちている。不便などあろうはずもない」

「なるほど……閃きました!」

「な、なにを……う、うわぁぁぁ!?」

 世界樹様の魔力に満ちた、幻想的な空間。
 しかし言い換えれば、魔力が凝り固まった空間ともいえるでしょう。

 その空間の脈を、ちょちょいといじり……なんということでしょう……!

 世界樹全体に魔力を通せるよう道を作り、どこの部屋でも魔力の恩恵を受けられるよう大胆な内部補装をいたしました……!
 魔力に満ちた荘厳な空間も、生命力に溢れる素敵空間に早変わり!
 玉座には新芽が芽吹き、丁度いいアクセントになっています。

 これならば、ここで仕事をする女王様も、リフレッシュ間違いなし。
 きっと、毎日をエブリデイ楽しく過ごせることでしょう……!

「お、おおお!? 世界樹に魔力が巡っていく……!? これは、生命力なのか!」

「お礼は結構! では次のメイド活動に向かいますね!」

 スーパーメイド心和の戦いは、まだまだ続く!!




    ◆  ◆  ◆




「だぁぁ! 管理者様はどこにいるんだ!」

「ちゅ、厨房からの兵士の報告では、図書室に向かったと……」

「女王陛下! 図書室に優雅なベランダが出来上がったというご報告が!」

「「はい!?」」

「せ、世界樹様に……あ、穴、穴が……はふ……」

「ネグノッテ女王ぅう!? しっかりしろー!」

 追跡隊の活動は、困難を極めていた。
 どこを探しても心和の姿は見えず、いざ到着すればもぬけの殻。
 代わりに、どこかビビットの飛んだ魔改造が施されている始末。
 もはやこの世界樹は、可愛らしい人形遊びの舞台がごとく、プリティ極まる素敵な外見になってしまっていた。

 外観には草で編まれた特大リボンを設置。
 リリカルなベランダは各階層に登場。
 リフトも複数設置され、利便性も抜群。
 さらには、「サイシャリィ城:世界樹風味」なる巨大看板まで設置され、誰がどう見ても観光名所にしか見えない。

 中も大きく改築され、自然発生した空洞を利用した空間が軒並み整地され、まるで高層ビルのような統一感に。
 要所要所の機能性はそのままに、利便性の塊になっていた。

 さらには……なぜか世界樹に満ち始める、生命力。
 凝り固まっていた魔力詰まり。それが全体に巡り、パイプ整備のように脈を調節されたことで、全身に血が巡るように魔力が満ちてきたのだ。

 たった一日、数時間。

 その間に、世界樹は、大きな変革を迎えつつあった……
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