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第68話:オラに元気を分けてくれ

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 私は、まるで母胎に浮かんでいるような仄かな温もりに包まれていました。
 意識がとろけ、自然と心が楽しくなってくる。自分よりも高位の誰かに身を任せる、とても安心できる感覚です。
 このまま、呑まれてしまえたら。そんな気持ちも頭をよぎります。

 下の方では、世界樹に葉を付けるためにいただいた栄養が原因で、樹が一本倒れたご様子。心が痛みますが、何故か今の私は止まろうと思えません。
 そう、全ては……お茶のため。皆さんに美味しいお茶を提供する。その為には、世界樹の葉が一番です。
 そう、思っていたんです。

「今すぐやめないと、【守護者様に叱ってもらうぞ】!!」

 しかし、私にかけられた言葉は、これでした。
 デノンさんが、目の前にいます。さっきまで、そこそこ遠くにいたような?  あれ、そうでしたっけ?
 ええと、なんでしたっけ。なんか言われたですか私。
 しゅごしゃ、しゅごしゃさまに……しかって?
 しかってもらう……守護者様?

「……ゴンさん?」

 あ、あれ、それ……困る、困ります?
 いや、むしろウェルカム……?

「そうだ、アンタの帰りを待っている、あの強大な霊獣様だ!エルフとの同盟は、ヒュリンとの関係のために必要だと言って、守護者様の反対を押し切って来たんだろう?」

 あぁ、えと……そうだった、ような?
 ん~……ヒュリンが同盟を持ちかけてくるよう、に……まずはエルフと同盟を組んで……そして、向こうから相談を持ち掛けてくるように、でしたよね……?

「だったら、ここでエルフの里を滅ぼしたら大変な事になるぞ? 守護者様からきっついお仕置きだぞ! 嫌われちまうぞ!」

「きつい……おしおき……」

 なにそれ滾る。
 じゃなくて、それはいけません。ゴンさんに怒られるならウェルカムですが、嫌われるのはいけません。
 ほわい。何故私はゴンさんに嫌われるようなムーブを!?

「う、う、うぅぅ……!」

 慌てて世界樹に生命力を注ぎ込むのをやめさせます。
 しかし、スポンジに水が吸い込まれるのを止められないのと同じように、一度吸収を始めた世界樹は中々止まってくれません。
 フゥㇺ、どうしたものか。

 ……私の魔力で押し返してみましょうか。
 今、私の体は世界樹と直結して魔力が循環しています。いわば、死んだ世界樹に一時的に血を巡らせている延命装置的役割です。
 その状態からほんの少し魔力をせき止めて、流れを変えて……世界樹の根から、魔力を流すようにする。つまり、元の状態に戻すようにすれば……。

 あ、でも私が魔力で押しつぶされるかも。
 ん~……ま、やってみましょう。
 世界樹に潰されるなら、まぁいいでしょう。何事も経験です。

「管理者様!」

「っ、はう。デノンさん?」

「大丈夫か? 元の管理者様か?」

 もちろんです。そう言おうと思ったのですが……この時、私にとあるアイディアが浮かびました。
 そうです。潰されるくらいの魔力しかない私でも、足せばなんとかなるかもしれません。
 なので、私は意識が表面に戻ってきたこのタイミングで、デノンさんにお願いすることにしました。

「えぇまぁ。とりあえずお茶くれません?」

「やっぱ元に戻ってなくない!?」

 あれ? やだなぁそんな。普段の私とトンだ私が変わらないみたいな言い方しないでくださいよ。
 そうではなくて……

「あぁほら、私が持ってきた、ゴンさんぬいぐるみあるじゃないですか」

「あ、あぁ……」

「あの中身の茶葉、お茶にして、持ってきてください」

 そう、ゴンさん茶。
 あれで私の力をブーストすれば……多分、世界樹相手に良い勝負できるんじゃないでしょうか?

「そ、そうか、あれが……待ってろ! 今すぐ取ってくる!」

「あら、それならここにあるわよぉ?」

 え、えっちゃ~ん!
 なんという出来る女! 男? まぁ恒例!
 というか何でえっちゃんが持ってるのでしょう?

「ココナちゃん、これキノコのお茶屋さんに忘れて行ったでしょう?」

「……あれ、そうでしたっけ?」

 たしかに、あそこで兵隊さんに捕まった時くらいから、何も持ってなかったですね。

「こんなアーティスト怖くて置いとけないって言われて、私にもたされたのよぅ」

 おぉ、なんだか万物が私に味方してくれていますね! ご都合主義万歳!
 では、早速ゴンさん茶をいただきましょう!

「よし、管理者様」

 デノンさんが、えっちゃんからゴンさんぐるみを受け取ります。
 そして、背中に手を突っ込んで、茶葉を取り出します。
 あれ? デノンさん、あれ?

「食え」

「え」

「食え」

 なんですかその意地悪な顔。
 まるで積年の恨みを晴らすかの如き笑顔!

「あの、お茶……」

「時間がねぇ」

「でも、そっちのが美味しい……」

「ゆっくり飲む時間を潰したのは管理者様だからな」

 いやん! この子聞く耳持ってくれない!
 助けてぇ! 魔力が暴走しないよう調節してるから動けないの! 誰か止めて、お茶をもってきてぇ!
 ダメならせめて紅茶葉クッキーに加工してぇ!?

「仕方ないですね。時間ないですもんね」

「仕方ないわねぇ、時間ないものねぇ?」

「仕方ないな。時間ないもんな」

 いやぁぁぁ! 味方がいない!?

「や、やめ、やめムゴォォォォオオ!?」

 結局、私は口一杯に紅茶の良い香りと、舌を麻痺させんばかりのカテキンを放り込まれたのでありました。
 ううん、やはり直接は渋ぅい。




    ◆  ◆  ◆




「と、止まった……?」

 世界樹の脈動は、止まっていました。
 枝に巡って、留まり、葉に変わるよう動いていた魔力の流れは、最初に感じた時と同様に、大地に循環する流れになっています。
 つまりそれは、世界樹が今一度眠りについたという事であり……復活はならず、という結果に終わったということでもあります。

「ふぉぉぉぉ……! ゴンさんの魔力しゅごいぃぃぃ!」

 それはそれとして、私はとてつもない快楽に見舞われているのですが!
 大好きなあの方と一つになったかのようなこの悦楽! まさしく愛!
 こんな魔力、ダメになっちゃうぅぅぅ!

「んふふ、どうやらネグちゃんの思惑通りって方向は無理そうね?」

「……えぇ、痛感いたしました。管理者さんをもってしても復活が無理ならば、諦めざるをえませんね」

 向こうでなんか大人の話してるけど、私はそんなこと気にする余裕もありません!
 あぁ! ゴンさんの魔力さん、そこはいけません! そこに流れ込んではっハァァァア!

「……俺の部下が飲んだ時と、全然効能違うじゃねぇかよぉ」

「はぁぁぁん! つついちゃらめぇぇぇえ!?」

 二の腕今敏感なのぉぉぉおお!

「ま、ひとまずこれでサイシャリィの混乱は終わりよね?」

「……そう、ですね。部下に伝令として走らせます」

「よろしくねん? 私は他に不備がないか魔力の流れをチェックしてるわぁ」

 あ、あれ、えっちゃん? 女王様?
 私、これ、動けない……

「じゃあ、俺は騎士達の様子見てくるか」

 デノンさん!?
 お、置いてかないで……っへぇん!?

「「「は~ぁ、疲れた」」」

「あひゃあああっ、待っへぇぇぇえ!?」

 私の情けない声は、そこから一時間程サイシャリィに響いていたそうです。
 女王様には、女性の尊厳崩壊的な意味で、これを罰とし、不問にして許してくれました。……でも、私の乙女的メンタルはズタボロです……!
 とまぁ、こんなオチで、世界樹暴走事件は、幕を下ろしたのでありました~。
 
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