59 / 266
お茶会よりも戦闘を
お茶会終了のお知らせ
しおりを挟む死を司る狂戦士と化した姫様。
その効果は絶大で、お茶会の雰囲気はもう恐怖と絶望に染まりきっている。
ゆっくり紅茶を飲む暇もない。
周りに控える従者達でさえスゥ様の殺気に当てられて膠着状態。
正確には誰が姫様を止めるか目線だけで譲り合っているようだ。
それを担当するのは可哀想。
結局は俺が原因みたいなものだし、仕方がない止めましょう。
ずっと加工令嬢達に王族特有かそれとも本人の資質か分からぬ威圧を振り撒くスゥ様の肩をポンと叩く。
俺はまだこの程度の威圧なら全然平気。
平然と近づいて行った俺に驚きの表情でみんなが見ていた。
「スゥ様、私の為に怒って頂きありがとうございます。ですが、もう怒りをお納め下さい。私は全く気にしていませんので‥。」
「ですが、この者達は聖女様に大変無礼な振る舞いをしていたのです。決して許して良い行ないではございません。」
振り向く顔は狂気を潜めて泣きそうな顔になっている。
俺の為に怒ってくれている、ありがとう。
でも、もう十分。
「確かに初対面の人に対しての対応としては良いとは言えません。ですが、彼女達は彼女達なりに姫様のことを想い忠言をいたしたのでしょう。私が聖女であっても平民だったことも事実です。心配をされていたのだと思います。ですよね?」
俺は加工令嬢と取り巻き達に視線を送る。
彼女達は必死でこくこくと頷く。
実際はどういう気持ちだったかは知らないけど、防衛本能は高いようだね。
「ですから、スゥ様今回はもうこれぐらいで許してあげて下さいな。彼女達もこの件でしっかりと反省するでしょうから。」
ニコニコ笑う俺、じっと見つめる姫様。
流れている時間も今だけは止まる。
呆れるように小さなため息が吐かれる。
「はぁ、分かりました、おねえ‥聖女様がそこまで仰るなら本日はこれでお咎め無しと致します。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「もう聖女様が感謝する事では無いでしょう。こほん、お前達、聖女様の御寛大なお心に感謝致しなさい。今後もし同様に不敬な態度で接するようであれば、その顔と胴体が離れると思いなさい。」
ずっとガチガチと震わし、それでも懸命に頭を縦に振り同意を示す。
この子達も多少の偏見はあれどもある意味被害者だよ。
大方あの珍獣に上手く唆されて来たんだろうから。
だから、これは俺からの慈悲。
額の証を一気に輝かせて、お茶会の会場全体に届くように光の粒が振り撒かれていく。
最近、治療中に患者さん達から聞いた新事実。
この温かい光の粒子は、怪我や病気を治すだけでなく心に安らぎや癒しを与えてくれているらしい。
本当かどうかは定かでは無いけど、もう精神ボロボロのこの子達と従者達を少しでも癒せればいいな。
あと、姫様の切れた血管の治療も込みで。
突如として顕現した光の流星群、美しい幻想的な光景にみんな心を奪われて目が離せない様子。
「‥‥‥‥もうお姉様ったらお優し過ぎです。」
ボソッと何か呟くスゥ様。
きょとんとした顔で見るもふいっと逸らされてしまった。
あれ、俺なんか嫌われることした?
と、とりあえずいつまでもぐるぐる巻き娘をテーブルに固定させたままは不憫。
フォークを外そうと近づく俺に少しビクッと震えられる。それは傷つくよ。
見事に絡みついた髪を引っ張らないよう慎重に解いていく。
よし、解けた。このまま抜いてしまおう。
結構深々とテーブルに刺さったフォークをスポッと抜き取り、まだ寄れかかっている加工令嬢の手を取る。
立ち起こした拍子にばっちりと目が合ってしまった。
一応、安心させようと笑ったのに俯かれってしまった。
あれ全体的に嫌われてる?
聖女様は彼女の真っ赤になった耳たぶまでは気付かない。
こうして、騒動だらけのお茶会は終演を迎えた。
テーブルは叩きつけた所為で壊れているし、多少怯えの無くなった彼女達も暗い表情のまま。
こんな状況で続けられる訳がない。
他の人達も同意するようで姫様に手を引かれて退出する俺達を黙って見届けていく。
疲れた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる