退屈

ざしきあらし

文字の大きさ
3 / 4

3

しおりを挟む
「尺之助、無事か?」
「ああ、何とか。」
 尺之助と合流したころには、将生の目はすっかり暗闇に慣れていた。
「どこなんだ?ここは。」
 辺りを改めて見渡すと、ここがおかしな空間であることを強く実感することとなった。
 天井はなく、ただ曇天の夜空のようなものが広がっている。そしてひと際異様なのは、空を見上げる過程で視界に入る、背の高い謎の物体である。一見ビルのような印象を受けるその物体には、窓も突起もない。のっぺりとした外観は黒く塗られ、その黒が、光沢を持ち、ぬらりと光っている。まるで生き物の様である。そしてさらに異様なのが、その高層物体が、いくつも地面から生えていることである。空を見上げると、高層物体は視界の三割を占めるほど、この空間にいくつも生えている。まるで都心のような光景である。
「遠野リゾートのサプライズかと思って歩き回ったんだけど、これ、違うよな。やばいよ。怖いよ。帰ろうぜ。」
「いや、面白そうだから、探検するわ。」
「はあ?」
 この時、将生は大興奮の真っただ中にいた。ここは、どう見ても異世界のそれである。念願の異世界である。
 ふと、昨日までの退屈な日常が再生される。いつも通りの仕事。いつもの電車。いつもの路線。いつもの景色。もう、うんざりだった。
 どうせ、生還する。であれば、もう少し楽しんでもいいじゃないかと、足を一歩前に踏み出す。
「おいおいおい。本気か?ここがどこなのかわかった上での選択なのかそれ。だとしたらまともじゃないぜ?なあ。」
「帰りたいなら一人で帰れよ。俺はこの瞬間を待ってたんだ。」
「一人⁉冗談じゃねえよ。分かった。お前の邪魔しないからさ、勝手に探索していいからさ。とりあえず俺を出口まで送ろ?な?」
 尺之助は、喚きながら、将生の掴んで、出口の方面へ引っ張る。
「うるせえなあ。ここまで一人でこれたんだから帰れるって。離せよ手を。」
「ああ?なんだと?帰るだけだろ?来いよ!」
「離せって!うるせえな!」
『ちゃぽん』
 言い合いが始まってすぐ、どこかで何かが落ちる音がした。
「は?」
 あまりにも不自然な音だったので、二人は硬直する。
 二人の周りに水はない。音のしたほうに視線を伸ばすと、そこには高層物体があるだけである。
 雨かと思い、空を見上げる。そこには、雲も星もない。灰色で、月が隠れた冬の空のように明るい、不気味な空間が広がるだけである。
 突然、バシャバシャと音がし始めた。何かが泳いでいる様な、そんな音。
 尺之助は、あることに瞬時に気づく。
「おい。近づいてきてないか。」
 水音はたしかに、黒い大きな物体の向こうから、こちらに近づいてきている。
 一瞬の沈黙の後、
「逃げるぞ。」
 言葉と同時に走り出す将生。少し遅れて走り出す尺之助。
 大きな物体が、いくつも並ぶ異様な空間を、全速力で駆け抜ける二人。風を切る音の中に、バシャバシャという音は、確かに混ざっている。完全に追いかけられている。
「おい!なんなんだよこれ!なんだよあれ!」
「知らねえよ!とにかく逃げるんだよ!」
 水音は、二人の近くを、まるで一定の距離を保ちながら泳いでいるようである。
「音変わんなくねえか?一緒の音じゃねえか?」
「遊ばれてんだよ。早く出口行くぞ!」
「将生、お前あれが何か知ってんのか⁉」
「黙って走れよ!」
 何か知っているような将生に対して、イラつきながら、加速する尺之助。水音は少し距離を詰めてきた。
「あ!出口!」
 尺之助が出口を指さした時、水音は耳元で聞こえ始めていた。
「あああ!やばいやばい!」
 水音はすでに四方八方から聞こえてきている。
 得体のしれない恐怖がピークに達した時、二人はラストスパートをかけ、出口に滑り込む。
 出口の先は、旅館の廊下だった。
 チェックアウトするために二人はロビーに向かう。
 終始、無言だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...