退屈

ざしきあらし

文字の大きさ
2 / 4

2

しおりを挟む
 有休がとれた。
 将生と尺之助は、とある温泉地の旅館に来ている。温泉地には、各所に、赤い提灯がぶら下がっており、和風の異世界を彷彿とさせる景色だ。暗がりに赤い光、光が照らす湯気などは、異世界らしさを掻き立てている。
「ここがそうなの?」
「うん。ここがそう。」
 二人が確認した旅館は、とても新しい感じがする。外観がとてもきれいで、いかにも新築というような感じだ。
「やけに新しいけど、なんなの?火事でもあって焼けて新築したの?」
「いや、ただ新しいだけ。先月オープン。」
「あー、この土地はもともとお墓でしたーみたいな。」
「いや、知らんけどそんなことないと思うよ。だって遠野リゾートだし。」
 この旅館は先月オープンした、有名リゾートチェーン、「遠野リゾート」の施設である。
「はあ。」
「オカ板見過ぎだって。中入ろうぜ。」
 この施設のテーマは「異世界」。確かに内装は、どこか浮世離れしている和風の空間だった。温泉地の景色とマッチしていてとても良い。
 赤と黒を基調にしたロビーは、一階から四階まで吹き抜けになっており、ところどころを、黄色いライトがぼんやりてらしている。温泉の湯気だろうか、スモークだろうか。少し煙たい印象を受けるが、それもまた、異世界らしさを醸し出している。
 和服に獣の耳、尻尾を生やしたコスプレイヤーが撮影をしている。撮影をせず、ただ歩いているだけであれば、雰囲気がぐっとアップするであろうが、しっかりとした機材を持つカメラマンが、一緒にいるとなると、アップどころかマイナスである。
「異世界みたいだな。」
 にこやかに告げる尺之助に対し、コスプレイヤーとカメラマンを見た後の将生は、
「どこがだよ。」
 と、冷たく言い放つ。これには流石の尺之助も、たまらずしょんぼりする。
 二人は無言で部屋に向かう。長い廊下は、本当に異世界のようである。幾何学模様の格子のある壁は、ライトアップされ、きれいに輝き、足の下には、スモークがたかれ、どこからか甘いにおいや、スパイシーなにおいが漂ってくる。廊下の先には扉があり、それが自動で開くと、その向こうはエレベーターであった。
「おお。扉が開くまで異世界だったな。」
「すげーな。」
 つい将生も、驚く程のクオリティである。
 エレベーターに乗り込み、ボタンを押すと、扉が閉まり、上昇し始める。エレベーターは、扉の向かい側がガラス張りになっており、上昇とともに旅館内の景色が見えてくる。
「おお。」
 感動し、それが声に出る将生。
「さすが遠野。ひねくれものの心を溶かすとは。」
 将生を茶化す尺之助。
「よせやい。」
「何がだよ。」
 ピンポン、と音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
 スタッフが待っており、部屋へ案内をする。案内された部屋はなかなか豪華であった。
 スタッフが去ると、尺之助が言う。
「流石の部屋ですね。」
「高かったもんなー。」
 一般的なサラリーマンにとっては、少々お高めの料金であったが、たまには良いよなと、口をそろえて笑う。
 風呂へ行くことにした二人。旅館といえば何といっても風呂がメインである。
 浴場に到着すると、そこはとても開放的な空間であった。立ち上る湯気は、相変わらず、ライトに照らされ、おぼろげに辺りを照らし続けている。
 硫黄の香りと、香辛料の様なにおいが立ち込める。このにおいもまた、この施設を異世界らしくする重要な要素なのだろうと、将生は推測する。
 湯船に浸かりながら、談笑する。これもまた、旅行の醍醐味である。
 一通り、談笑と、景色と、温泉を堪能して湯から上がる。
 いい湯だったと、何度も繰り返しながら、部屋に戻る。部屋では、浴場での会話の続きをしようと歩きながら言う二人。しかし、仲のいい二人は、部屋への帰路でも、会話が白熱する。
「だから、行けないんだよきさらぎ駅。何度やっても。この前は行けると思っちゃったけどさ。そもそも存在しないんだって。」
「いやいや、存在はするって。」
「毎日、電車に乗ってる俺が行ったことないんだぜ?いい感じにくたびれててさ。」
「電車で寝た?」
「寝たら着くのは、きさらぎ駅じゃなくて、終点。」
「あははは。そんなんだからいけないんだよ。」
 そんな会話をしながら、二人は部屋につく。ついたのだが、白熱した会話に区切りがつかず、話し込んでしまう。
 ふと、湯冷めによる寒気を感じた尺之助は、部屋の扉に手をかける。それがきっかけで会話に区切りがつく。
 尺之助が扉を開ける。すると、部屋の中から、風が吹いてきた。まるで、室内から屋外に出たような、そんな風がふく。
「ん?」
 尺之助は、疑問に思う。廊下と部屋との気圧の差で、空気が動くのはよくあることであるが、今回は様子が違う。風が何度も吹くのである。
 電気をつけていない部屋は、扉の向こうで、黒く口を開けている。風が吹くたびに、ゴーと音が鳴るさまは、広大な空間が広がっているようようである。
 とりあえず電気をつけようと壁に手を伸ばす。するとそこには、壁がない。
「おっと。」
 スイッチを押そうと体重をかけた尺之助は、そこに壁がなかったために、倒れこんでしまいそうになりながら、扉の向こうに吸い込まれる。
「おい。大丈夫かよ。」
 倒れこむように入っていった尺之助を心配して、声をかける将生は、部屋の外から声をかけるが、部屋の向こうにいるはずの尺之助の返事はない。将生は、壁がなかったことを知らないため、何が起こったのか理解できていない。
「おいおい。大丈夫か。」
 返事がないのを心配して、急いで将生も部屋に入る。
 そこには、おかしな空間が広がっていた。
「は?なんだよここ。」
 部屋にしては広大すぎる、謎の空間を歩きながら、尺之助を探す。
「おーい、将生」
 遠くから、尺之助が呼んでいる。そこまでこの部屋は広くないはずなのに、尺之助はいったいどこから呼んでいるのだろう。ここはいったいどこなのだろう。
 理解が追い付かない将生は、混乱しながら声のする方へ歩く。目はまだ、暗がりに慣れていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...