転生先は乙女ゲーム?

niko

文字の大きさ
13 / 18

友達  -オリオン-

しおりを挟む
 
 
 ありえないありえないありえない!なんなんだ、あの女!




 俺の父はこの国の宰相だ。幼い頃の記憶などほとんど残ってないけど、俺にとって忘れられない出来事がある。

 父が影響力のある人物だからか、家には手紙や贈り物がよく届き、気に入られようと近寄ってくる大人達がたくさんいた。父や母からは絶対にもらってはダメだと言い聞かされていた。

 だけど、当時の俺は皆父を慕い敬っているものと信じていたし、流行のペンや読みたかった本など「お父さんには内緒だよ」なんて言うからこっそりもらっては、「お父さんの好きなものは?」など簡単な質問に答えていた。
 どんなに勉強をサボろうと、どんなタチの悪い悪戯をしても手だけは上げなかった父が、それを知って、初めて俺を殴った。
 訳が分からなかった。くれると言うものをもらっただけだ。


 だがそれは違った。よくきていたあのジジイが父や俺の噂を広めたんだ。“人に物をねだる意地汚い子供。あの宰相は子供の教育もろくにできない。あんなのに王の補佐など務まらない。”父の真面目さのおかげか噂は大したことにはならなかった。だが、俺は腹が立って仕方なかった。自分に。

 あいつらは笑顔で近寄ってきて父や母や俺のことを褒め称えながら、心の中では馬鹿にしてたんだ。いつでも引き摺り下ろそうと手を伸ばしてる。

 俺は利用されたんだ。俺が馬鹿で無知だったから。父も噂が流れたことに怒ったんじゃない。俺が言うことを聞かず、利用され情報を渡したことに怒ったんだ。「情報は金と同じ価値がある」これは父の口癖だ。だがそれ以上に、情報は力だ。俺は誰よりも早く情報を手に入れて、誰よりも狡猾になってやる。もう絶対に騙されたりしない。
 俺は、利用する側の人間だ。



 そのすぐ後にフィルを紹介された。初めてあいつを見た時に“こいつも俺と同じだ”と感じた。誰も信用してない目。いや、俺よりはマシか?


 そう思ったのは間違いだった。フィルの方がひどかった。そもそも、あいつと俺は根本が違っていたんだ。俺は利用しようとするヤツに怒りを覚える。だけどあいつは自分以外が利用されることに恐怖を感じている。

 あいつはいつかの乳母のことを「本当に私のためだと信じていたのかもね」なんて甘い事言ってるけど、絶対に違うね。その女は、フィルを孤立させて、自分しか頼れない状況を作りたかっただけだ。
 フィルが何かしたわけでもないし、責任を感じる必要なんて全くないと思う。悪いのは全部甘い汁を吸おうと近寄ってくる人間達だ。


 最初は何かと有利になると思って近づいた。だけど、あいつの心は頑なで、全然仲良くなんてなれなかった。でもあいつが良いヤツだと分かってから、関係は徐々に変わっていった。お互いに肩の力を抜いて愚痴を言い合えるほどで、今は誰よりも信頼できる友達だ。

 フィルはきっと良い王になると思う。だけど、今のままじゃダメだ。あいつは優しすぎる。いつか騙される。気づかれればそこを利用しようとする人間が絶対にいる・・・だが、俺がそうはさせない。

 フィルに近づく令嬢達もそうだ。俺にも同じように、頬を染めながら愛想を振りまいてくる。フィルが無理なら俺に靡くつもりか?知ってるぞ、自分より身分の低い、男爵令息に対しては態度が全く違うのをな。

 その男爵令息とは俺の従兄弟のアランドだ。アドは騎士見習いで、なかなか才能のあるヤツだ。だから俺と一緒に城に来ては、騎士の訓練を見学したり混ぜてもらったり、たまに俺の実験に付き合ってくれている。



 フィルのやつ、本当はうんざりしてるくせに、どの令嬢にも優しい。実験結果を伝えても「そうだろうね。」だって。わかってんじゃねーか!
 エルンダ嬢なんか用もないのに城に来ては、フィルにまとわりついてる。
「もう、鬱陶しいって言ってやれば?」
「そんなこと言ったら王族の品格を疑われるし、他の令嬢に何するか分からないだろう?」
はぁー!ほんと立派だよ。俺には到底真似できないね。



 最近フィルの様子がおかしい。いっつも眉間に皺寄せて重ーい足取りでお茶会に行くくせに、たまーに嬉しそうな日がある。周りから見たら何も変わってないように見えるかもしれないけど、俺にはわかる。るんるんだ。鼻歌でも歌い出すんじゃないかと目を疑うほどだ。あいつ・・・絶対になにか隠してる。
 だけどフィルは巧妙で、俺が文官の手伝いで忙しい時にるんるんお茶会を開いてやがる。おかげで相手が誰かわからない。

 そこで、アドに頼むことにした。アドは騎士の訓練に混ぜてもらうこともあるが、基本庭は出入り自由だ。たぶん。アイツ存在感ねーし。
 るんるんお茶会の相手はシエンナ・オッズレン公爵令嬢だと分かった。エルンダ嬢とは違う手法で近づいたな。
 たしか血が繋がってない弟がいたな。しかも庶民の出だったはず。うわぁ、絶対いじめてんな。こういう時はアドだ。馬車に向かう途中でわざとぶつかり自己紹介をさせる。男爵だとわかった途端、ぶつかられたことに苛立ちを覚えるはずだ。

 ・・・なのに、ヤツはボロを出さなかった。アドによると「今筋肉を鍛えすぎると、将来背が伸びにくくなるかもしれませんので気をつけてくださいね。」だと。
はぁー!?なんだそれ!?新手の嫌味か?遠回し過ぎて言ってる意味がわかんねーよ!

 それから会える機会がないまま時が過ぎた頃、アドのやつが鍛えるのを控えて「あの子、いい子。」なんて言い出しやがった!何回か会ううちに手懐けられてしまったらしい。



 その日は突然きた。オッズレン公爵令嬢が随分と早く到着したとの情報を得て、慌てて上司の文官に体調不良で抜けさせてもらった。フィルはまだ政務の勉強の時間のはずだ。やっとだ、やっと会える。フィルとアドを手懐けた油断ならない相手だが、俺は騙されない。俺が本性を暴いてやる。



~*~*~*~*~*~*~*~*~



 ありえない!!
フィルが心を許してる??
ありえない!いくらなんでも早過ぎる。あいつのしかめっ面を引っ張り出すのに何年かかったと思ってるんだ!

 確かに見た目は妖精みたいに可愛かった。思い出す時に上を向く仕草も可愛かった。プラチナブロンドがキラキラ波打って、空色の瞳とピンクのドレスの相性が良く、肌の白さが・・・って違ーう!!!
見た目か?見た目なのかフィル!?


 いやいや、落ち着け、俺。あんなのは演技だ。純粋そうに見えるようにしてるだけだ。
 シエンナ・オッズレン!絶対に化けの皮を剥いでやるからな!




----------------------------------

フィラード殿下の年齢を修正しました。すいません。

【現在】
シエンナ   10歳
アル       9歳
フィラード  12歳
オリオン   12歳
アランド   11歳
エルンダ   10歳
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

義兄様と庭の秘密

結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。

処理中です...