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罰ゲーム
しおりを挟む「へぇ・・・、やるね。」
「でしょう?」
2戦して1勝1敗。いい勝負だ。これなら・・・
「フィラード様。次からバツ・・・ではなくて、えっと、負けた側に簡単な試練を与えるのはどうでしょう?」
あぶないあぶない。殿下に罰ゲームなんて言ったら不敬罪に当たってしまうところだったわ。この国での罰という言葉は割と重いのよね。
「ふむ、おもしろそうだ。で?簡単な試練って?最初はシエンナが決めるといいよ。」
「ではこの勝負に負けたら、次のゲームが終わるまで、語尾に“わん”とつけなければいけないことにしましょう。」
「わ、わん。だと?」
フィラード様の顔が引き攣っている。だ、大丈夫?不敬罪に当たらない?
王族相手でも罪にならない程度で、やりたくないことを必死で考えた結果がこのバツだった。前の世界ではしょーもないバツだったかもしれないけれど、この世界では身分の違いという大きなフリがあって、遊びでもなければ王族に恥をかかせるようなことは一生できないだろうから。一か八かで言ってみたけど、どうかな?一度は聞いてみたかったのよね、王族の“わん”
フィラード様と目が合うと、ニヤリと笑った。
え、怖い。
「いいよ。じゃあ私が負けたら“わん”。シエンナが負けたら“にゃん”にしよう。なんだったら“ブー”でもいいよ。」
なんですと!?
フィラード様はすっごい良い笑顔だ。むかつくー!絶対絶対負けないわ!!
ギ、ギリギリ過ぎる。この勝負、私の勝ちよ。
フィラード様があの一手をミスしてくれたおかげでギリギリ勝てた。あれがなかったら完璧に負けてたわ。
「私の負けだわん。」
「・・・ぶふっ!!あははは!」
「笑いすぎだ!早く次をやるわん。」
まさか自分から喋り出すとは思わないじゃない!
「あはははフィラード様かわいいですよ。くふふふふ。」
「次は絶対に負けないわん。」
フィラード様が悔しそうに睨んでくるけど、口調が可愛すぎてちっとも怖くない。
それに、「あー!今ついてませんでしたよ!」とツッコんでみたかったのに、フィラード様の真面目な性格からか、一度も“わん”を言い忘れたりしないし、喋らないという選択肢を選ばないのはさすがだ。おかげで私は笑いが止まらなくなってしまった。
そして・・・負けた。。
「涙が出るほど私を笑うからだよ。さぁ、“にゃん”と“ブー”どちらにする?」
「にゃんにするにゃん。。」
「あははは!似合っているよ?今後もそれでいいんじゃないかな?」
くぅ!
「ふふ、ほらお菓子食べなよ。君の好きなものばかりだろう?最近はどう?ダンスはできるようになった?」
「もう!そんな話より次の試合やるにゃん!」
「久しぶりなんだから、話をしようよ。ふふふ」
「にゃんがとれないにゃん!」
フィラード様がずっと話しかけてきて、なかなかゲームをさせてくれず、逆に「シエンナ忘れちゃダメだよ。」と指摘されてしまった。くぅーくやしい!
~*~*~*~*~*~*~
あははは
「「!?」」
今のは・・・殿下?
王妃様と目が合う。王妃様が間抜けな顔をしているわ。でもきっと私も同じ顔をしてるはず。2人でバルコニーに出て不作法に下を覗き込む。
そこにはシィと殿下が楽しそうにボードゲームをしている姿があった。
「あの子の笑い声を聞いたのは何年ぶりかしら。」
王妃様がぽつりと呟く。
「私も初めて聞きましたわ。」
シィ、家ではいいけれど外ではしないように言わなかったかしら?でも、声を出して笑う殿下を見てしまっては怒れないわね。
「ここに準備して。あの子達の声を聞きながらお茶しましょ。」
何を喋っているかまではわからないけれど、楽しそうなのは伝わってきて、私達も思わず顔が綻ぶ。
「シィちゃんは不思議な子ね。」
「いいえ、普通の子ですわ。」
「そうかしら?なんだか変わった魅力があるのよねー。フィルがあんなに気を許すなんて、オリーが見たら拗ねちゃうわね。・・・私、あの子は子供らしさなんてもう捨ててしまったのだと思ってたわ。」
「責任感の強いお方ですものね。」
「強過ぎるのよ!無駄に。」
「ふふ、子供達がはしゃいでいる声を聞きながら飲むお茶は美味しいですね。」
「はぁー本当!たまんないわ!陛下をここに呼びたいぐらいだわ。」
「驚かれますかね?」
「泣くんじゃないの?」
「まぁ!ふふふ、ここにいないのが残念ですわね。」
~*~*~*~*~*~*~
「時間的に次が最後かな。」
「そうですね。」
うぅ苦い。負けた私は侍女が淹れた渋ーいお茶を飲まされたところだ。まぁ私が提案したんだけど。。
最後か、なににしようかな?
「ねぇシエンナ。私が勝ったら、私の婚約者になりなよ。」
「え!?」
頬杖をついて爽やかな笑顔でなんて怖い事を言うのだろう。
「婚約者候補なんだ、別におかしなことじゃないだろう?」
「わ、私が勝ったら?」
「そうだね、シエンナに好きな人ができたら婚約できるよう全力で後押ししてあげるよ。」
ぜ、全力で王族が後押しって怖いんですけど。。
「それとも、私がシエンナ以外の令嬢と婚約してもいいよ?」
それは・・・いいかもしれない。
私が殿下の婚約者じゃなければ悪役令嬢かも、という恐怖から逃れられるかもしれない。それに、もし私が負けたとしても・・・
「あの、フィラード様が勝ってもお父様が反対するかもしれません。」
「そうなったら、しょうがないね。」
え?いいの?
「これはシエンナと私の勝負だ。オッズレン公爵がどう対応するかなんてゲームで決められないからね。」
ノーリスクハイリターン
怪しい・・・紫色の宝石のような瞳を覗き込んで見てもなにを考えているのか全くわからない。
「やりましょう。」
最後の勝負のフィラード様は強かった。一部の隙もない程の圧勝だった。
「私の勝ちだね。」
「はい・・・。あのー、もしかして、今まで私に合わせて手を抜いてました?」
「楽しかったよ。」
やられた!同じぐらいの強さだと思ったのに!まさか、この勝負をするためにわざと罰ゲームを受けたの!?
「妃教育はすぐに始まると思うから忙しくなるね。」
「フィラード様。まだ婚約者になると決まったわけではありませんわ。」
ふん、ここからはお父様に頑張ってもらわなくちゃ。
「あぁ、言ってなかったかな?オッズレン公爵には、シエンナから了承を得られれば婚約を許可すると言質をとってあるよ。」
「・・・・・え?」
え?
「えええええええええええ!?」
淑女らしからぬ大声をだしてしまったけど、それどころではない。
「だ、だ、騙したんですか!?だ、だって!しょうがないって!」
「彼はシエンナを溺愛してるからね、やっぱあれはなし!って言い出してもおかしくない。しょうがない人だよね。」
しょうがないってそういう・・・言質をとられた上に王族との約束を反故にできるとは思えない。
じぃっと見つめられ思わず背筋が伸びる。
「いくら公爵でも王族からの打診を簡単に断れると思う?彼は君が婚約者になりたくないのを知っていたからね。シエンナが了承するはずないと思ってこの条件を出してきたんだ。陛下に王都に留まるように言われても、領地に戻る!と、わがままをいうぐらいだしね。ほんといい性格してるよ。」
「フィラード様に言われたくないと思います。」
思わずジト目で睨んでしまう。だって、私が「お父様なら絶対に反対してくれるはず!」と油断して必ず勝負に乗ってくると読んだはず。ほんといい性格してる。
「まさかシエンナ本人が私に武器を持ってきてくれるとは思わなかったけどね。」
「武器?」
「だって公爵令嬢がボードゲームで賭けをするなんて普通思わないだろう?使えるものは使わないと。」
ぐっ淑女らしからぬ行動なのは認めるわ。
フィラード様の手が伸びてきて私の顎をつぅっとなぞると体がびくりと反応し、無意識に目が合う。
「この勝負は私の勝ちだ。」
ゾクリ
お父様。この人は勝負しちゃいけない人だったみたい。
一部で、今の王太子殿下は優しすぎる。王として相応しくないのではないか。気が弱い王では他国に舐められる。大臣達の傀儡になるだろう。なんて噂があるのは知ってる。
とんでもない。
そう思わされた時点でもう彼の掌の中だ。婚約で済んでよかったのかもしれない。
「あっそうそう、貿易の話や他国の話は外でしちゃダメだよ?作物の話は公爵に話すといい。役に立つと思うよ?」
「え?だってその話をしたのは今日じゃな・・・え?」
「ふふ、負ける気なかったから。」
「で、でも!もう私が外で話してるかもしれませんよ?」
「話していいかどうかわからない話を君はしないだろう?」
もーこの人やだー!
私の態度を気にしていたあの可愛いフィラード様はどこに行ってしまわれたのでしょうか。
遠い目をしていると、フィラード様が立ち上がったので同じように立ち上がると、そっと手を取られキスをされた。
「じゃあシーナまたね。」
あぁ、陛下、王妃様。
あなた達の息子は立派な為政者となることでしょう。
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