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第1章
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しおりを挟む「こんなもの要らなかったっ!私が、私が、欲しいのは……」
ルネの心を現すように鏡が音を立てて割れ、破片が辺りに散らばった。
俯くルネの視界に破片が1つ滑り込む。
「……っ」
そこにまた自分の白い髪が映って、ルネは咄嗟にその破片を掴み、次の瞬間には破片の切っ先を、一束掴んだ自分の長い髪に当てて一気に切り裂いた。カーペットの上に白い髪が流れ落ちる。
「ぁ…うぅ…っ…」
もう終わらせたいと思った。この地獄から抜け出せるなら、なんでもするとさえ思った。
(お義母様たちの為なんかじゃない。私の意志で、こんな証、直ぐに捨てることが出来たら……)
ルネは、先程まで髪を切り裂いていた鏡の破片を両手で握り直し、ゆっくりを顔を上げる。
部屋には倒れた鏡と、その破片が散らばり、その中心で神に祈るが如く天を仰いでいる少女が一人。だがその手に握られているのは、十字架などではなく、鋭く光る鏡の欠片である。欠片を震えながら掴む手のひらからは、血が滲んでいた。
「はっ……っ……はぁっ……っ!」
(こんなもの、無くなってしまえばいいんだ)
やるなら一思いに。そう思ってルネは自分の眼球に切っ先を向ける鏡の破片から目を逸らさなかった。
手の震えを無視して、ルネは大きく息を吸い込んだ。
「もうこれで、終わりにするのよ」
ふっと腕を重力に任せて下ろした。
――――――。
直ぐに痛みが襲ってくると思った。でも、いつまで経っても何も襲ってこない。何かが、自分の手首を掴んでいる。
目の前で鏡の破片を震えながら強く握る自分の手首を、猫の獣の手が必死に阻んでいる。
見覚えのあるその毛色。ルネは直ぐにそれが誰のものなのか分かった。
「…あ、ぅっ……み、か、える……さ……」
ミカエルだ。この1年間沢山外の世界のことを教えてくれた、紳士な三毛猫。
ルネが涙声で名を呼んでいる間も、ふたりの手は静かな攻防戦を続けていた。ルネの手が震えているせいで、ミカエルの手も震える。
ミカエルは表情にこそ表さなかったが、鋭く光る破片の切っ先がルネの瞳に落ちるのをなんとか必死で防いでいた。
(この細腕のどこにこんな力が)
「っ、やぁルネ。今夜も会えて嬉しいよ。ところで」
ミカエルは視線を掴んでいる手首からルネに移した。
「この物騒な凶器を離さないか?何をしようとしていたかは、まぁ大体察しがつくけれど、何より私は君の体が傷つくところは見たくない。ね、どうか私のささやかな願いを叶えてはくれないか、ルネ」
ミカエルは言いながら、ルネの腕を掴んでいない反対の手でゆっくりと彼女から鏡の破片を抜き取ろうとした。するとルネは怖気づいたように身を引いた。
「ルネ。大丈夫だ。私がいる。ルネ、さあ、ゆっくりでいいから」
ルネ、ともう一度ミカエルが名前を優しく呼ぶと、彼女の口が僅かに動いた。何かを伝えようとしている。
「?…ルネ、すまない、もう一度……」
「……て」
ミカエルはじっとルネを見つめた。ルネの青い両目から大粒の涙が溢れている。
「…助けて、ミカエル様……」
ミカエルは僅かに目を見開いて、ふっと笑った。
「もとよりそのつもりだ」
ミカエルは出来るだけルネの手を傷付けないように、未だ力強く握りしめられた鏡の破片をルネの手から抜き取りにかかった。ゆっくりとルネの手と破片の間に爪を滑り込ませ、徐々に彼女の手のひらと鏡の破片を引き離した。その間、ミカエルは優しく微笑みながら、一瞬たりともルネから目を逸らさなかった。
どれくらいの時間が経ったか、鏡の破片は静かにカーペットの上に落ちた。その瞬間、ルネは糸が切れたように倒れ、ミカエルは咄嗟に彼女の背中に腕を回して受け止めた。
「ルネ!」
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