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第2章
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ミカエルはルネの腰を抱いて、そのまま木の上に飛んだ。ルネは浮遊感に驚いてミカエルにしがみつく。降ろされたのは太い木の枝の上だ。優しく座らされ、ルネはミカエルの考えを読み取ろうと彼を見上げた。いつもは優しいペリドットの瞳が、厳しい色に変えられている。ミカエルは相変わらず村とは反対方向を見定めている。
先程ルネにも見えた2つの光は、段々とこちらに近づいてきていた。なんだかおぞましい輪郭も見え始めている。大きな熊のような形だ。
「み、ミカエル様、あれ…」
「熊…角のようなものも見えるな」
「なんて言う魔物ですか?」
「恐らくはホーンベアだ。2つの大きな角が特徴の熊のような魔物だが、あの腕は長く意外と攻撃範囲が広い。一旦ここに隠れていてくれ。あれは上の方が死角になっている。幹にしっかりつかまっているんだ。声を出してはいけないよ」
ミカエル様はルネの口元に触れる寸前まで手のひらをかざして、そう言った。自分の服を掴んでいたルネの手をやんわりと放すミカエル。ルネは不安に駆られて咄嗟に彼の手を握り返した。僅かに驚いた表情を見せるミカエルは、じっとルネの双眸を見つめ返した。
「ルネ。放してくれないと行けない」
「ごめんなさい、でもちょっと怖くて。ミカエル様が負けるなんて思っていません。ただ、少しだけ、落ち着くまででいいので…」
「…わかった」
魔物が迫ってきている。数秒間だけルネはミカエルの手を握っていた。その間ミカエルは幼子を落ち着かせるように、ずっとルネの背中をさすってくれていた。少しだけ落ち着きを取り戻したルネが離れると、ミカエルは彼女の様子をしばし観察して、一度頷いてから木の下に降りた。
魔物の濁った鳴き声がする。さっきよりも格段に近づいてきている。もう魔物の足音はルネの耳にも聞こえていた。ドシンドシンと大きな動物が歩いてくる音に似ている。が、ミカエルの前に現れたのは聞いていた通り、熊のような見た目をした大きな2つの角の生えた魔物だった。体の周りが黒い霧のようなもので覆われていて、言いようのないおぞましさが背を走る。ルネは自分の呼吸音が震えていることに気付いて、咄嗟に手で口元を押さえた。下を見ると、ミカエルが落ち着き払った様子で、その魔物と対峙しているのが見える。その様子から、彼にとってはこれが日常なんだと知った。
(私、本当に身のほど知らずだったんだわ。何も知らないであんなこと言って)
でもミカエルは一言も否定しなかった。分かっていたはずなのに、ルネの意見を尊重してくれていたんだと思うと、彼の優しさを改めて感じる。
一方のミカエルはルネの様子を気にしながらも、腰の鞄から武器を取り出す。ミカエルの武器は大きな鉤爪だった。自分の爪の補強の他、この武器をつけるとより深く相手に傷を付けられる。
(ルネはやはり思ったよりも怖がらなかったな。私と初めて会った時もそうだったが、その生い立ちからか普通の令嬢よりも恐怖を感じにくいのかもしれない)
ルネは僅かに震えていたが、それだけだった。悲鳴もあげず逃げ出そうともしなかった。
だがそれはこれからの生活において致命的だった。恐怖を感じれば、備えることが出来る。それが出来ないということは、命の危険すらあるのだ。ミカエルは彼女を守るという決意を、この時一層固めたのだった。
(私がその分、気を付けていればいいだけだ)
先程ルネにも見えた2つの光は、段々とこちらに近づいてきていた。なんだかおぞましい輪郭も見え始めている。大きな熊のような形だ。
「み、ミカエル様、あれ…」
「熊…角のようなものも見えるな」
「なんて言う魔物ですか?」
「恐らくはホーンベアだ。2つの大きな角が特徴の熊のような魔物だが、あの腕は長く意外と攻撃範囲が広い。一旦ここに隠れていてくれ。あれは上の方が死角になっている。幹にしっかりつかまっているんだ。声を出してはいけないよ」
ミカエル様はルネの口元に触れる寸前まで手のひらをかざして、そう言った。自分の服を掴んでいたルネの手をやんわりと放すミカエル。ルネは不安に駆られて咄嗟に彼の手を握り返した。僅かに驚いた表情を見せるミカエルは、じっとルネの双眸を見つめ返した。
「ルネ。放してくれないと行けない」
「ごめんなさい、でもちょっと怖くて。ミカエル様が負けるなんて思っていません。ただ、少しだけ、落ち着くまででいいので…」
「…わかった」
魔物が迫ってきている。数秒間だけルネはミカエルの手を握っていた。その間ミカエルは幼子を落ち着かせるように、ずっとルネの背中をさすってくれていた。少しだけ落ち着きを取り戻したルネが離れると、ミカエルは彼女の様子をしばし観察して、一度頷いてから木の下に降りた。
魔物の濁った鳴き声がする。さっきよりも格段に近づいてきている。もう魔物の足音はルネの耳にも聞こえていた。ドシンドシンと大きな動物が歩いてくる音に似ている。が、ミカエルの前に現れたのは聞いていた通り、熊のような見た目をした大きな2つの角の生えた魔物だった。体の周りが黒い霧のようなもので覆われていて、言いようのないおぞましさが背を走る。ルネは自分の呼吸音が震えていることに気付いて、咄嗟に手で口元を押さえた。下を見ると、ミカエルが落ち着き払った様子で、その魔物と対峙しているのが見える。その様子から、彼にとってはこれが日常なんだと知った。
(私、本当に身のほど知らずだったんだわ。何も知らないであんなこと言って)
でもミカエルは一言も否定しなかった。分かっていたはずなのに、ルネの意見を尊重してくれていたんだと思うと、彼の優しさを改めて感じる。
一方のミカエルはルネの様子を気にしながらも、腰の鞄から武器を取り出す。ミカエルの武器は大きな鉤爪だった。自分の爪の補強の他、この武器をつけるとより深く相手に傷を付けられる。
(ルネはやはり思ったよりも怖がらなかったな。私と初めて会った時もそうだったが、その生い立ちからか普通の令嬢よりも恐怖を感じにくいのかもしれない)
ルネは僅かに震えていたが、それだけだった。悲鳴もあげず逃げ出そうともしなかった。
だがそれはこれからの生活において致命的だった。恐怖を感じれば、備えることが出来る。それが出来ないということは、命の危険すらあるのだ。ミカエルは彼女を守るという決意を、この時一層固めたのだった。
(私がその分、気を付けていればいいだけだ)
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