三毛猫、公爵令嬢を拾う。

蒼依月

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第2章

2-21

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 翌日、ルネはミカエルと再び森に繰り出していた。昨日と同じ道を辿り、件の場所に着く。

「ミカエル様、何故またここに?」
「ホーンベアは仲間意識が強いんだ。ここに来れば何かしらの手がかりがつかめると思ってね。昨日この場所で自分たちの仲間が殺されたと知って、夜に村の近くまでこちらの様子を見に来ていた」
「え?嘘…」
「嘘ではない。だが様子を見に来ただけで、直接手を出してこなかった。」
「そ、そうなのですね。良かった…」

 ミカエルの話はルネにとって宝箱だ。全て知らないことばかりで、何より実際にこの目で見て確認し、肌で感じることが出来る。それは家にいた頃には考えられなかったことだ。
 ルネは一通り辺りを見回し、ミカエルを振り返る。

「ミカエル様、では今日はそのホーンベア達の住処に行くのですか?」
「行ければいいが、その前に場所をつき止めねばならない。それに先に向こうからくる場合もある。今日だけで終わるかどうか、だがどちらにせよいつかは向こうからやってくるだろうな」
「仕返しに来るということですね」
「そうだ。ルネ、君は優秀だな」
「え?ち、違います。ミカエル様の教え方が上手だからですわ」
 
 ルネの頬が紅潮する。ミカエルはふっと笑みを見せた。

「行こう。足跡や爪痕を追っていけば、そのうち会えるはずだ」
「はい」

 ルネは差し出されたミカエルの手を取った。


□□□□□□□□


「何故だ!」

 ネイティア家の当主、ルーカスは激昂していた。
 
「何故足取りひとつ掴めない!?」

 一人娘にして跡取りのルネが前に誘拐されてから、約ひと月経つ。だが彼女を見かけたという証言どころか、逃走経路も魔法行使の形跡も見つけられていなかった。

「このままでは駄目だ。初代の遺言が果たせなくなくなってしまう!それは駄目だ!」

 その時部屋の扉をノックする音がして、ルーカスはかけていたメガネを押し上げ取り繕う。

「なんだ」
「私です」

 クロースティの声だ。寝不足の頭にあの高い声はいやに響く。
 ルーカスが入るように言うと、赤いドレスを着たクロースティが入ってくる。

(何故娘が行方不明だというのに、あんなに派手なドレスが着れるんだ)

 ルーカスはため息混じりに訊ねた。

「なんだ、私は今忙しい」
「ルネのことですか?」
「そうだ。分かっているなら……」
「でも全く捜査が進んでいないんでしょう?」

 ルーカスはクロースティを睨み、唸るように訊ねる。

「何が言いたいんだ」
「この際、一時的にでもディストールを後継者に……」
「駄目だ!何度も言っただろう!お前の息子は後継者にはなれない!ルネは初代当主の生まれ変わりなんだ。あの子が産まれた時から、私の後継はルネと決まっている!」
「でも……」
「出ていけ!そんなことしか言えないのなら、部屋で大人しくしていろ!」

 クロースティは明らかに怒りの表情を見せ、黙って出ていった。
 ルーカスは倒れ込むように椅子に体を預ける。

「何処にいるんだ、ルネ……」

 果たしてそれは、親心からの言葉か、それとも───。
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