仮面を被った彼女は公爵邸でもう一度恋をする

ARIA

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1章

結婚前日

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私は酷い侍女だと思う。ラナ様に一生かかっても返せない恩がありながらラナ様が毎日夜中泣いているのを知らないフリしている。

「ルイ様…ルイ様」

ラナ様が泣いているのがあの頃の自分と重なって…逃げてるんだ

「シエル様…会いたいです」

シエル様といつか会えることを信じてやまなかった私

あの頃の私に戻りたくはなかった

だから目を逸らしていたけど

今日は結婚式の前日だから、無視するなんて侍女として…いや人とし許されない

扉をノックする
「ラナ様、紅茶をお入れ致しました」

「マリー、ちょっと待って」

「はい、ラナ様」

ラナ様はお嬢様とではなくラナ様と呼んで欲しいと仰った

それは私には嬉しかった。だって私はーーだから

「マリー、入って」

ラナの好きなカモミールティーを持ってマリーは部屋に入る

「どうぞ」

ラナ様は泣いていなかった。否もう既に涙を隠していた

「ラナ様、こういう時はすがりついて泣いていいんですよ」

「…」

「殿下から手紙でも来たのですか?」

「…ええ、来たわ」

「何て?」

「読んでいいわよ」

白い封筒を開けると王族の透かしも入っていない薄汚い紙が出てきた



「私分かってたわ、ルイ様は自分の気持ちすら犠牲にする方だって…でも悲しいの」

「ラナ様」

「でも、私も同じ判断をしたかもしれないわ…アーデクトの将軍を怒らせたくはないから」

「ラナ様

「私…私」

「ラナ様失礼します」

私はラナ様の近くに行きギュッと抱きしめる

「…嫌ですか?」

「このまま…いてお願い」

「わかりました」

「結婚式は明日よ」

「…」  

「私、ルイ様以外の妻となるの」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫、私は大丈夫よ」 

泣いている…?

「思い切り泣いてください。今日は」  

「泣いてない」

「私も…誰も見てません」

「ルイ様…」

涙声になりながら想い人の名を言う姿が私とそっくりだった 

「国のため…国のため」

「ラナ様」

「これもまた運命(さだめ)なの」

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