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臆病
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如月京也の本質は臆病だ。
そんなことを他人から言われたことはない。
むしろその逆を言われることの方が多い。
そう見えるように取り繕っているのだから当然である。
そして高校生になってもそれは変わらない。
「おーい京也?話聞いてる?」
その声でふと我に帰った。
「おっとすまん。何の話だっけ?」
京也はそう聞き返すと少し姿勢を正した。
「だから今度の飯の話だよ。今のところ俺と京也と日向だけだけどあと一人くらい呼ぶか?」
スマホから聞こえる中学時代の友人の声に今度こそ京也は耳を傾けた。
「あーその話か。そうだな。俺があと一人探しといてやるよ。」
「お前顔広いしな。頼んだ。」
その後、友人はこう続けた。
「ところでさ、お前高校生活どんな感じ?友達できた?」
その質問に対する京也の回答に事実は一切関与しなかった。
「できたよ。なんか気の合う奴が多くてすぐに仲良くなれた。」
「京也はさすがだよなぁ。俺なんかまだ一人も喋れる奴いねぇよ。もしかしたら入学1週間でハブられてるかも。」
「あり得るな。てか多分そうだな。ドンマイ。」
「お前は俺を見捨てないでくれよな...」
そんな適当な会話をしながらその通話は長期戦に突入し、最終的には京也の寝落ちで幕を閉じた。
ここでもう一度念を押しておこう。
如月京也の本質は臆病だ。
この他愛ない会話の中でも彼は恐怖に負けて嘘をついた。
友達がまだできていないという真実を打ち明けることによって自分のコミュニケーション能力が低いことが露見するという恐怖に。
翌日の午前5時40分、京也はアラームの音で目を覚ました。
朝にめっぽう弱い京也だが朝練に遅刻することを考えると一瞬で目が覚めた。
さっさと支度を済ませ、家族を起こさないように静かに家を後にした。
スカスカの始発電車に腰を下ろすと京也は考え事を始めた。
入学式当日にサッカー部への入部届を出した京也が練習に参加するのは今回で3回目だった。
同学年の部員の中には入学前から部活に参加していた者もおり、その一部ではすでにコミュニティが形成されていた。
入学1週間というほとんどの者が初対面である状況においてすでにコミュニティがあるというのは限りなく大きなアドバンテージであった。
しかも入学前から部活に参加しているだけあって実力を伴う者が多かった。
そこで京也はまずその現在唯一のコミュニティに入ることを高校最初の目標として掲げることにした。
その目標設定に至った京也の思考プロセスは以下の通りだ。
『運動部における最初の立場は基本実力で決まる。
上手ければ先輩や同級生からも声をかけられ何の苦労もなしで自然と権力が集中する「上位カースト」に名を連ねることができる。
一方下手であればそんなことはありえない。
だから自分から積極的に行動を起こすことで何とか部活内での立場を確保しようと試みる。
しかし、その積極的な行動の裏にある必死さはどうしても隠しきれない。
その必死さを見透かした余裕のある上位カースト勢はその心のどこかに優越感と嫌悪感を抱く。
その二つの感情は一度抱かれてしまうと中々払拭できるものではない。
だから結局同じように必死な者が集まる「下位カースト」に名を連ねてしまう。
確かに最初は下位カーストに所属していてもその人間性が面白かったり、ハマったりすると自然と上位カーストに昇格するケースもあるが俺はそういうタイプの人間ではない。
だから実力で上位カーストに入ることが必須。
しかし俺のサッカーの実力は大きく出ても「中の下」だ。
こうなったら俺の本当の実力がバレる前に上位カーストになるであろう現在唯一のコミュニティに入ってしまおう。』
臆病者の京也が入学したての高校で一番恐れることは「舐められること」である。
そんな京也にとってこれから高校生活の大半を捧げるであろう部活動で下位カーストに所属するようなことは決してあってはならない言語道断の事態である。
それを避けるためなら暴言も吐くし虚勢も張る。
それが京也なりの自分の立場を確立するための処世術でありこれまでもずっとそうしてきた。
そんなことを考えている間に電車は菅砂利高校の最寄り駅に到着するのであった。
そんなことを他人から言われたことはない。
むしろその逆を言われることの方が多い。
そう見えるように取り繕っているのだから当然である。
そして高校生になってもそれは変わらない。
「おーい京也?話聞いてる?」
その声でふと我に帰った。
「おっとすまん。何の話だっけ?」
京也はそう聞き返すと少し姿勢を正した。
「だから今度の飯の話だよ。今のところ俺と京也と日向だけだけどあと一人くらい呼ぶか?」
スマホから聞こえる中学時代の友人の声に今度こそ京也は耳を傾けた。
「あーその話か。そうだな。俺があと一人探しといてやるよ。」
「お前顔広いしな。頼んだ。」
その後、友人はこう続けた。
「ところでさ、お前高校生活どんな感じ?友達できた?」
その質問に対する京也の回答に事実は一切関与しなかった。
「できたよ。なんか気の合う奴が多くてすぐに仲良くなれた。」
「京也はさすがだよなぁ。俺なんかまだ一人も喋れる奴いねぇよ。もしかしたら入学1週間でハブられてるかも。」
「あり得るな。てか多分そうだな。ドンマイ。」
「お前は俺を見捨てないでくれよな...」
そんな適当な会話をしながらその通話は長期戦に突入し、最終的には京也の寝落ちで幕を閉じた。
ここでもう一度念を押しておこう。
如月京也の本質は臆病だ。
この他愛ない会話の中でも彼は恐怖に負けて嘘をついた。
友達がまだできていないという真実を打ち明けることによって自分のコミュニケーション能力が低いことが露見するという恐怖に。
翌日の午前5時40分、京也はアラームの音で目を覚ました。
朝にめっぽう弱い京也だが朝練に遅刻することを考えると一瞬で目が覚めた。
さっさと支度を済ませ、家族を起こさないように静かに家を後にした。
スカスカの始発電車に腰を下ろすと京也は考え事を始めた。
入学式当日にサッカー部への入部届を出した京也が練習に参加するのは今回で3回目だった。
同学年の部員の中には入学前から部活に参加していた者もおり、その一部ではすでにコミュニティが形成されていた。
入学1週間というほとんどの者が初対面である状況においてすでにコミュニティがあるというのは限りなく大きなアドバンテージであった。
しかも入学前から部活に参加しているだけあって実力を伴う者が多かった。
そこで京也はまずその現在唯一のコミュニティに入ることを高校最初の目標として掲げることにした。
その目標設定に至った京也の思考プロセスは以下の通りだ。
『運動部における最初の立場は基本実力で決まる。
上手ければ先輩や同級生からも声をかけられ何の苦労もなしで自然と権力が集中する「上位カースト」に名を連ねることができる。
一方下手であればそんなことはありえない。
だから自分から積極的に行動を起こすことで何とか部活内での立場を確保しようと試みる。
しかし、その積極的な行動の裏にある必死さはどうしても隠しきれない。
その必死さを見透かした余裕のある上位カースト勢はその心のどこかに優越感と嫌悪感を抱く。
その二つの感情は一度抱かれてしまうと中々払拭できるものではない。
だから結局同じように必死な者が集まる「下位カースト」に名を連ねてしまう。
確かに最初は下位カーストに所属していてもその人間性が面白かったり、ハマったりすると自然と上位カーストに昇格するケースもあるが俺はそういうタイプの人間ではない。
だから実力で上位カーストに入ることが必須。
しかし俺のサッカーの実力は大きく出ても「中の下」だ。
こうなったら俺の本当の実力がバレる前に上位カーストになるであろう現在唯一のコミュニティに入ってしまおう。』
臆病者の京也が入学したての高校で一番恐れることは「舐められること」である。
そんな京也にとってこれから高校生活の大半を捧げるであろう部活動で下位カーストに所属するようなことは決してあってはならない言語道断の事態である。
それを避けるためなら暴言も吐くし虚勢も張る。
それが京也なりの自分の立場を確立するための処世術でありこれまでもずっとそうしてきた。
そんなことを考えている間に電車は菅砂利高校の最寄り駅に到着するのであった。
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