6番目のセフレだけど一生分の思い出ができたからもう充分

SKYTRICK

文字の大きさ
表紙へ
17 / 26
番外編 友人

1 関くんのコミュ力

しおりを挟む
【後日談】







 講義の後、陽太が迎えにやってきてくれる予定だったけれど、急遽本日午後六時が提出期限の課題が現れたと連絡が入った。
 三人での食事会には間に合うようなので、幸平は《現地集合にしよう》と何も考えずにメッセージを送る。いや、それから少し(陽太くん申し訳ないと思ってそうだな)と、大丈夫だよのアピールで、ウサギのスタンプを送ったりした。
 『大丈夫!』と元気よくニンジンを掲げるウサギのスタンプは、最近、購入したものだ。谷田から文章が素っ気ないとの指摘を受けたため、少しでも明るくするために、動物がそれぞれ楽しそうに笑っている何だか幸せそうなスタンプを購入した。
 恋人同士となったからには、文章の素っ気なさなんかで陽太を不安にさせたくない。でももう、幸平にはうさぎがいる。だから大丈夫。実際、陽太からも《ありがとう》と某アニメキャラのスタンプが返ってきた。
 やっぱりうさぎがいれば、万事解決だ。
「森良くんってさ、昔話好きなの?」
 待ち合わせ場所の料理屋にやってくると、関謙人は開口一番に告げた。
 幸平は固まってから、一応「お久しぶりです」と頭を下げてみる。関は「久しぶりー。諭吉ばら撒き救出事件から、もう二週間経ったんだね」と合わせてくれる。
「早いもんだ」
「諭吉ばら撒き……」
「あん時、金降ってきたから」
「あ、はい」
「座れば? 陽太ギリ遅れるって」
「ギリ……はい」
 幸平は腰を下ろした。関は、にっこりと「何か頼む?」と首を傾げる。
「じゃあ、関くんが飲んでるのと同じ物を」
「えっ、すごいね」
「えっ、何が」
「テクニックじゃん。森良くんモテるでしょ。いつもそれしてんの? 陽太も大変すね」
「……じゃあ違うものを」
「嘘嘘」
 店員にウーロンハイを注文する関を眺めながら、幸平はひとまず水を口に含んだ。
 「関くんにお礼を言いたい」と持ちかけたのは幸平だ。二週間前のあの事件……『諭吉ばら撒き救出事件』で彼にはとてもお世話になったので、直接会ってお礼が言いたかった。
 陽太は初め、「いや、いいよ」と首を振った。「別に会わなくてもいい」と。
 本気で嫌そうな顔をしている陽太を見て、幸平はしょんぼりとした。陽太は友達を幸平に会わせたくないのだろうか、と不安になったからだ。
 しょんぼりの程度としては、十段階のうち1レベルだったと思う。それでも陽太はハッとして、「やっぱ会わせる」と三秒で前言撤回する。
「いいの?」
「いいよ。会わせたくないってのは、謙人がコウちゃんに余計なこと言うのが不安だからだし」
「あ、そういう」
 幸平はちょっぴり明るくなる。1レベルで。
 それすら目敏く拾った陽太は、表情を晴れやかにした。
「俺があいつの言うこと監視してればいいだけの話だもんな」
「監視するんだ」
「するする。野放しはきつい」
「あはは」
「いいよ、三人で会おう」
「うん」
「――で、森良くんって昔話好きなのか?」
 過去の回想をぼんやり思い起こしていると、今の関が訊ねてくる。
 陽太の監視外にいる関は、とても自由だった。こうして二人で対面するのは初めてなので、幸平は緊張していたが、関はとてもフラットだ。
「えっと、わかんない」
「わかんねぇんだ。面白いね」
「あの、どうして昔話好きって?」
「森良くんさ、最近、陽太とのラインで動物のスタンプ送ってるだろ」
「えっ、うん。送ってる」
 関はニカっと、高校時代と変わらない爽やかな笑顔を浮かべた。
「うさぎとか、猿とか、かわいい絵柄のスタンプ送ってるだろ」
「うさぎ、よく送るかも」
「陽太がすげぇ喜んでた。『コウちゃんがかわいいスタンプ送ってくる』って」
 陽太の真似なのか、関はぼそっと声を低くする。それが面白かったので、幸平は思わず笑った。
 すると関は少し目を丸くして、また喋り出す。
「森良くん、笑うとすげぇかわいいね」
「か、かわいい?」
「ほんわり笑うのな。癒される」
「はぁ……」
「うさぎ好きなん?」
「わかんない」
「わかんねぇの? やば」
「やばいかな」
「やばいやばい。なるほどな。森良くんってこんな感じなのな」
 関は心から楽しそうに「陽太も必死になって隠すわけだわ」と笑う。
 幸平は小首を傾げた。
「隠すって?」
「高校の時さ、陽太、幸平くんに全然喋りかけられなかっただろ。その要因の一つに、陽太が話しかけることで森良くんが目立ってしまうという危惧もあったわけ」
「あぁ、そうなんだ」
「陽太とか、初めっから幸平くん大好きなのにな」
「……あの」
「高校入学したばっかの時、陽太がクラスメイトの男と喧嘩したの知ってる?」
 完全に関の独壇場だ。二週間前の件についてお礼を言いたいのに、怒涛の勢いに呑まれてなかなか切り出せない。
「ええっと……陽太くんが、クラスメイトの人を怖がらせた、みたいな話は聞いたことがある」
「あれも森良くんが原因だったんだぜ」
「お、俺?」
「その馬鹿が、森良くんの顔の傷をいじったらしいんだよ。やべぇ奴いるーって。でもあいつは、本当にヤベェ奴が同じクラスにいるのを分かってなかったな。陽太がガチギレして、そいつ、失禁したらしい」
「……」
 そうだったんだ……。
 幸平は胸がきゅーっと締め付けられるのを感じる。陽太からはそんな話を聞いていない。もしかしたら、忘れているだけかもしれないけど。
 考えてみると、小学校中学校であれだけ揶揄されたこの顔の火傷痕を、高校では誰一人からも指摘されていない。これが進学校の自律した精神なのかな? と当時は思っていたが、ちゃんと揶揄っている生徒もいたのか。
 陽太のやり方は何にせよ、怒ってくれた彼にはきちんとお礼を伝えないと。
「森良くんさ、その傷誰かから弄られたことある?」
「ないと思う」
「多分陽太のせいだぜ。あいつが森良くんの傷でブチギレたって話し、水面下で広まってたから」
「そうだったんだ……」
 思い出すのは、体育祭だった。
 クラスの皆が顔にマークを描いて士気を上げている中で、幸平は加わらなかった。一方で谷田は「幸平も顔描こう」と勧めてくる。幸平が断っていると、周りにいたクラスメイトが谷田を咎めた。
 女子は、幸平が嫌がっているのだと思って単純に助けてくれていたようだが、男子はなぜか、怯えた顔つきで谷田に文句を言っていた。
 あの表情は奇妙だった。陽太の陰を恐れていたのかもしれない。
 そこで、あれと気付く。ならば。
「俺と陽太くんが幼馴染って、知ってる人もいたのかな?」
「いや、それはいないと思う。陽太、森良くんの話は俺以外にしてないし」
「そっか」
「容姿を弄る人間が死ぬほど腹立つ溝口さん、みたいになってた。普通に考えて、そのクラスメイト無神経だったしな。それが森良くんかどうかは関係なく陽太がキレたと皆は思ってたみたいだぜ。あんなん、森良くん以外がいじられてたら陽太スルーしてたのにな」
「陽太くん、優しいから、どうだろう」
「あー、うん。ところで、昔話系好きなの?」
 すごい。本当に話が途切れない。幸平も自然と、楽しく会話できている。これが本物のコミュ力と言うやつなのか。
「なんで?」
「この間、陽太と水族館行ったんだろ? 亀見るために」
「すごい。全部知ってるんだ」
「あ、もしかしてそういうの嫌?」
「ううん。俺のこと話してるんだって思えて、嬉しい」
「やっぱ笑い方かわいいのな」
「えっ」
「で、森良くん亀好きなんだろ? それでいて、うさぎも好きって、昔話じゃん」
「……あっ! 競争ってこと? うさぎと亀の」
「そうそう」
「あはは、ほんとだ。俺、昔話好きな人になってる」
 思わず声に出して笑ってしまう。昔話か。完全に無意識だった。
 関はニコニコとこちらを眺めて「サルのスタンプも送ってたらしいじゃん」と言う。
「サルって昔話の定番だろ?」
「そうかも。でも俺、そこまで考えてなかった」
しおりを挟む
表紙へ
感想 266

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。