忠犬シロは転生してでもご主人様を生かしたい

SKYTRICK

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第四章

47 甘いんだけど

【第四章】
《シロファス視点》





『ご主人様』『ルー君』『主君』『ルブリアン様』『団長』その他諸々。
 様々なやり方で唯一の主人を呼んだことがあるけれど、今世で主人を『ルブリアン』と親しみを込めた呼び方をするのはこれが初めてだ。
 実を言うと、シロファスはもうずっと前から、シロであった子犬時代からずっと、「ルブリアン!」と呼んでみたかった。
 ルブリアンと仲の良い従者であり側近のアランや、騎士のルーイが、そう呼んでいたから。子犬のシロはそれが羨ましくて仕方なかった。
 自分がもし人間の言葉が話せるようになったら、一度だけでいい。同じように呼びかけてみたい。
 そうしてルブリアンが振り向いてくれたら最高なのに。
「……へへっ、ルブリアーン」
 そう、ずっと願っていたのだ。
『ご機嫌ですね、シロファスさん』
 演習場近くのガゼボには、秋前の乾いた風が吹き込んでいる。
 真新しいガゼボの中で、ニヤけながら魔法学の本を読み進めるシロファスに、三匹のうち一匹のネズミが話しかけてくる。以前に死にかけていたネズミだが今は完全に回復していた。
 リスも近寄ってきて『何ニヤニヤしてんだよ』といつものように口悪く言った。他の二匹も『あなたは口が悪い』『このクッキー美味しいですね』と騒ぎ始め、シロファスを見上げる。
『その名前を呼べることがそんなに嬉しいんですか?』
「うんっ。何度呟いてみてもうわーって叫びたくなるんだ。俺が人間の姿で、ルブリアンと呼べるなんて!」
 ネズミに薬を使ったルブリアンの異母弟妹であるアルマンとサビーヌが公爵邸から分家に左遷されて、早二ヶ月。色々としでかしていた弟妹であったが、最終的にはネズミを殺しかけたことで邸宅を追われる羽目になるのだから、おかしな話だ。
 あの時、同様にシロファスを追い詰めた騎士は、彼の上司であるルーイと共にシロファスへ謝罪をし、除隊した。
『――すまなかった』
 とはルーイの言葉で、部下の失態を償うため彼は深々と頭を下げた。
 ルーイ曰く、シロファスがルーイに魔力を供給したことで魔法の制御が難しくなってしまった。シロファスもあらゆる騎士たちに魔力を供給してきて分かったことだが、かつて犬だった頃に関わっていた騎士たちに対しての供給は、必要以上に魔力を渡してしまう。
 シロファスも理由は不明だ。親しみが魔力に現れてしまうのか、馴染みある騎士たちだからなのか。何はともあれ技量不足だと反省した。
 だがルーイは頭を下げた。制御が難しくなったが、魔力は明らかに増したと彼自身も認めたのである。
 あの謝罪は、不信感と混乱からシロファスに辛い態度を取ってしまったことへの反省を含めたものだったらしい。シロファスの元に謝罪のためルーイがやってきたのは実際のところルブリアンの圧力があったらしいが、あの頑固で横暴なルーイが自ら謝ったのだからシロファスは驚いた。
(昔から利かん坊だったのに)
 シロファスはルーイという青年の性質をよく知っている。
 忠犬シロ時代はよくルーイと遊んでいた。負けず嫌いですぐ人間と喧嘩する粗暴な男であった。謝罪なんて言葉はルーイの辞書にはない。彼の中にあるのは勝つか負けるか。
 そのルーイが勝負を仕掛けることもなく自らの非を認めたのだから、シロファスは思わず
『団長~、ルブリアンー……』
 と助けを呼んだ。
 めちゃくちゃ怖かったのである。あのルーイがキャラ変をしてしまった。どこに潜んでいたのかあっという間にやってきたルブリアンはシロファスを片腕に抱くと、『ルーイ』と恐ろしく低い声を出した。
 その後、ルーイがシロファスを怖がらせたと勘違い(ある意味正当ではあるが)したルブリアンにより、ルーイはこっ酷く絞られた。
 図らずもお仕置きをしてしまった結果にはなったが、ルーイはあれからシロファスを見かけると、眉をぐっと顰めつつ軽く頭を下げてくる。シロファスは、(その仏頂面こそルーイだ!)と嬉しさを込めた笑みを返す。ルーイはすると少し狼狽えつつも、ルブリアンに睨まれる前に演習場へ向かっていく。
 変化したのはルーイだけでない。
 シロファスが『ルブリアン』と呼び捨てにするようになって、騎士団の中にシロファスを蔑む者は皆無となった。
 以前、シロファスを疎み、手酷くしていた騎士は公爵邸から消えているか、シロファスを避けているかだ。もともと弱い人間がさらに肩身を狭くして、ぷるぷる震えている様はまるで子犬である。
 打ち解けていた者たちは時間が経つごとにより親しくなっていくし、かつて仲間だった人間たちとも人間の言葉で話ができるようになったので、シロファスは大変充実した日々を送っている。
 まぁそれはそれとして、シロファスの頭の中を埋め尽くすのはルブリアンのことばかりだ。
『幸せそうですね、シロファスさん』
 平和と愛に溢れる現時点とはいえ、楽ばかりではない。
 シロファスにも悩みだってあるのだ。
「幸せだけど、俺だって大変なんだ」
『というと?』
「……変」
『へん?』
「なんか最近、ルブリアンが甘いんだけどーっ」
「シロファス君、また一人言ですか?」
 椅子にだらりと腰掛けながら言葉を吐き出すと、いつの間にやってきていたのか、アランがにこやかに立っている。
 シロファスは唇を尖らせ、秋晴れを背景に穏やかに笑うアランを見上げた。
「一人言に見える?」
「そうでなかったらリスやネズミたちと会話を?」
「……」
 じっと見つめるもアランは笑顔を崩さない。薄々感じているのだが、アランはシロファスが動物と会話できることに気づいているのではないか。
 ルブリアンから事情を伝えられているのかもしれない。そもそもアランは、ルブリアンも鳥と意思疎通が可能であることを把握しているのか。
 一瞬でさまざまな疑念が浮かびつつも、シロファスは「一人言」と返した。
 アランが椅子に腰掛ける。
「お菓子は足りていますか? クッキーがネズミに食われているようですが」
「足りてるよ。お腹いっぱい。ところでさっきの一人言聞いた?」
「ルブリアンが甘いとのことで」
「そのことなんだけど、どう思う?」
「どう思うとは?」
「ルブリアンってあんなキャラだったっけ?」
「キャラ?」
 アランは不可解そうに眉根を寄せたが、すぐに「性格のことだったら、変わりましたね」と認めた。
「ただしシロファス君の前だけですけれど」
 そう付け足して。
「俺の前だけ?」
「ルブリアンが甘いのはシロファス君にだけですよ。それ以外では何一つ変わっていない。いつも冷えるような真顔で騎士たちを脅かし、たまに嘲笑い、口を開いたかと思えば暴言ばかり」
 そんなに酷い子じゃあ、ないと思うけれど。
「そのルブリアンが、シロファス君のお菓子が足りているか確認してこいと命じるんだから、ベタつくほどに甘いですよね」
「ルブリアンに言われて確認しにきたんだ?」
「はい」
「ふーん。どうしてこんなにいきなり、俺を小さい子みたいに甘やかすようになったんだろ」
「小さい子というより好きな子じゃないですか」
「……ん?」
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