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最終章
21 夕生には見せられない
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「くそッ、はっず」
少し荒っぽい口調にキュンとする。
無意識だったのか丈は自分の口調を気にせず、「うわ」と今度は目元を覆った。
「丈、どんどん赤くなる」
「やばい。嬉しすぎるかも」
丈の目元は見えないけれど口元は見えた。笑みが抑えきれずに唇がにやけている。
「あー……夕生俺のこと好きってことだよね」
「うん、好き」
「うわっ」
丈は大声を上げた。夕生はビクッとする。
顔を覆っていた手を下げて、丈はふぅと彼が息を吐いた。
「じゃあ、付き合ってくれますか?」
真剣な眼差しが夕生を見つめている。
「番を前提に付き合ってくれますか?」
答える前から夕生は微笑んでいた。丈も夕生が微笑みを深めた瞬間から、また笑みを見せ始めていた。
「はい」
「あー。夢みたいだ」
いつものんびりしている丈がとても高揚している。弾んだ声でまた「あー」と声を絞り出した。
「すげぇ。あのさ、ちゃんとお互い成人したら番になりたい」
「俺もなりたい」
「……」
丈が片手で顔を覆った。なぜか数秒無言だった。暫くして顔を上げると、
「大丈夫かな」
と呟く。
「何が?」
「俺、ちゃんと夕生の好きな人でいられるかな」
「どうしてそう思うの?」
首を傾げる夕生に、丈は意外なことを告げる。
「なんか俺、腹黒いとか言われるし」
「えっ」
思ってもみなかった言葉に驚く。腹黒い?
「丈って腹黒いんだ」
「裏表あるって」
丈は僅かに顔を歪めてから、少し不安げな表情を滲ませる。
「妹から何も聞いてない?」
「聞いてないよ」
愛海は『腹黒い』丈を知っているのか?
今までは二人が想い合っていると考えていたがその先入観抜きに考えてみると、なるほど。
「そういえば……愛海から丈の話聞いたことあんまりないかも」
「あいつ俺に興味なさすぎだろ」
険のある言い方に夕生は(あれ)と思った。もしかして。
「裏表ってそれ?」
「あ、やば」
「ちょっと口悪かったね」
なんだか可愛かったので夕生はふふっと笑う。
丈は焦った顔をしたが、夕生が笑うのを見ると、困ったように目を細めた。
長年共に過ごしてきたので丈のテンションがかなり高まっているのが分かる。新たな一面が容易に現れたのもそのせいだろう。
丈はでも真面目な顔をして言った。
「俺さ、別に、口悪い方が本性とか思ってないんだよ」
丈はここに来てからずっと真剣な顔をしている。
「俺がずっと自然に、力抜いていられるのは夕生だけだから」
夕生はただ丈の言葉を聞いている。彼は目元を触って、一度唇を噛んでから続けた。
「子供の頃はこんな顔だしさ、あと色々……なめられないようにと思ったら自然に性格悪くなった」
「口が悪いのが性格が良くないってこと?」
「何て言うんだろうな。とにかく、夕生には見せていないことがある」
「へぇ……でも、俺はどんな丈でも好きだよ」
丈がどんな一面をもってようと夕生にとっては関係がない。
丈が表情を和らげる。夕生は言い切った。
「俺、丈なら裏も表も好きだよ」
「……断言するんだ」
「うん」
夕生は深く頷く。丈がどこか力無い微笑み方をする。
夕生は腕を上げた。するとそれだけで察した丈が、夕生の手を握ってくれる。
いつも丈は夕生が辛い時に手を繋いでくれた。
子供の頃も、あのヒートでも。
丈の手の暖かさを知る限り、丈がどんな人間であろうと夕生が嫌いになるわけがない。
……丈には言ってないけれど。
本当は、アルファの人が怖いんだ。
近付かれると背筋がゾッとする。肩がぶつかるだけで震えてしまうし、大声を出されると動揺する。
でも丈は違う。それは丈が特別なアルファだからではなく、子供の頃から好きな丈がアルファであろうと何であろうと彼への想いが覆らないからだ。
夕生はずっと丈が好きだ。
丈は安心したのか声のトーンが少し高くなった。いつもの優しい声で、
「まぁ、でも俺自身は夕生に今以外の面を見せられる自信がないんだけど」
「そうなの?」
「うん。どうしても夕生の前だと俺になるから」
本当の俺になる、みたいな言い方だ。
夕生は首を傾げる。
「でも、口振り的に愛海には見せてるんでしょ?」
「見せてるというか、見られたというか」
丈は遠い目をした。ふっと目を細める。
「うん。夕生には無理そう」
「えっ、なぜ」
「夕生が俺の世界一好きな子だから」
やはりまだ、この状況の全てを受け止めきれなくて心がふわふわする。だって丈がそんなことを言う。夢にも思っていなかった。夢に見る前に現実に訪れた。
「何か方法を考えるね。夕生が見たいなら」
「俺も考えるよ」
「ほんと? 一緒に考えてくれんの?」
「うん」
丈は「それ、面白いな」とふわっと笑う。
夕生はぎゅっと繋がれた手を握る。
二人、無言で見つめ合った。丈が手を繋いだまま立ち上がる。夕生はじっと丈を見上げた。
少し荒っぽい口調にキュンとする。
無意識だったのか丈は自分の口調を気にせず、「うわ」と今度は目元を覆った。
「丈、どんどん赤くなる」
「やばい。嬉しすぎるかも」
丈の目元は見えないけれど口元は見えた。笑みが抑えきれずに唇がにやけている。
「あー……夕生俺のこと好きってことだよね」
「うん、好き」
「うわっ」
丈は大声を上げた。夕生はビクッとする。
顔を覆っていた手を下げて、丈はふぅと彼が息を吐いた。
「じゃあ、付き合ってくれますか?」
真剣な眼差しが夕生を見つめている。
「番を前提に付き合ってくれますか?」
答える前から夕生は微笑んでいた。丈も夕生が微笑みを深めた瞬間から、また笑みを見せ始めていた。
「はい」
「あー。夢みたいだ」
いつものんびりしている丈がとても高揚している。弾んだ声でまた「あー」と声を絞り出した。
「すげぇ。あのさ、ちゃんとお互い成人したら番になりたい」
「俺もなりたい」
「……」
丈が片手で顔を覆った。なぜか数秒無言だった。暫くして顔を上げると、
「大丈夫かな」
と呟く。
「何が?」
「俺、ちゃんと夕生の好きな人でいられるかな」
「どうしてそう思うの?」
首を傾げる夕生に、丈は意外なことを告げる。
「なんか俺、腹黒いとか言われるし」
「えっ」
思ってもみなかった言葉に驚く。腹黒い?
「丈って腹黒いんだ」
「裏表あるって」
丈は僅かに顔を歪めてから、少し不安げな表情を滲ませる。
「妹から何も聞いてない?」
「聞いてないよ」
愛海は『腹黒い』丈を知っているのか?
今までは二人が想い合っていると考えていたがその先入観抜きに考えてみると、なるほど。
「そういえば……愛海から丈の話聞いたことあんまりないかも」
「あいつ俺に興味なさすぎだろ」
険のある言い方に夕生は(あれ)と思った。もしかして。
「裏表ってそれ?」
「あ、やば」
「ちょっと口悪かったね」
なんだか可愛かったので夕生はふふっと笑う。
丈は焦った顔をしたが、夕生が笑うのを見ると、困ったように目を細めた。
長年共に過ごしてきたので丈のテンションがかなり高まっているのが分かる。新たな一面が容易に現れたのもそのせいだろう。
丈はでも真面目な顔をして言った。
「俺さ、別に、口悪い方が本性とか思ってないんだよ」
丈はここに来てからずっと真剣な顔をしている。
「俺がずっと自然に、力抜いていられるのは夕生だけだから」
夕生はただ丈の言葉を聞いている。彼は目元を触って、一度唇を噛んでから続けた。
「子供の頃はこんな顔だしさ、あと色々……なめられないようにと思ったら自然に性格悪くなった」
「口が悪いのが性格が良くないってこと?」
「何て言うんだろうな。とにかく、夕生には見せていないことがある」
「へぇ……でも、俺はどんな丈でも好きだよ」
丈がどんな一面をもってようと夕生にとっては関係がない。
丈が表情を和らげる。夕生は言い切った。
「俺、丈なら裏も表も好きだよ」
「……断言するんだ」
「うん」
夕生は深く頷く。丈がどこか力無い微笑み方をする。
夕生は腕を上げた。するとそれだけで察した丈が、夕生の手を握ってくれる。
いつも丈は夕生が辛い時に手を繋いでくれた。
子供の頃も、あのヒートでも。
丈の手の暖かさを知る限り、丈がどんな人間であろうと夕生が嫌いになるわけがない。
……丈には言ってないけれど。
本当は、アルファの人が怖いんだ。
近付かれると背筋がゾッとする。肩がぶつかるだけで震えてしまうし、大声を出されると動揺する。
でも丈は違う。それは丈が特別なアルファだからではなく、子供の頃から好きな丈がアルファであろうと何であろうと彼への想いが覆らないからだ。
夕生はずっと丈が好きだ。
丈は安心したのか声のトーンが少し高くなった。いつもの優しい声で、
「まぁ、でも俺自身は夕生に今以外の面を見せられる自信がないんだけど」
「そうなの?」
「うん。どうしても夕生の前だと俺になるから」
本当の俺になる、みたいな言い方だ。
夕生は首を傾げる。
「でも、口振り的に愛海には見せてるんでしょ?」
「見せてるというか、見られたというか」
丈は遠い目をした。ふっと目を細める。
「うん。夕生には無理そう」
「えっ、なぜ」
「夕生が俺の世界一好きな子だから」
やはりまだ、この状況の全てを受け止めきれなくて心がふわふわする。だって丈がそんなことを言う。夢にも思っていなかった。夢に見る前に現実に訪れた。
「何か方法を考えるね。夕生が見たいなら」
「俺も考えるよ」
「ほんと? 一緒に考えてくれんの?」
「うん」
丈は「それ、面白いな」とふわっと笑う。
夕生はぎゅっと繋がれた手を握る。
二人、無言で見つめ合った。丈が手を繋いだまま立ち上がる。夕生はじっと丈を見上げた。
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