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第二章 第三騎士団、始動
『第十七話 ヒナタの願い』
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ヘルシミ王国に入ると、俺たちの馬車はたちまち武装した騎士に囲まれた。
彼らがこちら側の門を守っている騎士たちだな。
「私はデールだ。国王様からの命を受けて要人を護衛していた。通していただこう」
「“闇の暗躍者”!? これは失礼いたしました!」
俺たちが乗った馬車を囲んでいた騎士たちが一瞬で散っていく。
何気なく後方に向けてみると、俺たちが入ってきた門はすでに固く閉じられていた。
馬車が再度進もうとしたとき、デールさんの隣に座っていたべネック団長がそれを止める。
「お前たちに聞きたいことがある。どうしてあの門が開いていた?」
「先ほどいらっしゃったリーデン帝国第三騎士団長の使者が勝手に指示したからです」
騎士の不満げな言葉にダイマスが目を見開いた。
話に出てきたリーデン帝国第三騎士団長は、ヒナタ=パールという女性騎士だったっけ。
弱いという噂も聞かなければ、強いという噂も聞かない地味な団長。
俺を含めた一般市民の認識は大体そんなものだろう。
しかし、騎士たちの話が本当ならばヒナタは皇帝の指示を無視したということになる。
もちろん出された指示は知らないが、ほぼ確実に“犯罪者を捕縛しろ”だろう。
「それは本当か? あの人は何を考えているんだ?」
「なるほど。これは改めて調査してみる必要がありますね。ご協力感謝します」
デールさんはそう言うと馬車を再発進させた。
今度は俺たちが国王の客人だと分かったからか、何人かが護衛としてついてくれた。
全員が馬に乗っており、俺たちが乗っている馬車を囲んでいる。
うーん……ありがたいことはありがたいんだけど、何か居心地が悪いな。
そう考えていたのは俺だけではなかったようで、ダイマスを除いた全員に落ち着きがない。
特にアリアはせわしく視線を動かしていた。
しばらくその様子を観察していると、ダイマスが窓際で考え込んでいることに気づく。
これは一人で何かを抱え込もうとしているな。
俺が言えた義理ではないが、少しは他人を頼るということを覚えてもらいたいものだ。
「ダイマス、その第三騎士団長とやらはどんな奴なんだ?」
「んっ? ああ、ヒナタ=パールは帝国一の交渉上手だね。とにかく駆け引きが上手い」
その言葉が俺にさらなる違和感を生み出した。
皇帝の側近どもが辺りをうろついている中で使者を送るのは悪手だ。
使者が移動中に見つかって、うっかり内容を話してしまったらヒナタは確実に罰を受ける。
むしろ、俺たちを探しているふりをしながら自分自身が出向いたほうが安全なはず。
それでもヒナタは安全な道を選ばなかった。
いや、この場合は選べなかったというべきだろうな。
「ダイマス。これは俺の見解だが……帝国はお前とは別路線に進むつもりじゃないか?」
「どういうことだい? 確かに皇帝は周辺諸国を武力で従わせたがっていたけど」
「この質問を聞けば分かる。第三騎士団長は皇帝と意見がいつも対立していただろう?」
俺がそう尋ねると、ダイマスは背筋をピクリと震わせた。
彼の反応で、俺が外れてくれと願った仮説が本当のことだと立証されてしまった。
まったく……あの我がまま皇帝はどこまで愚かなのだろうか。
「どういうことですか? まさかヒナタさんとかいう騎士団長が殺されそうなんですか!?」
「いや、今はまだ殺されないだろう。ただ……彼女自身は怪しまれているだろうな」
自分で動くほうがいいということはヒナタも嫌というほど分かっていたはずだ。
それでも使者を送るという行為を選んだのは、彼女が外出すると必ず見張られるから。
俺たちを助けようとしていたことがバレるからヒナタは動けなかったのだろう。
「そっか。ヒナタは僕を信じてくれるのか……」
「誰とも親しい感じはなかったが、お前はヒナタ騎士団長と仲が良かったんだな」
「そうだね。“クソガキ宰相”って呼ばれて疎まれていた僕に唯一優しく接してくれた人さ」
昔を懐かしむような感じで紡がれた言葉。
いつも表情を変えずに皇帝という大物に仕えてきた敏腕宰相は……予想より弱かった。
日常的に向けられる悪意に怯え、助けを待つ少年に過ぎなかった。
でも、そんな彼に手を差し伸べたのはヒナタ=パールという女性騎士だけだったのだ。
きっと彼女だけが心の支えだったに違いない。
そこまで考えたところで、俺は妙な気配が馬車の上空で並走していることに気づく。
「みんなよく聞いて。馬車と並走している奴が空中にいる」
「何だと? それは聞き捨てならないな」
べネック団長の苦々しい声が聞こえてきたと思うと、馬車は道の脇に逸れて急停止した。
すると上空を並走していた怪しい気配も静止し、その場に留まりはじめる。
しばらく空中を旋回し続けたその気配は、突然ダイマスに向かって急降下を始めた。
「ダイマス! 危ない!」
「大丈夫。むしろ僕にとっては喜ばしいものだったから」
ダイマスは意味の分からないことを口走ったと思うと、空に向かって両手を突き上げる。
やがてその手に一羽の鳥が止まった。
しかし、その鳥は普通の鳥ではなく魔力を込めて作られたものなのだろう。
透明で少し輝いていた。
「確かに気配はそれのものだったな。魔力で出来た鳥なんて初めて見たが」
「この鳥はヒナタの能力、【魔力生成】で作られたんだ。そして鳥を作るときは手紙がある」
ダイマスはそう言って鳥の前で指を鳴らした。
すると鳥がゆっくりと消えていき、ダイマスの手には一枚の手紙が残った。
差出人の欄には確かにヒナタ=パールの名がある。
「ねえ、【魔力生成】って何?」
「魔力で色々なものを作れる能力だ。剣でも杖でも作れるから、乱戦時は意外と恐ろしいスキルだぞ」
べネック団長はアリアにそう答えた後、ダイマスの方を向いた。
彼女の顔はなぜか険しい。
「罠の可能性もあるのだから、むやみに受け取るな。必ず私に伝えろ」
「すみません。ただ僕にとっては何度も感じていた懐かしい気配だったので……」
ダイマスは顔を赤くして俯いた。
べネック団長はそんな彼を見てため息をつくと、馬車を指さして指示を出す。
「全員馬車に乗れ! これからヘルシミ王国の王都に向かって出発するぞ!」
「「「「分かりました」」」」
全員の声が揃った。
ちなみにダイマスは秘密で手紙を読み始めたため、何が書かれていたかは知らない。
彼らがこちら側の門を守っている騎士たちだな。
「私はデールだ。国王様からの命を受けて要人を護衛していた。通していただこう」
「“闇の暗躍者”!? これは失礼いたしました!」
俺たちが乗った馬車を囲んでいた騎士たちが一瞬で散っていく。
何気なく後方に向けてみると、俺たちが入ってきた門はすでに固く閉じられていた。
馬車が再度進もうとしたとき、デールさんの隣に座っていたべネック団長がそれを止める。
「お前たちに聞きたいことがある。どうしてあの門が開いていた?」
「先ほどいらっしゃったリーデン帝国第三騎士団長の使者が勝手に指示したからです」
騎士の不満げな言葉にダイマスが目を見開いた。
話に出てきたリーデン帝国第三騎士団長は、ヒナタ=パールという女性騎士だったっけ。
弱いという噂も聞かなければ、強いという噂も聞かない地味な団長。
俺を含めた一般市民の認識は大体そんなものだろう。
しかし、騎士たちの話が本当ならばヒナタは皇帝の指示を無視したということになる。
もちろん出された指示は知らないが、ほぼ確実に“犯罪者を捕縛しろ”だろう。
「それは本当か? あの人は何を考えているんだ?」
「なるほど。これは改めて調査してみる必要がありますね。ご協力感謝します」
デールさんはそう言うと馬車を再発進させた。
今度は俺たちが国王の客人だと分かったからか、何人かが護衛としてついてくれた。
全員が馬に乗っており、俺たちが乗っている馬車を囲んでいる。
うーん……ありがたいことはありがたいんだけど、何か居心地が悪いな。
そう考えていたのは俺だけではなかったようで、ダイマスを除いた全員に落ち着きがない。
特にアリアはせわしく視線を動かしていた。
しばらくその様子を観察していると、ダイマスが窓際で考え込んでいることに気づく。
これは一人で何かを抱え込もうとしているな。
俺が言えた義理ではないが、少しは他人を頼るということを覚えてもらいたいものだ。
「ダイマス、その第三騎士団長とやらはどんな奴なんだ?」
「んっ? ああ、ヒナタ=パールは帝国一の交渉上手だね。とにかく駆け引きが上手い」
その言葉が俺にさらなる違和感を生み出した。
皇帝の側近どもが辺りをうろついている中で使者を送るのは悪手だ。
使者が移動中に見つかって、うっかり内容を話してしまったらヒナタは確実に罰を受ける。
むしろ、俺たちを探しているふりをしながら自分自身が出向いたほうが安全なはず。
それでもヒナタは安全な道を選ばなかった。
いや、この場合は選べなかったというべきだろうな。
「ダイマス。これは俺の見解だが……帝国はお前とは別路線に進むつもりじゃないか?」
「どういうことだい? 確かに皇帝は周辺諸国を武力で従わせたがっていたけど」
「この質問を聞けば分かる。第三騎士団長は皇帝と意見がいつも対立していただろう?」
俺がそう尋ねると、ダイマスは背筋をピクリと震わせた。
彼の反応で、俺が外れてくれと願った仮説が本当のことだと立証されてしまった。
まったく……あの我がまま皇帝はどこまで愚かなのだろうか。
「どういうことですか? まさかヒナタさんとかいう騎士団長が殺されそうなんですか!?」
「いや、今はまだ殺されないだろう。ただ……彼女自身は怪しまれているだろうな」
自分で動くほうがいいということはヒナタも嫌というほど分かっていたはずだ。
それでも使者を送るという行為を選んだのは、彼女が外出すると必ず見張られるから。
俺たちを助けようとしていたことがバレるからヒナタは動けなかったのだろう。
「そっか。ヒナタは僕を信じてくれるのか……」
「誰とも親しい感じはなかったが、お前はヒナタ騎士団長と仲が良かったんだな」
「そうだね。“クソガキ宰相”って呼ばれて疎まれていた僕に唯一優しく接してくれた人さ」
昔を懐かしむような感じで紡がれた言葉。
いつも表情を変えずに皇帝という大物に仕えてきた敏腕宰相は……予想より弱かった。
日常的に向けられる悪意に怯え、助けを待つ少年に過ぎなかった。
でも、そんな彼に手を差し伸べたのはヒナタ=パールという女性騎士だけだったのだ。
きっと彼女だけが心の支えだったに違いない。
そこまで考えたところで、俺は妙な気配が馬車の上空で並走していることに気づく。
「みんなよく聞いて。馬車と並走している奴が空中にいる」
「何だと? それは聞き捨てならないな」
べネック団長の苦々しい声が聞こえてきたと思うと、馬車は道の脇に逸れて急停止した。
すると上空を並走していた怪しい気配も静止し、その場に留まりはじめる。
しばらく空中を旋回し続けたその気配は、突然ダイマスに向かって急降下を始めた。
「ダイマス! 危ない!」
「大丈夫。むしろ僕にとっては喜ばしいものだったから」
ダイマスは意味の分からないことを口走ったと思うと、空に向かって両手を突き上げる。
やがてその手に一羽の鳥が止まった。
しかし、その鳥は普通の鳥ではなく魔力を込めて作られたものなのだろう。
透明で少し輝いていた。
「確かに気配はそれのものだったな。魔力で出来た鳥なんて初めて見たが」
「この鳥はヒナタの能力、【魔力生成】で作られたんだ。そして鳥を作るときは手紙がある」
ダイマスはそう言って鳥の前で指を鳴らした。
すると鳥がゆっくりと消えていき、ダイマスの手には一枚の手紙が残った。
差出人の欄には確かにヒナタ=パールの名がある。
「ねえ、【魔力生成】って何?」
「魔力で色々なものを作れる能力だ。剣でも杖でも作れるから、乱戦時は意外と恐ろしいスキルだぞ」
べネック団長はアリアにそう答えた後、ダイマスの方を向いた。
彼女の顔はなぜか険しい。
「罠の可能性もあるのだから、むやみに受け取るな。必ず私に伝えろ」
「すみません。ただ僕にとっては何度も感じていた懐かしい気配だったので……」
ダイマスは顔を赤くして俯いた。
べネック団長はそんな彼を見てため息をつくと、馬車を指さして指示を出す。
「全員馬車に乗れ! これからヘルシミ王国の王都に向かって出発するぞ!」
「「「「分かりました」」」」
全員の声が揃った。
ちなみにダイマスは秘密で手紙を読み始めたため、何が書かれていたかは知らない。
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