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第二章 第三騎士団、始動
『第二十一話 王への謁見(Ⅱ)』
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しばらく悶々としていたカリスだったが、頼まれた内容を思い出したのだろうか。
背筋を伸ばして深々とお辞儀をしてきた。
「分かりました。ご協力ありがとうございます。引き留めてすみませんでした」
「いいえ。僕は第三騎士団の人間ですので、もし何かあればよろしくお願いしますね」
俺は営業用のスマイルを浮かべて軽く一礼。
先に進んでいるみんなを追う。
副筆頭執事などという中間職だが、こういう微妙とも思える人脈が大事なんだよな。
地位が高い人を一人動かすよりかは、地位がそこそこの人を十人動かすほうが簡単だ。
そんなことを考えていると、みんなが鉄製の扉の前で立っているのを見つけた。
扉から固まった魔力の気配がするから、侵入者防止用の結界が張られているのだろう。
「すぐに結界を解除しますので、しばらく待っていてください」
「分かった。おい、ティッセはどこにいる?」
「ここにいますけど……」
「一番後ろか。王城の中はお前が先頭で進め。突然襲われる可能性もあるからな」
べネック団長の言葉は、なぜか襲われるのを確信しているような口ぶりだった。
それに違和感を覚えたが、団長からの指示なので従うしかない。
やがて魔力の気配が途切れたとき、扉が重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。
「まずは応接室にご案内します。そこで待機していただいて国王の許可を待ってください」
「許可が出たら謁見の間に向かうってことかな?」
ダイマスが後半の言葉を引き継ぐと、アランは正解というように一つ大きく頷いた。
そういうとこはリーデン帝国と同じなんだな。
アランに続いて王城の中に入っていくと、国が豊かであることを示すためであろうか。
想像を絶する金額がするであろう壺や絵画がここぞとばかりに飾られている。
「うわっ……すっごい……」
「あの壺、確か二百万ジルくらいはしたんじゃなかったかな?」
ダイマスがポツリと呟くと、俺を含めた全員が目を見開く。
ジルというのはヘルシミ王国のお金の単位で、パン一切れで百二十ジルだったはずだ。
二百万ジルなんて庶民が半年くらい働いてやっと稼げる金額である。
そんな高価な美術品が十点以上は並んでいるのを見ると、頭が痛くなってくるな。
「応接室も豪華そうね。何かを壊してしまわないか心配だわ」
「出来るだけ動かなければ大丈夫だ。そんなに心配しなくてもいい」
べネック団長が明るく言うが……値段を聞いてしまったらそりゃ心配もするって。
内心ビクビクしながらアランの背中を追っていると、やけに視線が突き刺さってくる。
その多くが敵意に満ちた視線であり、リーデン帝国が嫌われているというのを実感した。
幸いにも襲われることはなかったが。
やがてアランが足を止め、目の前にあった扉を開いて部屋の中を示す。
「ここが応接室になりますのでしばらくお待ちください。すぐにお茶を用意させます」
「お気遣い、感謝します」
何も言わずに部屋に入ってしまったが、背後からイリナの声が聞こえてきてギョッとした。
お礼を言っていないじゃん。
しかし、今さら戻ってお礼を言うのも恥ずかしいので、そのままソファーに体を沈めた。
おお……このソファーも絶対高い。
後から座ったダイマスたちも声には出さないものの、同じことを思っているのだろう。
口元が不自然に緩んでいる。
アランが一礼して部屋の扉を閉めると、予想通り全員が歓喜の声を上げた。
「このソファー、すごいですね。気持ちよくて寝ちゃいそうです」
「そうね。さすが王城っていったところかしら?」
「僕は間違って後ろの美術品を壊さないかが心配だよ。気持ちいいから余計にね」
三人がそれぞれの視点から感想を述べる。
ダイマスが言った美術品を壊さないかについては、俺も密かに危機感を抱いていた。
だって、明らかに高い金の置物とかが置いてあるんだもん。
しばらくソファーの感触を楽しんでいると、ドアが控えめにノックされる音が響いた。
「はい、どなた?」
「メイド長のアルマです。アランさんの指示でお茶をお持ちいたしました」
「分かった。すぐに開ける」
メイドに化けた襲撃者かもしれないと思ったのか、べネック団長が扉を開けた。
開けられた扉から入ってきたのは十代後半くらいの女性で、手にはカップが四つある。
それに気づいた俺は密かに首を傾げた。
この場にいるのは俺、イリナ、アリア、ダイマス、べネック団長で五人である。
明らかにお茶が一つ足りない。
どういう意図があるのかと観察していると、アルマは俺たち四人にだけお茶を出した。
つまりべネック団長にはお茶を出さなかったということだ。
「失礼いたします。どうぞごゆっくりお過ごしください」
「ちょっと待って。どうしてべネック団長のお茶がないのかしら? 嫌がらせのつもり?」
いつになく冷たい声でイリナが問いかける。
形式的に聞いてはいるが、恐らくこの場にいる全員が意図を明白に理解している。
それは、暴虐なリーデン帝国の人間をわざわざ王城に連れてきたべネック団長への非難。
面倒なことに言い訳も簡単だからな。
意図を問われたアルマは、まるでマニュアルを読んでいるかのように無表情で答えた。
「べネック団長は国王様が呼んだ客ではありませんから。あくまで護衛でしょう?」
「……」
そう、べネック団長は確かにリーデン帝国の客ではない。
なぜか隣国で行われたパーティーに参加し、俺たちをスカウトした一人のヘルシミ国民だ。
ゆえにお茶を出す義務はない。
アランの指示は恐らく、『国王様の客人にお茶を出せ』といったニュアンスだったと思うし。
しばらくイリナとアルマが睨み合っていると、横からそのアランが現れた。
「謁見の準備が出来たそうです。謁見室へご案内します」
さあ、いよいよヘルシミ王国を統治する王に謁見する時だっ!
意気込んでいた俺だったが、重要なことを忘れていた。
どうしてみんながリーデン帝国を嫌っていたのかを。
背筋を伸ばして深々とお辞儀をしてきた。
「分かりました。ご協力ありがとうございます。引き留めてすみませんでした」
「いいえ。僕は第三騎士団の人間ですので、もし何かあればよろしくお願いしますね」
俺は営業用のスマイルを浮かべて軽く一礼。
先に進んでいるみんなを追う。
副筆頭執事などという中間職だが、こういう微妙とも思える人脈が大事なんだよな。
地位が高い人を一人動かすよりかは、地位がそこそこの人を十人動かすほうが簡単だ。
そんなことを考えていると、みんなが鉄製の扉の前で立っているのを見つけた。
扉から固まった魔力の気配がするから、侵入者防止用の結界が張られているのだろう。
「すぐに結界を解除しますので、しばらく待っていてください」
「分かった。おい、ティッセはどこにいる?」
「ここにいますけど……」
「一番後ろか。王城の中はお前が先頭で進め。突然襲われる可能性もあるからな」
べネック団長の言葉は、なぜか襲われるのを確信しているような口ぶりだった。
それに違和感を覚えたが、団長からの指示なので従うしかない。
やがて魔力の気配が途切れたとき、扉が重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。
「まずは応接室にご案内します。そこで待機していただいて国王の許可を待ってください」
「許可が出たら謁見の間に向かうってことかな?」
ダイマスが後半の言葉を引き継ぐと、アランは正解というように一つ大きく頷いた。
そういうとこはリーデン帝国と同じなんだな。
アランに続いて王城の中に入っていくと、国が豊かであることを示すためであろうか。
想像を絶する金額がするであろう壺や絵画がここぞとばかりに飾られている。
「うわっ……すっごい……」
「あの壺、確か二百万ジルくらいはしたんじゃなかったかな?」
ダイマスがポツリと呟くと、俺を含めた全員が目を見開く。
ジルというのはヘルシミ王国のお金の単位で、パン一切れで百二十ジルだったはずだ。
二百万ジルなんて庶民が半年くらい働いてやっと稼げる金額である。
そんな高価な美術品が十点以上は並んでいるのを見ると、頭が痛くなってくるな。
「応接室も豪華そうね。何かを壊してしまわないか心配だわ」
「出来るだけ動かなければ大丈夫だ。そんなに心配しなくてもいい」
べネック団長が明るく言うが……値段を聞いてしまったらそりゃ心配もするって。
内心ビクビクしながらアランの背中を追っていると、やけに視線が突き刺さってくる。
その多くが敵意に満ちた視線であり、リーデン帝国が嫌われているというのを実感した。
幸いにも襲われることはなかったが。
やがてアランが足を止め、目の前にあった扉を開いて部屋の中を示す。
「ここが応接室になりますのでしばらくお待ちください。すぐにお茶を用意させます」
「お気遣い、感謝します」
何も言わずに部屋に入ってしまったが、背後からイリナの声が聞こえてきてギョッとした。
お礼を言っていないじゃん。
しかし、今さら戻ってお礼を言うのも恥ずかしいので、そのままソファーに体を沈めた。
おお……このソファーも絶対高い。
後から座ったダイマスたちも声には出さないものの、同じことを思っているのだろう。
口元が不自然に緩んでいる。
アランが一礼して部屋の扉を閉めると、予想通り全員が歓喜の声を上げた。
「このソファー、すごいですね。気持ちよくて寝ちゃいそうです」
「そうね。さすが王城っていったところかしら?」
「僕は間違って後ろの美術品を壊さないかが心配だよ。気持ちいいから余計にね」
三人がそれぞれの視点から感想を述べる。
ダイマスが言った美術品を壊さないかについては、俺も密かに危機感を抱いていた。
だって、明らかに高い金の置物とかが置いてあるんだもん。
しばらくソファーの感触を楽しんでいると、ドアが控えめにノックされる音が響いた。
「はい、どなた?」
「メイド長のアルマです。アランさんの指示でお茶をお持ちいたしました」
「分かった。すぐに開ける」
メイドに化けた襲撃者かもしれないと思ったのか、べネック団長が扉を開けた。
開けられた扉から入ってきたのは十代後半くらいの女性で、手にはカップが四つある。
それに気づいた俺は密かに首を傾げた。
この場にいるのは俺、イリナ、アリア、ダイマス、べネック団長で五人である。
明らかにお茶が一つ足りない。
どういう意図があるのかと観察していると、アルマは俺たち四人にだけお茶を出した。
つまりべネック団長にはお茶を出さなかったということだ。
「失礼いたします。どうぞごゆっくりお過ごしください」
「ちょっと待って。どうしてべネック団長のお茶がないのかしら? 嫌がらせのつもり?」
いつになく冷たい声でイリナが問いかける。
形式的に聞いてはいるが、恐らくこの場にいる全員が意図を明白に理解している。
それは、暴虐なリーデン帝国の人間をわざわざ王城に連れてきたべネック団長への非難。
面倒なことに言い訳も簡単だからな。
意図を問われたアルマは、まるでマニュアルを読んでいるかのように無表情で答えた。
「べネック団長は国王様が呼んだ客ではありませんから。あくまで護衛でしょう?」
「……」
そう、べネック団長は確かにリーデン帝国の客ではない。
なぜか隣国で行われたパーティーに参加し、俺たちをスカウトした一人のヘルシミ国民だ。
ゆえにお茶を出す義務はない。
アランの指示は恐らく、『国王様の客人にお茶を出せ』といったニュアンスだったと思うし。
しばらくイリナとアルマが睨み合っていると、横からそのアランが現れた。
「謁見の準備が出来たそうです。謁見室へご案内します」
さあ、いよいよヘルシミ王国を統治する王に謁見する時だっ!
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