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第二章 第三騎士団、始動
『第二十二話 王への謁見(Ⅲ)』
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アランに案内されて到着した謁見の間は、まさに豪華という言葉を体現した空間であった。
壁には趣向を凝らした絵が描かれており、天井にはシャンデリアが吊られている。
正直、扉の前で入るのを躊躇しちゃったわ。
「どうぞ、お入りください」
「失礼いたします。しかし俺たちから没収しなくていいんですか?」
べネック団長が既に入室しているが、俺はわざと聞いてみた。
アランは少なくとも悪い人ではなさそうだし、重要なことを忘れてクビになってほしくない。
そう思っての質問だったのだが、アランは意味深な笑みを浮かべて室内を示す。
これは何かあるな。
気を引き締めながら室内に足を踏み入れると、集まっている貴族たちが表情を険しくした。
感覚だけで歓迎されていないのが分かる。
前に進むほど高位の貴族がいるのであろうが、そちらは冷静な表情を崩していない。
つまり、俺たちを嫌っているのは大半が下級貴族ってことか。
王城のメイドは下級貴族の令嬢が多いって話を聞いたことがあるし、そのせいだろう。
「はあ……マジで前途多難だな」
一人でぼやいていると、こちらをじっくりと観察するような視線を感じる。
部屋を見回すと、一段ほど高い位置に座っている大柄な老人がこちらを凝視していた。
もちろん、その老人の正体はヘルシミ王国の第二十三代国王、ヴィル=ヘルシミであろう。
王冠の下にある髪は銀色に輝いており、鋭く細められた瞳は深い緑色をしていた。
随分と元気そうだが、今年で七十を超えるんじゃなかったっけ。
全員が一礼してから地面に片膝をついたとき、低く重みのある声が謁見の間に響く。
「そなたたちが第三騎士団にスカウトされたという者どもか。なかなか良い顔つきじゃ」
「はっ、ありがたき幸せ」
ダイマスが緊張したように発言すると、横から怒気を含んだ声が横槍を入れてきた。
身なりなどからして皇帝の近衛騎士か。
座っていた椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がると、俺たちを侮蔑の表情で見つめる。
「誰の許可を得て発言しているのだ!? 場をわきまえろ!」
「僭越ながら申し上げます。ヘルシミ国王様のお言葉に返答しない方が不自然かと」
近衛騎士に反論したのはアリアだ。
普段は大人しい彼女だが、このような時には真っ先に反論する負けず嫌いな性格である。
しかし、この場では逆効果なんだよなぁ。
「なっ……あの野蛮な国、リーデン帝国から来た分際でこの私に歯向かう気か!?」
「私は当然のことを言っているだけですが」
「イザべラ、少し落ち着かんか。この者たちは儂の客人だ。意味は分かるな」
ウィル国王が窘めると、イザベラさんは苦い顔をしながらも無言で椅子に座り直す。
国王が呼んだ客に無礼を働くわけにもいかないもんな。
これで終わりかと思っていたが、ウィル国王はしばらく顎に手を当てて虚空を睨んでいる。
何か……嫌な予感がするのは俺だけ?
「儂は別に何も思っておらぬが……この場にも彼らを嫌う者がたくさんいるんだったな?」
「ええ。私のような感情を抱いている者の方が多数派かと」
「ならば剣の打ち合いをしてみるといい。昔から心を通じ合わせるには剣だと言うからな」
ヴィル国王がそう言った途端、貴族に扮していたのであろう兵士たちが一斉に剣を抜いた。
その数、およそ四百。
シャンデリアの光に照らされて鈍い銀色に光る刃の数が、俺たちに危機感を抱かせる。
おいおい、俺たちに不満を持っている奴がこんなに!?
この数はさすがに予想外だったのか、ヴィル国王が一瞬だけ眉をひそめた。
今まで表情を崩さなかったヴィル国王が初めて見せた隙にべネック団長が付け込む。
団長としては、危険すぎるこの状況を見過ごすわけにはいかなかったのかもしれないが。
「ちょっと多すぎませんか!? 私たちのメンバーには精霊使いがいるんですよ!?」
「しかもこのような場所で真剣を使うのは危険だと考えますが!」
この機を逃すまいと、ダイマスが慌てて援護を出す。
体力が少ない彼にとっては、こんなに多数の騎士を相手にするのは骨が折れるだろう。
しかし現実はいつだって無常である。
「お願いがございます。この戦いを賭けといたしたく存じます」
なんとイザベルがべネック団長を隠すような位置に立ち、深く頭を下げたのだ。
しかし賭けとはどういうことだ?
一人で首を傾げていると、隣で片膝をついているイリナが小さく舌打ちをした。
まさか彼女の意図に気づいたのか?
状況を把握しているであろうイリナに尋ねるよりワンテンポ速く、イザベルが言葉を続ける。
「この戦いで我が騎士団の半数が壊滅すれば、私たちも第三騎士団を認めましょう」
「ほう。では状況を満たせない場合はどうしてもらうつもりだ?」
べネック団長が挑発するように問いかける。
イザベラは一瞬だけ静止したかと思うと、ゆっくりと振り返ってべネック団長と相対した。
「あなたたちをヘルシミ王国から永久追放とします。第三騎士団は即刻廃止!」
顔を狂気に歪めたイザベラが高らかに宣言した。
その瞬間、謁見の間の空気が凍り付く。
そりゃそうだろうな、というのが俺の正直な感想だ。
いっそ清々しいまでにイザベラたちに有利な条件を設定してきたからな。
呆れて言葉も出ない。
さすがにこの条件は認めないだろうと思ってヴィル国王を見ると、苦い表情をしている。
黒い笑みを浮かべるイザベルが国王の肩を叩く。
決闘という話から続く風向きの悪さを感じていると、ダイマスが呆れたように口を開いた。
「対等な条件とは言えないけど……あなたは承諾するしかないんじゃないですか?」
「ぐぬぬっ……事実ゆえ腹が立つが認めるしかない。これより決闘を始める!」
ヴィル国王が半ばヤケクソ気味に合図を出した。
おいぃぃぃ!? ヘルシミ王国の国王としての威厳はどこにいった!?
どうやら弱みでも握られているらしいと嘆息しつつ、向かってくる敵兵を睨みつける。
なるほど、剣を没収しなかったのはこのためか。
恐らく、アランはヘルシミ国王が決闘を提案することを見越していたのであろう。
「第三騎士団員に告ぐ。この場は私が指揮を執る。総員、剣を抜いて厳戒態勢を整えろ」
「分かりました」
こうして、べネック団長率いる第三騎士団とイザベラ率いる近衛騎士団の戦いが始まる。
壁には趣向を凝らした絵が描かれており、天井にはシャンデリアが吊られている。
正直、扉の前で入るのを躊躇しちゃったわ。
「どうぞ、お入りください」
「失礼いたします。しかし俺たちから没収しなくていいんですか?」
べネック団長が既に入室しているが、俺はわざと聞いてみた。
アランは少なくとも悪い人ではなさそうだし、重要なことを忘れてクビになってほしくない。
そう思っての質問だったのだが、アランは意味深な笑みを浮かべて室内を示す。
これは何かあるな。
気を引き締めながら室内に足を踏み入れると、集まっている貴族たちが表情を険しくした。
感覚だけで歓迎されていないのが分かる。
前に進むほど高位の貴族がいるのであろうが、そちらは冷静な表情を崩していない。
つまり、俺たちを嫌っているのは大半が下級貴族ってことか。
王城のメイドは下級貴族の令嬢が多いって話を聞いたことがあるし、そのせいだろう。
「はあ……マジで前途多難だな」
一人でぼやいていると、こちらをじっくりと観察するような視線を感じる。
部屋を見回すと、一段ほど高い位置に座っている大柄な老人がこちらを凝視していた。
もちろん、その老人の正体はヘルシミ王国の第二十三代国王、ヴィル=ヘルシミであろう。
王冠の下にある髪は銀色に輝いており、鋭く細められた瞳は深い緑色をしていた。
随分と元気そうだが、今年で七十を超えるんじゃなかったっけ。
全員が一礼してから地面に片膝をついたとき、低く重みのある声が謁見の間に響く。
「そなたたちが第三騎士団にスカウトされたという者どもか。なかなか良い顔つきじゃ」
「はっ、ありがたき幸せ」
ダイマスが緊張したように発言すると、横から怒気を含んだ声が横槍を入れてきた。
身なりなどからして皇帝の近衛騎士か。
座っていた椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がると、俺たちを侮蔑の表情で見つめる。
「誰の許可を得て発言しているのだ!? 場をわきまえろ!」
「僭越ながら申し上げます。ヘルシミ国王様のお言葉に返答しない方が不自然かと」
近衛騎士に反論したのはアリアだ。
普段は大人しい彼女だが、このような時には真っ先に反論する負けず嫌いな性格である。
しかし、この場では逆効果なんだよなぁ。
「なっ……あの野蛮な国、リーデン帝国から来た分際でこの私に歯向かう気か!?」
「私は当然のことを言っているだけですが」
「イザべラ、少し落ち着かんか。この者たちは儂の客人だ。意味は分かるな」
ウィル国王が窘めると、イザベラさんは苦い顔をしながらも無言で椅子に座り直す。
国王が呼んだ客に無礼を働くわけにもいかないもんな。
これで終わりかと思っていたが、ウィル国王はしばらく顎に手を当てて虚空を睨んでいる。
何か……嫌な予感がするのは俺だけ?
「儂は別に何も思っておらぬが……この場にも彼らを嫌う者がたくさんいるんだったな?」
「ええ。私のような感情を抱いている者の方が多数派かと」
「ならば剣の打ち合いをしてみるといい。昔から心を通じ合わせるには剣だと言うからな」
ヴィル国王がそう言った途端、貴族に扮していたのであろう兵士たちが一斉に剣を抜いた。
その数、およそ四百。
シャンデリアの光に照らされて鈍い銀色に光る刃の数が、俺たちに危機感を抱かせる。
おいおい、俺たちに不満を持っている奴がこんなに!?
この数はさすがに予想外だったのか、ヴィル国王が一瞬だけ眉をひそめた。
今まで表情を崩さなかったヴィル国王が初めて見せた隙にべネック団長が付け込む。
団長としては、危険すぎるこの状況を見過ごすわけにはいかなかったのかもしれないが。
「ちょっと多すぎませんか!? 私たちのメンバーには精霊使いがいるんですよ!?」
「しかもこのような場所で真剣を使うのは危険だと考えますが!」
この機を逃すまいと、ダイマスが慌てて援護を出す。
体力が少ない彼にとっては、こんなに多数の騎士を相手にするのは骨が折れるだろう。
しかし現実はいつだって無常である。
「お願いがございます。この戦いを賭けといたしたく存じます」
なんとイザベルがべネック団長を隠すような位置に立ち、深く頭を下げたのだ。
しかし賭けとはどういうことだ?
一人で首を傾げていると、隣で片膝をついているイリナが小さく舌打ちをした。
まさか彼女の意図に気づいたのか?
状況を把握しているであろうイリナに尋ねるよりワンテンポ速く、イザベルが言葉を続ける。
「この戦いで我が騎士団の半数が壊滅すれば、私たちも第三騎士団を認めましょう」
「ほう。では状況を満たせない場合はどうしてもらうつもりだ?」
べネック団長が挑発するように問いかける。
イザベラは一瞬だけ静止したかと思うと、ゆっくりと振り返ってべネック団長と相対した。
「あなたたちをヘルシミ王国から永久追放とします。第三騎士団は即刻廃止!」
顔を狂気に歪めたイザベラが高らかに宣言した。
その瞬間、謁見の間の空気が凍り付く。
そりゃそうだろうな、というのが俺の正直な感想だ。
いっそ清々しいまでにイザベラたちに有利な条件を設定してきたからな。
呆れて言葉も出ない。
さすがにこの条件は認めないだろうと思ってヴィル国王を見ると、苦い表情をしている。
黒い笑みを浮かべるイザベルが国王の肩を叩く。
決闘という話から続く風向きの悪さを感じていると、ダイマスが呆れたように口を開いた。
「対等な条件とは言えないけど……あなたは承諾するしかないんじゃないですか?」
「ぐぬぬっ……事実ゆえ腹が立つが認めるしかない。これより決闘を始める!」
ヴィル国王が半ばヤケクソ気味に合図を出した。
おいぃぃぃ!? ヘルシミ王国の国王としての威厳はどこにいった!?
どうやら弱みでも握られているらしいと嘆息しつつ、向かってくる敵兵を睨みつける。
なるほど、剣を没収しなかったのはこのためか。
恐らく、アランはヘルシミ国王が決闘を提案することを見越していたのであろう。
「第三騎士団員に告ぐ。この場は私が指揮を執る。総員、剣を抜いて厳戒態勢を整えろ」
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