成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜

銀雪

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第二章 第三騎士団、始動

『第二十四話 王への謁見(Ⅴ)――アリア視点』

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 ティッセさんの瞳はどこを見ているのだろう。
 イリナお姉ちゃんがルイザとかいう大男に肩を砕かれたとき、ティッセさんは少し笑った。
 しかし面白がっていたわけではない。
 目の焦点は定まっておらず、数秒後には怒りの炎をその虚ろな目に宿していた。

「マズいな……本人は無自覚なのが痛い」
「どういうことです?」
「ティッセが怒りに支配されている。今のアイツは復讐のことしか考えていないだろう」

 剣を振りながらべネック団長が歯噛みした。
 今も、敵兵たちはひっきりなしにべネック団長を倒さんと向かってきている。

「私はいいからアリアはティッセを見ておけ!」
「分かりました!」

 べネック団長からの指示を受けた私はティッセさんの方向を見やる。
 結界を壊し終えたティッセさんは、火の精霊に魔力を流しながら敵の様子を伺っていた。
 まさか……敵を燃やす気なの!?

 彼の怒りを鎮められるのはイリナお姉ちゃんだけだろうが、肩の痛みに悶絶している。
 その肩は不自然に垂れ下がっているし……説得は不可能だわ。

「私がどうにかしなきゃ……。でも私にティッセさんを助けることができるの?」

 ただの精霊使いの私に。
『緋色の魔剣士』と呼ばれるティッセさんの行動を止められる方法があるのだろうか。
 いや……私にも二つ名があったな。

「アリア、ティッセは恐らく最高クラスの火魔法を放つ気だろう。対策をお願いできるか?」
「任せてください。だって私は『精霊使いの女帝』ですから」

 私は真剣な表情で頷く。
 ちなみに普通の精霊使いは、五体もの精霊を一気に捕まえることは出来ないらしい。
 でも私なら捕まえることができる。

 とある冒険者にその秘密を知られてからつけられた二つ名が『精霊使いの女帝』である。
 今こそ、その能力をフル活用する時だろう。

 このままティッセさんがイザベラやルイザを燃やしても、イリナお姉ちゃんは喜ばない。
 むしろ、“私の不注意でティッセさんを復讐の道に進ませてしまった”と気に病むはずだ。
 そしてティッセさんも後悔する。

 近衛騎士を燃やしてしまったら、当然ながらヘルシミ王国にはいられないだろう。
 そうするとティッセさんのせいで追い出されたということになってしまう。

「私がそんな悲劇にはさせない」

 自分を鼓舞するように決意を声に出し、とある精霊に魔力を注いでいく。
 ティッセさんは本当に復讐することしか考えていないのか、私の行動には気づかなかった。
 そして火の精霊が十分な魔力を受け取る。

「精霊よ、我の求めに応じて全員を燃やしつくせ。【獄炎地獄】!」
「やっぱり後のことを考えていないわ。精霊よ、私の求めに応じて火を鎮火せよ。【大波】」

 私が放った水魔法が、ティッセさんの放った火魔法を打ち消す。
 とりあえず最悪の事態は回避できたわね。
 安堵のため息をつくと、背後から背筋が凍るような殺気を感じた。

 恐る恐る振り向くと、ティッセさんが悪魔のような形相で私を睨んでいるのに気づく。
 私、殺されるんじゃないかな?

「どうして俺の攻撃を消した!? こいつらはイリナを……お前の姉を害したんだぞ!?」
「分かっているわ。私だって今すぐ消してやりたい。でも、燃やすのは違う」

 私はゆっくりと時間をかけて自分の思いを伝える。
 どれだけの言葉が、復讐の炎を燃やし続けているティッセさんに届くかは分からないけど。

「これはあくまで模擬戦。だったら私たちもやり返せばいいのよ」
「意味が分からないな。結局、やり返すのならば燃やしてやっても同じじゃないか」
「精霊よ、私の求めに応じて氷の弾を放て。【アイス・ボール】」

 私が作り出した氷の弾は猛スピードで進んでいき、イザベラの肩に直撃した。
 実行犯のルイザに放ったと思っていたのだろう。
 イザベラは無抵抗で氷の弾を受けたことで肩を負傷し、その場で転がりながら悶絶する。
 結構痛いはずなのに悲鳴を上げないところは、さすが近衛騎士ね。

「これがやり返すってことです。それと目的を思い出してください。目的は何でしたっけ?」
「そうか……騎士として認めてもらうこと……」
「正解です。あなたが兵士を燃やしたら、兵士を殺さないようにしていた努力も無駄です」

 イリナお姉ちゃんの努力もですよ、と付け加える。
 私の説得が響いたのか、ティッセさんは真剣な表情のままルイザに向き合った。
 そして堂々と宣言してみせる。

「大切な仲間の努力を無駄にしようとした俺はバカだ。だから次は絶対に失敗しない」
「いい心掛けだ。私の隊員をあわや戦闘不能にさせようとした罪は大きい。覚悟しろ」

 べネック団長も珍しく怒りの形相をしている。
 それほどルイザの攻撃は強かったし、もしかしたら今後は剣を握れなくなるかもしれない。

 そんなの……あんまりだよ。

 イリナお姉ちゃんは誰よりも剣術を頑張っていたし、能力も剣に関係するものだ。
 だから私はルイザを絶対に許さない。

「最終決戦を始めましょうか。今まで倒した兵士は百九十九人。あなたを倒せばちょうど半分です」

 こうして、私たちとルイザの最終決戦が始まった。
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