転生王子の奮闘記

銀雪

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第1章  王子の変化と王城を襲う陰謀

『26、お披露目パーティー⑦~足手まといのクソ王子?~』

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「グッ・・・まさかこの結界を壊すなんて・・・」
みんなの後ろに隠れる事しかできない俺は、パープルズを睨めつける。
剣もあまり使えない。魔法も使えない。完全にこのメンバーの中じゃ足手まとい。

だからこそ数で勝負することにしたのだろう。

常に気を配っていないと、いつどこから刺客が来るのか分からないから。
戦っていたら、いつの間にか仲間が捕まっていたなんてことも大いにあり得るのだ。

つまり、戦ってくれている6人は、俺を常に気にしながら戦わなきゃいけないということ。
せめてこの黒い風を壊して逃げられれば、みんなが戦いに集中できるのに。
恨めし気に見つめる間にも戦況は悪化していく。

オークの脂で剣が滑り、ラオン公爵が一時撤退を余儀なくされる。
魔力が切れてきたのか、アリナお姉さまが顔を歪めた。
アスネお姉さまは精神面での摩耗が酷いのか、息も絶え絶えといった感じ。
魔物の血や死骸からあからさまに目をそらしている。

確かに見慣れていない人からしたら辛い光景だ。かくいう俺も辛い。
あたりを生臭い匂いが漂っているのは勘弁してほしいのだが。
黒い風のおかげで風は来るが、所詮、密閉空間。
むしろ匂いを広げてしまっている。

戦いに話を戻そう。今、まともに戦えているのは3人だけ。
元冒険者で弓矢使いだったらしきマリサさんと、魔法主体で戦う両親。

だが、もうすぐでマリサさんの矢が切れるだろう。
そうなったら戦線を離脱するしかないため、両親しか残らない。
ラオン公爵は脂が予想以上にねちっこく、ふき取るのに大苦戦している。

対する魔物側は魔法陣からの無限ともいえる召喚により、常に100匹以上をキープ中。
結界を張って回復しようにも、攻撃一発で沈む結界なんて役に立たない。
これ・・・詰んでいるんじゃ・・・?
そんな絶望を表情から察したのか、パープルズが醜く笑う。

「フハハハハ!その顔だよ!クソ王子が絶望の淵に沈んだその顔が見たかったんだ!」
「絶望の淵に沈んだですか・・・今回ばかりは反論のしようがありませんね」
弱々しく笑う俺に驚愕の視線を向ける7人。

悔しいけど全て真実だ。俺を守るために余計な神経を尖らせて、消耗して・・・。
俺がいなければ、簡単に突破できるものを・・・。
みんなが指示する側は向いていないと言うのはこういうことだったのだろう。

肝心な時に役立たずで、みんなを危険に晒す大将なんて論外。
大将というのは、いつでも堂々としていて、みんなを守ってあげられる人物だ。
そして、責任を負う覚悟をもつ者がなる立場だ。
俺みたいな奴がなりたいなんて言っちゃダメだったんだな・・・。

「ムゥ・・・随分とあっさり認めたもんだな・・・」
「全て事実ですから。偉そうなことを言っていても、僕は何もできない足手まとい。現にこうして家族と友達の一家を危険に晒しています」
両手を大きく広げ、ちっぽけで全く役に立たない体を見せつける。
母上が顔を歪め、俺とパープルズの間に立ちふさがった。

突然、右の頬に衝撃が走り、一拍遅れて叩かれたのだと気づく。
そちらに視線を向けると、アリナお姉さまが目に涙を浮かべながらこちらを睨んでいた。
「私は・・・いや、私たちはリレンを足手まといなんて思ってない!勝手に・・・」
後は言葉にならない嗚咽が響く。二の句を継いだのはアスネお姉さまだった。

「勝手に足手まといなんて思わないで!あなたは大切な弟よ!年上が年下を守ってあげるのは当然のことじゃない?それを足手まといだなんて・・・バカにしているのかしら?」
顔を青ざめさせながらも怒鳴る。お姉さまたちからの本気の叱責だった。
両親以外で、本気で心身になって接してくれる人たちに初めて会った俺。
その人たちからの叱責は、新鮮で、温かくて、・・・嬉しかった。

俺は取り止めとなく溢れてくる涙を袖口で拭き、腰から短剣を抜く。
真っすぐに魔物たちを睨みつけ、父上の背後を狙わんとするゴブリンを切り捨てる。
「こんな僕でも大切に思ってくれている人がいた。その人たちを黙って殺させるわけにはいかない!二ノ型、雷電斬!」
ゴブリンを倒した俺は最前列に立ち、パープルズと対峙する。
さながら劇のような展開だなと苦笑した。

「厄介だねぇ・・・邪魔な女たちのせいで、絶望の表情が消えちまったじゃねぇか」
「僕の姉たちに随分な口調だね。僕はもう折れないよ?信頼してくれている人たちを見過ごすわけにはいかないから。いざ、尋常に勝負!」
「フフッ、面白い。そういうのは嫌いじゃないぜ。ならば本気で行かせてもらおう!」

その言葉と同時に、あれだけいた魔物が全て消滅した。
床を見てみれば、魔法陣もきれいさっぱり無くなっている。

誰もいなくなった空間を走り、物凄い速さで接近してくるパープルズ。
あいつも魔装を使えるのかよ・・・。
力勝負になったら必ず押し切られる。近づかれたら負けだ。

「近づけるもんか!三ノ型、飛翔燕!」
横方向の斬撃を飛ばす技で応戦するも、最小限の動きで避けられていく。
俺が現段階で発動できる最高クラスの型なのに!

「斬撃が甘すぎる!四ノ型、闇の漸髄!」
「マズイ・・・二ノ型、流破取り」
闇の魔力が浸透し、黒くなった刀身を大きく振りかぶってくる。
間一髪で、受け流すことに特化した型を出して相殺に成功。力勝負は徹底的に避ける!
そのままの勢いで相手の胸を狙って一撃。

「胸ががら空きですよ?三ノ型、白薔薇」
薔薇のように相手を光に包み込む技であり、まだ魔法が使えない俺は習得に苦労した。
闇魔法が主体のパープルズにならきっと効くはず!

そう思ったのだが、するりと避けられて誰もいない空間に一輪の白薔薇が咲く。
げ、光でパープルズが見えない!どこ行った!?

「背中ががら空きなんだよ!これで終わりだ!五ノ型、正義の鉄槌!」
「そっちでしたか・・・結界」
背中に斬りかかろうとしていたパープルズの攻撃を虹色の結界が弾く。
もちろん、白薔薇の強い光を利用させてもらった。
光の強度が結界の強さに関係しているのか、今度の結界は割れない。

「グッ・・・さっきと違って割れないではないか・・・」
「これで終わりです!三ノ型、青の波」
青の波は魔力を込めて攻撃する技である。

魔力が入った剣身は青く光り、波打つことからこの技名がついたのだそう。
結界を壊そうと躍起になっているところを強力な一撃で沈めるのだ。
目論見通り、パープルズはがら空きだった胸をザックリと斬られ地に伏した。

俺はゆっくりと短剣を鞘にしまい、俺たちと会場を仕切っていた黒い風を見つめる。
段々と威力が弱まっているそれは1分ほどで消滅し、騎士たちがなだれ込んできた。
フォルス家の面々は念のためということで医務室に送っておく。

「皆さま、大丈夫ですか?」
敬礼しながらフェブアー騎士団長が尋ねてきた。

「大丈夫だよ。そいつが今回の・・・全ての事件の主犯だね」
「な!?パープルズ元宰相じゃないですか!何でこんな事を!」
「それは父上に聞いて。一言で言うと追放された恨みかな?」
いちいち説明するのも面倒だ。

そう言うとフェブアー騎士団長が顔を顰め、パープルズの捕縛に入った。
「ねえ、あの剣技は何?いつの間にあんな技を?」
「ああ、命を狙われていると知ってから毎朝練習してたんだ」
「へぇ・・・私も練習しようかな・・・私は剣が苦手だし・・・」
アリナお姉さまが羨ましそうな声で呟く。

「今度、一緒に練習する?」
「うん!ありがとう、私の優しい弟、リレン」
「もう!アリナばかりズルい!私も一緒にやっていい?」

会話を聞きつけたアスネお姉さまが頬を膨らませながらやってきた。
「いいよ。3人で一緒にやろっか」
こうして、お姉さまたちの笑顔と共に、お披露目パーティーは終幕を迎えた。

・・・この時、俺はもう1人の存在を完全に忘れていたが。
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