転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『35、カルスと一緒に』

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誤解されるのはかなりマズイな。話題の変換を試みるか。
「いえ。ふと資料を見ていたら、ここが気になったものですから」
そう言って資料の一角を指さす。
不自然に間が開いた枠は、ヂーク郡の資料にしては雑な気がした。

「ああ・・・ディッセがついていながらこれは不自然だな。何なのだ?この間は?」
「ディッセというのが優秀な配下の名なのですね。ここに秘密がありそうですが」

薄っすらと魔法陣のようなものが書かれているのだが、俺では解読不能。
そこから考えるに古代魔法と呼ばれる昔の魔法形式で書かれたものなのだろう。
古代魔法はまだ教えてもらってない。

「魔法陣か・・・。この形態から古代魔法だな。マークに解読を依頼するか」
「そうですね。次の会議が出発前最後の会議となりそうです。重要な資料は一通り作っておきますから、同行者を紹介してください」

同行者と事前に顔合わせくらいはしておきたい。
馬車で何日も一緒になるのだから、気まずいのは嫌だし。

「分かった。次の会議の際に連れて来よう。資料は頼んだぞ」
「任せてください」
胸を張りつつ、紅茶を飲み干して執務室を出る。
部屋に戻り、資料を複製するための魔導具を操作していると、カルスが入ってきた。

「あ、カルス。本当に茶葉を変えてくれたんだ。美味しかったけど、やっぱりカルスが淹れてくれたお茶には遠く及ばないね」
本当に嬉しかったため、満面の笑みとなっていただろう。
カルスも、同じように微笑みを浮かべた。

「そうですか。また機会があれば入れて差し上げますよ」
「フフッ、色々ありがとう」
俺は作った資料を手早くまとめながら、部屋の中を見回した。
資料を片付ける場所に目星をつけているのだ。

下手なところにしまっておくと、散らかる上に盗られる危険性が高まる。
あのダッシュボードの中なんかはいいかもしれない。
そう思い、結局ダッシュボードの引き出しに資料をしまうと、懐中時計を開く。

「16鐘か・・・。夜ご飯まで2鐘くらいあるね。何しようかなぁ」
普段ならこの時間を利用してミラさんによる授業が行われるのだが、今日は出張でいない。
訓練しようにも教師役のフェブアーは風邪でダウン中。

今更、勉強や訓練をする気にはなれない。
何もしないというのも2刻を潰すにはいささか物足りない気がする。
いっそのこと昼寝でもするかと寝室を覗いていると、とびっきりの物があることに気づいた。

「そうだった。カルスとゲームをしようと思ってたんだ。確かこっちに・・・」
寝室のクローゼットを開くと目的のゲームを見つけ、1枚の板を持って居間に戻る。
先日、父上から王城への献上品として奉納されたのを貰ったのだ。

「これはリバーシっていうゲームだよ。最近、発売されたみたいだね」
板には高級そうな模様がいくつも入っており素材も手触りが良い。
高級品であることが一発で分かるリバーシは、前世から慣れ親しんだゲーム。
カルスとやるにはちょうど良いゲームだと思っていたのだ。

「献上品でしたか・・・装飾が綺麗で高級そうなのはだからだったのですね」
「そうみたい。こういうの、タダで貰えちゃうんだってビックリしたよ」
献上ということはタダで貰うということ。

この部屋に移してきた魔導具にしても、リバーシにしても、高額であることは間違いない。
それをホイホイと貰うのは忍びないというか何というか・・・。
微妙な表情から察したのだろう。カルスが微笑んだ。

「いいですか?献上品はいわばお礼と担保です。“今まで守ってくれてありがとう”という気持ちと、“これからも守ってください”という意味が込められているのですよ」
「そうなんだ。じゃあそれを突っぱねるのは・・・」
「ええ、お礼はともかくとして、“これからは守らないぞ”と言っているのと同義になります」

献上品にも色々な意味が込められているんだな・・・。
知らなかったら将来、献上品を突っぱねるところだったじゃないか。
危ない危ない。やっぱり確認は大事だよ。

「じゃあ、ありがたく遊ばせてもらおうか」
「そうですね。リレン様とゲームなどしたことがないので楽しみです」
確かに、カルスとゲームをしたことは一度もない。
お姉さまたちとも1回だけしかないし・・・俺、この世界に来てから意外と遊んでいないな。
この事件が解決したら思いっきり遊ぼう。

決意した俺はリバーシのルールをカルスに教えながらプレイする。
時間も忘れて熱中していると時間が過ぎるのは早いもので、あっという間に2刻が経った。
カルスは覚えも尋常じゃないほど早くて、俺は3回ほど負けてしまった。
・・・覚えたての人に負けるのってすっごく悔しいんだけど。

その時、懐中時計が籠もった音を立てた。懐中時計のタイマー機能である。
もう夕食の時間になってしまったのか。俺はタイマーを止めるために書斎へ向かう。
もの寂しい気持ちでタイマーを止めると、夕食を食べに食堂へ出発した。
夕食を終えると、俺はお風呂に入ることになる。

これが毎日楽しみでしょうがない。やっぱり日本人といったらお風呂でしょ!
王城のお風呂は、大理石と思われる白い石がふんだんに使われている。
綺麗に磨きこまれた床は光を反射して光っており、転ばないかとヒヤヒヤしてしまう。

さらに下手な大浴場よりもよっぽど広く、50人くらいは余裕で入れそうなほど大きい。
完璧なザ・風呂!俺が求めていた究極の風呂がこれだよ!
幸いにも俺は魔法が使えるので、湯加減を自由に調整できる。
つまり、いつでも自分好みの風呂に入れるという訳だ。

「はぁ・・・極楽・・・。やっぱりお風呂はいいねぇ」
湯船の真ん中に陣取りながら、感嘆の息を漏らす。
温かいお湯を堪能していると扉がガラッと開き、控えめな声が響いてきた。

「あの・・・私もご一緒してよろしいでしょうか?」
部屋を覆っている湯気で顔が見えないが、声からしてカルスか。
「いいけど・・・今日はどうして一緒に入ろうと?」
カルスはいつも俺が寝た後に入っており、一緒に入ったことは無い。
どんな心境の変化があったのだろうか。

それから5分ほど体を洗う水の音が聞こえてきていたが、それが突然ピタリと止む。
立ち込める湯気の中から現れたカルスが湯船の縁で土下座を始めた。

「リレン様!失礼ながら、お願いがございます!」
「うわっ!?突然どうしたの?」
「今度の領地巡りの儀式に私も連れて行ってください!お願いします」

お風呂で土下座をするくらいだ。
どんなお願い事がくるのだろうと身構えていた俺に突き付けられたカルスの願い。
それはあまりにもあっけないものだった。

「いや・・・心配しなくともカルスはもともと連れていくつもりだったよ?」
「そうなのですか?置いていかれるのではないかと心配で」

おい・・・俺がカルスを置いていくわけないだろ。
帳簿の確認とか色々やってもらいたいことがあるんだから。
カルスがいれば俺も安心だし、美味しいお茶も飲める。
むしろ置いていくメリットがない。

「大丈夫。それは無いから心配しないで」
そう言って微笑むと、カルスは感極まったのか、涙を流し始めた。
そんなカルスを宥めながら風呂から上がり、ベッドに入る。
そこであることに気づいてしまった。

「カルス、お休み。あ・・・リバーシをしまうの忘れた・・・」
細かいことを気にしているとは分かっているが、それが俺の欠点なのだ。
カルスは予想通り苦笑いしていた。

「私がしまっておきますから、リレン様はお休みになって下さい」
「分かった。よろしく」
そう言い残して目を閉じると、すぐに意識は夢の世界に旅立った。

今日はいい夢を見れそうだな・・・。不思議とそう思えた。
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