転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『52、本戦ⅰ~スニアVSテミッド・ベネット・フェブアー~』

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「では、これより領主付き執事、スニアの断罪会を始める」
処罰会議から断罪会と名前を変えた会議に、スニアは苛立ちを隠そうともしない。

「おい・・・俺を断罪とはどういうことだ?」
「そのままの意味です。まずは財務部長のテミッド、証言台へ」

セテンバ―は塩対応で追及を躱し、5枚あると言っていた切り札の1枚目。
財務部長のテミッドを送り込む。
彼は裏帳簿を大きく掲げながら証言台に立った。

「これは隠し通路で見つけた裏帳簿です。ここには奴隷の裏取引の詳細が記されていました。右端にはウダハル王国にある奴隷商のサインもありますよ」
「そんなの証拠にならないな。俺が売ったという証拠でもあるのか?」

食い気味に反論するスニアに、追及する側は焦る。
ムカデの魔物にまで守らせていた裏帳簿が晒されたというのに余裕の笑み。
どんなに探しても証拠は出ないぞと言わんばかりの態度だ。

「直接、ウダハル王国に追及してもいいのですよ?相手はどうするでしょうね?」
「別にどうもしないんじゃないか?むしろ敵対国から来た使者の言葉なんて信じるかよ」

嘲笑を浮かべるスニアに、テミッドは目を吊り上げた。
これはいけないな。言い合いの駆け引きは相手の方が1枚も2枚も上手だ。
テミッドは相手のペースに乗せられている。

「サインがあると言っているでしょう!完全な物的証拠じゃないですか!」
「誰かが騙っているだけだと言われたらどうするつもりだ?サイン以外にウダハル王国との繋がりを示すものが無いんだからジ・エンドだろ」
論破されそうだが、どうするつもりかとセテンバ―を見やると、狡猾な笑みを浮かべていた。
ワンテンポ遅れてスニアも気づき、警戒している。

「おいスニア、どうしてサイン以外にウダハルとのつながりが無いと分かった?」
改めて掲げられている裏帳簿を見てみると、表紙は開かれていない。

つまり、スニアを含めた参加者の大半は裏帳簿の中身を見ていないのだ。
それなのにも関わらず分かったということは、スニアと裏帳簿は関わりがあるということ。
スニアの顔は青ざめ、額を一筋の汗が垂れる。

「テミッド、もう良い。次のベネットは証言台へ」

何も答えないであろうことを察したセテンバ―は、ここで2枚目の切り札を切った。
元奴隷であり、満身創痍で森の中に捨てられた彼女はスニアに対する恨みも人一倍強い。
証言台に立ったベネットはキッとスニアを睨みつける。

「私はヂーク郡にあったロイズ村というところに住んでいましたが、2ヶ月前に誘拐されたんです」
「あったとはどういうことだ?」
不自然な過去形に疑問を持った参加者の1人が尋ねた。
問われたベネットは俯き、さっきまでよりも強くスニアを睨みつける。

「魔物に襲われて無くなったんです。その混乱に乗じて私だけ誘拐されました。だから私は家族や他の村人がどうなっているのかは一切分かりません」
早口で捲し立てると、自分を落ち着かせるように小さく息を吐いた。
その間もスニアを睨むのだけは忘れなかったが。

「奴隷となった私は紋を炙り魔法で彫られ、常に灯りの魔導具を付けさせられました。食事も満足に食べられず、日に当たることはない。ハッキリ言っておかしくなりそうでした」
奴隷の凄惨な状態に参加者が息を呑む。
セテンバーも唇を噛みしめながら拳を強く握っていた。

「あまつさえ少し仕事をミスしただけで森の中に放り出されたんです。皆様方はおかしいと思いませんか?そんな人が支えられるわけないわよね!」

この言葉はスニアが執事として不足しているということではない。
あなたは支えるだけでは満足しないよねというニュアンスが含まれている。
彼女は話術もなかなかのようだ。

「ベネット、辛い経験をありがとう。次にリレン王子とフェブアーさんは証言台へ」

来たな。3枚目にして俺とフェブアーの出番か。
カルスは前哨戦で証言台に立っているから、主と従者の全員が立ったことになる。
証言台に立つと、参加者たちの視線が刺さるのを感じた。

こんなに沢山の視線に晒されるのはお披露目パーティー以来だろうか。
どこか懐かしさを感じるが、空気はパーティーの時とは正反対だ。
悪徳執事は必ず断罪してやるというピリピリとした空気が強く感じられる。

「僕は不正をしている人間がいるということを聞いてここに来ました」
断罪会において、俺は5歳児としておかしくない振る舞いをすることを決めていた。
それというのも、今までは何も考えず前世と同じ喋り方をしていた。
しかし最近、それはおかしいのでは?と思い直したのだ。

いくら王族といえども3歳で依頼者と大立ち回りを出来る人なんていないから!
よく違和感を持たれなかったなと感心してしまう。
あるいは違和感を持たれてはいたが、わざわざ言うことでもないと黙殺されていたか・・・。

だからこれからは大勢の前では5歳児っぽい振る舞いをしないと。
領主クラスの人はもう諦める。
というわけで、いかにもこれを読んでくださいと言わんばかりのメモを用意した。
王子は登壇するが、あくまでメモを読む係に過ぎないという設定である。
セテンバーやテミッドたちには効果無しだろうが、参加者にはいい目くらましになるだろ。

「そこで護衛隊長のフェブアーに調べるよう依頼を出しました」
従者であることも隠しておく。
本来は隠す予定では無かったが、隠した方がいいと感じたのだ。

「王子、どうぞ席にお戻りください。ここからはこのフェブアーがお話いたします」
フェブアーが扉から姿を現し、臣下の礼を取る。
久しぶりの再会だったが、臣下の礼のせいで距離が離れた感じがした。
今すぐに楽にしていいよと言ってあげたかったが、断罪会の最中のためグッと飲み込む。

「分かった。そう言ってくれるのなら戻ろう」
いかにも子供の王族ですよという偉そうな雰囲気を出してから席に戻る。
前世でも大人びていると言われてきたから、子供の振る舞いというのは実に難しい。

俺の周りの子供も、貴族の英才教育を受けて高校生と喋れるレベルだし。
本当、この国の英才教育はどうなっているのだろうか。
現代日本の基準から見れば、この国の教育は違和感がありすぎる。
この世界は他の国もこんななのかな・・・。

「案内役をベネットにお願いし、2人で書類庫に侵入しました。しかし罠に引っかかってしまい、スニアが単騎で駆けつけてきてしまったんです。1人なら何とかなると思ったのですが、彼は強かった。皆さんは私のことを伝説の何とかとか呼びますが、その私でも5分か、負けるほどの実力があると思って下さって結構です」

伝説の女騎士、フェブアーが自分より強いかもしれないと断言した。
予想外の事態に、参加者たちの間で動揺が広がっていく。
俺も向かいに座るスニアがそんなに強いのかと驚いてしまった。

みんなが刮目したのを不満に思ったのか、スニアが大きな火柱を上げる。
ボンッという音とともに、セテンバ―の前に落ちてくる鳥。

「これはステルスバード・・・。透明になって攻撃してくる危険度Aの魔物・・・」
目の前で起こったことに対しての処理が追い付かないのか、グルテが解説を呟く。
だがそれによって今度はざわめきが広がった。

透明になっており、今まで見えなかった魔物を火柱1つで焼いて見せたのだ。
驚かないはずが無い。

セテンバーは未だに信じられないのか、黒焦げになったステルスバードを見つめる。
その目には恐怖の感情がありありと宿っていた。
自分の想像の範疇を軽く超えて見せるほど強く、狡猾な人間を断罪しようとしている。
その事実が若き領主、セテンバ―を追い詰めているのだ。

「戦っている間、ベネットに証拠資料を机にばら撒くように命令しました。終わったところで領主の執務室に逃げたんです。そこで隠し通路を見つけました」
スニアは恐らく裏帳簿の部屋にいたのだろう。
慌てて駆け付けたため、隠し通路を塞いでおくのを忘れたということか。

「一番避けなければいけなかった事態は、どちらも捕まってしまうこと。だから二手に分かれることにしました。結果として両方とも捕まりませんでしたが」
話を聞いていたセテンバ―はどこかホッとしたような表情を浮かべている。

これで俺たちの番は終了した。切り札はあと2枚だ。
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