転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『70、過去最大級の宴』

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ドニクの領主就任の報は、風のごとき速さでデナム郡中を駆け巡った。
オーガスは他の領主にも国力を武器に圧力をかけていたようで嫌われていたのだ。
それが原因で8領主のうち6人がここに集まることになった。

ちょうどデナム郡の端っこにある砦で領主会を行っていたというのだから驚く。
領主館でやるんじゃないんだね。

ちなみに欠席の2人はガードン郡を治める父上と、ヂーク郡を治めるジューンである。
つまり・・・ラスボスであるメイザが俺たちの目の前に初めて姿を見せるということ。

「ついに悪徳領主と直接対決なのね。一体どんな奴なのかしら」
「危ないことは確か。近寄らない方がいいんじゃないか?」

どこか楽しみにしている節があるマイセスと、忌避感を抱いているボーランが壇上に立つ。
マイク代わりの魔導具を調達したり、椅子を並べたりと準備も大変だ。
現在は民衆たちが協力して設営に取り組んでいるものの、人手が圧倒的に足りない。
領主館の敷地内にある広場で行うのだから、下手な人物は起用できないのだ。
それが人手不足に拍車をかけていることは間違いないだろう。

「リレン王子、料理のお手伝いありがとうございます!」
「失礼ですが、まさか王子が料理を作れて考えられるとは思っていませんでした」

そこで、俺たちも準備に参加することに決めたのである。
俺とカルスが厨房で料理の指揮を執り、ボーランとマイセスが準備の指揮を執っていた。
フローリーとフェブアーは近くの森に出張して魔物を狩っている最中だろう。

「僕こそ屋台みたいな感じで作るとは思っていませんでした」
「それの方が宴っぽいですからね。しかも今回は領主たちも相手ですから」

普段、準備されている食事には慣れているだろうから屋台式の方がいいだろうと。
確かにいい考えだと思う。
セテンバ―とかカンナさんとかは普通に喜びそうだ。

「リレン王子、ニーザス郡のトーズ殿が兵100を持っていらっしゃいました」

冷蔵庫の前で食料を渡す役をやっていたカルスが近づいてくる。
兵100はありがたいな。彼の性格からして護衛だから使わせないとか言わなそうだし。

「分かった。会議室にいるんだよね?料理長、ちょっと抜けます」
「了解しました。後はレシピ通りに作っていきますので心配いりません」

料理長に断ってから、急いで会議室に向かう。
中に入ると、紫色の貴族服に身を包んだトーズが座っていた。

「トーズ殿、遅れてしまって申し訳ない。今回の宴はお互い楽しめるといいですね」
「いえいえ。兵100は準備のためにお使いください。私も微力ながらお手伝いしますよ」

トーズはもともと能力は高いから安心だ。
ボーランとマイセスだけでは人手が足りない会場設営の指揮を執ってもらおうかな。

「時間が無い。堅苦しい話は抜きにして早速行動しましょう」
「そうでしたな。あと2刻後には領主たちが全員揃う予定でしたからな」

ちなみに、どうして同じ場所で会議を行っていたはずの領主の到着時間に差があるのか。
それは領主たちが外交上、独自に寄っていかなければならない場所があるから。

例えばメイザが支配するダリマ郡はお茶を主力にしている。
大概のお茶の輸出先はアラッサム王国のため、デナム郡にある大使館に寄っていく。
結果、到着時刻が他の領主に比べて大幅に遅れるという事態が発生するのだ。

「トーズ殿には会場設営の指揮をお願いしたい。既にボーランとマイセスがいるはずだ」
「分かりました。彼らの指示に従うとしましょう」

全てを察したかのように不敵に笑ったトーズは大股で会議室から出ていった。
その後も領主たちの応対をしながら準備を進めていると、ラスボスの来訪が告げられる。
俺が急いで会議室に入ると、髪と瞳が両方とも緑色の女性が座っていた。
この人が不正を6領主に強要したリーダー、メイザか・・・。

「遅いわね。客人を待たせるなんて王族として恥ずかしくないの?謝罪しなさい」

予想外のパンチを放たれ、一瞬だけ固まってしまう。
いかにも自分が上司ですというように振舞ってはいるものの、実際は俺より身分は下だ。
居丈高なコイツに謝るのは気が引けるが、待たせたのは事実である。

「すみませんでした。ご教授に感謝します。まだまだ未熟物ゆえ、これからもご指導を」
「いいわ。私があなたを鍛えてあげる。素直な子は大好きよ」

メイザがウインクをして妖しく微笑む。
気持ち悪いことこの上ないが、関係を悪化させる原因になると面倒なので口を噤んだ。
精々、学ばせてもらいますよ。もちろん反面教師としてね。

「今回の宴は19鐘からだったわよね?それまで部屋で休んでおくわ」
「了解しました。部屋にご案内いたします」

前世の孤児院で奴隷扱いをされていたのが皮肉にも役立っているな。
親友がリーダーとなる前のリーダーに性格がそっくりなので、むしろ扱いやすいくらい。

「ここがメイザ様のお部屋になります。どうです?眺めもいいでしょう?」
「ええ、完璧な部屋よ。センスは及第点ね。あなたは準備に戻っていいわ」

バルコニーに立って会場を眺めているメイザを突き落としたい衝動に駆られる。
必死に笑顔を繕いながら、カルスをイメージして一礼した。

「分かりました。お目が高いメイザ様を唸らせる宴にしてみせましょう」

こういう場合は相手を持ち上げておき、なおかつ自分に自信があるように振舞うのだ。
向上心があるように見せられるため、非常に有効な一手である。
階下に降り、ボーランたちと一旦合流した俺はみんなに状況を報告していく。

「アイツはヤバいな。僕に対しても高圧的な態度を崩さなかった」
「王子に対してもそうなら・・・不敬罪で罰せばいいんじゃないかしら。法を使いなさいよ」

呆れ半分、怒り半分といった感じのマイセスが呟いた。
隣に座っているボーランも我が意を得たとばかりに大きく頷いている。

「なるほどね。でも今は捕縛できる人材がいない。やるなら宴の最中がいいかな」
「最強の味方と言えるフェブアーさんも帰ってきますからね」

メイザがどのくらいの戦闘力なのか分からない以上、むやみに捕縛するのは危険だ。
この国で最強と謳われるフェブアーを当てれば間違いはない。
被害が出た時に回復してあげられるフローリーがいないのも大きいだろう。

俺でも回復は出来るが、専門職である彼女の方が治癒能力が高いことは証明済みだ。
だから、彼女がいる時の方が被害を最小限に抑えて捕縛できる。
以上のことを考えれば、今はかの偉人のように耐えてその期を待つ方がいい。

メイザは遅かれ早かれ確実に捕まえる。
自分の残り短い天下を楽しんで、時間の許す限り驕っていればいいさ。

「だから、協力してさっさと準備しちゃおう。捕縛の会場は煌びやかな宴の会場だ!」

手を突き出すと同時にみんなが立ち上がり、会場へ散っていた。
俺もテントに戻って料理を作るお手伝いを急ピッチで進める傍ら、メイザの世話も行う。
見るたびに怒りや恨みが募っていくから、決意を強固にするという面では良かったよ。

18鐘20分、ついに準備が終わった俺たちは貴族服に着替えて舞台の袖に待機。
宴が始まったら新領主のドニクが挨拶し、次に俺が挨拶して領主即位を認める。
カンナさんの時と同じ流れで行われる予定だ。
あの時はマイセスが偽物に代わっていて、式は中止となってしまったが。

「それでは、間もなく新領主即位の宴を始めます。司会のフローリー=レインです」

フェブアーの娘が司会を行うことで王族の存在を匂わせる。
初めて参加した民衆たちは領主交代でも驚き、王族がいることでも驚くだろう。

「それでは、新領主であるドニ・・・キャアアアァァ!?」

フローリーの魔導具を壊さんとするような絶叫が会場中に響き渡った。
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