転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『77、最終決戦~リレンVSメイザ~』

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ついにここまで来たんだなと思う。
あの惨劇を見た後、自室に戻っていたフローリーたちに事情を話すと、自分たちは後から行くからカルスとフェブアーを連れて先に行けという言葉を頂いた。

しかし、予定外のトラブルが重なって到着が2日遅れたため、猶予は今日のみ。
休憩もほとんど無かったため疲れているが、ジューンの攻撃を防ぐためにはしょうがない。

「とりあえず探知に掛けてみようか。魔導具を出して」

フェブアーに魔導具を出してもらうと、不正の証拠を探すように指示した。
少ないことが予想されたので館周辺の街も含めたが、赤い丸は1個しかつかない。

「何だこれ!?いくらなんでも少なすぎじゃない?」
「しかもこの赤い丸はどこにあたるんでしょうか・・・。地図を見るに闘技場?」

すり鉢状の建物に赤い丸がついている。
ダリマ郡はもともと闘技場ビジネスが盛んだったため、その名残なのだろうか。

「ウダウダしていてもしょうがない。行こう」

とりあえずはここに行ってみるしか不正を暴く方法は無いのだから。
闘技場に着いた俺は改めて魔導具を見つめ、赤い丸がついていることを確認した。
位置から察するに観客席に証拠があるようだ。
チケットを適当に買って中に入り、赤い丸が付いている座席を目指す。

「あの少年じゃないでしょうか。ちょうどあそこの辺りですよね?」

カルスの言葉に、俺は魔導具と少年を見比べる。
確かに、目の前に座っている少年がメイザの不正の証拠を握っているようだ。

「ポケットに紙が入っています。もし拾ったのだとしたら・・・命が危ないかもしれません」
「もう殺させない。あんな苦しい思いはもうたくさんだからね」

ディッセが回復魔法を弾いてしまった時の光景がフラッシュバックした。

「ねえ、君、ちょっといいかな?話したいことがあるんだ」

だから迷わず歩みを進める。
俺がこの子の近くにいる限り、殺させはしない。

「何?この紙なら絶対に渡さないよ!・・・メイザを倒すために取っておくんだ」
「僕はメイザを倒すために王都から来た、リレン=グラッザドさ」

そう言って指輪を見せた。
ナスタチ郡の時に、指輪をしていなかったから偽物だと言われたことがあったから、逆に指輪を見せれば証拠になると思ったのだ。

「誰だお前?リレンなどという名前は聞いたことが無いぞ!怪しいものめ!」
「本当に倒しに来たんだ。嘘じゃない!何なら土下座してもいい!その紙が欲しいんだ!」

証拠が無いと、悪徳領主を捌くことが出来ない。
カルスに奴隷紋を彫った件では追及できるが、不正の件は証拠が無いと無理である。
そして・・・俺は両方を追及したい。

「無理だね。君には渡せない。欲しかったら家まででも追ってきな!」

そう吐き捨てると少年は去って行ってしまった。
カルスが引き留めようと手を伸ばすが、わずかに届かなかったようだ。

「どうするのですか?あれは一筋縄では行きませんよ?」
「彼の住処に行こうじゃないか。こっちには魔導具があるから追っていける」

魔導具を眺めると、赤い点が移動しているのが分かった。
しばらく観察していると、赤い点は1つの建物に入っていく。
そこが彼の住処なのだろう。

「ここは・・・孤児院だったはずです。彼は孤児だったのですね」

フェブアーの言葉に思わずドキッとしてしまった。
俺も前世では孤児院に住んでいたため、彼の気持ちが分からなくも無い。
世の中は敵だというように、斜に構えている子は前世の孤児院で何人も見てきた。
転生してからは孤児院に行っていないが、彼は斜に構えているタイプだ。

ならば前世での記憶が役に立つ。
孤児院に客として入ると、隅っこで本を読んでいた少年の前に立った。
影に気づいた少年が顔を上げ、俺と視線が合うと戸惑ったように顔を歪める。

「何なの?本当に追ってきたんだ」
「改めて自己紹介するよ。僕は第1王子のリレン=グラッザド。この街を救うために来た」

決して少年の目から視線を外さないで言う。
その真剣さが伝わったのか、少年はちょっとだけ表情を緩めた。

「王子の目的は何?何でこの街を救おうと思ったの?代わりに支配するため?」
「いや違うね。僕ら王族は皆に支えられて生きている。だから恩返しみたいなものさ」

これで信用してくれただろうか。
不安になった俺の目に映ったのは、とても優しい瞳になった少年であった。
かつての親友を思い出すような瞳に俺は考えを改める。

この子は、孤児院の皆を守るためにあのような性格を装っていたんだ。
本来は優しい性格なのだろう。

「なら信用して渡してあげる。その代わり、僕を守って」
「分かった。こっちには最強の騎士と言われたフェブアーがいる。君には手を出させない」

どうやらこの少年も命を狙われているというのは薄々感じているようだ。
紙を受け取ってカルスに渡すと、俺は身を翻して一際大きな建物を指で示した。

「さあ、最終決戦を始めよう。君も一緒に来てね」
「僕はラルドだよ。――僕も言いたいことがたくさんあるからね。助かる」

そう言って笑うラルドとともに領主館に行き、門を叩く。
すぐにドアが開き、メイザが門を開けるためにこちらに向かってくる。
門を挟んで俺とメイザの視線が交錯した。

「予定より早く来て申し訳ありません。ですが、どうしても伝えたいことがありますので」
「そう・・・。まあいいわ。特別に応接室に案内してあげる」

メイザの指示で門が開けられ、領主館の中に入る。
特に罠などは無いまま応接室に入ると、メイザがソファーに座ってため息をついた。

「で、何かしら?奴隷紋のこと?」
「それもありますね。現在、あなたはカルスを奴隷として所持していることになっている」
「明らかな法律違反としかいいようがありません」

俺の追及にフェブアーも同意して声を上げた。
湯船の中で殺されそうになった件を、意外と根に持っているのだ。

「そうね。それについては認めるより他は無いわね。禁固刑で済むのなら安いわ」
「それならばカルスの紋を解いてください」

俺が厳しい口調で指示すると、メイザが脇に置かれていた杖を構えてサッと振った。
痛々しい奴隷紋は、黄色の光に包まれて消滅する。

「これで満足かしら?それなら私は大人しく禁固刑を受け入れるわ」
「いや、まだだ。ヂーク郡の2人にかけた奴隷紋も解除してもらおうか」

ディッセは死んでしまったので問題は無いが、ジューンは少々問題がある。
だが、メイザは怪しい笑みを浮かべるのみで何もしようとしない。

「おい、どういうことだ?何で奴隷紋を解除しない?」
「もう解除されているからよ。領主としての地位を失うのは避けたいからね。かけたその日のうちに解除してあげたさ」

それならばジューンはもう正気を取り戻しているということになる。
今のところ彼の軍らしきものは見えないが、出陣しているのだろうか。
考えても分からないので話を変えよう。

俺がどうしても不正の罪で追及したかった理由はメイザのセリフにある。
そう。奴隷の所持は禁固刑であり、役職までは奪えないのだ。
しかし不正を根絶するためには、メイザを領主の座から引きずり降ろさなければいけない。
だからこその証拠である。

「待ってください。あなたにはもう1つの罪があるはずだ。不正という大きな罪がね」

口角を上げながら指摘すると、メイザは顔を顰めた。
隣にいるラルドは冷たい視線でメイザを睨んでおり、カルスは表情が無い。
フェブアーは万が一に備えてか、剣の柄に手をかけている。

「何を言っているのか理解できないわ。どこにそんな証拠があるのよ?」
「ここにあるから良く見な!メイザ=エメはイワレス王国と繋がっていたんだ!」

俺が紙を広げると、メイザは大声で嗤い始めた。

「そんなの作られた証拠じゃない。私のもとで作られたという証拠でもあるの?」
「これは・・・お前のポケットから落ちたものを拾ったんだ!」
「補足します。その紙の字には緑色の粉がついていました。もう意味は分かりますね」

カルスが黒い微笑みを浮かべながら机に置かれていたペンを手に取る。
メイザはユニークなペンを使うことで有名だ。
最近のマイブームは・・・エメラルドの粉が入ったインクを使うことだと聞いた。
前世で言うラメをイメージしていただければいいだろう。

「このペンにつけるエメラルド入りのインクでしょう?つまり書いたのはあなただ」
「そのインクは領主館でしか使っていないと言っていましたもんね」

フェブアーの指摘に、メイザは大声で嗤い始めた。

「何がおかしいんですか!?あなたは罪を認めるんですか?認めないんですか?」
カルスが珍しく激昂したように詰め寄った。
「認めるわ。でもね・・・私を断罪出来て、はい終わりじゃないのよ?あなたは戦争の引き金を引いてしまった。そのことを悔いるがいいわ」

そう言ったメイザの目は真っ赤に血走っていた。
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