転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『78、戦争の引き金』

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「どういうことだ?僕が戦争の引き金を引いただと?」

メイザの希望で俺以外の全員が退出させられた後、さっそく尋ねてみた。
結果オーライと言うわけでは無いが、2人きりの方が本音をぶつけやすいなとは思う。

高校生の時の口調で話してもいいしね。
敬語を使う意味も無くなったので、普通の口調に戻しておくのも忘れない。

「今までの外交関係を思い出して見なさいな。そうすれば自ずと分かるはずよ」
「外交関係?この国のってことだよな・・・」

戦争のことを言うのであれば、確かに外交関係を考えるのは間違っていない。
ちゃっちゃっと整理してみよう。

まずこの国と友好関係を結んでいるのは西にあるカマーリ国とイルマス教国か。
後者は今回の旅で友好関係を結んだと言ってもいいだろう。

敵対しているのは言わずもがな4国連合の国々だ。
2年前の戦争でも戦った相手であり、グラッザド王国にとっては宿敵のようなものだな。
それゆえ4国連合と繋がるのは厳禁だとされている。

あれ、待てよ?今回の旅で敵対してきた人たちの中で、何人か・・・。

「あっ!?まさか・・・それじゃ、本当に僕は戦争の引き金を引いちゃったって言うの?」
「だからそう言っているじゃない。何回言わせる気かしら」

メイザがうんざりとしたような口調で呟いてからバルコニーに出て街を眺める。
俺は頭を抱えるしかない。
改めて考えてみると、今回の旅では所々に4国連合の影が見え隠れしていた。

最初に北のアラッサム王国の第4王子に襲われて、1晩だけだが牢屋に入れてしまった。
他の3国は不正と大きく関わっていたと言ってもいい。

東のイワレス王国はダリマ郡の領主であるメイザと。
西のウダハル王国はドク郡の領主付き執事であったス二アと。
南のエルハス王国はデナム郡の領主の護衛を担当していたリアムと繋がっていたのだ。

そして旅に出る前に確認したダリマ郡の不可解な防衛費。
最初は使い道を誤魔化しているのだと思っていたが、もしそうでは無かったとしたら?

「その様子だと分かったかしら?私はこの国が戦火に包まれないように、仕方なく不正をしていたのよ!

そんな気持ちも分からないくせに断罪なんて笑わせないで!」
考えられるのは1つ。平和に対する投資だ。
4国連合は、この国を滅ぼせる力をそれぞれが持っている。
だから講和交渉でも強気に出たんだろう。

「ここはイワレス王国の王都に近いじゃない。だから何度か小競り合いがあったのよ」
「そうなんだ。領地を失った後も難癖を付けては取り戻そうと画策していたんだな」

メイザも意外と苦労していたということか。
相手はイワレス王国の本隊に近しい部隊なのに対してこちらは完璧な民兵だ。
戦力の差は相当なものだっただろう。

「今の街だけ見ると完璧に追い払っているように見えるでしょう?でもダリマ郡という名前がつく場所はもうここの館だけなのよ」
「え?でもここら一帯はダリマ郡の領地じゃないんですか?」

他国に取られたのなら相手国の関所が出来ていてもおかしくないが、未だに見ていない。
さらに言わせてもらえば、メイザの言っていることが本当ならば戦に負けているということ。
おかしいな。何かを見落としているような違和感がある。

「見かけ上・・・というかシステム上はそうね。でも実際は借りている状態といったらいいかしら。領地をお金で借りている状態なのよ。だから莫大なお金が必要だった」

ダリマ郡は資源が豊富なため、グラッザド王国にとっては失いたくない領地である。
だからメイザは1人で背負うことを選んだ。
悪役として各領地で不正を斡旋し、足りないお金を徴収して防衛費として払っていた。

でもそんなの・・・間違っている。
かつての自分と同じように、1人でありえないほどの重荷を背負っている。

「何で他の人に相談しなかったの?対応策はいくらでも・・・」
「無駄な血を流したくなかったからよ!相談したら必ず戦争になるわ!だから私は1人で背負うことを選んだのよ。戦争なんて・・・もうウンザリ!」

メイザは叫びながら奥の山を眺め、硬直した。
不思議に思って視線を辿ると、ヂーク郡の旗が靡いているのが分かる。
奴隷紋は解除されているはずなのに・・・。自分の意志で出陣しているのか?

「もうあんなところまで来ているんだ・・・。これは山越えしないと間に合わないんじゃ・・・」
「何かしら?まあいいや。あなたを上手に使ってこのピンチを抜け出させてもらうわ」

不敵に笑ったメイザは無詠唱で暴風を起こす。
部屋を吹き荒れるかと思われたが、窓からうまい具合に広がっていく。

「皆の者、諸君らは命の危険がない重税と、ある戦争だったらどちらの方がいい?」

メイザの究極の問いが風に乗って街中を駆け巡る。
やがて館の中に重税という答えが返ってきたとき、俺はメイザの真意に気づいた。
彼女は俺を悪者――スケープゴートにしようとしているのだ。
ただでは捕まらないということだろうか。

「だが、ここにいる愚か者によって戦争の引き金が引かれてしまった!半年も経たないうちに大規模な戦争が始まるだろう!」

慌てて風を消そうと杖を握った俺だったが、一足早くメイザが演説を開始してしまった。
同時に館の壁が下降し、室内が外部に晒される。
門の前には民衆が詰めかけていて、例外なくこちらを睨みつけていた。

「リレン様、妙な音が聞こえましたが大丈夫でしょうか?」
「おいおい、これはまた面倒な事態になったものだ。・・・大丈夫だから気にしないで」

俺はガックリと肩を落とす。
懸念通り、門の前にいた民衆たちが口々に騒ぎ出した。

「え、リレンって第1王子の名前じゃなかったか?まさか王族が戦争の引き金を・・・」
「ウソ!?信じられない!戦うのは王族じゃなくて私たちなんだから・・・」

中には明らかな敵意を向けて来る人もいた。
俺は焦って弁解を口にした。――いや、口にしてしまったというのが正しいだろうか。

「違います。まだ戦争になると決まったわけでは・・・」
「“なると決まったわけではない”ってことは、“なるかもしれない”ということなのでしょう?」
「言い訳なんて王子の風上にも置けない奴だ。この国終わったんじゃないの?」

ああ、終わったなと思う。
俺は戦争になる確率が0%になるまで攻められ続けるだろうな。
だが俺には時間が無い。

「カルス、馬車出して。逃げるよ。フェブアーはメイザを縛っておいて。僕はラルドと話す」

それぞれに仕事を渡し、俺たちは逃げる準備を整え始めた。
民衆たちと話をするよりも優先すべき人があの馬車には乗っているのだ。
見殺しにしようなどという選択肢が出るはずもないだろう。

「この道を空けろ!さもなくば不敬罪として処罰の対象となってしまうぞ?」
「退きなさい。国賊になりたくないものはさっさと早く!」

フェブアーと・・・子飼いの兵士だろうか?
協力してもらいながら着々と準備を整えると、俺は馬車に飛び乗った。
客席には俺とラルドしかおらず、御者席に両手両足を縛られたメイザの姿がある。

「話は次の領主のことだ。君は正確な継承権を持つよね。?」
「・・・分かっちゃったんだ。お母さんのテストは504日で失敗かぁ」

悔しそうに言う少年に、俺は首を傾げるしかない。
家では・・・プライベートではメイザも良きお母さんなのだろうか。

「お母さんのテスト?お母様であるメイザがラルドに何か課題を課したのか?」
「そういうこと。正確には500日以上、僕が領主の息子だと分からないように振舞えって」
「じゃあ成功してんじゃん。凄いね」

そう言うとラルドは嬉しそうに頬を緩め、その顔を不覚にも可愛いなと思ってしまった。
美人なお母さんの遺伝子をちゃんと受け継いでいるようだ。

「リレン様、山を越えないとやはり無理です!この先の道を民衆が塞いでいます」
「それじゃ山に入るよ。何としてもジューンを阻止しないと!」

俺たちは馬車から降りた後、馬車を暴走させて攪乱してから山に隠れた。
そこに大変な魔物がいるとも知らずに。
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