転生王子の奮闘記

銀雪

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第3章  銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦

『90、各国対策会議・前』

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数十分後、今回の被害者である国王と王子が集まった会議が行われることになった。
とはいっても、王子は俺ともう1国しかいないのだが。

「それでは、音楽魔法の被害者による第1回の各国会議を始めたいと思います」

進行役を務める父上がその場にいる.3国の王を見回しながら宣言する。
みんなが一礼した後、最初に手を上げたのはウダハル国王だ。
俺にとっては奴隷を推奨している危ない人物であるのだが、その辺りはどうなのだろうか。

「今回、使われたのは音楽魔法で間違いないか?」
「そうですね。魔法局の調べでは曲を流すための録音機に細工がしてあったと」

父上が冷静に答える。
その言葉にイワレス王国の国王と王子が2人揃って眉をひそめた。
ウダハル国王はそんな2人を尻目に続ける。

「それで、その音楽魔法というのは古代魔法で間違いないよな?」
「ああ。間違いないな。古代魔法は他にも雷魔法や自動回復が上げられるか」

イワレス国王が頷く。
ウダハル国王は不快そうに眉をひそめて魔導具の方を見た。
自分の体調を悪くした魔導具が憎らしいのだろうか。

「そもそもアラッサムがどうして古代魔法を使えるのだ。復活は禁じていなかったか?」
「禁止はしていた。その契約を意図的に破ったということでしょう」

半ば呆れているエルハス国王をじっと見つめているのはイワレス王国の王子である。
やがて彼は顔を歪めてウダハル国王に視線を向けた。
まるで非難するような険しい顔つきだったため、ウダハル国王も身構えている。

「そうは言っても、ウダハル王国だって古代魔法を復活させているでしょう?」
「な、どこにそんな証拠があるのだ?」
「その服ですよ。古代魔法、自動回復がかけられているでしょう。破ってみますか?」

イワレス王国の王子が服に剣を向ける。
彼とウダハル国王は俺を挟んで隣同士のため、目線が銀色に埋め尽くされた。

このままだと目に悪いな。
視界の端で狼狽えるウダハル国王を尻目に、俺はわざと間延びした声で提案した。

「とりあえず自己紹介しませんか?名前も分からない状態で会議してどうするんですか」
「そうだな。グラッザド王国の者に名を知らせなければ」

イワレス国王が同意し、彼から自己紹介が始まることになった。
正直なところ国王たちの名前はどうでもいいのだが、王子の名前は気になるな。
同じ王子同士ということで。

「私はイワレス国王のマリウムだ。よろしく頼む」

緑色の服に身を包んでいる穏やかそうな人物だが、実は4国連合で1番の切れ者だ。
他国との戦争では知略で5倍以上の敵兵を破ったらしい。

「儂はウダハル国王をしているロビウムだ。皆のもの、よろしく頼むぞ」

白髪が混じっていて、この中では最年長だろう。
奴隷を推奨するとか、俺とは根本的に意見が合わなそうだよね。
狡猾な性格が言葉の端々からにじみ出ている。

席順で言えば次は俺の番なのだが、主催者は後と飛ばされた。
つまり、次が本命の王子ってわけか。

「次は僕ですね。イワレス王国の王子であるヘウムです。よろしく」

黄色の派手な服に身を包んでいる。
一見、物静かな雰囲気だが注意が必要だろう。

「エルハス国王のナウムです。皆さん、よろしくお願いいたします」

無口なおじさんと言った感じか。
黒の服に身を包んでいるため、怪しさが半端じゃない。
その後は僕と父上も自己紹介を済ませ、本題である音楽魔法に戻ることになった。

「音楽魔法と言うのは音楽によって様々な効果があるというのは間違っていないな?」
「ええ。特別な楽器を使わないといけないという制約もありますが」

ロビウムの質問にヘウムが答えつつ補足を加える。
それはそうだろうな。

どんな楽器でも魔法がかかってしまったら、演奏を聴く人はいなくなるぞ。
負の効果を持つ音楽だったら嫌だもん。

「今回の魔導具はどんな効果の音楽だったんでしょう?聞いた感じでは混乱ですかね?」
「そうですね。後は気分悪化と鈍化でしょうか。踊っているときに体が重かったですし」

そういえば部屋を出て行くとき、ヘウムの言う通りに少し体が重かった気がする。
音楽魔法というのはよく知らないが、舞踏会ならば何の疑いもなくかけられるのか。
意外と厄介だよな。

「それで効果がある楽器というのは何なのですか?これからその楽器を規制すれば・・・」
「普通の楽器と特別な楽器をまとめて潰せるということか。確かバイオリンだったような」

マリウムが言うと、ヘウムも同意するように頷く。
しかし、ロビウムが険しい表情をしながら勢いよく立ち上がった。

「何を言ってるのだ。何も知らぬグラッザドを愚弄する気か?ヴィオラを規制すれば良い」
「2国とも何を言っているのですか?どう考えてもコントラバスでしょう」

やや食い気味にナウムが反撃の狼煙を上げる。
俺と父上は首を傾げながら3国が争っているのを見るしかなかった。

「どういうことだ?伝説の楽器が国によって違うのか?」
「確か各国共通と書かれていたような・・・。でもそれが真実なら2国は嘘をついている・・・」
「それぞれ特徴を上げてみませんか?それで信憑性があるかどうか分かるでしょう」

これ以上、目の前で争っているのを見ているのも気分が悪いので提案してみる。
一応は納得したのか、無言で3人が頷いた。

「まずは我がイワレス王国から。伝説の楽器はバイオリンだな。音楽魔法の効果は音程によって変わる。
つまり正しい音程で弾くほど良い効果がかかるということだ」
「つまり悪い効果をかけたければ、わざとメチャクチャに演奏するということですか?」
「そういうことだ。見破られやすいということで衰退したのだろう」

一応は筋が通っている。
あの音楽が音程を外していたかどうかなど分からないが、可能性はあるな。

「次はウダハル王国だな。伝説の楽器はヴィオラだ。音楽魔法の効果は曲調で変わる。要するに明るい曲なら良い効果がかかるということだ」
「でも明るいとかの基準って人によって違いますよね。どう区別していたんでしょう?」

ヘウムが問いかける。
確かに、明るい曲だと思って演奏したら暗い曲に分類される曲だったとかありそう。

「そうだな。だからかけ間違いなどによって衰退したのだろうな」
「それなら実用性にも欠けますし、衰退する意味も一応は分かりますね」

ただ、あそこで演奏されていた曲が暗かったと言われれば首を傾げざるを得ないか。
舞踏会ならば明るい曲じゃないのか?

「最後はエルハス王国ですね。伝説の楽器はコントラバス。音楽魔法の効果は強さで変わる。補足すると大きな音を出せば出すほど悪い効果がかかる」
「確かに舞踏会のときは会話する声に負けないように大きかったですが」

マリウムがどこか不愉快そうに呟く。
あの悪意にまみれた音楽の内容を思い出しているのだろうか。

「そして実用性にかけていたから衰退していった。大きな音が出せないなんて需要がない」
「確かに。演奏会も出来やしない」

大きな音を出せないというのは致命的な欠点だろう。
演奏を聞いた観客が全員、気分が悪くなってはたまったものではない。

「なるほど。各国とも一応筋は通っていますね。それでは楽器に違いはありますか?」
「確か伝説の楽器は妙なマークが入ってなかったか?」

ロビウムが言うと、ナウムとマリウムが我が意を得たりとばかりに親指を突き出した。
どうやらこれに関しては各国が一致しているらしいな。
一体、どういう基準で分かれているのかさっぱり掴めないんだが。

「何はともあれ、音楽魔法についてはこのくらいでいいですね」

父上がそう締めくくると、参加者の間に少しだけ弛緩した空気が流れた。
各国対策会議はまだ終わらない。
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