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第3章 銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦
『96、ウダハルから来た女①』
しおりを挟む青空の下、俺たちの軍はイルマス教国へ向かって進軍していく。
鎧同士が擦れる音だけが広い原っぱで響いていた。
そんな中、馬車の中ではエーリル将軍と俺たち子供勢で作戦会議が行われている。
「我が軍は剣の騎士が2000、槍の騎士が200、騎馬が400、魔法兵が1000ですね」
「合計3600なのに対して、相手は魔法兵ばかり。しかも2000はいるんでしょ?」
プリスト教皇の話では、魔法を使える教徒は殆どがデーガンに支配されているのだそう。
厄介なことこの上ない。
「確かにそう仰っていました。剣では分が悪いですよね?」
「いや、そうでもないです。魔剣士という魔法を使える剣士がいれば楽だと思いますよ」
ボーランがそう言って自身の剣を馬車の窓から突き出す。
刀身に水魔法を組み込んでいるのか、水が放出される様子は水鉄砲のようだ。
へえ・・・この世界でも虹が出来るんだ。
緑色の草にかかる虹を眺めていると、馬車の後方から火魔法の気配を感じた。
「何だ?後方に火魔法の気配があるぞ?」
「分かりませんが、一応確認してみませんか?馬車は私に任せてください!」
ツバーナが鞄の中から取り出した魔導具を構えると同時に、俺とボーランが目視で確認。
後方では黄色の髪をした女がバッチリ並走していたが、目に生気がない。
「誰かの奴隷だね。恐らくは追跡が目的で、気が緩んだ休憩地点を狙うつもりだな」
「このまま泳がせときますか?それとも解放しますか?」
顔を歪ませたボーランが一応の最高指揮官、エーリル将軍にお伺いを立てる。
すると答えたのは意外にもツバーナだった。
「あの人は解放しちゃっていいんじゃない?誰が彼女の持ち主なのか調べないと」
「さもありなん。火魔法を一瞬だけ使った理由も分からないからな」
エーリル将軍の許しも出たので、俺たちは奴隷を解放するために馬車を止めた。
飛び降りた俺たちを見た護衛の騎士が目を見開いていたが、今はそれどころではない。
「みんな、後ろにいる女に気づかなかったの?あの人は誰かの奴隷だから解放するよ」
「えっ・・・気づきませんでした。申し訳ありません!」
慌てた騎士が後方を確認し、並走してきている女を視界に捉えた。
俺が解放のために動き出した瞬間、流れるようにボーランが騎士の首に剣を当てる。
他の騎士たちにどよめきが広がっていく。
「動かないで。あの人は大丈夫だとは思うけど、逃げられたら最悪だから」
「分かりました。出過ぎた真似を謝罪します」
騎士が両手を上げて攻撃の意思がないことを示すと、ボーランは剣を鞘にしまう。
そして人懐っこい笑みを浮かべると、女に近づいた。
「こんにちは。僕はリック家のボーランと申します。失礼ですが、あなたは奴隷ですよね?」
「あ・・・はい・・・。私に何の用でしょうか」
女は近くで見るとなかなかの美人だったが、顔に痣があるのが気にかかるな。
日常的に暴力を振るわれている可能性が高い。
そんなことが許されるわけもないので、必ず解放してあげなければ。
「その前に1つだけ確認させてください。リレン、どう?」
「闇魔法の気配を感じるね。ただ、威力が弱いから破っても苦しむだけじゃないかな?」
雇い主は命を弄ぶような奴ではないらしい。
そのことに安堵しつつ、赤い宝石が嵌まった新しい杖を女に向けた。
「何をするんです!?また妙な魔法を私に・・・!?」
「その逆です。あなたの手枷足枷になっている邪悪な魔法を取り除くんですよ」
俺が出来るだけ笑顔で言うと、女も少しだけ表情を緩めた。
相変わらず瞳には恐怖心が宿っていたが、それも明らかに期待が上回っている。
俺の予想は正しかったらしい。
「それじゃ解呪しますね。解呪。これでもうあなたは自由です」
我ながら胡散臭い台詞だなと思っていると、自分の腕を確認した女が涙を浮かべた。
それは嬉しさからくる涙なのだろうか。
「本当にありがとうございました。このお礼は必ず致します。私はナッチと申します」
「グラッザド王国第1王子のリレンです。火魔法を使ったのは解呪のためですね?」
俺が尋ねると、ナッチは大きく頷いた。
彼女は火魔法を出すことで俺に気づいてもらい、解呪を狙っていたのである。
解いてもらえればラッキー。殺されれば奴隷生活から解放されるという寸法だろうな。
「ええ。この馬車に乗っているのは王子だと父上から聞いていたもので」
「父から?君はお父さんに奴隷として使われているのか?」
ボーランが素っ頓狂な声を上げると、ナッチは不愉快そうな顔で首を横に振った。
まあ、さすがにそれはないだろうな。
「私に間接的に命令したのは父上ですけど。父上の部下が私の主人ですわ」
「部下を持っているということは相当偉いんでしょ?何で自分の娘を部下の奴隷に?」
腑に落ちないといった感じでフローリーが首を傾げた。
どうやらエーリル将軍から回復を命じられ、ここに来たところで会話を聞いたようだ。
「これを聞いたら分かるかも。私はナッチ=ウダハルっていうのが正式な名前なの」
「ウダハルって・・・ナッチさんはロビウム国王の娘なの?」
今度は俺が素っ頓狂な声を上げる番だった。
ナッチは嫌悪感を隠そうともせず、憎々し気に吐き捨てた。
「ええ、そうよ。私はあの腐った国の第1王女で間違いないわ!魔法が使えないね」
最後の1言に、全員が納得したような表情をした。
ロビウムは体裁を大事にする人だから、娘が魔法を使えないというのは避けたかった。
だから即座に部下の奴隷として育てさせることにしたのだろう。
魔法は生まれた時点で使えるか使えないか分かるため、素早い対応を取ったはずだ。
「だから奴隷に。でも誰かにナッチさんがロビウムさんの娘だと密告したってわけか」
「前の主人が気味の悪い笑みで伝えてきたわ。王への恨みを私で晴らしているってね」
なるほど。噂通り、随分と奴隷制は根深いらしい。
ウダハルには奴隷になら何をしてもよいという風習が残っていると聞いたことがある。
「酷い話ね。私たちと一緒に来ない?私ならあなたを上手く使えるわ」
「あなたは・・・グラッザドの将軍様・・・!?」
ナッチさんの言葉に振り向くと、俺の真後ろにエーリル将軍が立っていた。
「ええ。まあそうね」
「本当ですか!良かったぁ・・・。これで救われたのね・・・」
エーリル将軍が頷くと、ナッチさんが舞台女優のように実感を込めながら呟いた。
この言葉だけで普段の生活が窺えるな。
「じゃああっちでお話しましょうか。私はあなたに魔法兵をしてほしいと思っているのよ」
「確かに私は火魔法が使えますしね」
しかしエーリル将軍は火魔法の部分で眉をひそめ、小さく首を横に振った。
どうやら目的は火魔法ではないらしい。
「私の目的はあなたが隠している力よ。あなたからは金色の光が見えるわ」
「なっ・・・私のもう1つの力に気づいているんですか?あの呪われた力が・・・」
顔を青ざめさせたナッチさんが瞠目した。
どうやら彼女が持っている力というのは、あまり歓迎された力ではないようだ。
「呪われているか・・・。的を得ている発言と考えられなくもないわ。古代魔法なんだから」
「古代魔法ですって・・・?滅亡したはずの魔法を?」
フローリーが信じられないといった感じで呟くと、ナッチさんが目を見開いた。
その目には怒りが込められている。
「そうですよ。この力のせいでどれだけ苦労させられたか!」
「正確に言えば、彼女は恐らく古代魔法しか使えないわね。こんなケースは初めてよ」
百戦錬磨の将軍、エーリルさんでも見たことがないとは。
気味悪がられるのも頷けるな。
「それじゃ馬車に乗って。あなたの魔法は馬車からでも使えるから問題ないわね」
「ええ。あまり気が進みませんが、助けてくれたお礼として使います」
「何を言っているのかしら?私はあなたをイルマス教の反乱鎮圧に使うのよ?」
エーリル将軍の発言に全員が固まる。
奴隷から解放されたと思ったら、次は騎士団のお手伝いですか・・・。
ナッチさんも運の悪いことで。
「はあぁぁぁ!?どういうことですか!?私を戦争に巻き込む気ですか?この愚か者!」
「あら?また奴隷紋をかけてほしいの?」
「グッ・・・分かったわよ!戦争に協力してイルマス教とかいう反乱軍を潰すのね」
半ばヤケクソ気味に言ったナッチさんに同情の視線が集まる。
「それじゃ使ってもらいましょう!雷魔法という、とっても便利な魔法をね」
エーリル将軍がそう宣言した瞬間、ボーランが目を吊り上げてナッチさんに躍りかかった。
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