転生王子の奮闘記

銀雪

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第3章  銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦

『95、出発前の会話』

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出陣当日、俺は衣装を着こんで舞台の隅で待機していた。
紺色のマントに赤色の石が嵌まっている杖、そして黒色と桃色の宝石が見える王冠。
まさに王子たる服装だろう。

「でもリレン様、どのような意図があったのですか?色を指定するなんて・・・」
「確かに普通ならしないよ。でも今回は特別だからね」

フェブアーの問いにはお茶を濁して答えておく。
王族は専用の裁縫屋がその人に一番似合う色を加味して作ってくれるのが一般的だ。
だから色合いに口を出すことは稀である。
しかし、今回は俺の強い希望により色を指定させてもらった。

「それではリレン様のお言葉をいただきましょう。リレン王子、よろしくお願いします」
「待ってて。すぐに分かるはずだから」

俺はみんなにそう言うと、出来るだけ胸を張りながら堂々と壇上を歩いた。
お披露目パーティー以来の魔導具のスイッチを入れて、緊張を誤魔化すように微笑む。
もちろん深呼吸も忘れない。

「騎士の皆さん、今回の大将を務める第1王子のリレンです」

自分の声が震えている。
予想以上に自分が緊張していたと分かり、逆に緊張が解けていく感覚があった。

「はっきり言ってしまうと僕には戦争経験などありませんし、采配も自信がありません」
「ちょっと・・・あなた、大丈夫なの?」

最前列に立っていた女騎士が訝しげに尋ねる。
そんなことを言われても・・・戦争の采配なんてものに自信があるはずもない。
ただ1つだけ分かるのは、軍を預かる指揮官が自信なさげではいけないってことだ。

「さあ?ただ僕には頼れる仲間がいます」

発言の意図が分からないのか、失望しているのか、みんなが一様に押し黙っている。
俺は杖についている赤い宝石を前に突き出した。

「君たちが思っている大将像とは違うかもしれない。でも僕は仲間と共に必ず勝つ!」

演説しているうちに、目論見などといった打算的なものは消え去っていた。
ただ勝って、生きて帰りたいという欲求があるだけである。

「僕についてきてくれないか?皆さんの力があれば、絶対に勝てると断言しよう!」

突き出した杖を戻し、上に掲げる。
随分と大げさで俺らしくない仕草だな、と冷静な自分がツッコミを入れるが構わない。
全ては勝つために。そして騎士の協力を得るために。

「僕に賛成してくれる者は鬨の声を上げろ!必ず勝つという気概を込めるのだ!」

俺がそう叫ぶと、会場の大広間を鬨の声が支配していく。
昨日、寝る間も惜しんで考えたスピーチが身を結んだ瞬間だったともいえるだろう。
最も、スピーチ自体は原型を留めていないが。

「賛同してくれたお礼にもう1つだけ。実は宝石は僕の仲間の色を現しているんだ」
「えっ・・・そうなんですか」

最前列にいるプルート騎士団長が驚きの声を上げた。
ちなみに杖の赤色はフェブアー、王冠の黒色と桃色はカルスとツバーナの色だ。
舞台袖では唖然の表情をしたみんなが見える。

「それでは皆の者、これから我らはリレン王子の指揮下に入る。王子の指示に従うように」
「はい!」

相変わらず揃っている返事を聞きながら、俺は別のことを考えていた。
騎士団が俺の指揮下に入るということは、指示1つで騎士の生死を決めてしまうんだな。
怖いことこの上ない。

「それでは9鐘後に出発する。もうすぐ8鐘になるはずだから1刻で準備を終わらせて」
「分かりました!おい、今のお言葉を聞いていたか?すぐに準備に取り掛かれ」
「はい。すぐに取り掛かります」

オウム返しのように返事をした騎士たちが次々と大広間から出ていく。
もうすぐ俺も出立か。

「それじゃ、カルスは馬車の準備を。フェブアーは武器、ツバーナは魔導具の確認ね」

サクッと指示を出してからふと気づく。
3年間という時をこの世界で過ごしたからか、人に指示することに慣れているな。
間違っても横暴にならないように気をつけなきゃ。

部屋に戻って身支度を整えている最中、銀色に光る懐中時計が視界に入る。
主従契約の際にカルスから貰った思い出の品だ。

「これも持っていくか。傷ついたら嫌だけど・・・心の支えにはなるもんな」

スピーチでも言ったが、俺には戦争経験はない。
仮に知っていたとしても、この世界の戦争は前世のそれとは様相が違っているだろうが。
だから、実を言うと心細いのだ。

周りはこの世界での戦争を知り尽くした精鋭である。
俺など、年齢相応の足手まといにしか映らないのだから平穏などあるはずもない。
ひたすら采配を勉強する毎日だ。

そんな生活が辛くなったときの安定剤としての役割を期待したのである。
俺もまだまだ未熟だな。
というか、前世では安定剤代わりの物なんて使ったことなかったのに。
責任が大きくなると、こうも変わるものなんだな。

「女神様・・・完璧な指揮官への道のりはまだまだ長いかもしれませ・・・」
「リレン様、準備は終了しましたか?フローリ様たちは既に準備を終えられていました」
「・・・随分と早いね。待たせるのも悪いし、すぐ行くよ」

一瞬だけ間を挟み、今回の旅に必要な物を入れた新しい鞄を持つ。
部屋の明かりを消そうとしたとき、視界の端に栗色の髪が見えたことで間一髪留まった。
ドアの前にはボーランとフローリーの2人が立っていた。
ツバーナは、騎士団と持っていく魔導具の選別を行っているらしい。

「それで・・・君たちは僕に会いたかったの?」

どこかナルシストじみた台詞を発しながら、ソファーを勧める。
2人はソファーに座りながら頷いた。

「そうだね。戦争になったら忙しくなるだろうし、一度話したかったんだ」
「ええ。私なんかは後方支援に徹するしかないでしょうし」

2人の言い分にも一理ある。
俺は大将として軍隊を指揮する役割を持つため、ボーランたちと話している余裕はない。
だからこそ、部屋で話したいということなのだろう。

「この部屋に来た理由は理解した。それで僕と何を話し合いたいの?」
「戦争の目的を改めて確認し合いたい。誰が敵で、誰が味方なのかをね」

間違えて味方と対立しないようにということか。
そうすると2つの勢力と戦わなければならず、苦戦は免れない。
3国との戦争を控える俺たちとしては、絶対に避けなければならない事態である。

「その件なら簡単だよ。マイセスと合流すれば全て明らかになるじゃん」
「あ、そうか。マイセスが味方なのか」
「お姉ちゃんが味方なら百人力ね。聖属性の効果は大陸で1番と言われているんだから」

得意げなフローリーにツバーナが苦い顔をする。
態度から察することが出来るが、どうやらイルマス教国のことを知っているようだ。

「聖属性が強かったところで、内乱なら敵も聖属性じゃない?」
「確かに。光魔法の使い手がウロウロしている中に闇魔法の使い手を置くとは思えない」
「光魔法の使い手は闇魔法を感知することが出来るしね」

俺の友人であるイグルは光魔法の使い手だが、度々闇魔法を感知していた。
巫女姫がいる教国に闇魔法の使い手が紛れていたら、一発で気づかれてしまうだろう。

「つまり目的は内乱を鎮圧することで、味方はマイセスってことか」
「そういうことですね。デーガンとかいう司教クラスの男が首謀者だからよろしく」

軽く伝えると、フローリーが首を傾げた。
何か聞いたことがあると言わんばかりの態度に、全員の視線がフローリーに刺さる。

「あの、準備が終わりました。出発できます」
「わざわざ報告ありがとう。それじゃ出発しようか。いざ、出立!」

キメ台詞もバッチリと決め、荷物を纏めて今度こそ部屋を出る。
それにしても・・・もう少し部屋でゆっくりしたかったな。
まだ新しいし、使わないと勿体ない。

ところが、俺は部屋を使う機会というものにトコトン恵まれていないと言えるだろう。
貰った後には領地巡りの旅があったし、今回だって戦争に向かわんとしているんだよ?
この戦争が終わったら・・・部屋でゆっくりしたいな。

死亡フラグを建ててしまったと気づいたのは、馬車に乗り込んでからだった。
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