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第3章 銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦
『109、イルマス教の内乱(八)』
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馬車から降りた俺たちはこの街の領主に面会することになった。
領主はかなり有能らしく、戦争による物資難を見事な手腕で乗り切った人物らしい。
その甲斐あって、街では戦によりる死者がいないのだそう。
「この街は活気がありますね。やはり領主が有能なおかげなのでしょうか」
「そうかもね。みんな笑顔でいいな」
戦争の爪痕が大きく残っている場所を見て来たからか、みんなの笑顔に心が癒される。
やっぱり街はこうじゃなきゃね。
「もうすぐ領主館に到着します。まあ、領主館とは思えない外見ですが」
意味深な言葉に気になった俺がカルスの横から見てみると、そこには民家があった。
外見は至って普通の民家だが、馬車の進行方向から推測するに領主館だ。
壁が白いから教会を彷彿とさせる。
「あれが領主館?なるほど、確かに領主の住処っぽくはないわね」
「この街は貧乏だって聞いていたけど、まさかここまでとは。予算を増やそうかしら」
フローリーとマイセスの姉妹がそれぞれの視点から意見を述べた。
馬車は庭に滑り込んでいく。
止めるところも見当たらないし、勝手にそこら辺に止めておけということなんだろうか。
「ようこそお越しくださいました。領主のフリタス=カールと申します」
「リレン=グラッザドです。今日はマーハイなる魔術師を引き渡しに来ました」
挨拶をしながら2人を下ろす。
紫色の髪を見た瞬間、信じられないとでも言いたげにフリタスは目を見開いた。
「本当に宮廷魔術師のマーハイ=ヴァイレックだったんですか・・・」
「そうだよ。僕がマーハイさ」
奴隷だったレーハさんに殴られたり蹴られたりしたせいで、人格が壊れているようだ。
目線も定まっていないように感じる。
「そういえば、デーガン大司教が3万の兵を率いてウダハルから侵攻してきたよ」
「3万ですって!?こっちは3600しかいないんですよ!?」
世間話のように、サラッととんでもないことをを言うんじゃないよ!
唐突過ぎて反応に困るわ!
エーリル将軍は悲鳴にも似た声を上げている。
恐らくはウダハル王国とデーガン派の連合軍だから、兵数が異様に多いのだろう。
対するこちら側は連合軍が作れない。
アラッサム王国以外の国からは宣戦布告を受けているからな。
下手をすれば残りの国々からも攻められる可能性があり、そうなったら一貫の終わりだ。
「これは・・・撤退するしかありませんかね」
「黒龍騎士を入れても5000程度だから厳しいかも。王都で籠城戦をするにも兵が少ない」
フェブアーの言葉に頷く。
籠城戦をするにしても、相手の兵はこちらの兵の6倍くらいはいると聞いた。
どう考えても正面衝突では勝てないだろうし、撤退するしかない。
「私もそう思っていました。すぐに撤退します。黒龍騎士に王都に籠城することを伝えて」
「分かりました。赤色の煙を打ち上げればいいんですよね」
「そうだ。みんなは荷物を纏めて配置につけ。リレン王子たちは馬車に乗っていてください」
毅然とした態度でエーリル将軍が指示を出す。
しかし、フリタスからの情報に怪訝そうな顔をしている人物が1人いた。
馬車に乗る仕草をしたマイセスがサッと領主に近付くと、胸から小さな紙片を抜き取る。
あれは・・・何だ?
「デーガン大司教が3万の兵を持っていると伝えろ。ちなみに実際は2600だ?」
「何だと?ちょっと待て!」
煙を上げようとしていた騎士を押し留め、エーリル将軍が紙片を覗き込む。
そして半眼で領主を睨んだ。
「どういうことですかな?他国から来た私たちに喧嘩を売っていると?」
「いや・・・デーガン大司教に脅されたんですよ!この情報を伝えないと税を高くするって」
相手側のリーダーは、自分が勝った気分でいるらしい。
プリスト教皇が生きているのに、自分だけで税を高くするなんて出来るわけがないだろう。
「だったら直接対決の方が都合がいい。このまま進軍するぞ」
「そうですね。進みましょう」
フローリーが背後を振り返りながらそう言う。
彼女の後ろには、自分たちも戦いたいという決意を持った若者たちが立っていた。
俗に言う義勇軍というやつだろうか。
「ん?お前たちは何者だ?」
「僕たちにも戦わせてください。絶対に勝ってみせますから」
先頭に立っていた男の言葉に、エーリル将軍は笑みを浮かべながら剣を掲げた。
「それでは、これより進軍を開始するっ!絶対にデーガン大司教ら逆賊を討ち滅ぼす!」
「「おー!」」
今まで言った街の中で一番というくらいの鬨の声が辺りに響き渡った。
俺たちは馬車に飛び乗る。
「その領主は幽閉しておけ。実害はなかったから命までは取らなくていいだろう」
「寛大な措置に感謝します。我が国の者が申し訳ありません」
深々と頭を下げるマイセスを見て、自分が行ってしまったことの重大さを察したのだろう。
フリタスが顔を真っ青にして崩れ落ちた。
「それでは出発するぞ!いざ決戦の戦場へ!」
「絶対に勝って、出来るだけ早くイルマス教国の内乱を終わらせるよ!」
俺はみんなを鼓舞するように声を上げた。
後の世に『国を揺るがす大戦』と謳われた戦が始まるまで、あと2日。
領主はかなり有能らしく、戦争による物資難を見事な手腕で乗り切った人物らしい。
その甲斐あって、街では戦によりる死者がいないのだそう。
「この街は活気がありますね。やはり領主が有能なおかげなのでしょうか」
「そうかもね。みんな笑顔でいいな」
戦争の爪痕が大きく残っている場所を見て来たからか、みんなの笑顔に心が癒される。
やっぱり街はこうじゃなきゃね。
「もうすぐ領主館に到着します。まあ、領主館とは思えない外見ですが」
意味深な言葉に気になった俺がカルスの横から見てみると、そこには民家があった。
外見は至って普通の民家だが、馬車の進行方向から推測するに領主館だ。
壁が白いから教会を彷彿とさせる。
「あれが領主館?なるほど、確かに領主の住処っぽくはないわね」
「この街は貧乏だって聞いていたけど、まさかここまでとは。予算を増やそうかしら」
フローリーとマイセスの姉妹がそれぞれの視点から意見を述べた。
馬車は庭に滑り込んでいく。
止めるところも見当たらないし、勝手にそこら辺に止めておけということなんだろうか。
「ようこそお越しくださいました。領主のフリタス=カールと申します」
「リレン=グラッザドです。今日はマーハイなる魔術師を引き渡しに来ました」
挨拶をしながら2人を下ろす。
紫色の髪を見た瞬間、信じられないとでも言いたげにフリタスは目を見開いた。
「本当に宮廷魔術師のマーハイ=ヴァイレックだったんですか・・・」
「そうだよ。僕がマーハイさ」
奴隷だったレーハさんに殴られたり蹴られたりしたせいで、人格が壊れているようだ。
目線も定まっていないように感じる。
「そういえば、デーガン大司教が3万の兵を率いてウダハルから侵攻してきたよ」
「3万ですって!?こっちは3600しかいないんですよ!?」
世間話のように、サラッととんでもないことをを言うんじゃないよ!
唐突過ぎて反応に困るわ!
エーリル将軍は悲鳴にも似た声を上げている。
恐らくはウダハル王国とデーガン派の連合軍だから、兵数が異様に多いのだろう。
対するこちら側は連合軍が作れない。
アラッサム王国以外の国からは宣戦布告を受けているからな。
下手をすれば残りの国々からも攻められる可能性があり、そうなったら一貫の終わりだ。
「これは・・・撤退するしかありませんかね」
「黒龍騎士を入れても5000程度だから厳しいかも。王都で籠城戦をするにも兵が少ない」
フェブアーの言葉に頷く。
籠城戦をするにしても、相手の兵はこちらの兵の6倍くらいはいると聞いた。
どう考えても正面衝突では勝てないだろうし、撤退するしかない。
「私もそう思っていました。すぐに撤退します。黒龍騎士に王都に籠城することを伝えて」
「分かりました。赤色の煙を打ち上げればいいんですよね」
「そうだ。みんなは荷物を纏めて配置につけ。リレン王子たちは馬車に乗っていてください」
毅然とした態度でエーリル将軍が指示を出す。
しかし、フリタスからの情報に怪訝そうな顔をしている人物が1人いた。
馬車に乗る仕草をしたマイセスがサッと領主に近付くと、胸から小さな紙片を抜き取る。
あれは・・・何だ?
「デーガン大司教が3万の兵を持っていると伝えろ。ちなみに実際は2600だ?」
「何だと?ちょっと待て!」
煙を上げようとしていた騎士を押し留め、エーリル将軍が紙片を覗き込む。
そして半眼で領主を睨んだ。
「どういうことですかな?他国から来た私たちに喧嘩を売っていると?」
「いや・・・デーガン大司教に脅されたんですよ!この情報を伝えないと税を高くするって」
相手側のリーダーは、自分が勝った気分でいるらしい。
プリスト教皇が生きているのに、自分だけで税を高くするなんて出来るわけがないだろう。
「だったら直接対決の方が都合がいい。このまま進軍するぞ」
「そうですね。進みましょう」
フローリーが背後を振り返りながらそう言う。
彼女の後ろには、自分たちも戦いたいという決意を持った若者たちが立っていた。
俗に言う義勇軍というやつだろうか。
「ん?お前たちは何者だ?」
「僕たちにも戦わせてください。絶対に勝ってみせますから」
先頭に立っていた男の言葉に、エーリル将軍は笑みを浮かべながら剣を掲げた。
「それでは、これより進軍を開始するっ!絶対にデーガン大司教ら逆賊を討ち滅ぼす!」
「「おー!」」
今まで言った街の中で一番というくらいの鬨の声が辺りに響き渡った。
俺たちは馬車に飛び乗る。
「その領主は幽閉しておけ。実害はなかったから命までは取らなくていいだろう」
「寛大な措置に感謝します。我が国の者が申し訳ありません」
深々と頭を下げるマイセスを見て、自分が行ってしまったことの重大さを察したのだろう。
フリタスが顔を真っ青にして崩れ落ちた。
「それでは出発するぞ!いざ決戦の戦場へ!」
「絶対に勝って、出来るだけ早くイルマス教国の内乱を終わらせるよ!」
俺はみんなを鼓舞するように声を上げた。
後の世に『国を揺るがす大戦』と謳われた戦が始まるまで、あと2日。
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