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第3章 銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦
『108、イルマス教の内乱(七)』
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昔の話をし終えた女性はゆっくりと息を吐いて微笑んだ。
その顔は憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしており、解放感に満ち溢れていた。
「つまらない話を聞いてくれてありがとう。私はレーハっていうの。よろしく」
「グラッザド王国第1王子のリレンです。酷い環境からの解放、おめでとうございます」
彼女は新たな人生を歩んでいくのだろう。
王城で雇ってあげてもいいのだが、何せイルマス教国の内乱を鎮めないと。
このままじゃいつまで経っても帰れない。
「それでは失礼いたしますわ。私はあのクソ魔術師に用がありますゆえ」
「あ、ちょっと待って!」
俺の制止が耳に入っていないかのように、彼女は物凄い速さで家を出て行った。
みんなが呆気に取られる
「好きにやらせてあげたらどうだ?私もあそこまでやられたら、復讐したくもなる」
「そうですね。それが良いと思います」
フローリーも黒い笑みを浮かべてキッチンへと向かう。
マイセスが手伝いに行ってからしばらく経つと、お茶の美味しそうな香りが漂ってきた。
どうやらお茶を淹れてくれたようだ。
「お茶を飲んだら様子を見に行くぞ。警吏に引き渡さなければいけないからな」
「「「分かりました」」」
俺、フローリー、マイセスの返事が綺麗に揃う。
キョトンとした顔をしていたエーリル将軍は、やがて声を上げて笑い出した。
「君たちは仲が良いのだな。羨ましい限りだ」
「エーリル将軍には仲の良い友達っていないんですか?明るいから友達多そうなのに」
フローリーがド直球の質問を投げると、エーリル将軍は苦笑い。
そして窓の外を眺めながらため息をつく。
エーリル将軍の顔はどこか寂し気で、昔のことを懐かしんでいるように感じた。
「私は昔から冒険者志望だったからな。友達はいない」
「冒険者志望だと友達がいないって・・・意味が分からないんですが。それってどういう・・・」
怪訝そうな顔をしたフローリーの言葉を遮るようにして、爆発音が家を震わせる。
全員が咄嗟に立ち上がって窓の外を眺めた。
村の近辺には違和感はなかったが、遠くの森の方から紫の煙が空に昇っていく。
何だあれ?自然に悪そうな煙だな。
「あれは黒龍騎士の指揮官に持たせた狼煙だな。紫ってことは2つの村を陥落させた」
「もう!?こっちはまだ1つしか陥落させていないですよ!」
さすがエルフの軍隊と言うべきか。
長い年月を生きていれば、それだけ場数を踏むことになり、強くなるというわけだ。
あちらに頼んだ拠点は5つだから、もう半数近くを葬っていることになる。
「私たちも早く行きましょう。グズグズしている暇はありません」
「ええ。すぐにレーハとかいう獣人の女性の様子を確認し、魔術師とともに馬車に乗せろ」
「了解です」
手短に答えると、俺たちは村の中心部に直行した。
マーハイの近くまで戻ると、 ボーランが呆然とした顔で立ち竦んでいる。
「どうしたの?こんなところで」
「元奴隷だと名乗る獣人の女性が駆けつけてきてですね。復讐大会を行っているんです」
疲れたような声で報告してくれたのはフェブアーだ。
赤い髪が光を失った目に垂れ下がり、さながら幽霊のようになっている。
俺はその様子を見て、深いため息をつく。
レーハが復讐に染まってしまっているため、中止するように説得するのが大変だろう。
ただ、死んでしまっても困るので止めないわけにはいかない。
まったく・・・損な役回りだぜ。
大きな声を出そうと息を吸い込んだとき、横に白い服をした少女が凛々しい表情で立った。
「ここに巫女姫であるマイセスが命じる!レーハ殿は即刻復讐を中止せよ!」
「巫女姫様の大命である。従わない者には神罰が下るぞ!」
止めるためのセリフは言われてしまったので、マイセスをさりげなく持ち上げておく。
この国では俺が言うより、マイセスが言ったほうがいいわな。
「何ですか?私の復讐を邪魔して!」
「只今より私たちは出発いたします。その際に証人として魔術師が必要なんです」
マイセスが、やや丁寧過ぎるくらいの口調で説明した。
レーハは納得がいかない様子だが、エーリル将軍の指示でマーハイを馬車に押し込む。
宮廷魔術師の最期なんてあっけないものだな。
「みんなも馬車に乗れ。カルス、申し訳ないが御者を頼めるか?」
「分かりました」
ずっと俺の近くに立っていただけのカルスだが、御者は上手いからな。
安心して乗っていられるというものだ。
「みんな馬車に乗っているな?それでは次の街に出発するっ!」
「次の戦場へいざ、出立!」
エーリル将軍と俺の言葉を受けて、御者であるカルスが馬を叩く。
森の中に隠されていた馬車は、敗者の将を乗せたまま、村をゆっくりと遠ざけていった。
「次の村に向かう前に寄り道をするぞ。捕縛した魔術師を引き渡さなきゃいけないからな」
「この街ですか?」
馬車の進行方向に、王都よりも少し小さいくらいの規模の町があったのだ。
ここなら引き渡しも潤滑に進むだろう。
「そうだ。この町で引き渡しを行い、次の目的地はここだ」
「随分と遠いんですね。地図の道などから考えるに・・・7日くらいですか?」
ボーランが眉をひそめた。
1つめの村が王都から近かったため、今度の村にも早く到着すると思ってたのに。
蓋を開けてみたらメチャクチャ遠いじゃないか。
「とりあえず進むしかないな。引き渡しを行う町までは特に何もない」
「そうですね。はぁ・・・早くグラッザドに帰りたい」
教会本部にいた頃、伝令の兵士からグラッザド王国に黒い竜が出現したと聞いた。
それが心配でしょうがない。
兵士の大部分は俺たちに同行しており、今もツバーナの指揮で王都を守っているだろう。
つまりグラッザド王国は戦力不足というわけだ。
「黒い竜が出現したというやつですか。確かに心配ですね」
「しかも兵士が少ないしな。帰ったら王城が壊れているくらいは覚悟した方が良さそうだ」
ボーランの言葉に青ざめるしかない。
王城には父上やアスネお姉さまなどの家族が住んでいるのだ。
リアンとかとも、せっかく仲良くなったばかりなのに・・・。
「心配しなくても大丈夫でしょう。国王様と王妃様だけで一般人の5倍の戦力です」
「そんなに強いの!?」
父上と母上は確かに全属性か、全属性に近い魔法を使えるが。
それだけで一般人の5倍になるものか?
「国王様は私の父に剣術を習っていました。王妃様はマーク様に攻撃魔法を習ってます」
「そういえば・・・マークさんを呼んだのは母上だったな」
俺が魔法を使えるようになった日に、マークと模擬戦をするように仕向けたのは母上だ。
その模擬戦で勝ったおかげで大きな部屋を貰えたからよく覚えている。
「カルスのお父さんって剣が強かったの?」
「ええ。普段は有名な時計屋として働いていましたが、実力は確かだったとか」
カルスがやや不機嫌そうに言った。
剣の道に進まされそうになったとかの嫌なエピソードでもあるのだろうか。
「実力は確かだったどころではない。剣術七大家の1つに名を連ねるくらいだぞ」
「剣術七大家?何ですか、それ」
教会本部の前で戦った、偽物の黒龍騎士たちも口々に発していた言葉だ。
それを聞いた俺は、カルスの家が剣術の家だと思ったんだけどな。
「この大陸で剣術に特化した7つの家のことだ。この家の者は剣術がとにかく強い」
「まさかの大陸クラス!?どれだけ強いの?」
フローリーが瞠目しながら尋ねると、後方を警戒したフェブアーが呟く。
その目はバッチリとカルスを射貫いていた。
「戦争に参加するだけで戦局をひっくり返せると言われているわ。特にファース家は」
「ファース家ってカルスの実家の名前じゃない?」
確か、そんな名前だったような気がする。
カルスに視線を向けると、返事するのが面倒といった感じで小さく頷いた。
「私の実家の話はいいでしょう。もうすぐ街に到着しますよ」
「ありがとう。随分と早いんだね」
声がいつもより低かったため、理由は分からないが怒っているようだ。
やがて俺たちを乗せた馬車は1つの街に入っていく。
その顔は憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしており、解放感に満ち溢れていた。
「つまらない話を聞いてくれてありがとう。私はレーハっていうの。よろしく」
「グラッザド王国第1王子のリレンです。酷い環境からの解放、おめでとうございます」
彼女は新たな人生を歩んでいくのだろう。
王城で雇ってあげてもいいのだが、何せイルマス教国の内乱を鎮めないと。
このままじゃいつまで経っても帰れない。
「それでは失礼いたしますわ。私はあのクソ魔術師に用がありますゆえ」
「あ、ちょっと待って!」
俺の制止が耳に入っていないかのように、彼女は物凄い速さで家を出て行った。
みんなが呆気に取られる
「好きにやらせてあげたらどうだ?私もあそこまでやられたら、復讐したくもなる」
「そうですね。それが良いと思います」
フローリーも黒い笑みを浮かべてキッチンへと向かう。
マイセスが手伝いに行ってからしばらく経つと、お茶の美味しそうな香りが漂ってきた。
どうやらお茶を淹れてくれたようだ。
「お茶を飲んだら様子を見に行くぞ。警吏に引き渡さなければいけないからな」
「「「分かりました」」」
俺、フローリー、マイセスの返事が綺麗に揃う。
キョトンとした顔をしていたエーリル将軍は、やがて声を上げて笑い出した。
「君たちは仲が良いのだな。羨ましい限りだ」
「エーリル将軍には仲の良い友達っていないんですか?明るいから友達多そうなのに」
フローリーがド直球の質問を投げると、エーリル将軍は苦笑い。
そして窓の外を眺めながらため息をつく。
エーリル将軍の顔はどこか寂し気で、昔のことを懐かしんでいるように感じた。
「私は昔から冒険者志望だったからな。友達はいない」
「冒険者志望だと友達がいないって・・・意味が分からないんですが。それってどういう・・・」
怪訝そうな顔をしたフローリーの言葉を遮るようにして、爆発音が家を震わせる。
全員が咄嗟に立ち上がって窓の外を眺めた。
村の近辺には違和感はなかったが、遠くの森の方から紫の煙が空に昇っていく。
何だあれ?自然に悪そうな煙だな。
「あれは黒龍騎士の指揮官に持たせた狼煙だな。紫ってことは2つの村を陥落させた」
「もう!?こっちはまだ1つしか陥落させていないですよ!」
さすがエルフの軍隊と言うべきか。
長い年月を生きていれば、それだけ場数を踏むことになり、強くなるというわけだ。
あちらに頼んだ拠点は5つだから、もう半数近くを葬っていることになる。
「私たちも早く行きましょう。グズグズしている暇はありません」
「ええ。すぐにレーハとかいう獣人の女性の様子を確認し、魔術師とともに馬車に乗せろ」
「了解です」
手短に答えると、俺たちは村の中心部に直行した。
マーハイの近くまで戻ると、 ボーランが呆然とした顔で立ち竦んでいる。
「どうしたの?こんなところで」
「元奴隷だと名乗る獣人の女性が駆けつけてきてですね。復讐大会を行っているんです」
疲れたような声で報告してくれたのはフェブアーだ。
赤い髪が光を失った目に垂れ下がり、さながら幽霊のようになっている。
俺はその様子を見て、深いため息をつく。
レーハが復讐に染まってしまっているため、中止するように説得するのが大変だろう。
ただ、死んでしまっても困るので止めないわけにはいかない。
まったく・・・損な役回りだぜ。
大きな声を出そうと息を吸い込んだとき、横に白い服をした少女が凛々しい表情で立った。
「ここに巫女姫であるマイセスが命じる!レーハ殿は即刻復讐を中止せよ!」
「巫女姫様の大命である。従わない者には神罰が下るぞ!」
止めるためのセリフは言われてしまったので、マイセスをさりげなく持ち上げておく。
この国では俺が言うより、マイセスが言ったほうがいいわな。
「何ですか?私の復讐を邪魔して!」
「只今より私たちは出発いたします。その際に証人として魔術師が必要なんです」
マイセスが、やや丁寧過ぎるくらいの口調で説明した。
レーハは納得がいかない様子だが、エーリル将軍の指示でマーハイを馬車に押し込む。
宮廷魔術師の最期なんてあっけないものだな。
「みんなも馬車に乗れ。カルス、申し訳ないが御者を頼めるか?」
「分かりました」
ずっと俺の近くに立っていただけのカルスだが、御者は上手いからな。
安心して乗っていられるというものだ。
「みんな馬車に乗っているな?それでは次の街に出発するっ!」
「次の戦場へいざ、出立!」
エーリル将軍と俺の言葉を受けて、御者であるカルスが馬を叩く。
森の中に隠されていた馬車は、敗者の将を乗せたまま、村をゆっくりと遠ざけていった。
「次の村に向かう前に寄り道をするぞ。捕縛した魔術師を引き渡さなきゃいけないからな」
「この街ですか?」
馬車の進行方向に、王都よりも少し小さいくらいの規模の町があったのだ。
ここなら引き渡しも潤滑に進むだろう。
「そうだ。この町で引き渡しを行い、次の目的地はここだ」
「随分と遠いんですね。地図の道などから考えるに・・・7日くらいですか?」
ボーランが眉をひそめた。
1つめの村が王都から近かったため、今度の村にも早く到着すると思ってたのに。
蓋を開けてみたらメチャクチャ遠いじゃないか。
「とりあえず進むしかないな。引き渡しを行う町までは特に何もない」
「そうですね。はぁ・・・早くグラッザドに帰りたい」
教会本部にいた頃、伝令の兵士からグラッザド王国に黒い竜が出現したと聞いた。
それが心配でしょうがない。
兵士の大部分は俺たちに同行しており、今もツバーナの指揮で王都を守っているだろう。
つまりグラッザド王国は戦力不足というわけだ。
「黒い竜が出現したというやつですか。確かに心配ですね」
「しかも兵士が少ないしな。帰ったら王城が壊れているくらいは覚悟した方が良さそうだ」
ボーランの言葉に青ざめるしかない。
王城には父上やアスネお姉さまなどの家族が住んでいるのだ。
リアンとかとも、せっかく仲良くなったばかりなのに・・・。
「心配しなくても大丈夫でしょう。国王様と王妃様だけで一般人の5倍の戦力です」
「そんなに強いの!?」
父上と母上は確かに全属性か、全属性に近い魔法を使えるが。
それだけで一般人の5倍になるものか?
「国王様は私の父に剣術を習っていました。王妃様はマーク様に攻撃魔法を習ってます」
「そういえば・・・マークさんを呼んだのは母上だったな」
俺が魔法を使えるようになった日に、マークと模擬戦をするように仕向けたのは母上だ。
その模擬戦で勝ったおかげで大きな部屋を貰えたからよく覚えている。
「カルスのお父さんって剣が強かったの?」
「ええ。普段は有名な時計屋として働いていましたが、実力は確かだったとか」
カルスがやや不機嫌そうに言った。
剣の道に進まされそうになったとかの嫌なエピソードでもあるのだろうか。
「実力は確かだったどころではない。剣術七大家の1つに名を連ねるくらいだぞ」
「剣術七大家?何ですか、それ」
教会本部の前で戦った、偽物の黒龍騎士たちも口々に発していた言葉だ。
それを聞いた俺は、カルスの家が剣術の家だと思ったんだけどな。
「この大陸で剣術に特化した7つの家のことだ。この家の者は剣術がとにかく強い」
「まさかの大陸クラス!?どれだけ強いの?」
フローリーが瞠目しながら尋ねると、後方を警戒したフェブアーが呟く。
その目はバッチリとカルスを射貫いていた。
「戦争に参加するだけで戦局をひっくり返せると言われているわ。特にファース家は」
「ファース家ってカルスの実家の名前じゃない?」
確か、そんな名前だったような気がする。
カルスに視線を向けると、返事するのが面倒といった感じで小さく頷いた。
「私の実家の話はいいでしょう。もうすぐ街に到着しますよ」
「ありがとう。随分と早いんだね」
声がいつもより低かったため、理由は分からないが怒っているようだ。
やがて俺たちを乗せた馬車は1つの街に入っていく。
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