転生王子の奮闘記

銀雪

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終章  王子を襲った陰謀と国家転覆

『142、牙を剥いた騎士』

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フェブアーは死んだような目でこちらを一瞥して嗤う。
その目には俺の姿は映っておらず、ただ打ち滅ぼすべき敵が映っているだけだった。

「剣も構えていないんですか。私を舐めてます?」
「僕の・・・俺の攻撃方法は魔法主体なんでね。剣を主体に戦うあなたとは違う」

そう言いながらも杖を構える。
仲間の色の宝石がはめ込まれた杖を見たとき、妙な虚しさが込み上げて来た。
結局・・・残ったのはツバーナだけだったな。

「我に眠る魔法の根源、魔力よ。私の求めに応じて剣に宿れ。ファイヤー・ソード!」
「魔剣士の戦い方か・・・。まさか俺に見せたことのない技があったとはね」

無詠唱で魔法を発動できるとはいえ、国で1、2を争う騎士に正面から向かうのは無茶だ。
搦め手を上手く使っていかなければ勝ち目などない。
俺は杖をフェブアーに向けた。

「フェブアーを闇に染めてやれ、ダーク・シャドウ。からの・・・ライト・ソード!」

躊躇はなかった。
目の前で警戒の表情を浮かべているフェブアーに闇魔法をかけ、自分は光の剣を持つ。
凡庸性の高いライト・アローの応用で、光魔法で実体化した剣を構えたのだ。

「グッ・・・これは闇魔法!?」
「操られているときのフェブアーはもう護衛隊長とは思っていない。王族に弓引く逆賊だ」

心を殺さないと・・・やってられない。
3歳の王都散策から一緒に過ごした護衛の騎士と斬り合うなんて出来るはずもない。

「遠慮なく行くよ。三ノ型、大円斬。闇なんて光に斬られてしまえ!」
「私も容赦なんてしませんよ。六ノ型、真・獄炎斬。骨の髄まで焼き尽くされろ!」

俺とフェブアーが激突した。
鍔迫り合いになるが、まともな力勝負では当然のように負けてしまうであろう。
だから一工夫が必要となるのだ。

「契約を破った愚かな騎士に天の裁きを与え、属性魔法を浄化せよ。クリーン・パワー!」
「なっ・・・火魔法の力が弱まっていく・・・」

この技は、力の弱い主人側が契約を破った護衛側に勝つために作られた技だ。
イルマス教国から馬車で帰るとき、レンドさんに教えてもらった技のうちの1つである。

効果は名に属性とつく魔法をすべて打ち消すというもの。
フェブアーが剣に纏わせていた魔力は“火属性”という名前だったから、打ち消された。
絡繰りはこれだけ単純なのだ。

しかし、相手は俺の詠唱1つだけで魔法が消滅したのだから多くの攻撃手段を失う。
そうなればこちらのものだ。

目の前で瞠目しているフェブアーに俺のライト・ソードが迫っていく。
しかし、そこは百戦錬磨の元騎士団長。
剣を素早く自身の方に引きよせると、再び剣を構えて俺の攻撃を防ぐ。

――やっぱり素早さが異常だ。

俺は剣を無我夢中で突っ込んだはずなのに、まさか防がれるとは思っていなかった。
予想ではお腹に刺さってしまうと思っていたのに、

後方に飛んで距離を稼ごうとしたが、まるで動きを読んでいたかのように斬撃が飛ぶ。
俺は体を捻って何とか躱していると、目の前には剣を振り被ったフェブアー。
どうやったら一瞬でここまで来れるんだよ!

「指輪結界、発動!」
「そんな弱々しい結界、私の攻撃の前では通用しないわよ。一ノ型、飛燕斬」

余裕を見せつけるように静止して剣を振り降ろす。
すると、太陽光で作ったはずの結界はガラスが割れたような音を立てて壊れた。

「やべっ・・・二ノ型、光線の舞」
「周りの人は何も攻撃してしてこないのか。まあ、それでもいいのだが」

フェブアーが吐き捨てて剣を振りかぶったが、次の瞬間には動きを止めて背中を見やる。
そこには光り輝く矢が刺さっていた。
フェブアーは目を大きく見開いてからその場に倒れこむ。

「まったく・・・リレンは仲間を頼るということを覚えろ。全部を1人で解決しようとする」
「リアン・・・どうして君が・・・」

義兄であるリアンがフェブアーを攻撃する理由が見当たらない。
しかも先回りして王城に着いていたみたいだし。

「本来は父上が指揮するリレン殺害軍の手伝いをするために呼ばれたんだけどねー」
「私たちにとって次期国王はリレン様だけですので。僭越ながらお手伝いします」

門の奥から歩いてきたメイド長のジャネが言う。
彼女の言葉に深く頷いたリアンが門を超えて何かの装置を動かすと、手招きをする。
これは・・・俺たちを呼んでいるんだよね?

「アスネお姉さま、風魔法の用意をお願いします。リアンが味方である確証がありません」
「アリナも警戒を怠らないようにね。あなたの方が剣を使えるでしょ?」
「そっか、結界」

空中には、魔法で侵入されることを防ぐための結界が張られているからな。
魔法が使えない可能性もある。

「時間もないし、さっさと牢獄に行こう。イグルさんもブルミさんだっけ?も無事だよ」
「分かった。早く行こう」

こうして俺たちは王城に足を踏み入れたのだった。
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