アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~

桐野 紡

文字の大きさ
82 / 128
6巻

6-2

しおりを挟む
 こうして戦闘態勢になった銀狼団が進んでいく。
 しばらくは特に何事もなかったが、突き出した石柱が林立するエリアに入った途端、雰囲気が変わった。
 灰色のきりが足元から湧き立っている。
 すると突然、柱の陰から金属の光沢を放つトンボ状の機械がヌウッと現れる。赤い目を光らせ、長い足と羽根を震わせている。
 蚊のような羽ばたき音をさせて、四、五匹の編隊で飛んでいた。

「キシャァァ!」

 耳障みみざわりな鳴き声に、サッと身構えるマリア。そうして警戒を強めるが、ハヤテが【咆哮】を放てば飛んでいる敵は地に落ちるので、そこまで心配はしていない。
 早速、ハヤテが「ガァァッ」と吠えると、トンボたちはバタバタと痙攣けいれんしながら落ちていく。それにマリアとともにハヤテがとどめを刺す。
 この地の機械系の魔物で注意しなければならないのは、とどめを刺すと爆発することだ。そのため、冒険者たちは爆発した後の残骸ざんがいを持ち帰るぐらいが関の山だった。しかし、今回のリキオーたちはアイテム収集のために来ているのではない。
 残骸は無視して進む。
 次に現れたのは、さながらロボゾンビといったところだろうか。
 人の体に似た構成はしているものの、どこかがおかしい。腕の付いてる部分が下半身なのだ。おかげで胴体が長く見える。
 そのロボゾンビが「ヴヴ」という低音を発しながら足を引きずるように歩み寄ってきては、腕を振り回してくる。
 マリアがロングシールドを構えて防御を買って出ると、カエデはズブズブと足元から沈むようにハヤテの影へと消えた。
 そこからがカエデの本領発揮だ。
 ハヤテが敵を翻弄ほんろうするように動いて注意を引くと、その影から地面に刃が生え、ロボゾンビの足元をさらう。
 そうしてバランスを崩して無防備になった敵に、マリアのウェポンスキルが炸裂さくれつする。

「くらえっ、【ソードラッシュ】!」

 金属製の胴体さえ難なく穿うがきらめき、そして、ガガガという甲高い音。オーバーキルされたロボゾンビが後ろへけ反り、それと同時に爆発する。
 マリアが盾を構えてロボゾンビの爆発をいなした後に、亀のような地をう魔物が現れた。
 自走爆雷ばくらいのようにも見えたので、リキオーはメンバーに注意を促す。

「マリア、避けろ。アネッテ、頼んだ」
「はいっ」

 これは遠距離から倒した方がいい。リキオーがそう判断すると、その思考を読み取ったかのようにハヤテは距離を取った。
 アネッテは、リキオーの頷きに応えるように細い腕を振る。すると、空間に作られたポケット――アーツから雷撃が放たれ、亀のように自走する魔物に向かっていった。
 紫電しでんが魔物に当たった瞬間、カッとまぶしい輝きを残してそれは大爆発を起こした。この爆発をまともに受けていたら、大変なことになっていただろう。
 それからも攻撃は間断なくやってきたが、銀狼団にとってはさしたる敵ではなかった。
 細い道筋が見える辺りまでやってくる。どうやらフィールド状ダンジョンは抜けきったようだ。そこからは断崖を越えると一気に下り坂になる。
 その後は、遠くまで荒野の景色が続いていた。
 カエデはこの間、フルで経験値を得てレベルを四つ上げる。なかなかの効率だ。他のメンバーもリキオーを除いて一つずつレベルを上げた。
 マリアはレベル36、アネッテとハヤテは39、カエデは9。ちなみにリキオーは変わらず45だ。
 マリアが周囲を見渡しながら、リキオーに話しかける。

「ご主人、何かさっきとは雰囲気が変わったな」
「ああ、ここは何もないんだ。まあ、通り過ぎるだけだから楽だな。この次のエリアが俺たちの目指すポイントだ」

 今、彼らがいるのは、古戦場エンドルフィアを越え、ウイネスアの大穴おおあなと呼ばれる地域だ。
 重力異常によりぺんぺん草さえ生えない不毛の地となっており、巨大隕石いんせきの衝突した穴とも、古代魔法の暴発によってできた穴とも言われている。
 でかいすり鉢状ばちじょうのクレーターがあるだけで、何もない荒野である。
 リキオーたちは、そのでかいクレーター状の穴を大きく迂回うかいするように進んでいく。すると、またエリアが変わり、景色まで変わった。
 今度は幾分緑はあるが、背の高い椰子やしのような木がところどころに生えているだけ。やはり岩ばかりの光景が続いている。
 深い谷の落ち込んだ先には、見るからに恐ろしい、真っ暗な口を開けた縦穴が、その全貌ぜんぼうのぞかせていた。

「やっと着いたな。少し休憩するか。ハヤテ、カエデ、周囲を警戒してきて。もし何かと出くわしても、手を出さないで戻ってくるんだぞ」
「ワウッ」

 自由に走り回れるのが嬉しいのか、ハヤテが楽しげに吠え、カエデは小さく頷く。二匹の狼たちはスキップするように駆け出していった。

「ここは危険はないんですか?」
「まあ魔物もいることはいるな。出現するのは、デミラプターという小型の竜の眷属だ。まあ、あいつらの敵じゃないよ」

 リキオーはかつてのVRMMO『アルゲートオンライン』の知識を引っ張り出してアネッテの質問に答えた。
 デミラプターは、見た目は小さい恐竜といった感じの魔物で、発達した大きな足と退化した前足を持っている。
 後ろ足で繰り出す引っ掻き攻撃と太いしっぽを振り立てる打撃が強いだけでなく、火炎放射も協力だ。しかし、この最果さいはてエリアに出現する魔物としてはレベルが低いので、大した相手ではない。
 遠くに見える深い谷を見やりながら、マリアがリキオーに尋ねる。

「それにしても、凄い眺めだな。ご主人、あれは一体何なんだ?」
「あれがイスカレイネの最も深き縦穴。そしておそらく、黒竜の棲家すみかだ」
「う、うむ。あれほどの穴なら竜がんでいてもおかしくないな」

 ポッカリと大地に空いた穴は、まるでブラックホールのようで光さえ吸収してしまいそうだ。時折、ゴオッと風が地の底から吹き上げてくる。
 そのたびごとにマリアは、魂を揺さぶるような震えを背筋に感じているようだった。




 4 イスカレイネ・その2


「ご主人、我々はあの穴に入っていくのか?」
「そうなるかな。しかし、どうやって下りていくかについては、正直俺にもわからん」

 そこまではリキオーのゲーム知識にもなかった。
 そもそもゲームのときは縁から落ちたら落下死確定で、しかも判定が穴の底はなく穴の上部で行われていたので、底を見た者はいなかったのだ。

「まあとりあえず行ってみれば何かわかるだろ。ここにはある部族もいるしな」
「ある部族? こんな場所にか?」
「ああ、獣人の部族だがな」
「獣人ですか?」

 獣人と聞いて目を輝かせて食いついてくるアネッテ。
 大方、獣人の子供と触れ合えることでも考えているのだろうが、果たしてここにいる獣人が彼女の気に入るようなものかどうか。
 リキオーたちが穴の縁に近づくと、どこからともなく「キョキョ」という奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
 やがて現れたのは、身長は大きくてもリキオーたちの腰の高さ、ハヤテの肩ぐらいまでの奇妙な生き物たちである。フードを被っており外見はよくわからないが、細いしっぽをクネクネと揺らしているのが見えた。
 彼らは、恐れることなくリキオーたちに近づいてきた。

「な、何だ?」
「ご登場だな。ここにいる獣人部族、カカロン族だ」
「まあっ、まあまあ」

 アネッテはどうやら気に入ったらしく、両手を頬に当てている。萌えている様子だ。ハヤテは警戒しているのか、リキオーのそばにピッタリと寄り添っていた。
 一匹のカカロン族がトコトコとやってきて、リキオーを見上げてパタパタと両手を振る。そして、ようやく声を発した。

「オマエタチ、ワレラトショーバイスル?」

 カタコトながらも、ヒト族の共通言語を話せるらしい。

「まあ、ものによるな。とりあえず宿屋を頼む。こいつらがいるけど大丈夫だろ?」

 リキオーがハヤテとカエデの首の後ろを撫でながら、カカロン族に問いかける。彼は小さな目をパチパチとまばたきし、ヒゲを震わせた。

「ヨカヨカ。ショーバイスルモノ、ワレラ、カンゲイ」
「カンゲイ~」

 一匹がリキオーたちを客と認識すると、他のカカロン族が一斉に唱和した。そして銀狼団の周りをパタパタと走り始める。
 そのうちの一匹がリキオーの目の前で止まると、急にしゃべりだす。
 正直なところ、リキオーにとっては、それぞれの個体を全く区別できないのだが、どうやら彼は宿屋の主人らしい。

「ウチ、アンタラ宿屋ツレテク。金アルアルカ?」
「おう、これでどうだ」

 リキオーはふところからアルタイラで流通している金貨を取り出して手渡した。

「ヒーフーミー、アンタラ、ナンニチ、トマルアルカ」

 エセ中国人みたいなしゃべり方に、リキオーの頬も思わず緩んでしまう。
 リキオーが指で二日泊まりたいと示すと、カカロン族の宿屋の主人は首を振ってそのまま金貨を返した。

「これじゃ足りないのか。高いな。まあとりあえず二日で頼みたいんだが……そうだ、ここは水は貴重なのか? よかったら提供できるが?」
「水キチョー、トッテモキチョー。本当ニ出セル? ソレ魔法?」
「ああ魔法だ」

 リキオーは彼の目の前でかざした指の間から、サラサラと水をしたたらせて見せた。
 カカロン族の宿屋の主人は小さな指でその水を受けると、フードの間から覗かせた長い耳をピクピクと動かす。

「オー、魔法、スゴイネ、コレ、モトイパーイ出ル、アル?」
「ああ、いくらでもな。宿代、安くしてくれるならもっと出してやるよ」
「スンバラシィ、オ客サン、オーモーケデキルアルヨ」

 そのカカロン族に連れられて、宿屋まで案内してもらう。
 ハヤテとカエデもいるので大部屋に泊まりたかったが、カカロン族のサイズからいってあまり期待していなかった。しかしたどり着いてみると割と大きい。どうやら彼らが住んでいる町は、元々ヒトが住んでいたものを再利用しているらしい。
 何という町か調べてみようと思い、マップを開いてこの辺りを表示させてみると――それはあった。しかし、どこかおかしい。
 港町サイ・ハリアドと書かれていたのだ。
 海もない最果ての町なのに港町? ひょっとして穴の底に湖でもあるのか? いろいろ気になるところはあるが、何はともあれ情報収集だ。
 リキオーが買い物に行くと告げると、全員が付いてくると言う。
 大所帯でゾロゾロと通りを歩いていく。
 単一種族だけでこの町は成り立っているらしく、どこへ行ってもカカロン族ばかりだった。ヒトの残していった町を巧く再利用しているようで、ヒト族が住んでいた面影おもかげが見て取れた。
 リキオーの知識では、彼らはアクセサリーの細工の技能が高かったはず。
 そう思って道に出ている露店を見てみると、安価でいろんなものが出されていた。鑑定スキルによって確かめたら、結構な価格になるはずのものがほとんど原価ギリギリの値段で並べられている。
 リキオーは、アネッテとマリアにそれぞれペンダントやアクセサリーを買ってやった。二人とも満足そうに笑みを浮かべた。

「まあ、たまにはいいな」
「ええ。可愛い子たちもいっぱいで、ここはいいところですね」

 この町にヒトが住んでいた頃から、カカロン族はヒト族と共存して暮らしていたらしく、そのため、彼らは妙に人懐ひとなつっこい。
 ちなみにこの町には、ちゃんと冒険者ギルドもある。ヒトがいた頃の暮らしを、彼らはそのまま続けているようだ。
 露店の一角の食堂に入り、街路に面した席で肉料理を頼んだ。獣肉はジューシーで、香草と合わせて食べると食欲も増進するみたいだ。
 ガツガツと掻き込んでいるマリアの足元では、ハヤテとカエデが気持ちよさそうに目を伏せて、前足に頭を乗せて会話に耳を傾けていた。
 イスカレイネの大穴を囲むように存在する町、サイ・ハリアド。
 傾斜を感じるので確かめてみると、やはりゆったりとした角度で下っている。ひょっとすると、この町から下まで行けるのではと思ったが、どうやら穴の途中で先に進めなくなるらしい。
 道の途中の壁に、ヒトが書いたと思われる町の構造図が残っていた。それから察するに、やはり最下層には湖があり、どこか運河とつなががっているようだ。

「これからどうするんだ? ご主人」
「うーむ。明日は、イスカレイネにどうやって行くのか、ここの長老か誰かに当たってみるかな。もしかするとヒトが住んでいた頃の図書館とかそういう施設があるかもしれないから、そっちに行って調べてみるのもありかもな」

 ヒトが長らくいなかったとはいえ、宿の設備は完璧だった。
 アクセサリー等の細工と加工が得意な部族らしく、様々な整備が行き届いていた。水が貴重なことで稼働していなかったシャワーも、リキオーが水を提供しただけで完璧に動作した。


 ***


 最果ての町で意外にもリフレッシュしたパーティメンバーたち。翌日、カカロン族の長老の元を訪れた。

「ユーガ、水クレタ魔法使イ? アリアリガタイネ、ナンデモキイテチョー」

 どう見ても他の個体と区別がつかない。
 そう思ってしまったものの、リキオーは長老と名乗ったそのカカロン族に、いろいろ尋ねてみることにした。
 まず黒竜について、ついでに運河についても。

「ユータチ、竜ニアイニキタトネ! 竜、ワタチタチノカミサマアルネ。ヨカヨカ」
「ああ、やっぱりここに棲んでるのか? 黒竜さまは」
「ソーネ。デモ、ココカラハ竜ノ神殿マデ、イケナイアルヨ」
「一番下は運河になっているんだろう? じゃあ、どこから繋がっているんだ」
「ユータチ、竜ノ背シッテルテル? アルタイラ、ヨリ、ズッズット北ノフカークヒローイ穴ネ」
「はあ、竜の背? 通ってきたとこか! なんだよ、入り口あっちかよ……」

 思い返してみると、確かにゲームの『アルゲートオンライン』でも、竜の背から入る通路があり、それは裂け目の一番下まで繋がっていたような気がする。
 ちなみに、そこにある滝壺たきつぼ裏の隠し通路から、ハイゴブリンの地下都市に行くことができたのだが……

「なあ、もしかしてハイゴブリンの地下都市もあるのか? ……さすがにないか」
「ハイゴブリン? ミータチシラナイネ。ユータチ、竜ニアッタライノルノルアルネ!」
「まあ、そうだよな。ともかくありがとう」
「ご主人、竜の背って、さっきの話……」
「言うなよ」

 がっくりと肩を落として徒労感にさいなまされるリキオー。そんな彼をマリアは唖然あぜんとして見つめている。
 竜の背は、竜人りゅうじんたちの都エランケアとアルタイラの間にあったのだが、その険しい道のりは、思い出すだけで尻が痛くなってくるのだ。
 竜に会うことを目指してアルタイラまで来たのに、入り口だった竜の背をスルーしてしまったとは。
 しかしアルタイラでは、快適な拠点を築けたのでまあ良しとしよう。そう考えないとやってられない。それに一度行った場所ならワープも使える。

「だああ! 明日は黒竜に会いに行くぞ」
「お、おう」

 そうは宣言してみたものの、仮に入り口が竜の背にあっても、そこからイスカレイネの底に繋がる運河を見つけられるかどうか。それに実際に行けたとしても恐ろしい距離だ。船旅でも何日かかることやら……
 先は長いと言わざるをえない。


 ***


 翌日、リキオーたち一行はカカロン族の町、サイ・ハリアドを出た。
 そして、人目を気にしなくてもいい場所まで来ると、リキオーは移動用生活魔法ワープを起動する。

「さて、竜の背までひとっ飛びだ」

 ハヤテたちが真っ先に飛び込んでいく。その後、アネッテがニッコリと微笑んでリキオーの腕にしがみついてくる。
 後ろで「姉さまズルい」とかなんとかマリアが呟いているが、ワープのサイズ上、二人までしか入れないため、マリアはじっとリキオーを振り返りながら一人ワープの鏡面を潜った。

「何なの? お前たち喧嘩けんかでもしてるの?」
「フフッ、気にしないでください」

 頭に疑問符を浮かべるリキオーに対し、アネッテは満面の笑みを浮かべ、同時にワープの鏡面を潜った。
 向こう側はカラカラの大地、サバンナ気候の赤い砂が舞う。

「この景色、懐かしいな」
「そうですね。なんか少しかゆくなってきました」

 アネッテはゾッとした表情を見せる。彼女にとって、この近くにある宿場町ヒアンシスでの思い出は、初めての虫との遭遇である。

「それでどこへ向かうんだ。道は知ってるのか、ご主人」

 マリアがいささかけんのある口調で問いかけてくる。

「ああ、そんなに距離があるわけじゃない。歩くぞ」

 リキオーたちがワープして出てきたのは、竜の背の渓谷の中ほど。以前、馬車で通ったところだった。
 そこを過去の道筋をたどるように歩いていく。
 しばらくすると、途中からほとんど見失いそうな道の痕跡になった。
 マリアがうんざりしたように呟く。

「これはわからんな」
「というか、わざわざ黒竜に会いに行く酔狂すいきょうが俺たち以外にいるとは思えん。整備された道があるなんて期待しない方がいいだろうな」
「でしょうね」

 リキオーの後ろを、ハヤテとカエデが並んで追う。
 アップダウンを繰り返しつつ、リキオーたちは反り返った渓谷の奥へと吸い込まれるように下っていった。
 たどり着いたところには清冽せいれつな水が流れているのが見えた。流れは割と速いが、底まで透けるほど綺麗だった。

「ここも魚が釣れるんだよなあ」
「釣っていきます?」
「いやいい。先に行こう」

 リキオーが構わず進もうとすると、水面を見つめながらマリアが尋ねてくる。

「どうしてここにだけ水が流れているんだ?」
「ここだけというわけじゃないんだ。そもそも俺たちが通ってきた馬車道だって元は川だったんだぞ。すでに上の大地は乾ききっているが、雨季には雨も降ることはあるんだ。まあ三日だけだがな」

 そんな話をしながら歩いていると、川岸の道に出た。
 ようやく渓谷の一番底に着いたのだ。そこからはすぐ隣に水辺があるため、ここが上の乾燥した土地と同じ一帯なのかと信じられないほど涼やかだった。

「あれだな」

 リキオーの指し示す先にあったのは、清流の途中からアルタイラの方へ向けて流れを変えたトンネルで、その入り口には船着場があった。

「誰かいますよ!」

 アネッテの指摘するように、そこには黒いフードを被った男(?)が、待ち人でもしているようにたたずんでいた。
 そこに停まっていた船は、集団で乗り込むのを想定したように幅が広く、前後も長かった。トンネルの水路は、それまでの渓谷とは違い、水の流れは遅く、川幅は広くなっていた。
 リキオーはその人物に近づき、慎重に話しかける。

「もし。少しよろしいですか?」
「ん……おお、これは久しぶりのお客人だな。この老人に何か用かの?」
「はい。実は私たちはイスカレイネの最下層、黒竜神殿に行きたいのです」

 フードを目深まぶかに被った老人は目は見せなかったが、口元を和らげリキオーに答えた。リキオーはふと、彼はいつからここにいるのだろう、と思ってしまった。

「フフ、そうか。それでわざわざここまでご足労なさったわけだ」
「それで、その……ここから本当に行けるのでしょうか」

 老人がゆっくりと告げる。

「ああ、間違いないね。ここから黒竜神殿へ行くことができるよ。ただちょっと問題があってね……」
「どんな?」
「この水路にはいつの間にか魔物が棲み着いてしまってね。元はといえば、この船は神殿への参拝客を乗せる渡し船だったんだが、魔物が出てからは見ての通りサッパリさね」

 そう言う老人は、意外にも矍鑠かくしゃくとしていた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。