文バレ!①

宇野片み緒

文字の大きさ
上 下
5 / 26
第二章 ライバル校はキリシタン

「たまには、活躍させてもらうぜ」

しおりを挟む
 上下とも純白の体操服を身にまとった連中が向かいのコートに並んでいる。コート内に限らず、体育館中にセイントコトバ学院の生徒が溢れていた。この敵チームは部員を三十人も抱え込んでいるマンモス校である。真っ白な体操服がただでさえギラつくくせに、白のハイソックスに白い上履き、しかも上げすぎのズボンにシャツインで腰元が妙にこんもりしているし、交換留学が盛んな高校のためか超長身の外人がやけに多い。



 ダサさと眩しさが相まってひどい光景だお前ら!
「白鳩の群れみたいに輝きやがって。バカにしているのかッ」
 相手の中で最も光っている、細身で中性的な男へネット越しにつっかかった。途端に、
「貴様、我らの主君に無礼を」
 そいつではなく、やつの隣にいたラテン系のでかい男が声を荒げた。主君、だと。肩までの黒髪トレッドパーマを逆立てて、太い眉をあからさまに吊り上げ睨んでくる。なんだ、その威圧感は。そこまで怒るようなこと言ったか俺。
「フフッ、良いのですよ」
 主君なんて仰々しい名で呼ばれた男が、そのラテン系をすっと片手で制した。こちらに視線が向けられる。見ていると目が疲れるほどにきらめくストレートのブロンド、しかも額を出した長髪という神聖なスタイルであるそれを、男は手櫛でサッと梳かした。背丈は二メートルには満たないが、百九十センチは超えていそうだ。そいつは澄み切った声で言った。
「白い鳩とは、たいへん良い例えをいただきました。僕たちが平和の象徴であると、君は仰ってくださるのですね。喜ばしいお言葉でございます」
 喜ばれただと?
「フフッ」
 笑われただと! なんだこいつ、この俺を怖じ気づかせただと!
 やつは神々しいオーラをまとって、凍った湖のような水色の瞳で見下ろしてくる。俺の身長は、この金髪美男子の胸元までしかなかった。背が高くなりたい。
 ふと、やつの左手首に金色のリストバンドがあると気がついた。聖コトバのキャプテンが決まって付けるものだ。なんてことだ。今年のトップは、このマイペースな天使もどきなのか。ああ、だから主君か。キャプテンでいいだろ、わかりづらい。
 本日戦いを挑んできたこの聖コトバ学院は、先だっての全国大会で我ら新古今高校に僅差で負け、二回戦で敗退した高校である。あのときは百人一首を全て言い尽くす実にいい戦いをした。かなり危ない橋を渡ったが、二対三で我々が粘り勝ちしたのだ。そんな因縁のライバル校がこの度、次こそは倒して差し上げますと丁寧にケンカを売ってきたので返り討ちにしてやる所存。優雅にフフッなんて言ってられるのは今のうちだぜ!
 聖コトバ学院は、共学なのに男女交際が一切禁止という謎めいた校則を持っている。そして熱心なキリシタンが集う。同じ法人が経営しているキリスト系の孤児院があるらしく、そこ出身の生徒もちらほら居るらしい。試合前、ネット越しに頭を下げ合った直後には、
「神よ、お守りください」
 と一斉に清らかな声で天に叫びだしたから驚いた。選手だけじゃない。体育館に集っている部員全員がだ。もちろん全国大会でも見た光景だが、怖い。
「聖コトバ学院高等学校 対 新古今高等学校 練習試合 開始」
 古井先生の吹く尺八が涼しく響いた。ボールが中に舞い、
「新約聖書」
 相手のサーバーが放った一撃目の言葉に、思考が止まる。
「そうか。それも、ありなのか」
 ソウルが悔しげに斜め下を見た。メガネが光る。いや、なしだろう!
 ありだけど、なしだろう。おのれ聖コトバめ。出題範囲は国語便覧に絞ろうという、高校文バレ界暗黙のルールを破りやがってーッ!
 あいつら天使みたいな顔して、外道なことしやがる。しかしこれはあくまで暗黙のルールであり、公式では禁じられていない。文芸に関していれば範囲はどこまでも許される。もちろん新約聖書も違反ではないため、尺八は試合を止めない。
 じゃんけんで先攻を取られた時点でまずかった。試合直前のキャプテン同士のじゃんけんは、命懸けの儀式と内輪では呼ばれている。向こうの得意かつこっちの不得意を一発目で出された暁には、いよいよ負けが見えてくる。非情にも白い排球は降ってきた。新約聖書の知識なんて、この小野マトペには基礎中の基礎しかない。まさか聖コトバがこんなせこい手で来るなんて想定外だったのだ。国語便覧しか予習していない。球が迫り来る化け物に見えた。目鼻口のない、白い、でかい、丸い。
「イエス様エエーイッ」
 バックライトの内田が慌てふためいて打った。聖コトバ側に打ちやすい上に返しやすいボールが飛んでいく。やばい。開始十秒で大ピンチだ。
「わああん、僕また簡単すぎる返しを。すみません、どうしよう」
 泣きべそ顔で見てきた内田にはキャプテンとして、
「大丈夫だ」
 と断言したが、大丈夫なわけがない。ヒイロがすぐ右から顔を向けて、意味深に舌打ちをしてきた。くそっ、ヒーローはお見通しか。
「ふええ、さすが小野キャプテンっ」
 純真などんぐり眼で内田に感動されて俺は今、非常に焦っている。新約聖書って何が書かれているんだ。誰かわかるやつはいないか。イエス様って何をした。聖コトバにとって新約聖書は、まさにホームグラウンドな文献だ。マリアと言われれば聖母と返せるくらいの基礎知識は一応ある。お願いだ、白鳩ども。初心者にもわかるくらいの優しい言葉を選んで、お手柔らかに返してくれ!
「インマヌエル」
「なんだそれは、洋菓子の仲間かーッ」
 打ったフロントライトは、イエス・キリストの子供時代かと思うほどの容姿をした、きらっきらの少年だった。宙を高く舞うバレーボールはこちらへと、くじらが深呼吸をするような遅さで落ちてきている。聖コトバがいつも天高くボールを投げるのは、神に近づくためだろうか。やつらは皆してフフッと、僕たち天使ですみたいな微笑みを浮かべた。試合に出ていない部員まで一緒の表情をするから恐怖である。
 ソウルが信頼しきった目をして振り向いてくるが、今回ばかりは期待に応えられそうにない。ジョージも両手の平を上に向けて、肩をすくめていた。
「池原さあん!」
 内田が叫んだ。そうだ、我らのヒーローなら! だがやつは短い舌打ちをして、
「専門外だ」
 と、眉間にしわを寄せただけだった。
「そんな。池原さんは無敵だって、僕、信じてたのに」
 どんぐり眼の後輩が、真左のヒイロにすがりつく。
「俺は国語便覧なら全て頭に入っているが、それだけだ」
 息を吐いて、ヒイロは自分の額に手を当てた。落ち込むなよ、十分すごいぜ。
 こんなに長い会話をしたのに、ボールはまだ落ちてこない。天井に引っかかったんじゃないかと思ったが、ちゃんと宙にある。少しずつ降りてきている。
「池原にもわからないなら、もうだめだ」
 ソウルが天空のボールを、ハイライトをなくした瞳で追う。──あ。この目。
「このバカ諦めるなッ」
 叫んで左腕を強く引いた。それで目に色を戻し、俺の幼なじみは苦笑した。この底なし沼のように暗い目を、俺はずっと昔にも見たことがあった。トラウマになっている過去。何があったかというと──無理だ。口に出すと繰り返しそうで、言えない。下唇を噛んだ。
 審判を見る。古井先生、インマヌエルって、マドレーヌの別名か何かですか。白ひげの顧問はいつも通り、紫根の着流しに茶色い革靴という文明開化の時代にいそうな格好で、両校の中間に背筋を伸ばして立っている。悲しげに尺八を構えた。
「返しが下手でごめんなさい」
 内田が泣きながらくずおれた。ソウルが覚悟したようなため息をつく。瓶底メガネを外そうとする。「おい」言うと手が止まった。ボールが覗き込むように落ちてくる。あれはこちらのコート内を叩くのだろう。一対零と言われるのだろう。もう、だめなのか?
 ふいにフロントレフトにいた速見が、勢いをつけてまっすぐ後ろへ下がった。俺の視界がやつの巨大な背中で埋まる。ボールは、
「ベツレヘム」
 速見の大声と共に、床に落ちず上がっていった。影の中で天井を見上げる。聖コトバの連中は微笑みから一転、目と口を大きく開いて、りんごを喉に詰めたように黙った。
 あちらの床をボールが強く叩き、体育館中にダアンと響き、
「零対一」
 古井先生は尺八を鳴らした。敵のみならず俺たちもぽかんとなる。速見オールマイティはでかっぱなをこすり、勇ましく振り向き、歯を見せて笑った。
「オイラの家、キリスト教なんだぜ」
 感動した。欠点を補い合う、これこそがチームプレイだ!
「たまには、活躍させてもらうぜ」
 やつは頼もしいサムアップをする。めちゃくちゃかっけえ。
「ノットオールマイティとか言って、ごめん」
「いいってことよ」
 有力な戦士が一人というのは厳しいが、これでボロ負けの可能性は粉砕した。なぜインマヌエルの返しがベツレヘムなのか俺にはさっぱりだが、相手がひるみ一点取れたということは最高の返しだったに違いねえ!
 ちなみに、本来のバレーボールのようなややこしい決まりが、文芸バレーボールではほとんどない。サーブ権があるチームの中で、やりたいやつがやりやすい位置から打って、また好きな場所に戻ればいいのである。とにかく一時間以内に敵よりも早く三点取れば勝ち。こうも単純ルール化された理由は、ただでさえ難解なこの球技を少しでもとっつきやすくしようと、日本再生協会が気を使ってくれたおかげである。
 ローテーションがないため俺のチームは、試合ごとに全員の立ち位置を決めている。別に前後左右もぐちゃぐちゃに並ぼうとルール違反ではないのだが、形を決めておく方が勝運が上がると思うのだ。万葉を始めとするどの強豪校も、前三人後三人で戦っている。
 無論、聖コトバもついさっきまでそう並んでいたのだが、急にドッチボールのような決まりのない並びになってしまった。どうやら、予想外に点を取られて混乱したらしい。こいつらは不意打ちに異常に弱いんだな。よし。俺は今や、目の前の教徒たちに負ける気がしねえ。
「たっはー焦った。マイティさん、もっと早く言ってくだせえよ」
 ジョージが笑って肩をすくめる。
「ギリギリで駆けつけるからこそ、かっこいいんだぜ」
「なるほど。男の美学ってやつっすな」
 くずおれたきり泣きじゃくっていた内田に、
「ほら、もう大丈夫だから。いつまでも泣くな」
 とソウルが腕を伸ばした。手を取って笑顔で立ち上がり、
「はいっ、メガネさん」
 その言い間違いはひどいぞ内田。
 スパイクサーブの構えをして、いかにもスポ根の容姿をした筋肉隆々の速見は言う。
「アトムちゃん、あとは俺に任せろなんだぜ」
「わあ速見さん、珍しくかっこいいですっ」
 一言多いぞ内田。
「ベツレヘム」
 再び述べて、速見はボールを相手コートにぶっとばす。いつも以上に、その背が大きく力強く見えた。聖コトバの連中は手を組みアーメンを唱えながら、乱れた並びを修正しつつ球の到着を待っている。六つのアーメンがバラバラに響く。また例の、きらっきらのフロントライトの腕にボールが着地したとき、少年は、恍惚とした笑みで述べた。
「ユダの地、ベツレヘムよ、」
 それが長い文章の冒頭だったと気づいたのは、次のセリフからである。
 相手コート内でラリーは続く。
「お前はユダの指導者たちの中で」
 ラテン系がトスを上げ、
「決していちばん小さいものではない」
 天使もどきがレシーブを打った。球を天井近くまで上げるから、こんな長文も言えるのだ。羽が生えたような排球が向かってくる。文芸バレーボールのルールでは、三回以内に相手コートに返球しないと反則となり、敵に点数をみすみす渡してしまうことになる。ちなみにこの反則の名は、締切超過。別に覚えなくていい。
 やっと球が戻ってきた。今の文の続きを俺は知らない。速見以外は首を振った。ヒイロでさえも舌打ちをしながらうなだれる。
「お前から指導者が現れ、」
 言いながら速見は上空のボールを目で追い、本来対応すべき位置に立っているフロントセンターのソウルの前に躍り出た。
「わたしの民イスラエルの、」
 排球が落つ。
「牧者となるからである」
 相手コートへと強いアタックが返される。
「くっ、ふがいない」
 ソウルが首を振り、ぶっ飛びそうになったメガネを抑えて死守した。
「占星術の学者」
 と聖コトバ。なんてコアなワードをぶち込みやがる。わからないだろうが!
「ヘロデ王」
「エルサレム」
「東方の星」
「メシア」
 ラリーが延々と続く。あっちは六人とも動いているが、こっちは速見一人だ。内容はどんどん専門的になる。しかも敵のやつら、わざと速見の対角を狙って打ちやがる。返せないのに狙われる内田の甘えた悲鳴を何度聞いたか。
「ふええ、速見さあん、助けてくださーいっ」
 体育館の壁時計を見ると、開始から十五分が経っていた。古井先生が傍らの小太鼓をポポンと叩く。敵陣は打つのを止め、排球を床に置いた。
「あー、休憩なんだぜー」
 速見が前かがみで長い息をつく。選手交代の時間だ。十五分ごとに最大三人までのチェンジが許される。入れ替えをする間の上限三分間は、試合時間には換算されない。
「入れ替えはするのかね」
 古井先生は敵に聞いた。天使もどきが答える。
「はい。フフッすみません。君たちは全員で六人なのですよね。僕たちだけ交代ができることを、フフッ。お許しくださいねフフッ」
 大笑いを小分けにしたような、すっきりしない笑い方だ。長いストレートの金髪が、中性的な顔の横でまっすぐに揺れる。全く、見た目だけは腹立たしいまでに善神だな。
 制限時間ギリギリまで粘る長丁場にされると、こっちはどんどん不利になってしまう。交代が可能で体力温存のできる大規模なチームのほうが、圧倒的に勝運が高くなっていくのだ。息を切らす速見を横目に、やつらは優雅に三人入れ替わった。
 天使もどきは持参したらしい折りたたみ式のスツールに座り、足を組んでコート外から試合を見ている。またキリシタン同士の戦いが続く。ボールは、いつこちらで落ちてもおかしくない状況だった。速見の手助けを何もできないまま、また小太鼓がなる。
 早く、終わらせなければ。あと三十分で、逆転しなければ。双方とも三点を取れないまま制限時間を超えたときは、その時点で点数を多く獲得していた方が勝ちとなる。同じ点だった場合は、引き分けとして終わってしまう。
 古井先生がゆっくりと口を開く。
「入れ替えは、」
「致しますよ」
 間発入れずに敵は言った。体力満タンの三人がコートに入ってくる。
「おやおや、十五分ぶりですね」
 わざとらしくブロンドをなびかせ、左右対称すぎて怖い水色の澄んだツリ目を向けて、天使もどきは疲労困憊の速見に微笑む。ボールを投げ、途切れたワードで再開した。
「アブラハム」
 バックセンターのヒイロの前にボールが飛んだ。腕を伸ばし、
「イサク」
 息も絶え絶えに速見は声を出したが、ついにボールを受けるタイミングに間に合わなかった。代わりにヒイロが落ちかけのボールを、完璧なフォームで相手に打ち返したが、尺八は鳴った。バックレフトにいる天使もどきが胸で球を受け、
「本家取りですね」
 作り物のように形のいい唇を細めて笑った。本家取り。反則名だ。ボールを打つのは、言葉を発した本人でなくてはならないという決まりを指す。
 チイッとヒイロが歯ぎしりを含む舌打ちをして、やつを激怒の顔で睨みつけた。無表情以外は珍しい。敵の卑劣な戦法に、副キャプテンも本気で苛立っているようだ。
「一対一」
 古井先生がダンディそのものの低く渋い声で言う。いくら速見に体力があろうとも、これでは三十分以上も六人対一人で戦っているのと同じである。しかも敵は十五分ごとに入れ替わる。このままでは速見の体力切れで負けてしまう。やつがいたく気に入っている内田歩夢が、あのあざとい笑顔で応援しようとも、今は効かないかもしれない。これは一大事だ。
 速見オールマイティは、
「へへ、まだ、いけるんだ、ぜ」
 とサムアップをしたが、それが強がりとわからないほど俺たちはバカではない。天使もどきがエコーをかけたような声色でボールをよこす。
「アブラハム」
 この期に及んで、速見から最も遠いバックライトの内田の方へ。白鳩の群れめ、とんだ鬼畜集団だな。アブラハムっていったいなんだ。お歳暮か。
 意味も全くわからないが、諦めない。さっき速見が使おうとした返しをそのまま叫び、俺は勢いに任せてスパイクを打った。
「イサク!」
 言葉は出たがボールは落としたという理由で点を取られた場合のみ、もう一度同じ返しをすることが例外的に認められる。そして別の人が言っても、本家取りに値しない。この例外ルールに今は心底感謝したい。だが速見、すまない。今できる手助けはこれだけだ。俺、この戦いが終わったら、新約聖書、読むから。
 速見はまだ奮闘した。カタカナの言葉がずっと続く。後で知ったが、アブラハムに始まりイエスに続く家系の人物名を、ずっと正しい順で言い合っていたらしい。
 だが、ここまでだった。
「アダムとイヴ!」
「りんご……」
 ボールと一緒に速見は地面にどおと倒れた。尺八が、久々に鳴った。
「二対一」
 試合時間は、四十五分を越した。あと十五分で、決着がついてしまう。敵が入れ替えの人選を行っている。燃え尽きたように、速見は起き上がらずに喋った。
「なあ、キャプテン。オイラはくやしいぜ。りんごと言ったところで、禁断の果実と返されるのがオチなんだぜ。何度流れを変えようとしても、やつら、すぐ新約聖書に戻してきやがるんだぜ。オイラがもっと賢けりゃあ、今頃、形勢逆転の案が浮がんでるはずなのによ」
 うつ伏せで倒れている汗だくの大きな背中を見下ろして、握りこぶしに力を入れた。
「俺だって、くやしい」
 発した声は弱々しく、天井に吸われていく。斜め前でソウルがまた、底なし沼のような目をしてうつむいた。色白で細っこい、メガネでそばかすのこいつが暗い表情をすると、すごく深刻に見えるから俺は辛くなる。いつもみたいに、大丈夫だよって笑ってくれよ。
「茶番は終わりましたか」
 聖コトバの天使もどきが一歩前に出てしゃがみ、転がる白い球を流麗に拾った。
「フフッ。君たちの諦めが悪いせいで、こんなに長引いてしまいましたね。フフッ。ですがようやく、楽にしてさしあげられますよ」
 やつは不気味なほど優しい笑みでこう言った。このキャプテンは、万葉の悪役風情より善人ぶってるぶんたちが悪い。序盤こそ天使そのものに見えたが、違った。
 さて、と異世界から届いたかと感じるほどの聖歌めいた声が響く。ボールを上に放り投げ、エンマのように顔を大きく歪めたかと思うと、
「アダムとイヴ」
 天使もどきはアンダーハンドサーブを打った。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

学園一の美少女はオタク男子と付き合いたい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

すずきん

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

赤き獅子の王 ~銀月綺譚黎明篇~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

魔法王女に転生した私は必ず勝ちますわ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

処理中です...