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第一章 全国一位の実力
逸話 通学路
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今流行りの通学方法は、空を飛んで行くこと。文字通り。ポナミとかいう玩具メーカーが二年くらい前にいわゆる「魔法使いの箒」を商品化したのだ。またがって飛べる例のアレである。日本の技術の進化は凄まじい。だが乗りこなすのはなかなかに難しく、買ったはいいが押し入れ行きになったという話もよく聞く。俺は箒がいるほど学校まで遠くもないし、別に興味もなかったのでそもそも買わずに徒歩通学を続けていた。ソウルも内田も徒歩だ。行く途中でソウルの家の前を通るので、いつも声をかけて一緒に行く。ちなみに箒なんて便利アイテムが出てきても自転車は根強く健在である。速見とヒイロはチャリ通だ。しかしジョージは、毎度のことなのだが流行に踊らされていて、ちょうど今、
「マトペさんはざーっす」
と歩いている俺の頭上を飛んでいった。他にも数人飛んでいる。変な光景である。でも街並みは案外、歴史の教科書で見るものと変わっていない。むしろ家だけなら昭和に似ているかもしれない。二千二十年代、空前の古民家ブームで、新築なのに古民家風に建てるのが流行ったらしい。そのブームは長く続き、続きすぎて、むしろそっちの建て方が通常みたいな域になった。俺が住んでいる家も一見すると築云百年みたいな風情だが、実は築十五年である。日本再生協会が古き良き文化を推しまくったのも一因だ。路地の景色は古くさい。
でも電信柱はない。電線は全て地下を通っている。ド田舎にはまだ少しあるらしいが、もうじき全部無くなってしまうだろう。景観維持が目的と聞く。平成史の資料で見たことのある、看板の付いた電信柱がレトロでいいと俺は思ったんだが、変化するものは仕方ない。
大通りに出ると昭和でも平成でもないことがさらによく分かる。踏切はもはや都市伝説になった。古い恋愛小説では踏切のせいで逢瀬を遮られるシーンをよく見るが、もう現実では滅多に起こらない。新幹線の進化も著しく、移動は虚しいくらいに速くなった。大阪から東京まで最短十分で着く。交通整備がデジタル化された道路には信号が少なく、タイヤのない車が無音で走っている。道路はタイル張りに移行中で、セメント固めはなごり雪のように点在。横断歩道に近づくと、人感センサーが反応して周囲の車が自然に止まる。行き交う車のほとんどが自動運転だ。だからと言って免許証が必要なくなったわけではない。突然のエラーで手動切替を余儀なくされることもまだまだ多いので運転技術は必要なのだ。そんな手動の車がうっかり飛び出してこないかを確認してから歩道を渡った。この先がソウルの家だ。
車を、日頃からあえて手動で運転する人もいる。俺の父さんもそうだ。機械任せは信用できないらしい。父さんは高速とか全自動とかせわしないものが苦手で、出張もあえて各駅停車で観光しながら行ったりする。旅行代理店に勤めていて滅多に家にいない人だ。いないのは、家族を避けているからとかでは決してなく、どちらかというといつも父のほうから「観光がてらツアー企画の下見に行くけど着いてこない?」と誘ってくれている。なのに漫画家である母さんは「〆切近い」、俺は「普通に部活ある」だの断るのだ。ごくたまに休みがかぶれば着いていってる。両親の影響か、新しい景色を知ることはとてもわくわくする。
横断歩道の先にあるソウルの家は、今どき流行らない眼鏡店を営んでいる。レーシック技術の進んだ昨今、メガネはほぼ骨董品だ。十字路の角にあるその店は、なんちゃって古民家ではないアンティークハウスで、西洋風の丸い出窓に深い銅色の柵がついている。山ノ内眼鏡店、とレトロなフォントで透明な扉に書かれている。一階の手前が店で、その奥側と二階と三階が生活スペースだ。入り口の脇に立てかけられている箒は、せっかく買った飛ぶやつなのに、家族そろって乗りこなせず、電源を切って掃除用にされたらしい。山ノ内家は三世帯で暮らしている大家族で、どの人もおっとりしている。そして眼鏡店としてのポリシーなのか、目が悪かろうが良かろうが全員メガネだ。チャイムを押すと、
「はい、おはよう、今降りる」
と朝に弱い感じの、幼なじみの穏やかな声がすぐ返った。
「マトペさんはざーっす」
と歩いている俺の頭上を飛んでいった。他にも数人飛んでいる。変な光景である。でも街並みは案外、歴史の教科書で見るものと変わっていない。むしろ家だけなら昭和に似ているかもしれない。二千二十年代、空前の古民家ブームで、新築なのに古民家風に建てるのが流行ったらしい。そのブームは長く続き、続きすぎて、むしろそっちの建て方が通常みたいな域になった。俺が住んでいる家も一見すると築云百年みたいな風情だが、実は築十五年である。日本再生協会が古き良き文化を推しまくったのも一因だ。路地の景色は古くさい。
でも電信柱はない。電線は全て地下を通っている。ド田舎にはまだ少しあるらしいが、もうじき全部無くなってしまうだろう。景観維持が目的と聞く。平成史の資料で見たことのある、看板の付いた電信柱がレトロでいいと俺は思ったんだが、変化するものは仕方ない。
大通りに出ると昭和でも平成でもないことがさらによく分かる。踏切はもはや都市伝説になった。古い恋愛小説では踏切のせいで逢瀬を遮られるシーンをよく見るが、もう現実では滅多に起こらない。新幹線の進化も著しく、移動は虚しいくらいに速くなった。大阪から東京まで最短十分で着く。交通整備がデジタル化された道路には信号が少なく、タイヤのない車が無音で走っている。道路はタイル張りに移行中で、セメント固めはなごり雪のように点在。横断歩道に近づくと、人感センサーが反応して周囲の車が自然に止まる。行き交う車のほとんどが自動運転だ。だからと言って免許証が必要なくなったわけではない。突然のエラーで手動切替を余儀なくされることもまだまだ多いので運転技術は必要なのだ。そんな手動の車がうっかり飛び出してこないかを確認してから歩道を渡った。この先がソウルの家だ。
車を、日頃からあえて手動で運転する人もいる。俺の父さんもそうだ。機械任せは信用できないらしい。父さんは高速とか全自動とかせわしないものが苦手で、出張もあえて各駅停車で観光しながら行ったりする。旅行代理店に勤めていて滅多に家にいない人だ。いないのは、家族を避けているからとかでは決してなく、どちらかというといつも父のほうから「観光がてらツアー企画の下見に行くけど着いてこない?」と誘ってくれている。なのに漫画家である母さんは「〆切近い」、俺は「普通に部活ある」だの断るのだ。ごくたまに休みがかぶれば着いていってる。両親の影響か、新しい景色を知ることはとてもわくわくする。
横断歩道の先にあるソウルの家は、今どき流行らない眼鏡店を営んでいる。レーシック技術の進んだ昨今、メガネはほぼ骨董品だ。十字路の角にあるその店は、なんちゃって古民家ではないアンティークハウスで、西洋風の丸い出窓に深い銅色の柵がついている。山ノ内眼鏡店、とレトロなフォントで透明な扉に書かれている。一階の手前が店で、その奥側と二階と三階が生活スペースだ。入り口の脇に立てかけられている箒は、せっかく買った飛ぶやつなのに、家族そろって乗りこなせず、電源を切って掃除用にされたらしい。山ノ内家は三世帯で暮らしている大家族で、どの人もおっとりしている。そして眼鏡店としてのポリシーなのか、目が悪かろうが良かろうが全員メガネだ。チャイムを押すと、
「はい、おはよう、今降りる」
と朝に弱い感じの、幼なじみの穏やかな声がすぐ返った。
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