檻と王女と元奴隷

croon

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最愛の貴方へ

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ミナへ




ミナがいなくなってから、十年以上が経ったね。

貴方が最期に言った言葉が忘れられないわ。

おめでとう、って言い残して戦場に行ってしまったね。

全然おめでたくないのに。

私は、その時の貴方の泣きそうな笑顔が、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

あぁ、貴方は今頃どこにいるのだろう。

数えきれないくらい、たくさんの人の命を奪っていることには違いないわよね。

何を想っているのかな。

何を考えているのかな。

私は、ミナのことを想って、ミナのことを考えているよ。

貴方が残していった小さな命は、今や立派に成長し、見る度に貴方を思い出すくらい、貴方に似ている。

困ったことに、とってもそっくり。

それが嬉しくもあるけど、悲しくもある。

赤毛で少しくせっ毛で、緋色の瞳の男の子。

右目が黒いのが、私の血をひいている証かな。

貴方に似たのかとても器用で、語学も剣術も体術も、やりたいと言ったもの全てを極めてしまったわ。

今は医学と薬学と勉強中よ。

その内ピッキングとかをやり始めるかもしれないわね。

チェスもずいぶんと強くなったのよ。

たまに私が負けてしまうもの。

私はチェス大会で十連勝したけれど、その一勝目の前の年…連勝し始める前に、負けた年があったでしょう?

ほら、貴方も覚えてるはずよ。

ほぼ初対面の時に話したじゃない。

あの時の私の相手って、貴方だったのね。

大会観戦者じゃなくて、大会出場者の方に、貴方の名前があったの。

大会の結果を記録したものを見せてもらって、確認した。

だからやけに私のことについて詳しかったのね。

あの子は私よりも強くなるわ。

なんたって、貴方の子だもの。

私の子でもあるけれど。

あの子は貴方にとても会いたがっているわ。

私もとても会いたい。

けど、貴方に会えるのはまだまだ先のことになると思う。

死んで会うくらいしか、私達が会う方法はなさそうね。

貴方はどこかでしぶとく生きていることだろうから、私は先に待ってるね。

貴方があの子と会うのは、まだ当分先のことになってしまうわね。

その内に貴方と会えるだろうから、あの子が来るまで、貴方にあの子についてたくさん話そうかしら。

笑っちゃうくらい貴方にそっくりよ。

やめてよ、って思っちゃうくらいにね。

仕草や声、行動があまりにも似ていて、困る。

毎日泣きたくなる。

でも、泣いてないから。

貴方が困るだろうし、あの子には泣いている私の格好悪いところなんて見せられないし。

けどたまに、少しだけ、泣いてしまうわ。

貴方も無理をしないで、溜め込まないで、ひとりで抱え込まないで、たまには泣いても良いんじゃないかな。

私はいつだって貴方の味方だから。

忘れないでね?

好きよ。

愛してる。




ティナより

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