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2.彼との出会い

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 東浦 春翔ひがしうら はるとはその日、夜遅い公園にいた。

飼っている秋田犬のコロンがいつも、ストレスを

溜めているのか、外に出たい、出たいと

言わんばかりに、喜びに溢れた表情で、

しっぽをふり、玄関の靴の前で待ちかね

ている為、春翔も仕方なく、近所の公園に

散歩に行くことが多かった。

秋風が少しずつ吹くようになった10月の、

綺麗な満月が見える夜。


春翔は公園で犬のコロンが嬉しそうに、

はしゃいで、走っている姿を

後ろから目で追いかけながら,

公園のベンチでぼーっと座っていた。

辺りは静かで、人の気配はない。

穏やかな時間が流れ、そろそろ公園を出ようと

晴翔がベンチを離れようとした時だった。

突如、強烈な光が晴翔とコロンを

襲い、目がくらみ、一瞬、ぐらっとするほど

の強い光で、目が開けられなくなる。

そのすぐ後、ドスンと鈍い音が、

晴翔の耳に鋭く、響き、その音に反応した

コロンが音が発するところに向けて、

ワンワンと吠え始めた。

「コロン、だめだ!」

晴翔が呼んでもお構いなしのコロンは数メートル

先にある場所まで、好奇心いっぱいの

表情で、猛スピードで走る。

光が発しているところへ行くと、

公園の木々が生い茂っている所の一番右端に

大きな年季の入った木が堂々と聳え立っていた。


上を見上げると、枝から竹のような棒が

はみ出て見え、木の上から人の声が聞こえてきた。

「う~ん」

若い女性の声だ。

何百年も生きているような太い、立派な

木の上の枝には棒が見え、そこに、

アンティーク風の黒いランタンが

かけられている。

異様な光景だった。

木の上にに登るにはかなり、

ハードルが高い。コロンは吠え続けていたが、

春翔からはどんな人物が木の上にいるのか

は遠すぎて、よく見えない。

まさか、誰かが意図的に住んでいるのだろうか。

いろいろな憶測が春翔の頭をよぎる。

「大丈夫ですか?」

春翔は声をかけるが、返事はない。


木の上では少女が痛々しい姿で、

木に挟まっている箒に支えられ、

彼女の背が木によたれかかっている状態で

座っていた。

少女、シャルディナが気づいた時は

既に夜で、辺りは暗く、犬の吠えた声が

やまびこのように、響いていた。

少女の綺麗だった緑のドレスは

色が変わったかのように、輝きを失い、

所々、破れ、枯葉がドレス中にくっつき、

黒く汚れ、無様な姿になっていた。
 
三つ編みの茶髪の艶々した髪も

ボサボサの髪に変貌している。

遠くから男の人の声が聞こえたのは

その時だった。

「大丈夫ですか?」

シャルディナはサッと起き上がり

箒を取ろうとするも、力がうまく入らず、

ランプがかかった箒を手に持ったまま、

木からバランスを崩した。

シャルディナは地面に向かって、落下する寸前に、

「助けてーっ」と叫ぶ。

下にいた、晴翔は叫び声で

上から落ちてくる少女に気づく。

晴翔は少女を無意識に、受け止め、

シャルディナも下にいた男性が

クッションとなり、抱きしめられた形

で、地面に倒れ込んだ。

「イテテテ…」

「うーん…」

「す、すみません…」

木から落ちたシャルディナは男性に

助けられたことに気づき、体を起こし、

直様、声をかける。

若い20歳くらいだろうか、黒髪の

身長の高い、痩せ型の青年のようだった。

「すみません、大丈夫ですか?」

「う~ん…」晴翔もすぐ、体を起き上がらせて、

その少女を見た。

茶髪の少し,草が混ざったボサボサの髪に、

緑色の少し、ボロボロのドレスを

身にまとった、青い瞳のくりっとした目の

少女が心配そうな表情でこっちを見ている。

「はっ、はい」

「よかったです。傷ないですか?」

「だ、大丈夫です。」

「あっ、よかった」

笑窪が見える笑顔で、晴翔の安否に安堵する

シャルディナ。

「ここ、どこですか?

変なところに吸い込まれたみたいで…

魔女の森に行くところだったんです」

「まっ、魔女の森って?

ここにはそんなのないですけど…

どこから来たんですか?」

春翔は少女から発せられる不思議なワードと

洋風な雰囲気の容姿に、箒とランタンを持ってい

るという点も踏まえて、いったい、どこの国の

人だろうと不思議に思わずにはいられなかった。

「私はランドウー…、いいえ、

気になさらないで、遠い国から来たものですから」

シャルディナは安易に自分の国のことを

名乗るなと父に言われたことを思い出し、

慌てて、言い直した。あの時、なにやら、

魔法を唱えたから、きっと、

他の国にに来てしまったのだろう。

どうしよう、ここはどこなのだろう、

早く帰らなくては。

でもどうやって帰るのだろう…。


シャルディナがいろいろぶつぶつ言いながら、

考えていると、少年が、自分の着ていたパーカー

を差し出した。

「寒そうだし、その格好だと、この国では

変に思われるので、よかったらどうぞ」

「いいえ、大丈夫です。

すぐ、帰りますので…」


「でも、今日、遅いですし…」

この知らない土地でどうやって、

一晩過ごそう。たしかに、

パーカーは招待を隠すのに、役立つし…

「そうですね。じゃあ…ありがとうございます」

怪しい人ではないのだろうか。

しかし、どんな国なのだろうか。

敵対国ではないんだろうか。

とにかく、ここを一刻も早く、抜け出さないと。

「あの、いろいろ助けて頂き、

 ありがとうございます。では…」

「は、はい。気をつけて、帰ってください」

「ワンワン」

「あっ、わんちゃん、かわいいですね」

見たこともない犬だぁ。犬好きのシャルディナは

その子犬が可愛く、思わず、触ってしまう。

だめだ、この国に爪痕を残しては…

後で父になんと言われることやら。

シャルディナは咄嗟に父の顔が浮かび、

犬からサッと手を離す。

「すみません、それではもう行きます」


「はい。では、お気をつけて」

青年はさわやかな笑顔で、

子犬と共に去っていった。

何ていい青年だろう。

しかし、何も武器も持ってなさそうだ。

この国は武器を持たない国なのだろうか。

シャルディナは不思議そうに首を傾げた。

とにかく、カルナと連絡を取らなければ!

きっと、私だけ、この世界に来てしまった

のだろう。

カバンはどうにか無事だったが、

携帯は圏外。残る手段はテレパシーのみ。

シャルディナは公園に戻り、全身を集中させ、

テレパシーを試みる。

「カルナ、今どこにいるの?

私は別の国に移動して来てしまったみたい!

帰る方法を知りたいの!

カルナは無事かしら?」


いつもやっている通り、テレパシーを

送るも、優秀な黒ネコのカルナから

応答がある気配はない。

どういうことなのだろう。

遠い国でもできるはずなのに…

テレパシーが送られてる様子もない。

カルナに何かあったのだろうか…

いや、不死身のネコのはずなのに…

いろいろモヤモヤを抱えながら、

シャルディナは公園から出て、

とぼとぼ歩いていった。

とりあえず、寝るところ探さないと!

シャルディナは魔法が使える場所を探しに、

住宅街から、どこかテントを張れる場所を探す。


無料のキャンプ場というところを

探し出し、ようやく着いた時、

シャルディナの身体は体力の限界に近づいていた。

ようやくたどり着いた場所ですぐさま、

テントを張り、魔法でベッドを出し、

疲れ果てた体を休めるために、

フリフリのパジャマ姿に着替え、

ベッドに入り、寝る体制に入った。

今日はたくさんのことがあったな。

明日、帰る方法を探さなくは。

いろいろ、疲れたから、残りのことは

明日、考えよう。シャルディナは疲れ果て、

ベッドから5分も経たないうちに眠りに入った。

お父様は怒りで、私を探し回ってるだろうか。

帰るとなると、恐ろしい父の怒り声を想像し、

鳥肌が立ったが、忘れっぽく、

プラス思考のシャルディナはそのまま、

夢の世界へと入っていく。

テントの外では夜空の無数の星たちが

山を包み込むかのように美しく、存在し、

異世界に来てしまった少女を温かく見守るかの

ように、美しく、輝いている。

こうして、シャルディナの異世界での

初めての夜は、慌ただしく、過ぎていった。

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