雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第四章:三人の旅

第百十一話:その流派と宝剣

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 一度乗客達が納得してからの船旅は順調だった。
 最初は人見知りを発動していたマナも、クラウスに対しての反応が恐怖では無くなれば次第に打ち解けていって愛想を振りまく様になる。
 サラもまた、乗組員の魔法使いと役割を交代して、快適な船旅が出来るようになった様だった。
 索敵や戦闘面ではサラが圧倒的に優れているけれど、船酔い対策については乗組員の方が圧倒的に優秀だ。
 あちらも少し罰が悪そうにしながらも、相手が聖女の再臨と呼ばれてその実力を見せつけたサラとなれば、酔い止め役に徹することに文句を言う者も現れない。

 ただ一つ、魔物の襲撃が毎日あるということだけが異常事態ではあったものの、サラとクラウスに任せておけばそれすら次第にショーと化していった。

「時雨流を継ぐってことは、基本的には世界トップクラスなんだよ。まあ、英雄達は少し別だけどね」

 そんなサラの言葉の通り、船はすこぶる安全な航海を続けていて、三日目には何分で終わるのかの賭けまで始められる始末。
 一度その噂を聞きつけたクラウスが張り切って敵を瞬殺した所、衝撃で船が九十度まで傾いて元に戻すのがめちゃくちゃ大変だったという理由で怒られるまで、賭けは五日ほど続けられていた。

 たまたま最初にマナを預けた勇者らしき女性が奇跡的なバランス感覚の持ち主で、それが理由でマナも心地よく戦闘中の睡眠が取れていたらしいのは、比較的どうでも良い話。

 ともかく、そんなスリル満点ながらも安全な船旅は大好評に終わり、南の大陸に着く頃にはクラウスもすっかりと他の乗客達に溶け込めることとなっていた。

「ありがとう。サラのおかげで楽しい船旅になったよ」
「ま、聖女様の七光りというかね。クラウスには難しい処世術ってやつ?」

 クラウスが礼を言えばサラはそうおどけて見せて、腕の中こらは「マナはー?」と声が聞こえる。
 それに「もちろんマナのおかげで皆も笑顔だったね」と答えれば、マナからはえへへ、と満足気な笑い声が聞こえてくる。
 マナは人形の様な見た目も相まって、非常に人に好かれやすい。
 それこそクラウスの真逆と言っても良いほどで、街中を歩いていてそれ程悪目立ちしないのはマナがクラウスの出す威圧感を相殺しているかの様だ。

 ミラの村の時も今回もそれは存分に発揮されていて、サラと並ぶ希望の旗印の様な役割を担っているかの様に、クラウスには見えていた。
 特に何をするでもなく愛想を振りまいているだけだけれど、眠って戦闘が始まってからもまるでクラウスを信頼しきっているかの様にすやすやと眠るマナを見ていると、少しでも不安だったことが馬鹿らしくなる程だというのが彼等の意見。

 実際にはマナが魔物を引き寄せていて、その寝首をかこうとしていることになど気付きもせず、皆の希望として君臨しているのがこの幼い女の子だ。

「もしかしてサラ、僕が時雨流三代目なことと、僕がマナを守るのには関係があるのか?」

 ふと、そんなことに思い至る。
 ここ三十年、世界の大きな出来事の中心には、大抵時雨流が関わっている。
 世界で唯一単独で二度魔王を倒し、世界を呪いから救うきっかけで、鍵となった初代。
 初代であるレイン・イーヴルハートは様々な偶然が重なった結果、死後魔王となってしまった。
 そんな魔王レインを倒したのが、二人の二代目を中心とした現在の英雄達だ。

 何があっても必ず守れと、国家レベルで言われるマナには、必ず何かがあるに決まっている。
 それを守る役目を託されたのが自分であるということと、つい先日知った実は時雨流の三代目であるということは、どうにも無関係には思えなかった。

 それを聞いて、サラは一瞬困った様な顔を浮かべて答える。

「んー、クラウスが三代目ってのとマナを守るのがクラウスってのは多分あんまり関係無いんじゃないかな。
 でも、どっちにしろ時雨流ってのを継ぐと厄介ごとに目を付けられるってのは偶然にしても事実なのかもね。
 ま、厄介ごとって言ってもマナを守るのは、クラウスにとってはもう当然のことか」

 相変わらずすやすやとよく眠るマナを撫でながら、サラはクラウスの腰を見る。
 それは誤魔化すにはあまりにも自然の動作で、クラウスにそれ以上の質問を許しはしなかった。

「随分と海中で戦ったものだから、旭丸も結構傷んでるね。というかクラウスの馬鹿力に、頑丈さに主眼を置いたその子も耐えられなかったってところ?」

 言われて腰の剣を抜くと、軽微な刃こぼれが見受けられる。
 流石に正確な剣のクラウスが振るうだけあって芯のずれは無いものの、かなり使い込んでいる、という状態。
 旭丸は宝剣月光を模して作られた頑丈さに主眼を置いた試作品、ということだった。

 元になった月光には、決して壊れないことと同時に弱点もある。
 それは、最上位の宝剣と言う割には決して斬れ味は良くない上に、一切の柔らかさが無いということ。

 そんな月光を模して作られた旭丸もまた、硬かった。
 つまり、手入れの難しい剣だった。
 通常の砥石では一切手入れが出来ず、かと言って決して壊れないかと言えばそんなことは無い。
 月光を除き、形あるものは必ず壊れる。

 旅に出る時から使ってきたその剣は、そろそろ強くなり続けるクラウスについて行けず、悲鳴を上げ始めていた。

 ――。

 初代レインは最上位極宝剣である月光を、唯一無二の最強の剣として生涯愛用していた。
 二代目オリヴィアは王家に伝わる国宝級の宝剣である秤のレイピアを、エリーは師匠が設計した八本の英雄の名前が込められた宝剣を愛用していた。

 対して三代目が持つ宝剣は、未だただの試作品の一振りだ。
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