雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第二部第一章:鬼神を継ぐ二人

第十八話:ちなみに念の為、先生とレインさんの本当の戦績は?

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 四年前、世界には転移魔法というものが生まれた。
 長文の呪文を唱える必要があるこの魔法は、世界中に張り巡らされているあるポイントに向かって、ごく短時間での転移を可能としている。
 球状をした世界の裏側まで到達するのに、詠唱10分、転移30分。大体そんなもの。
 ポイントによって呪文は少しずつ異なり、中には一部の人物にしか知らされていない呪文が存在する。

 そのポイントというものが『枯れない青い花』である。

 その花は世界中を巡る川の様に咲き乱れており、場所によっては観光地にもになっている。
 特に、その花の川の始まりの地である通称『聖女誕生の地』には、毎日多くの観光客が押し寄せ、そこを中心に小さな観光村が生まれる程。
 そう、その花の川は全て、世界を旅した聖女が残した奇跡である。

 そんな世界を巡る花畑の中で、一部の人物にしか知らされていないポイントの一つがここ、世界最大の王国アルカナウィンドの王城の一角にある『青い花の庭』だ。

 この王城は世界に二つある魔王討伐軍の本拠地のうち、現在公にされている最重要拠点。

 世界中に散らばる魔王討伐軍のメンバーは、同大陸内ならば空気から魔物の出現を読み取ってしまうエリーと、今まで一度の連絡も取れないもう一人を除いては、ここから魔物出現の指示を受けとり、討伐に赴いている。

「久しぶりに会ったのだから少しばかり話をしようではないか」

 ティアラを付けた白髪の少女は、待っていたとばかりに庭に転移してきたルークとエレナにそんなことを言う。

「そうだね、アリエル女王も元気そうで何よりだ」
「お久しぶり。アリエルちゃん」

 待っているのはいつものことと言わんばかりに自然に、二人は挨拶をすると、女王は少しだけ不機嫌な顔になる。

「もう、アリエルちゃんはやめてって。最近は結構女王の自覚も出てきたんだから」

 不機嫌ながらも嬉しそうに、そう答える。

「あはは、じゃ、私もアリエル様って呼んじゃおうかな」
「そんな呼び方をするのライラだけだよぉ」

 きゃっきゃと楽しそうに、二人の少女は久しぶりの再会を喜び合う。

 そんな楽しそうな白髪の少女の一歩奥には、一人の女性が待機している。薄緑の髪にメイド服、そして短いスカートの下から覗くぴっちりとしたハーフパンツ、肘から手首までの手甲に、サンダル。随分と奇抜な格好をした侍女だ。

「お久しぶりです。ライラさん」

 ルークはその女性を視界に入れると、丁寧に挨拶をする。それを見てすぐに気付いたエレナも同じ様に。

「久しぶり。二人とも。噂は聞いてるわよ?」

 奇抜な侍女、ライラの方も所作だけは丁寧に挨拶をする。

「全く二人共、女王の妾よりライラの方に丁寧に挨拶するなんて」
 女王は早速、雰囲気だけは怒った様にそんなことを言う。
 それが誰から見てもただのコミュニケーションで、全く怒っていないことが分かる様に。
「あはは、ライラさんは先生の友人だと思うとどうしても」
 ルークも少しだけ誤魔化しつつ、そう返す。

 この奇抜な侍女は、世界中でただ一人、聖女サニィの友人として名前が知れている。
 同時に、最大国家アルカナウィンドの最高戦力。そして、女王アリエル・エリーゼの命のストック。
 そんな様々な呼び名を持つ偉人だ。

 ――。

「最近の戦果はどうだ?」

 場所を移動して、王城内の魔王討伐軍様の会議室。世間話をする前の一仕事とばかりに、女王アリエルはそう尋ねる。
 全ての魔物の群れの発生は確認しているものの、直接現場の意見を聞くのがアリエルのスタイルだ。

「先程グリフォンの群れを退治してきたよ。先週はドレイクが大体200位。ここ半年でやっぱり魔物は大発生してる」
「やはりそうか。歴史的に見ても一二を争うな」

 ルークの言葉に、アリエルは神妙な顔で頷く。
 思案していると言うより、納得しているという様子。

「実はだな、過去の魔物の発生を調べられる様になったので調べたのだが」
 真面目な顔で、続ける。
「魔物の大発生には二つの要因が関係しているらしい」
「一つは魔王誕生の前兆で良いのかな?」

 アリエルの言葉に、ルークは素早く答える。
 ここ半年の異常発生と、自分の先生である聖女サニィの町が襲われた事件が重なる。

「その通りだ。そしてもう一つは、七英雄の成長時」

 七英雄。
 かつて魔王戦の戦況を一人でひっくり返した七人の歴史的英雄。
 ここ10年で魔王が生まれていたことを公表したのがつい先日なので鬼神レインは含まれていないが、彼に近い力を持った者達。

「そして当然、聖女と鬼神の旅した五年間だ」
「……なるほど。一二を争うってのはそういうことか」
 王女の言葉に、ルークはすぐさま納得の様子を見せる。
 そして、こう質問をする。
「他の仲間達の戦果は?」
「まず私と騎士団が一月前にデーモンロードを倒しました」とライラ。
「それはまた……」

 ルークが渋い顔をする。デーモンロードと言えば、以前鬼神レインが60m級のドラゴンと同格だろうと言った化け物。格闘能力しかない為特殊な力を持つライラには抜群に相性が良いが、自分の所に出たと思えばぞっとする。

「オリヴィア王女が一人で50m程のドラゴンを倒した様だ。擦り傷のみ」
「……流石だなぁ」「ふわぁ、やっぱりあの人は……」
 その情報には、誰しも感心の言葉しか出ない。
「ついでに、二人は2800匹程のイフリートと、10匹のオーガロードを含んだオーガの群れ」
「……500のグリフォンと200のドレイクで結構頑張ったと思ってた自分が恥ずかしくなるな……」
 次々と出てくるオリヴィアとエリーの武勇伝に、流石に苦笑を隠せない。
「後はウアカリが600のワイバーンと小型のリヴァイアサン。未だに姿を見せない友人が超巨大なアイアンゴーレムを倒した、ってところ」
「なるほどね。つまり、強い人の所にはそれに反応する様に強い魔物が出るってことか」
「どうやらそうらしいな」

 つまる所、今の魔物の大発生は魔王が出現する前の前哨戦であって、その戦力を測るための尖兵達。もしくは、単に自分達の体内の力に反応しているか、どちらかということだろう。

「ちなみに念の為、先生とレインさんの本当の戦績は?」
「魔王二体にドラゴン21、いや、22だったかな。あとはリヴァイアサンにクラーケンがいくつだったかな……、それにグランドドラゴン十体の群れに、」
「あ、もう良いや」

 一二を争うではなくどう考えても一番にはなれない。もし一番になるとしたら、それは世界が滅亡する時だ。
 それを確信したルークは、早々にその話を切り上げようとして。

「ま、そんな異変も毎回魔王を倒せば治っている。今回は目指せ死者0人だ」
「そうだね。頑張ろう」

 そんな前向きな女王アリエルに頼もしさを感じる。ルークもエレナも、そしてライラもそんな女王に深く頷き、会議は世間話へと移行していった。
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