悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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兄の涙

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「ルーナ、お仕度が済んだら、シルヴァインお兄様の所へ参ります」
「分かりました。お伝えして参ります」

ルーナがノクスに伝えて戻ってきて、マリアローゼの着替えを手伝っていると、暫くしてコンコン、とノックの音が響く。

「ギラッファさんがいらっしゃいました」
「どうぞ、お通しして」

シルヴァインの侍従が来たという事はお断りだろうか?
マリアローゼは仕度を整え終えて、入口付近で待つギラッファを迎えた。

「ファー。まずは貴方に御礼を申し上げたいの。ロニの弟妹達をここまで連れてきてくれて有難う存じます」
「お礼には及びません。ケレスさんの采配ですし、お嬢様の為であれば苦もありません」

礼儀正しく手を左胸に置いて、ギラッファは穏やかな笑顔で会釈をする。
こくん、と微笑んで頷いたマリアローゼは、続けて質問した。

「お兄様のご様子は如何ですの?」
「大分憔悴していらっしゃるご様子でして。先触れを出すより、直接出向かれた方が良いと判断して、お迎えに伺いました所存でございます」

断りに来たと思ったのに、まさかの主人を飛び越えてのお願いをされて、マリアローゼはにっこりと微笑んだ。

「でしたら、参りましょう。憔悴したお兄様など中々見れませんものね」

見れないし、見たくない姿だ。
そして、誰にも見せたくはない。
お兄様の名誉の為にも。

「ルーナとノクスは外で待っていて。ファーはお兄様に声をかけたら下がってくださる?」
「畏まりました」

三人の挨拶を聞いて、マリアローゼはシルヴァインの部屋に踏み入った。

「シルヴァイン様、そろそろ朝食を摂られては如何です?マリアローゼ様も心配しておいででしたよ」

開けたままの扉をノックして、それだけ言うとギラッファは微笑を残して静かに出て行った。

「心配する訳ない。俺はマリアローゼに嫌われたんだ」

シーツを被ったまま座っている後姿に、マリアローゼは何も言わず、目の前に回りこんだ。

「誰が、嫌いだと申し上げましたか?」

一晩で、よくそこまで憔悴したな、と言いたくなるほど、荒みきった眼をシルヴァインは見開いた。

「ローゼ…何で…」
「何で、じゃございませんわ。わたくし、未来永劫お話しないなんて言ってませんし、嫌いになんてなりませんわ。
嫌いならば、こう言います。二度と話しかけないで、と」

口をきゅっと引き結んだ姿は、年相応の幼さが見えて、マリアローゼの心は締め付けられた。
古い記憶があるとはいえ、マリアローゼ自身は大人でもないし、精神はまだ未熟だ。
それでも過ごした年月の記憶や大人である部分も少なからずある。
なのに、昨夜は感情的になり過ぎてしまったのだ。

「昨夜はわたくしも、言い過ぎました。でもお兄様が悪いのです。理由をきちんとお聞かせ下さいませ。それから重ねて申し上げますけれど!わたくしはお兄様を愛しておりますの!
手を、離さないと申し上げましたよね。
嘘ではございませんわ。今まで申し上げた事は上辺の事ではないと、分かって頂けて?」

力なく放り出された手をぎゅっと握ると、シルヴァインがふにゃりと力なく微笑んだ。
涙が、形の良い頬を滑り落ちて、シーツに滴る。

空いた方の手で、シルヴァインはマリアローゼを抱きしめて、肩口に頭を乗せた。

「俺も、絶対に、君を離さない」

んん?
それは家族として、ですわよね?

などと切り出せる雰囲気でもなく、そうだと信じようとマリアローゼは、空いた手でシルヴァインの背中を撫でた。
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