悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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失われた命より救われる命を思って

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マリアローゼは誉め言葉?に反論したかったが、それよりも、自分でも思い付かない事をやってくれるヴィオレッタという人を早くも尊敬し始めていた。
冬が来る前に、少しでも多くの人を助けられるよう、救貧院の建物をもっと増やす必要がある。

「あ、そうでしたわ。わたくし、冒険者ギルドに依頼がございましたの」
「どんなんだ?無料で引き受けてもいいが」

ヴァロが向かいに座って、受付の方に「依頼書持ってきてくれ」と大声で言うと、職員がさっと依頼書を持ってやって来た。
マリアローゼはその依頼書に書き込みながら、ヴァロに言う。

「御代は頂いてもらいますわ」
「なになに?孤児院の子供達に冒険の話をしてあげる。銀貨3枚、は高すぎねーか?」
「人生の経験ですもの。そんなに安値はつけられません事よ。それに毎日ではなくて、3日に1度くらいにしてみましょう」

ヴァロは大きな手で、マリアローゼの頭をもふもふと撫でた。

「規格外のお姫様か、ジェレイドが惚れこむ理由が分かった」
「レイ様のは、もう病気ですわ。話半分に聞いてらして下さいませ」

つん、と唇を尖らせる様子は幼い少女だが、ここに至るまで話した事は夢物語ではなく現実的な話である。
私利私欲の欠片も無く、人に手を差し伸べる事が出来る人間が、高い地位にいるという希望。
彼女は自分の名声でもなく、ただただ人を幸せに真っ当に生きさせたいと小さな身体で訴えていたのだ。
半信半疑だった物を目の当たりにして、他のギルド長にもこの話を伝えるべくヴァロも筆を執る事になるのである。

(もっと早くこの子がいてくれりゃ、もっと多くの命が救われたかもしれんな)

ヴァロはそんな感傷を抱いた。
冒険に出ている間に、故郷に残してきた家族が死んでしまうという話もよくある話だし、冒険に出た夫を亡くして妻も子も暮らしていけなくなる話も巷には溢れている。

(いや、これから多くの命が救われるんだ)

思い直して笑顔を浮かべたヴァロに、マリアローゼは「あ」と短い声を上げた。

「ルーナ、ナンの残りはまだありましたよね?」
「はい、ございます。配られますか?」
「ええ。わたくしはヴィオレッタさんに渡してきますので、おじさまと皆様にお配りして」

ルーナから包みを一つ受け取ると、マリアローゼはヴィオレッタを探して受付横の廊下を奥へ進んだ。

「ヴィオレッタさん、いらっしゃる?」

マリアローゼが声をかけると、奥の扉からヴィオレッタが慌てたように現れた。

「どうされました?」
「これを。お召し上がりになってくださいませ。お行儀は悪いですけれど、片手でも食べられるものですので、お仕事の邪魔にはならないかと存じますの」
「有難う存じます」

ヴィオレッタは滅多に見せない笑顔を浮かべた。
マリアローゼは知らない事である。
冒険者かギルド職員が見ていたら腰を抜かしていたかもしれない。

「あの、先程は有難う存じます。わたくしでは考え至らない事でしたもの。どうか、これからも宜しくお願い致します」
「いえ、そんな。でも、お力になれるのであれば、光栄です。何でもお申し付けください」

丁寧なお辞儀をしたマリアローゼに、ヴィオレッタも頭を下げた。
まだ幼いというのに、庶民に丁寧に接すると言うだけで驚くべき事なのである。
まさか礼を言われるとも思わずにいたヴィオレッタは、心底驚いていた。
そして、仕えるべき領主を持たない身でも、仕えたい主がこういうものならと、他の人々の話に納得したのである。

「では、お邪魔してはいけないので、わたくしは帰ります。またお会い致しましょう」
「ええ、是非。……昼食も、有り難く頂戴致します」

美しい貌に無邪気な笑顔を纏わせて、小さな淑女が歩き去っていく。
ヴィオレッタは感嘆の思いで見送り、気持ちを切り替えて手紙を書き始めた。
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