【完結】スマホが誤作動しただけなのに 〜肉体派男子にえっちに迫られていますがリアルで刺激は求めてません!〜

鳥海柚菜

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第4章 突き付けられる現実

23. 一歩を踏み出してみて

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 通帳差し出して頭を下げてから、さあぁっと血の気が引いた。
 酷すぎる。何やってるんだろう私。
 なんで誠を金で買おうとしているんだろう。

 恐る恐る顔を上げれば、やはりそこには表情をなくした誠の姿があって。

「俺、別に養われたくないけど」
「そ……そうだよ、ね……」
「むしろ奥さんと子供はちゃんと養いたいタイプ。父親いなくて子供とも認められてなくてお母さん苦労してたし。親が揃ってないってあやみたいなまともな人には引かれるだけだろうけど」
「そんなことない!偉いね!すごく偉いよ!ごめん……そんな誠にバカなこと言って。私のいいところって貯金があることくらいしかおもいつかなくて」
「バカにしてんの?」

 また同じセリフだ。
 バカにしているんじゃない。でも年の離れた女が何の対価もなしに結婚を迫るとか勇気が出なくて。
 ていうかなんで結婚にしたんだろう。23歳に結婚迫る三十路とか何て痛い。
 普通に付き合ってくださいでよかったのでは。
 でも誠のことは好きだし、付き合ってくれるなら結婚前提でっていうか遊びで付き合って欲しいわけじゃなくていや遊びでも光栄なんだろうけどもでも言いたかったのは……。

「あやのいいところはお金なんかじゃないでしょ?他にたくさんあるでしょ?」
「え………」
「優しいとことか、どんな相手も馬鹿にしないこととか、困ってる人を見捨てないとことか、いつも一生懸命なとことか、たくさん勉強してるとことか、恥ずかしがり屋なとことか、面白くいっぱい突っ込んじゃうとことか、すぐ妄想しちゃうこととか、えっちことに結びつけちゃうとことか、エロモードにはいるとすぐ泣いちゃうとことか」
「ひぇ?」

 まってまってまって、最後の方明らかにめちゃくちゃおかしいよね??
 褒めてくれたのかと思ったけどそうじゃないよね??

「外で何言い出すの!」
「外で預金通帳差し出してるあやに言われたくない。危ないよ、そんなもの持ち歩いて」

 はっ、確かに治安がうんぬんかんぬ……。

 突然、ぎゅっと誠に正面から抱きしめられた。

「誠……?」
「養ってくれなくていいから結婚はして。絶対して。今すぐして。役所行こう」
「えっ?」
「えって……。あやがしてくれたんじゃん、プロポーズ。結婚してって」

 した、けど。
 それは受け入れられる前提ではなかった。

 結婚って、そんなすぐしていいんだっけ?
 まあ届出せばいいか。成人してるんだから親への挨拶とかなくたっていいか。

 ………いいのかな?

 いや、でもまたここでぐちゃぐちゃ考えてたら誠に呆れられるかも。それより悲しい顔するかも。気が変わるかも。

 よし、今すぐ届だそう。

 あ、いや、でも、2名証人がいるか。
 なんかあれって書いてくれる人がいないと役所の人が書いてくれるとか、いや、そんなん頼まれたくないよ公務員。自分が担当なら絶対に嫌だ。
 誰か友達に頼もう。腰抜かしそう。

「誠、市役所行こう」

 それでも、誠の手を引っぱった。
 でも、今度は誠が逆に腰砕けてる。

「え、マジでいいの?」
「うん。嫌なの?」
「や、そんなことないけど、勢いで言っちゃったっていうか、あや、親御さんとか……」
「親はいいの。私のことなんだし」

 いや、戸籍上の付き合いができてしまう。まあできる限り、誠は関わらないようにしてもらおう。
 その前に転職して引っ越してしまえば私の分離した戸籍なんて見れないか。

「あっ、でも誠は公務員の安定した収入がある方がいい?私、転職考えてて」
「うん?いや別に。みんな頭良さそうで偉いなーとは思うけど、違う仕事がいいなら好きにしたら?」

 そっか。どうしたの?とか勿体無いとか、言わない誠といると肩の力が抜けすぎて楽ちんだ。

「そう、よかった。クビになるかもしれないんだ」
「まああの仕事大変そうだし、あやが決めたことな………クビ?」
「うん。誠に会いたくて規律違反したの。だから最悪になるとクビだなーそしたら次の仕事困るかなぁ?その前に辞めちゃおうかなと。ドキドキしすぎておかしくなりそうだよね」
「はっ?!なんで!!」
「わかんない。でも、誠にどうしてももう一度会いたかったんだ。でも携帯番号しかわかんないのに拒否されてるから」

 絶句した誠に、にひって笑ってあげる。
 ああ、悪いことってこんなに楽しいんだ。
 現実を考えると吐きそうだけど、勝手をしてる……できてる自分を愛おしいとも思える。

 なのに。

「あやのバカ!なんで俺のためにそんなことしたの!っていうか、あの日頭に来てて、アプリの既読スルーはしたけど着拒はしてないよ!なんのこと?番号間違って登録してるでしょ!?」
「………え?」
「通話もメッセージも送ってこないなって、これで終わりかって悲しくなってめっちゃ落ち込んでた。でも俺からは……あんなこと言った手前、連絡できなくて」
「えっ、電話たくさんしたよ?」
「一回もかかって来てないよ!違う人にかけて着拒されたんでしょ!」
「えええ??」
「あやって、抜けてるところあるから……。そもそも、スマホの画面さ、あやの手帳カバー閉じるだけじゃロックされないって理解してないでしょ」
「えっっっ?!」
「いつもは閉じて時間が経つからロックされてるだけだよ。勘違いしてるなーって思ってた。そんな抜けてるとこがめちゃくちゃ可愛いんだけど。……あや、外でそんな可愛い顔したらダメ」

 愕然としている私に可愛いっていうのは誠くらいでは。何が可愛いのよ。

 でも、ちゅっと誠の唇が唇に重なる。
 ぎゅうぎゅうって体に埋もれるくらいに抱きしめられた。
 全身が誠の匂いだ、筋肉だって言っている。
 泣きたいくらいの気持ちになって、誠の厚みがある背中に腕を回す。

「……好き」

 上辺だけの言葉じゃない言葉が、口から溢れ出ていた。
 えっちのリップサービスなんかじゃないからこそ変に構えてさっきは言えなかった、その言葉を。

「好き、好き、好き……好きだよ、誠……っ」

 一度溢れると止まらなくて、涙もとまらなくなって、自分からぎゅっと抱きついた。
 誠が頭を撫でてくれる。

「うん、俺も好き。大好き。あやが、大好き」

 それは、やっと、詐欺じゃない本当の言葉なんだと私の中に落ちて来た。

 昼休みが終わりピーピーと指笛を鳴らした誠の同僚たちに囃し立てられるまで、ずっと、ずっと、何度もキスをした。
 ふみじゃない、あやとして。

 *

 それでも現実は物語のように全てを投げ出して行くわけにはいかず。午後の仕事もあるからという真面目な誠が私は好きだ。
 とりあえず、私に興味津々のガタイのいい外人さんたちとはスペイン語で話してるとは聞いた。
 スペイン語って……と絶句してたら、誠は英語とスペイン語がネイティブらしい。
 どういうこと。混乱する私に、誠はプレハブの事務所に案内してくれて、中にいた社長の奥さんに「俺結婚することになったから!」と宣言をして、「俺がどれだけ惚気てたかと詐欺師じゃないって説明しておいて!」と頼んでトラックに乗り込んで行ってしまった。

 残されて呆然とする私と、同じく一方的に言い置かれて呆然とする初老の穏やかそうな女性。
 そこからお茶を出してもらい、今よりもさらに汚い字の誠の履歴書を見せてもらい、就職がうまくいかず飲み屋で会社の外人さんたちと喧嘩して管巻いてた誠を社長が連れて来た話を教えてくれた。
 彼がどれほど真面目に働いて、どれほどお母さん思いで、どれほどこの会社のためになってくれているかも。
 あと彼がほとんど海外で育ったヒスパニック系のアメリカ人のお母さんと日本人のお父さんのハーフだということも初めて知った。
 どおりで顔が濃いと思った。金髪は地毛だった。そりゃ眉毛もまつ毛も金なわけだよ。脱毛してるっていうから腕毛が金とかも知らんかったよ。
 あとそれなら漢字が苦手なのも全然仕方ないよ。

「遊んでるって見た目で勘違いされやすいのよねぇ」という社長夫人に、下を向くしかなかった。
 ごめんなさい、仕事なんてやっつけのヒモ志望と思ってました。
 あと誠は私を美化しすぎていやしないか。
 奥様から出てくる私の話がひたすら女神になっていて、恥ずかしいことこの上ない。
 最初以外は申請書を私に会いたいがためは必死で唸って書いてたという可愛いエピソード。
 瀬川さんに直してもらうんだとニヤニヤしていたらしい。
 とは思いつつ。でも奥様に持って来て欲しかった。悪筆すぎて読めないしやり直し大変だったんだ。
 ああ私はやっぱり可愛くない。
 でも誠が一生懸命だったと知ることは、キュンとする。

「今日も定時で帰ってくると思うからゆっくりしていて」

 大変に気まずいけれども、結局、帰らせてもらえなくて、誠が戻って来たら、さらわれるように肩を抱えられて私の家に一緒に帰ることになった。

 
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